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断罪の暗殺者  作者: 流優
裏ギルド
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中級武器錬成《2》



 ――あのゲーム『アルテラ・オンライン』での鍛冶は、少し難しい仕様だった。


 炉で素材を溶かし、『中級武器錬成』スキルを発動して作成メニューから選べる金型を出現させ、それをハンマーで数十度叩く。

 叩く回数は作成する武器のレア度によって変化し、弱い武器程少なく、強い武器程多くなり――といっても最大でも五十回程だが――この工程で武器作成の成功失敗、出来具合の変化が生まれるため、ここが最も肝心な部分となる。

 どこで判定しているのかは諸説あったのだが、適当にハンマーを振っていると普通に失敗するのだ。


 剣系統だと金型は一つであることが多いが、銃なんかは幾つかの金型でパーツを数個作り、最後に組み立てる、という工程になる。


 現実の鍛冶と比べてしまうと随分と簡略的で、鍛造か鋳造かもわからないような製造方法だが、これでもゲームとしてはかなり複雑な方だろう。


「――よし! 出来た!」


 俺は、出来上がったその二つの武器を掴み、感触を確認する。


『牙剣:(アギト)


『水平二連式ソードオフショットガン』


 まず、『牙剣:咢』は骨や牙のような質感の刀身をした『小太刀』に分類される武器で、『牙剣シリーズ』と呼ばれるシリーズの一番最初の武器であり、これを素材にして新たな武器を作っていくことが可能になる。

 現実となったこの世界で、金属じゃないのに斬れるのか、という疑問はちょっとあったのだが、試し斬りをしてみたところ、何も問題なく普通に斬れた。


 多分、今使っている盗品の短剣よりは良い品だろう。


 次に、『水平二連式ソードオフショットガン』は、もう、名前そのまんまだ。

 武骨なショットガンだが、むしろそれがいいとゲーム時代も多くのプレイヤーが使用していた銃器である。


 通常のショットガンはダメなのだが、ソードオフショットガンは俺のメインクラスである『マイステン・ガンナー』で扱える武器であるため、かく言う俺も、これの『上級武器錬成』で作れる方のものをよく使用していたものだ。


 これらは、咢の方はブラッド・ウルフの素材、水平二連ソードオフの方は普通に鉄と木材を素材として作った。

 どちらも確認してみると品質が『+3』で、現状作れる最上級のものである。

 今はないのだが、強化専用の素材があれば強化も可能なので、最大まで強くすると『+7』にすることが出来る。


 まあ、ゲーム時代に相当数の武器を作ったので、このレベルの武器だったら大体全て『+3』で作れるだろう。


「……相変わらずですが……すごいですね、マスター。あのような武器の製作、見たことがありません。まるで、神の御業のような……」


「ハハ、そんな大袈裟なもんじゃないさ」


 まあ多分、このやり方で武器を作ることが出来るのはこの世界で俺のみだとは思うが。


「セイハ、ゴブリンの素材で作ったナイフだけど、要るか? 元がゴブリン素材で全然強いもんでもないから、投げナイフ代わりとかで使い潰してくれていいぞ」


 久しぶりの鍛冶を試すべく、一番最初にゴブリンの素材で作成可能なナイフを幾つか作ったので、余っているのだ。


「一つ、試させていただいても?」


「あぁ」


 セイハは、壁に向かってゴブリンナイフをヒュッと投げ放ち、刹那遅れてカツ、と壁に突き刺さる。


「ふむ……悪く、ないです。バランスが良く、斬れ味もそれなり。投げナイフとしては及第点かと――あっ、す、す、すみません、マスター。マスターがお作りしたものに、生意気なことを……!」


 思わず本気で論評してしまってから、慌てて頭を下げるセイハに、俺は苦笑を溢す。


「いや、戦闘で使うものだから、遠慮なく意見を言ってくれていいぞ。――あぁ、あとこれも使えそうだったら使ってくれると嬉しい。一応セイハのために作ってみたんだが」


 そうして彼女に渡したのは、俺が作ったダガー。


『牙剣:狼』


 咢の、ダガーバージョンの武器で、品質もしっかり『+3』である。


「私の、ため……! 死ぬまで、大切にします」


「その内新しいのを作ってあげるので、普通に使い潰してしまって大丈夫ですからね」


 俺は笑ってそう言ってから、言葉を続ける。


「――さて、セイハさん。新たな武器を得たら、することは一つですね?」


「! はい、わかります」


 セイハは、俺の言いたいことはわかっていると言いたげな様子で、コクリと頷く。


「試し斬りに、人狩り、ですね」


「いえ、魔物狩りです」


 惜しい、惜しいけどその二つは、似ているようで全然違うんだ。



   *   *   *



 初心者狩り狩りをやった、例の森。


「うわー、あんちゃん、絶好のお散歩日和だね!」


「主様、警戒はお任せを」


 呼び出した燐華と玲が俺の両脇を固め、森の中を進んでいく。


 燐華はスキップでもしそうな程で上機嫌な様子で歩みを進め、玲は真剣な様子で辺りを見回している。


 ホント、対称的な性格で、いいコンビって感じだ。


「マスター、狼です」


「ん、あぁ、ホントだ」


 遠くに目を凝らし――視力が非常に伸びているこの目のおかげで、ようやくセイハの指差す方向にブラッドウルフが三匹いることに気が付く。


 凄いな、セイハ。

 俺と違ってスキルなんて持っていないのに、敵の索敵が非常に早いのだ。

 

 経験の成せる技なのだろう。


「マスター、武器の試し、お先になさってください」


「ん、ありがと。それじゃあ――」


「どっかーん!」


「ハッ!」


 ――その瞬間、燐華が水の極大魔法を発動し、玲がどこからともなく取り出した、彼女の背丈よりも長い刀を振り抜き、斬撃を飛ばす。


 轟音が鳴り響き、スパスパと森の木々がなぎ倒されていき――目標に彼女らの攻撃が辿り着いた刹那、爆発。


 気が付いた時には、ブラッド・ウルフ達のいた場所は、更地になっていた。


「あんちゃん、倒したよー!」


「主様、排除しました」


 褒めて褒めて、という雰囲気が丸わかりな燐華と、冷静な様子ながらも、その実やっぱり褒めてほしそうにチラチラとこちらを見る玲の二人の頭を、俺は撫でる。


「おう、ありがとう、君達」


 でも今回は、武器の試し斬りと試し撃ちに来ているので、次から倒すのはちょっと待ってね。

 あと、素材が木端微塵になるから、その三十分の一くらいの威力の魔法でいいかな。


 ――燐華は、物理攻撃力がほぼ限りなくゼロに近い代わりに、魔法攻撃力がずば抜けて高く、全属性の魔法を扱うことが出来る。


 対し、玲は物理と魔法が半々くらいのステータスで、使える魔法の属性も限られているのだが、刀を生み出しその斬撃に魔法を乗せることが可能で、物理攻撃に魔法攻撃を合わせた攻撃を放つため、燐華と変わらないくらいのダメージを出すことが出来る。


 二人とも、結構な壊れステータスである。

 流石レジェンダリー級だ。


 ……そう言えばネアリアが、シャナルの魔法がアホ威力だと言っていたが、彼女らみたいな感じなのだろうか。


「す、凄まじいですね……これ程とは……」


「おう、だから言ったろ? この子ら、子供の見た目してるけど、召喚獣だから強いんだ」


「えへへ、燐華つよーい!」


「ありがとうございます、主様」


 えっへんと胸を張る燐華に、小さく頭を下げる玲。


「二人は、そのお歳ながら、魔導の深淵に辿り着いているのですね……」


「しんえん? それ、おやつ?」


「お燐、お馬鹿なのがバレちゃうから、考えずに言うのはやめんさい」


「じゃあ、玲はしんえんって何かわかるの?」


「……わからへんけど」


「玲もわかんないんじゃん!」


「フフ……とても深いところ、という意味ですよ」


 うーむ、この子らといると、ピクニックでもしてる気分になるなぁ……。




 ――そう、彼女ら三人の様子に和んでいた時だった。




「!」


 ポーン、と送られてくる――シグナル。


「このシグナルは……」


「マスター?」 


 燐華と玲の様子に楽しそうに笑っていたセイハが、こちらを向く。


 ――この反応。


 これもまた、ゲーム時代と同じものであるならば……。


「……武器の調子の確認に来ただけだったんだがな……アイツ、もしかして、この近くにいるのか……?」


 この反応は、恐らく――我がペット、ベヒーモス(・・・・・)から(・・)のシグナル(・・・・・)である。


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