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断罪の暗殺者  作者: 流優
裏ギルド
37/83

中級武器錬成《1》



 ――五番通り。


 どうもここは、いわゆる『職人街』と呼ばれる地区であるようだ。


 あちこちからトンカントンカン聞こえ、ムサい筋肉のおっさんや、『ドワーフ』らしい種族のおっさんなど、鍛冶を生業としているのだろうことがすぐに窺える姿の者が多く見受けられる。


「おー! あったあった、ここか」


 そんな通りの中に、ゴブロの用意した家はあった。

 職人街の煙にやられてか、微妙に煤けており、小屋のような簡素な造りだが……別に、ここに住む訳じゃないので、これで構わない。


 小男に渡された鍵を鍵穴に通すと、問題なく通り、ガチャリと扉が開く。


 そのまま中に入ろうとした俺だったが――しかし、付いて来ていたセイハがその前に俺を止める。


「マスター、お待ちを。罠があるかもしれません」


「え、いや、大丈夫だと思うが……」


「油断はいけません、マスター。あの男は国に属する者、監視用の魔法を仕掛けているかもしれません」


 そう言って、セイハは中に入って行き――数分した後、戻ってくる。


「大丈夫そうです、魔力の痕跡は、感じられませんでした」


「お、おう、ありがとう」


 ……セイハはあんまり、国の者を信用していないんだろうな。

 経歴を考えれば、無理もないかもしれないが。


 俺は苦笑を浮かべ、気を取り直して扉の中へと入り――。


「おぉ……!」


 ――内部にあったのは、かなり整った鍛冶用の設備一式。


 ワンルームの部屋に、金床や炉、ハンマーなど、俺が必要とする設備が全て用意されており、恐らく今すぐにでも作業を始められるだろう状態で置かれている。


 俺は、しゃがんで金床に触れ、『中級武器錬成』スキルを発動し――ボワンと、作成メニューが表示される。


「よし! よしよし!」


 思わずガッツポーズをしてから、表示された作成メニューを確認する。


 見る限り、作成可能なものも、ゲーム時代と比べ何一つ変わっていないようだ。

 ここから、『上級武器錬成』を発動出来るようにするには、炉と金床に幾つか手を加える必要が出てくるだろうが……多分それも、大丈夫だろう。


 今日のこれで確信した。


 やはり俺の身体は、この世界で生きていけるように、この世界に(・・・・・)合った形に(・・・・・)チューニング(・・・・・・)されている(・・・・・)


 まず間違いなく、この世界の素材で鍛冶設備のアップグレードも可能だろう。


「……セイハ、この世界の神様って、一神教か?」


「神、ですか? 私は、あまり宗教には詳しくありませんが……神は、何柱かいるそうです。信じたことは、ありませんが」


 む……そうか、多神教なのか、この世界は。


 近く、教会でも行ってみるかな。

 もしかしたら、何か思い出すかもしれない。


「マスターは、神を信じているのですか?」


「ちょっと前はまでそうでもなかったんだがな。今は信じてもいいかなって思ってる。何せ、こうしてセイハと知り合えた訳だしな」


「あ……あ……ありがとう、ございます……」


 ニヤリと笑みを浮かべてそう言うと、セイハは照れたように顔を俯かせる。可愛い。


 最近俺、この子を揶揄うのが趣味の一つになるつつある。


 ――それにしても、ゴブロはいいものを揃えてくれたようだ。

 これだけのものを、この短期間にとなると、結構な手間だったのではないだろうか。

 

 そう言えば奴に関してなのだが、例の『紋章付き短剣』を渡したところ、一瞬で目の色を変え、「襲ってきた冒険者が持ってた。ドッグタグはギルドに渡したぞ」と言うとすっ飛んで帰って行った。


 なんか、想像以上にヤバいものだったらしい。

 売るつもりで渡したものではあったが、「この礼は、必ずする」と見たこともないようなマジ顔で言われ、少し面食らってしまった。


 またしばらくすれば、奴の方から現れることだろう。


「よーし、物は揃えてあるし、早速作るぞ! セイハ、多分ここからは暇になるだろうから、好きにしててくれていいぞ」


「では、マスターの作業を、見ています」


「? 別に、どこか行っててもいいんだぞ?」


 今日のオルニーナでの仕事は俺もセイハもすでに終えているので、時間はあるのだろうが、見ていても面白いものじゃないだろうし……。


「いえ……少し、マスターの武器を作る様子に、興味がありまして」


「そうか? ならいいんだが……」


 そして俺は、インベントリ内から予め用意しておいた素材を取り出し、『中級武器錬成』スキルを発動し、その手順に従って武器の作成を始めた。



   *   *   *



 コト、とゴブロは、ユウから渡された短剣を執務机の上に置いた。


 その柄に彫られた紋章を見て、造りの良い椅子に座っていた彼の上司は、目を見開く。


「……!! こ、これを、どこで……!?」


「こちらで仕事を回している者が、偶然確保しました。運が良かったと言わざるを得ません」


「……本当に、運が良かったのは間違いないな。その確保した者の口止めは、完璧なのだろうな?」


「『代行人』に所属する者であるため、問題はないかと」


 小男の言葉に、上司の男は少し納得したような様子を見せる。


「代行人……なるほど、あそこの者ならば信用出来るか。公爵様(・・・)の短剣が悪用されていたことが知られれば、大問題どころではない。……そうだな、私の方から礼がしたい。その者を連れて来られるか?」


「念のため言っておきますが、彼らと協力関係を築くことは出来ても、部下に勧誘するのは無理ですぜ」


「それくらいわかっている。あそこと敵対する愚を犯すつもりはない」


「へい、了解しました。――あぁ、それと、その短剣を持っていた無法者の情報を得る際に冒険者ギルドと少し揉めました。後処理を頼みます」


「……そういうことは先に言わんか。ハァ、あそこの婆さんの説得か……荷が重い……」


 目の付け根を押さえる上司――宰相(・・)に、ゴブロは何も気にしていない様子で「それじゃあ、仕事に戻ります」と一礼し、その部屋から去って行った。


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