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断罪の暗殺者  作者: 流優
裏ギルド
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海賊船取引《2》



「チッ……『取引役』が殺られたッ!! テメェら、逃げる――」


「逃がしません」


 派手な帽子をかぶり、ジャラジャラと飾りのついた服を着込んだ男の首筋に向かって、右手のダガーを突き出す。


「クッ……!!」


 男が腰から抜き放ったサーベルで、初撃は防がれるが、しかし時間差で繰り出した左手のダガーの方は防御されず、狙い通り男の腿を深く薙ぐ。


 飛ぶ血飛沫。


 動きが鈍った瞬間、刀身の側面を蹴ってサーベルを弾き、再度右手のダガーを男の首筋に向かって突き出す。


「ガァ……ッ!?」


 男は血を吹き出し、瞳から生気を失い、すぐに動かなくなった。


 ――この男が、ここにいる者達の頭か。

 

 このような手合いは、服装を無駄に派手なものにしたがる。まず間違いないだろう。


 主が懇意にしている国の男曰く、確かこの者がここ近海を荒らしている海賊で、最初に主が殺した男がその海賊を後援し、敵対派閥を攻撃させている貴族の使い、だったか。

 

 ……昼間に遭遇した無法者も、貴族か、またはそれに準ずる何かしらの輩の息が掛かった者達だった。


 あまり政治には詳しくないが……恐らく、何かしらの変化が国の中枢で起こっているのだろう。


「全く……皆に主のような高潔さがあれば、きっとこの国は楽園になるでしょうに」


「おう、アタシはツッコまねぇからな。そういうのはアンタのマスターが担当だ」


「……? 別におかしなことを言ったつもりは、ありませんが」


「あー……そうか。そりゃあ失礼した」


 そう軽口を叩きながらも、柄の悪い同僚は構えたクロスボウで、次々と無法者達を排除していく。


 彼女の実力もまた、凄まじいものがある。

 非常に狙いが正確で、全くと言って良い程矢を外さないのだ。


 武器が弓ではなくクロスボウであるのは、どちらかと言うと小柄な体格で、自分より少し背が高いくらいの彼女でも扱いやすいように、か。


 ……恐らくだが、現在主が使っている、あの射撃武器があれば、彼女の能力はさらに伸びるのではないだろうか。


「よーし、これで全部か?」


 と、その声と共に向こう側から現れるのは、一人の姿。


 ――敬愛する、主。


「おう、多分な」


「この船の方はどうすんだ?」


「万が一残党がいても、逃げられねーよう舵だけ壊しておく。港に死体が(あふ)れてさぁ大変、すっ飛んで来たお巡りさんが慌てて調べてみたら、おかしなものをたくさん発見っつー筋書きだそうだかんな。――それよりユウ。アンタの武器、もしかして銃か? どこでそんな性能の良いヤツ売ってたんだ?」


 ネアリアの問い掛けに、肩を竦める主。


「コイツは自作だ。お前の分も作ってやろうか? この前奢ってもらったからそのお返しってことで」


「お、マジか! いいねぇ、んじゃ、一つ頼むぜ」


 む……主の手作り。


「あー……セイハ、お前の分のダガーも、良いのを作ってやるから、そんな顔するな」


「えっ……あの、顔、ですか? 私、仮面を被っているのですが……」


「セイハはわかりやすいからな、どんな顔をしてるのかってことくらいは、仮面を被っててもわかるさ」


 彼の言葉に、自身の頬が思わず赤くなるのを感じるが、その表情も彼にはお見通しなのではないかと思うと途端に恥ずかしくなり、思わず少しだけ顔を俯かせた。



   *   *   *



 ――戦闘に気付いた者がいたのか、騒がしくなり始めた港。


 その騒ぎを背に帰路に付いていると、しみじみとネアリアが言葉を溢す。


「テメーらと一緒だと、本当に楽だな……ジジィとシャナルと仕事をすると、大変なんだ」


「へぇ……? そうなのか?」


 オルニーナでは、穏やか筆頭のあの二人が?


「あのお二人は、どのような戦闘をなさるのですか?」


 セイハも興味を持ったようで、ネアリアに問い掛ける。


「そうだなぁ……まずジジィの方だが、アイツは素手での戦闘を基本にしていて、んで幾つか呼び名がある。アンタらが知っているのは恐らく『代行人』だろうが、それ以外にも『国墜とし』とか『バーサーカー』とか呼ばれててな。特に悪党どもの間で有名なのは、いっちゃん最後のヤツだ」


 ……国墜としの方も、気になるんだが。


「こう……すっげーのよ。悪党を相手にした時の暴れ方が。ジジィは大体いつも、ニコニコしてやがるだろ? その微笑みのまま、クソどもの腹に手を突っ込んで(はらわた)を引き摺りだしたり、首を引っこ抜いたりしやがるのよ。アイツが暴れると、大体いつも周囲が地獄絵図になってな」


「そ、そりゃあ……すごいな」


「なかなか、想像が付きませんね」


「ジジィが裏社会ですんげー恐れられ、この国のヤツらが手出しして来ないのには、それなりに理由があるってぇことだ」


 ネアリアは肩を竦め、言葉を続ける。


「んで、シャナルの方は魔法の使い手なんだが……アイツの魔法は威力が高過ぎて、一帯が更地になる」


「…………」


「だから、街中で暴れるのはジジィに禁止されていてな。その内、王都の外に出る機会があったらアイツと仕事してみるといい。あ、見学会をする時はしっかり距離を取って見学しろよ。巻き込まれて死ぬから」


 ……薄々感づいてはいたが、やっぱりあそこ、結構とんでもないところなのかもしれない。


「あと二人、レギオンとファームっつーのがいるんだが、レギオンの方は基本的に何も喋らねーし、ファームの方は基本的にアホだし……だからアタシ、二人が来てくれて、結構ありがたいと思ってるんだぜ?」


 遠い目をしてしみじみと語るネアリアに、俺とセイハは顔を見合わせる。


 あんまり悩みごとなんて無さそうなネアリアだが……彼女は彼女で、結構苦労しているらしい。


 ――と、その時、ス、と暗がりから現れる、一つの人影。


「よう、お疲れ。その様子だと上手く行ったようだな」


「ゴブロか」


 現われたのは、いつもの小男。


 ス、とローブの下のダガーに手を伸ばしていたセイハの手が止まる。


「受け取れ。報酬だ」


 ゴブロはそう言うと、ネアリアの方に金の入った麻袋、俺の方に鍵を渡してくる。


「ユウ、五番通りの七丁目、三軒目の家だ。テメーのご希望のものを揃えておいたぞ」


「お! オーケー、サンキュー。――セイハ、ありがとうな。次の報酬は全部セイハに渡すからさ」


「いえ、構いません。代わりに、その……今後、私の武器も、マスターに造っていただきたく」


「おう、勿論だ。任せろ」


 今回、俺の分だけだと足りないということだったので、セイハの分もプラスさせてもらい、ゴブロに金じゃない報酬を用意してもらったのだ。



 そう――念願の、鍛冶設備である。


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