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断罪の暗殺者  作者: 流優
裏ギルド
33/83

初エンカウント



 数は、全部で七。


 森の中をひっそりと隠れ潜み、武器を抜いて待ち構えている。


 最初は、俺達が指名手配犯だとわかって待ち伏せしているのかと思ったが……多分コイツら、別口だ。


 王都の外に出たので『ハイド』は解いたが、それはついさっきのことで、しかも一度冒険者ギルドで尾行を付けられたので、後ろから付いて来る者がいないか警戒しながらここまで来ている。

 やはり王都の規模がデカいため、同じような冒険者と商人のような者達など、それなりの人数が大門を出入りしていたが、俺達を追って来ている者はいなかった。


 前世の俺ならば、尾行なんて全く気付けないだろうが、この身体になってからは相当に感覚が鋭くなっている。それくらいは、簡単にわかるのだ。

 俺だけでなく、裏社会に慣れているセイハも警戒の声をあげなかったしな。


 つまり何が言いたいのかと言うと、コイツらは初めからこの森の中に隠れていた敵、ということだ。

 

 俺達を狙って、ではなく、無差別に待ち伏せし、それで引っ掛かったのが俺達、といったところだろう。

 

「ちょっとバラけてるし、一人でも逃がすと面倒だな……よし、釣ろう(・・・)


「了解です」


 俺達は、何も気付いていない風を装って、森の中へと入り込む。


 案の定、陰から様子を窺っていた者達は、こちらの移動に合わせ、距離を保ったまま付いて来ている。


 そのまま、覗き見野郎どもを引き摺ったまま森の奥の方へと入っていくと――少しして、ニタニタとしながら現れる、冒険者風の装備を身に纏った男達。


「ヘッヘッ……おう、随分と怪しい恰好のヤツらだな。こりゃあ、俺達が調べてやらねぇと」


「安心しな、テメェらの死体は魔物が食ってくれるからよぉ……!」

 

 ……なるほど、盗賊というか、初心者狩りの類か。


 だが、姿を現したのは六人で、残り一人は未だ隠れたまま。

 あの一人は、周囲の警戒要員、といったところだろうか?


 ――期せずして、試し撃ち(・・・・)の機会が来たな。


「セイハ、ちょっと警戒しててくれ」


「お任せを」


 周囲の男達の警戒はセイハに任せ、一旦短剣を鞘に納めて俺がインベントリから取り出したのは――単発式のライフル。


 これもまた、鍛冶設備がいらない『初級武器錬成』スキルで作れる武器の一つで、デリンジャーを作るより多くの鉄と木材などが必要になるが、五発まで装填することが出来る上に、大幅に射程が伸びている。


 その銃口の先を、隠れたままのソイツに向け――俺は、引き金を引いた。


 パァン、と、一発の銃声。


 放たれた銃弾は狙い違わず飛んでいき、赤いものが飛び散るのが視界に映る。


「よし、当たった」


「お見事です」


 デリンジャーより、使い勝手が良さそうだ。


 だが、まだ装弾数が少ない上に、両手で銃を構えるのは本来の俺のスタイルではないので、やっぱり繋ぎ用の武器だな。


 求む、文明開化。


「て、テメェッ、何をしやがった!?」


 銃声を聞き、一気に殺気立つ男達。


「それじゃあ、残りだ」


「ゴブリン狩りから、人狩りに変更、ですね」


 俺とセイハは、動き出した。



   *   *   *



 ――俺達は、手を出してはいけない者達に手を出してしまったのではないだろうか。


 一人一人と、仲間が死んでいく。

 人数差があるのにもかかわらず、そんなことなど全く関係ないと、血飛沫をまき散らし、臓物をぶち撒け、仲間が死んでいく。


 最初に、依頼を(・・・)持ってきた(・・・・・)男が殺された時点で、気付くべきだった。

 ……いや、現れた二人組の身に着けている服装が、裏社会に住む者と似通っている時点で、察するべきだった。


 この初心者が訪れる森に、見知った強者でもない、二人という少ない人数の者達が現れたため、安易に襲い掛かってしまったが――コイツらは、化け物(・・・)だったのだ。


「オラァッ!!」


 仲間の一人が、怒声と共に引き抜いた武器を男に振るうが、簡単にヒョイと回避され、お返しとばかりに喉元を掻き切られる。


「クッ、こ、このッ――!!」


 ならばと、別の仲間が仮面を装着した小柄な方に突進していくが……結果は同じ。

 見ているこちらからは何もわからなかったが、気付いた時、ドシャリと地面に倒れ伏しているのは仲間の方だった。

 

「ば、化け物……」


「自分達から襲い掛かっておいて、何言ってんだ」


 視界に飛び込む、血で染まった刃の煌めき。

 激しい痛みを感じ、そこで意識が永遠に暗転した。



   *   *   *



「――で、結局何だったんだ、コイツら」


 血濡れの短剣をビュッと払って血糊を落とし、腰の短剣用の革鞘に二本ともしまう。


 うつぶせに倒れる死体を足で転がし、表向きにして懐を探ってみると、やはりこのアホどもは冒険者だったらしく、冒険者証を持っていた。


 冒険者証とは、冒険者として登録した時に渡される、ドッグタグのようなものだ。

 表側にはそれぞれの名前、裏側には冒険者の等級が刻まれている。


 俺とセイハも受け取っており、俺はインベントリ、セイハは収納魔法が使えるので、お互いその中にしまってある。


 コイツらは……『Ⅵ』級か。

 中級冒険者ってところだな。


「マスター、これを」


 と、セイハが死体の一つから取り出したのは、どこかの紋章が彫られた短剣。


「このエンブレム、見たことがあります。恐らくは、貴族家のものかと」


「貴族……? つまり、その貴族がコイツらを雇って、初心者狩りをさせていたってことか?」


「いえ、ルーキーを殺すメリットが思い浮かびませんし、悪事をなすのにわざわざ自らの家に繋がる証拠を持たせる理由はありません。……恐らくですが、このエンブレムを持つ貴族家を貶めたい者(・・・・・)が裏にいるかと」


「あー……なるほど」


 確かに言われてみれば、コイツら、森に入ってそんなに経たず襲ってきた。

 仮に俺が初心者狩りをするならば、もっと森の奥まで入り込み、証拠が残り辛いところで仕掛けるだろう。


 つまり、自分達の犯行を隠す気がなかった、ということだ。


 もしかして、ゴブロはコイツらを俺達に排除させたくて、冒険者をやりたいんだったら早めに登録しておけ、なんて言ったのだろうか。


 ……いや、だが、アイツは危険がある場合は事前にちゃんと伝えてくる。

 今回は流石に、たまたまだろう。


「んで……コイツだけ様相が違うな」


 俺が最初に撃ち殺した、距離を取って警戒していた者。

 コイツだけ他の奴らとは違って、全身黒装束だ。セイハの恰好に近い。


 最初は近くで待機していたので、仲間であることは間違いないだろうが……探ってみるも、コイツだけは身分を示すようなものを何も持っていなかった。

 

「となるとコイツが、どこかの哀れな貴族様の、良い噂を流せ(・・・・・・)って依頼を持ってきた奴か?」


「その可能性は、高いかと。仕事の進み具合を確認したがる悪人は、多いものです」


 政争か、別の何かか。


 ……まあ、俺達が考えても、答えは出ないか。


 この情報は、ゴブロに売ってやろう。

 多分、良い値で買ってくれるんじゃないだろうか。


 アイツ、裏の身分は『王国第四騎士団』ってところの構成員だが、表向きは監獄の時と同じく情報屋で通しているらしいし。


「それじゃあ、ゴブロに渡してやるためにその短剣は持って帰るとして……一応コイツらの冒険者証も、証拠として剥ぎ取っておくか」


「了解、です」


 まさか魔物の剥ぎ取りではなく、人間の剥ぎ取りをすることになるとは思わなかったが……そうしてドッグタグを集めていると、セイハが声をあげる。

 

「あ、マスター。ゴブリンです」


「お、ホントだ」


 血の臭気に誘われてきたのか、ノコノコと現れた緑色の醜悪な顔つきをした半裸の小男――ゴブリンに、ヒュッと仮面の少女が投げナイフを放つ。


「グギャッ!?」


 彼女の投げたナイフは寸分違わずゴブリンの額に突き刺さり、そのまま奴は後ろにひっくり返って動かなくなった。

 

「排除しました」


「おう、サンキュー」


 ……なんか、初エンカウントがこれか。


 随分と気が抜けるというか……どっちかっつーと、初心者狩りどもの方がよほどモンスターっぽかったな。


 ライフルのイメージはモシン・ナガン君。

 ユウ・ヘイヘ、現る!

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