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今日も平和だったり

作者: 城井 映



──むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。


休み時間。授業の節目となるこの時間、俺は珍しく独りで机についていた。

視線の先には、一組の男女。毎回、話し掛けるときは男が先だ。

あの二人は仲がいい。と、俺は思う。思っていた。女子の方に、あいつは気軽に話しかけられるからだ。

女子はやたらと突っ撥ねて、口調が荒い。気の強そうな切れ目の長い眼差しに白い頬、輪郭のはっきりした顔立ちに、無頓着なのか髪はでたらめに伸びている。

その性格ゆえん、周囲からは距離を置かれている。事実、俺も彼女に近寄ろうとも思わない。物怖じせずにニヤけてつっこんでいける、あいつはすごい。

あいつとは、ニヤけ面の似合う俺の親友だ。ぼさぼさの髪に、中肉中背の体躯。一旦聞くと、あっという間に引き込まれてしまうような声と口調。

その男子と女子は、俺が介入しないと、何かと話している。別に今では珍しい光景ではない。どうやって二人は打ち解けあったかは謎であるが、あの二人はそれなりに仲が良さそうだった。

だが、今日俺が彼らを見る目は少し違う。それを思うと、溜息を口端から漏れた。

だが、陰鬱であると同時に、少し楽しみにしている節もあるのは隠せぬ事実でもある。あいつらの会話はそれなりに趣があって聞いてて飽きないのだ。


「なぁ」

「なんだよ」

「お前、今幸せか?」

「あぁ、幸せだよ」

「俺に誓って言えるか?」

「お前に誓いを捧げるなら、オレはカラスに祈りを捧げるね」

「酷い謂れ様だ」

「お互い様だ」

「本当に手ひどいね、君は。もっと素直になったら可愛いのに」

「可愛いとか言うな。お前に褒められても、全部お世辞にしか聞こえない」

「んじゃ、ブサイクだなぁ、本当に」

「早退したいのか」

「なんだよ。そうやって、俺を苛めて楽しいか」

「別に苛めてるわけじゃない。反応しているだけだ」

「はぁ……」


「なんで幸せだっていえるんだ?」

「幸せだから、幸せなんだ。それ以外に何がある?」

「なんだそれ。いわゆる、頭痛が痛いとかと同じ類の言い訳じゃねえか」

「正にお前そのものだな」

「ヒドイッ! あぁ、どうせ俺は矛盾した存在ですよーだっ」

「言動と表情が一致してないからな。なんで笑顔で上のセリフが言える」

「俺の特技だ」

「文体で現しても、初見で看破できる特技を身に付けろ」

「ぶー」


「んじゃさ。万が一、俺とお前が結婚したとする」

「死ね」

「幸せか?」

「朽ちろ」

「そうだな。家は一般的な団地だ」

「堕ちろ」

「2LDKだぞ」

「昇天しろ」

「子供は二人欲しいな」

「──死ね」

「お、ボギャブラリーが尽きたね。カワいいなぁ」

「宇宙の果てまで飛んでいけ、大馬鹿野郎」


「よし、あと一時間耐えれば昼休みだ」

「──なんだよお前。しつこいんだよ。どっかいけ」

「何を言ってる。人間の三大欲求のうちの二つの欲求が同時に満たされる、至福の時間だぞッ!?」

「そんじゃ一生欲を貪って生きてろ。オレを巻き込むな」

「冷たいな」

「お前も冷たくなるか?」

「いいえ、結構です、ハイ、辞退させて頂きます、ハイ皆様ごきげんよう〜また来週〜」

「んじゃ、来週までオレの目の前に現れるな」

「その要請を受諾するのは意に反する」

「────ど、どっかいけ!」

「ちょっと難しかったかなぁ?」

「黙れ黙れッ! うるさい!」

「まぁ、俺も映画から勝手にパクって使わせてもらってるだけだから、意味は良く分からないんだよねぇ。ということは、俺とお前は同レベあぎゃぁぁあああああ!! た、タマ蹴りは反則だッ!」

「蝿が止まってたんだ」

「うわぁああ、セクハラモスキートぉぉぉぉ!」

「モスキートは蚊じゃねえのか?」

「ひ、引っ掛かったなッ!」

「……はぁ?」

「はははは…………あ、もしかして、嵌められたこと分かってない?」

「……」

「あぁあああああああッ! 違うッ! 間違ってない! ゴメンナサイ!! いあぁああ……」

「ったく。誰もお前のタマなんか蹴らねえっつの」

「あ、うが……は、腹も同じじゃねえか…………」

「あー、次が終われば昼休みだなー」

「うぐぐぁぁあああああ……今朝喰ったハンバーグカレーがぁああああ」

「何、朝からんな重いもの喰ってんだ……ていうか、まだ消化できてなかったのか、お前は……」


「ひ、昼休みだ……」

「一時間トイレお勤めご苦労」

「く、口から出しちまったじゃねえか……」

「良かったじゃねえか。また口から入るぞ」

「う、うるさい……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「なぁ……」

「なんだよ」

「どうした?」

「どうしたって、何だよ。もっと具体的に言ってくれないと、困る」

「怒ってるのか?」

「何をだ」

「お前の大切に育ててきた腹筋に、蹴りを入れたことだよ」

「いや、腹筋はどうでもいいが、ハンバーグカレーが惜しい」

「──」

「はぁ……ハンバーグは但馬牛だったのになぁ……」

「牛……?」

「カレーはレトルトだったのになぁ……」

「……」

「はぁ、お陰で昼飯はタコ飯だ」

「…………」

「天井が綺麗だなあ……」

「…………」

「ほら、あの時計の長針。欠伸してるぜ」

「……悪かったって」

「何が?」

「何が、じゃねえ。腹……蹴ったの……」

「良いんだって、気にすんな」

「嘘つけ! あからさまに気にしてるじゃねえかっ!」

「俺はお前が気にしていることを気にする」

「オレを苛めてそんなに楽しいかッ!」

「お、同じセリフ。おそろだおそろ」

「……ごめん」

「ほら言えた。全く、それだけでいいのに、虚勢張っちゃって」

「……それだけか?」

「それだけ……じゃない。もちろん」

「いえ」


「俺はお前のことが好きだ」


「……マジで言ってんのか?」

「大マジだ」

「この衆人環視の中でか?」

「俺の中ではお前と俺とそこの傍観者だけの世界だ」

「臭いこと言うんじゃねえ」

「そんで、返事は?」

「………………否──の反対」

「素直に言おうぜえ。どうせ誰も聞いてねえよ」

「いいや! あいつが見てる! いや、あいつも見てる! お前、大丈夫か!」

「俺にはお前とあの傍観者しか見えない」

「第三者居るじゃねえかッ!」

「空気だと思えばいいじゃねえか」

「空気の存在認めてんじゃねえよっ!」

「……はい、それで、返事は?」

「あぁっ! 分かったよ! OKだよッ!」

「あいあい、サンキューっとな」

「く、くそ……」

「あーあ、タコ飯だけじゃあ腹一杯にならねえなあ……」

「ぐ、わ、分かったよ……」

「あーんして、あーん」

「──あーん」

「お、素直でいいねえ……グバガッ!」

「反応も素直でいいねぇ……」

「な、何をする!」

「何って、消しゴムをあーんしてやったんだよ。ありがたく思えっ」

「け、消しゴム! の、呑んじまったよ! ちくわかと思って!」

「は、はぁ!? 誰が、昼飯におでんもってくる奴がいるッ!?」

「お、おでん? で、田楽でもいいんじゃね?」

「黙れッ! 口貸せ!」

「あぁあああああああああああああああああああああああああああ」


 馬鹿だ。とんだ大馬鹿だ。

 だが、そんな光景を見ていて、俺は思ったね。あの女子にも、それなりに良い部分はあるとな。あいつがあのセリフを述べたとき、顔が真っ赤だった。どんなにつっぱてても、基盤までは偽れないんだ。それが恥ずかしいから、あんな入ったことを言うんだな。その羞恥が偉大なのかは、俺には分からないがな。

 そんな女子の本質を見抜いた、あいつもあいつだ。人の理性をくすぐるような言動をしてばっかりの奴だと思っていたが、人間観察眼が卓越しているから、ああいう皮肉を羅列できるんだな。もっと有効活用してほしいが。

 人間を二、三日観察しただけで、すべてを決め付けるのは愚鈍だ。その先入観や偏見に、どれだけの人間が苦しんでるんだろうか。俺には想像もつかない。

 だが、あの女子も、あんな大声であいつと会話して本性を晒してたんだ。周囲に溶け込むのも時間の問題だろう。中身は可愛い女の子だ。あいつも。

 箸で消しゴムを喉まで拉致事件の加害者と被害者はトイレへと走っていった。あのあーんは壮絶だったな。あのあいつのむせた顔。それを見たあの女子の顔。

 両方とも、輝いてたな。




前書きの通り、夜眠れなかったので暇つぶしに書きました。えぇ、その程度の作品なんで、マジになって見ないで下さいね。

最初は男二人だったんですが、なんか片方がそれっぽくなっちゃったんで、こっちのほうがいいか、ということで訂正。結果、こういう結果になりました。ん、重複してるけど気にしない。

まー、こういうこともあると思って、明日を楽しんでください。

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