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金髪揺らすは黒衣の美少女。

「んー……………………。くたー」


 ぐいーと伸びをして、脱力とともに正面からベッドに倒れ込む。

 入浴も済ませて、夜の装いはネグリジェ。何かと慣れないが、風呂で一人わーきゃーした結果“自分”への違和感はほぼほぼ消えた頃。


「いろんなことがあったなー……」


 死んだと聞かされ生まれ変わるところから始まり、見知らぬ地に出て襲われ守られ求婚され。


「これからどうするか、はまた明日以降考えることにして……あっ」


 明日以降どうするか、なんて本来当たり前に考えることを、それまで考えられずにいた過去の自分と。

 それを当たり前に考えられている現在の自分に気づいて、薄く笑う。


 今の気持ちの言語化ができなかった夜はそのまま目を瞑り、目まぐるしい一日を過ごした意識は自然と眠りに誘われていった。




「……本当可愛いですね?」

「……………………やめて下さい」


 人が自ずと道を空け、モーゼのように歩く街中。

 金髪を揺らす隣の少女に見惚れながら、素直な感想を疑問符で投げかける。


 横を歩くは金髪碧眼の美少女。膝下まで伸びる黒いレザーコートに内側は白いシャツ、黒を重ねたズボン。拒絶を示すような漆黒は、その麗しさにあって棘を持つ薔薇の様相。


「こういう変装ができるって、素直に憧れるというか羨ましいけど……」


「……………………夜が男装をするのは無理があるでしょうね、色々と」


 黒衣の少女――レオンハルトは心底からの嘆息を洩らす。


 こうなっている所以は昨夜の食事時、夜の提案からの流れに起因している。

 つまりはノアの「変装」を受けてのもの。


 屋敷を出る際、出発時間直前に現れたこの姿のレオンハルトを本人だと思うことは夜にはできず、初対面としておそるおそる接して。

 目を合わせず言葉も発さずで困惑しているところに、ノアから「そちらが本日の旦那様です」と言われ、面食らった後謎の感動を覚えた。


 それからずっと不機嫌で口数の少ないレオンハルトと一緒に街まで出て、今に至る。


「ところで、なんで敬語?」


「口調まで、作りたくはありませんから」


 声は作っているレオンハルトの返答。その感覚は夜には、わからなくもない。

 変装ではなくそのものになっている夜だが、口調についてはまだ、女性に寄せきることには抵抗がある。恥ずかしさというより、違和感として。


 もっとも夜の場合はそのものであるから、いずれ慣れてしまう可能性は、否定できないが。


「知り合いにこの姿を見せるとは思っていなかったので、少しばかり不貞腐れているのはご勘弁ください」


「はは……りょーかい」


 そんなレオンハルトとしばらく歩いたが特に何も起こらず、二人は一旦ベンチを見つけて腰掛ける。


「何も起きないね……?」


「見破られているか、活動していないか、興味を失ったか……最後はないとして。夜が歩いているだけで話題になりますから、狙っているなら知らない筈はないんですけどね」


 わざと、多く人目に触れるように歩いてきた。自分を中心に静まり返っていく人々を見るのは何度やっても慣れなかったが、囮として餌を撒くには充分だったろう。

 その後に人気のない場所に入ってみたり、レオンハルトの目の届く範囲で夜を一人にしてみたりもしたのだが。


「んー……どうする?」


 レオンハルトは綺麗な思案顔をして、苦々しげに口を開く。


「一応、本来やるつもりだった方法を取ることはできます。丁度この格好ですし。ただ、非常に危険です」


「どんな方法?」


「首拾いが利用しているだろうブローカーや情報屋をあたってみます。こちらから出向いて捕まえに行く方法ですね」


 言って、レオンハルトは夜を見る。

 ――が、少しして逸らす。


 レオンハルトらしいその反応に夜は安心を覚えて、ふふっと笑った。

 直視していれば即死級だったろうその微笑みを、レオンハルトは横目に捉えてつい素に戻るのみで留め、本題を切り出す。


「で、本題。そんなところに、夜を連れていくのは怖い」


「……素ですね?」


 首をこてん、と傾げながら。

 レオンハルトははっとして、赤くなった後咳払い。


「茶化すところではありません。屋敷に送還するので、待っていてください」


 待機。昨日の提案時点で、そもそも屋敷から出ずそう言われることも予想していた。


「……怒られるかも、なんだけど」


 そもそもどうして提案に至ったのか、夜は心情を素直に吐露する。


「危ないところにレオが一人でいくのわかってて、安全なところでただ待ってる、っていうの、やだな」


「……本気ですか?」


 レオンハルトの語気に、糾弾が混ざる。夜はそれを受け止め、頷く。


「一緒にいる方がずっと、危なくなるんだろうくらいはわかってる、けど。理性じゃなくて感情の問題で、ヤダ」


 じーっと見つめてみる。

 レオンハルトの冷たい視線が氷解するまで、五秒。表情が崩れると同時、目を逸らされる。


「もしも連れていかないと言ったら?」


 纏っていない声。しかし声色は真剣で、夜はできる限り素直に答える。


「そうしたら……大人しく従うしかない、かな。護って貰う立場で、そこまでは強く言えないし」


 あはは、と力無く笑って、「あ、でも私を見て動きを止められたりするのかな」などと言っている夜を見てレオンハルトは。


 どこからか取り出した黒い薄布を、夜の頭にかけた。


「顔は隠してね。会話すらできないと、ちょっと困るから」


 立ち上がって、ベルトに剣を差し夜を見る。


「あ……うん。ありがと」


 差し出された手を取って、傍に立つ。

 すぐに離されたのと一歩距離を取られたのには、仕方ないと自分の性質に慣れつつも少しだけ悲しそうにして。


「行きましょう。決して私から離れないように。隣にいる限りは、護ってみせますから」


 声は女性的に作ったものだと言うのに、とても格好よく感じてしまって。

 上手く言葉を返せずに、夜は小さく頷いた。

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