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魔法学院、図書館にて。

「お目当て、見つかりました?」


 魔法学院、図書館内。


 外から見えていた円形の建物がやはりそれだったようで、夜とシルファーニアは今その中にいる。


「うん、ばっちり。試さなくてもいけそう……かな」


 図書館は魔法で拡げているのか見た目よりもさらに大きく、入ってすぐのロビーに種類分類の看板と、触れて発動する転移装置が職員のいるカウンターの左右に並んでいた。


 書架は開架式、普通に歩いて回ることもできそうだが、分類一つでぐるりと一階層丸ごと使っているような冊数の多さは、それをあまりにも非効率だとよく示している。


「流石に少ないですね、時間系魔法の実用的な書籍は。うちにしてはですが」


 それでも棚一つが上から下までまるまる埋まっているので、夜は苦笑しかできない。


「まさか色んなものに停止や加速減速した検証結果だけで二十冊あるなんて……でもこれ役立ちそう……」


「面白いですよ、それ。最終巻の後書きで、検証協力者の叫び声再生されますけど」


「……えっこれ一人でやったの?」


 周りに人がいないのもあって、程々の音量でそんな話をしながら。


 ふと、シルファーニアが真剣な表情をして夜に訊く。


「夜さんって、魔法とは別の体系で高度な回復使えるんですよね?」


「ん……そうだね。上手く説明はできるものじゃないんだけど、使えるよ」


 振るう機会がたまにあるから、隠してはいない。とはいえ、あまり喧伝したいものでもない。そんな気持ちから少しトーンを落として返す。


「実は今回夜さんを学院にお呼びしたの、下心があって……。治して欲しい子、いるんです」


「……亡くなってる子じゃないよね?」


 それはいけないと決めたから、と先に釘を刺す。

 が、迂闊。


「その言い方って、あの、そうできるって言い方、ですけど」


「……………………聞かなかったことにしてくれると嬉しいな。いいよ、連れてって」


 ヴァーレストの聖女なんて大層な呼び名をされていることには、シルファーニアは気づいていなかったのだから。

 今のやり取りで、もう思い当たってしまったのだが。それを追及されることはなかった。


「ありがとうございます。この時間だと……一度フロント戻ってみましょうか」


 シルファーニアに着いて図書館の入口空間へ。目的の人物を探して、フロントから少し外れたところにある、大きな机に椅子が並ぶ読書や自習用のエリアを訪れる。


「……きれい」


 普段自分に向けられる言葉が、ぽろっと口に出た。


 静寂の中で落ちた声に、その相手は読んでいた本から顔をあげてこちらを向く。


「……ほんとう。きれい、ですね」


 消え入りそうな、ハスキーな声。薄桃色の髪、夜のお腹辺りを見て細めたその瞳は、紫水晶の色。


 そして何より特徴的なのは――淡く発光した全身。


 決して錯覚ではなく、確かにその少女は内側から漏れるような光を纏っていた。


「あら。きれいな人が、きれい。すごい」


 夜の顔に視線が移って、やっと夜をちゃんと認識したように。

 顔を見て、また下の方を見て、微笑む。


「シルファーニア、こちらの方は?」


「私のアルバイト先の先輩で、夜さん。貴女なら、もう見て大体わかっている通り。何かと凄い方」


 答えたシルファーニアはこちらに顔を向けて、夜と目が合うと頷いた。この少女がそう、ということなのだろう。


「あ……すみません、名前も言わずに。わたし、リルシャって言います。リルシャ=ファイラーユです。シルファーニアのお友達……です」


「夜=シュ……じゃなくて、七瀬夜、です。ええっと」


 治して欲しいとはどういうことだろう、と首を傾げる。発光はともかく、外見上は怪我をしていたり体調が悪かったり、そういう様子は見えない。儚げではあるものの。


「……リル。貴女のこと、話していい?」


「もちろん。シルファーニアがそうしようって思ったなら、いいよ」


 シルファーニアは頷いて、周囲に丁度人がいないのを確認。夜と自分でリルシャを挟むように椅子に座って、ゆっくり話し始める。


「夜さん、“魔力晶化(まりょくしょうか)”ってご存知ですか?」


「知らない……かな」


「極めて珍しいものですから、無理はありません。色々わかってきたのも最近ですしね。

 魔力晶化は……通常、私達は種族に関わらず魔法を使うのには魔力が必要で、使った魔力は消え、個人差はありますが時間経過で基本回復します。それが、魔法を使うことで魔力が消えずに結晶化し、体内に蓄積されてしまう人間固有の現象のことを魔力晶化と言います」


「その結晶、は取り除けたりとか……そもそも、溜まるとどうなるものなの?」


「段階が進むにつれて、実体を持つようになります。魔力を元にしたものですから、最初は見えないんです。それが次第に増えて、内側から光るようになって……それすら過ぎると、身体を結晶が覆うようになって……やがて全身が結晶化します」


 いけないと思いつつも、夜はリルシャを見てしまった。

 一目見てつい口にしてしまった感想を、後悔しながら。


 そんな夜に、リルシャは微笑みを返した。


「先程から、何度も見てしまっていますから。お気づきかもしれませんが、私もシルファーニアみたいに色紋が見えるんです。色紋だけではなくて、色々。魔力の流れが量や色を伴って見えたりとか」


「魔力晶化は先天性のものですが、全員に共通して、感覚的にも能力的にも魔法に非常に優れるんです。長けるものには差があって、リルの目の良さは特別でしょうけど……必ず、魔力量が常人の数倍なこと。魔力量と晶化には密接な関係がある、というのが現在の通説です」


 この話に加えて、今目の前にいる少女の、瞳。


 同じ色をした瞳は、もう一人を除いて見たことはなかったから。


 彼女は光り輝くような美しさを備えていたけれど、実際に光っていたわけではなかったし。身体が結晶に覆われていたわけでもない。

 が、それでも無関係と思うにはもう、材料が揃いすぎていたから。


「リルシャさんの、眼の色。紫なのは、魔力晶化とは関係ないものですか?」


「いいえ。この瞳の色も、共通だそうです。元々紫の方もいるでしょうから、魔力量と違って絶対ではないはずですけれど……」


「魔力量が人より並外れて多いなら、魔力晶化に罹るのは必ず、なんですよね?」


「そう、ですね。……夜さん?」


 確信を持って確認する夜の様子に二人は不思議がるが、今は配慮する余裕がない。


「ここ、魔法使っていいのかな?」


「攻撃系で周りに被害を与えなかったり、良識の範囲内なら大丈夫ですが……」


 シルファーニアに頷いて、夜は彼女の魔法を思い出しながら再現する。属性割合を正確にできないと破壊力が鈍るから、と何度か、作成まではやらされたものだ。


「魔素生成……純化、結合。……変換器、生成」


「……夜さん?」


 上手くできて一安心。


 純白に輝く球体を手のひらから浮かせて、二人に見せる。


「もしかして、二人には何なのか分かるのかな?」


 リルシャは口に手を当てて、シルファーニアは目を見開いて。


「すぐ消してください、大事になります」


「やっぱり? うん」


 夜は苦笑を一つしてあっさり消し、自分よりも正確な理解をしているだろう二人に問う。


「何するものかと、どれくらい魔力使うかまで、分かった?」


 おそるおそると、答えるのはリルシャ。


「仰っていたように、魔力の変換器、ですよね。それも、限りなく最高効率で魔力を破壊力に変換するもの。ただ、おそらく……これだけ綺麗に通してしまうものだと、魔力の消費量も相当のはず……です」


「せいかい。私も一回だけやったことあるけど、十秒持たなかったな」


「完璧な配分です、これ。入力も変換も出力も限りなく最適、魔法というものを極めて正確に理解している人の為せる業です。……これを編み出したのは夜さん、ではありませんよね?」


「私に魔法を教えてくれた人のものだよ。その人なら数十秒でも平然としてるんだけど……それだけの魔力量で魔力晶化が起きていないのは人間では有り得ない、ってことなんだよね?」


「……はい。人間でなくてもおかしい、と思います。晶化が起きていてそれだけの魔力を使ってしまったら、晶化が急速に進んでしまいますけど」


 となると、そもそも人間ではなかったのか、既に晶化の解決策を見つけているのか、のどちらかではないか。


 前者は、おそらく違う。人間以外でもおかしい、と言うのだから。そして、彼女が夜に何かを偽るなら、とても申し訳なさそうにするから。

 いくつか隠し事をされていたのは分かっているが、種族については少なくとも、違う。


「シルファーニアさん。さっき言ってた治して欲しい子って、リルシャさんのことだよね?」


「はい。どう、でしょう?」


「多分だけど……リルシャさん、ちょっと失礼しますね」


 リルシャの胸に触れて、いつものように回復を行使する。


 まずは緑の光の治癒から、続けて赤い光の生命力回復。


 普通なら治療は済んでいるように、やった。


 しかし、リルシャの身体は已然発光したままだ。つまりは、魔力晶化は続いていることを示す。


「治せない。治せないってことは、つまり。これは病気とか呪いとか、そういう悪いものでは、ないんだと思う」


 傲慢だと思いながらも、そう確信する。

 勿論自分の能力からくる驕りだけではない。おそらくそうであろう事例を知っているから。


「私の先生ね。さっきの魔法の他にも魔法色々作ってたり、詠唱無しで最上級魔法同時に行使したり、色紋見えたり、本当に凄い人なんだけど。紫の瞳をしてるんだ」


「……それって」


 夜の言いたいことを理解したシルファーニアに、にこりと微笑む。


「きっと鍵を知ってるはず。もし魔力晶化の起きている本人じゃなくても、ぜったい。だから……」


 本来迎えに来てくれる筈だったし、距離の関係でこちらから連絡は取れないし、向こうからも連絡は意図的に来ていないし。


 なので。


「わたし、ヴァーレストに帰ろうと思います」


 自分の決心を示すよう、そう宣言した。 

(魔法学院パートはあと二つくらいやろうと思えばやれましたが、本筋とは関係なくなってしまうのでカットしました。なくなく)

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