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未熟な魔法の扱い方。

「ありがとうございました、おつき合い頂きまして。……何言ったかよく覚えてなかったりしますけど」


「いいや。いいもの見れたわ。世界を変えるような人種がどういうものか、納得もした」


 あれからアレンシュナイズの方の用件も、そう時間はかからず終わったようで。

 地下を出て、十層を出て。「飛ぶと話す時間がないから」と階段を上っているところ。


「またまた大袈裟な……」


 あはは、と笑う夜に、アレンシュナイズは真剣な表情を崩さない。


「今回は極端にしても、自分視点で駄目だって思うもの、はっきりそう言ってなんとかしようってするだろ、アンタ。俺が国の歪み容認してるのだって、同じ立場にいたら変えようとするんだろうし」


「んー……。できそうなら、でしょうか? 自分の力だけじゃだいたいなんでも無理なので、頼れる人頼りまくりつつで」


「キーロードの姫様との関係は本当に大事にしておくと良い。打算なしでも分かってるんだろうが」


「キャンディスは……すごいです」


 あのお姫様は、「魔法と、戦闘を自分でやるの以外は大体できるから」と誇るでもなく言って、また頼るようにと告げてくれた。

 知識の積み重ねと、それを組み合わせる地頭の良さ。何より、そうして自分にできることを貪欲に増やしていく姿勢。


 その根底にあるのは、ひたすら純粋な恋心で。


 真似はできないけれど、あれだけ頑張れるのは今なら、わかる。


「あの姫様と個人的交友がある、っていうのは相当な信頼になる。ましてや今は、“聖女様”としての肩書きも知名度もある。結構な立場にいるの、理解しておいた方がいいぞ。この国で死んだらここ、滅ぶ可能性すらあるだろ」


「やー……それは、勘弁願いたいです……」


 ヴィラリュンヌに来て、危険な目には何度か遭っていても本当に死ぬかと思ったのは今日が初めて。


 しかしそれはアレンシュナイズと一緒に行動していたら全く感じなかった危険で、自分の無力さと、護られる心強さを感じてしまって。


「立場があるっていうのは、それだけ無理を通せるってことだ。下で言った通りのこと、戻って実現するのも難しくないだろうさ。が、ふとした暴力にあっさり潰されうる。それは分かったろ」


「……………………はい」


「なんで気休めで終わるかもしれないが、戦い方を教えとく。実践が必要だろう基礎の体捌きは案外できてそうだし伸ばしづらいから、戦術な」


 夜はきょとんとして、話は飛躍したが道理は通っていると理解した後こくりと頷いた。


「ええっと……戦術?」


「武器強化にしか使ってないそれ、時間停止だったか。確かにそれだけでも強いが、応用幅探さないのは勿体ないにも程がある」


 階段は三層を過ぎるところ。人通りも増えてきて、夜は時折会釈しながら話を聞く。


「一応、防護魔法貼ってそれ強化して、もできます」


「悪くはないが。他でできることの延長線にするだけじゃ勿体ない」


 先生と生徒のように、教えを受ける意識で夜はまっすぐ目を見て聞く。


「かなり恵まれた持ち物だろ、それ。そのまま振るうのは強者の使い方で、普通はそれで構わないが。弱者の戦い方を強者がしないのは、できないからじゃなくする必要がないからであって、した方が当然強い」


「私自身はそこまで、強い方じゃないと思うんです……」


「能力の話、とりあえず今は。戦い方、教えたのも優秀な奴だろ? それで発展させた使い方させてないのは、そのまま振るえば終わるような力の持ち主なんだろう。良い悪いの話じゃなくな」


 ノアは確かに、学校に通うようになってよく分かったが、魔法使いとしてあまりにも別格だった。

 普通、最上級魔法は魔法名すら口にせずに撃てるものではないし、それを同時に複数など出来の悪い創作扱いされてしまう。


 必殺として一面的に捉え、それ以上の発展を考えなかったのは当時の夜の戦闘能力からすれば正しかったのだが、その所以が「必殺を当てて終わらせることができて当然」とする自分の意識にあったことは、本人に問えば深く反省する事柄だった。


「まずは能力の把握度からだな。付与と消去は任意でできるな? 直接手で触れなくても付与できるか? 複数は可能か?」


「できます。それもできます、付与はある程度近ければ、消去は離れていても。複数……も、できますね」


「元々動いているものに付与した場合、解除したらどうなるか。そもそもできるか」


「動いてるものは……やってみます」


 丁度二層前の広い空間に出たので、落ちている石ころを拾ってぽいと放り。落下するより先に停止させる。


 そうしてすぐに解く、と描く予定だった軌跡をそのままになぞって上り、落ちた。


「慣性は維持、ですね」


「使えるな。時間差でモノ飛ばしたり、罠として配置したり。近接戦闘しながらは最初大変だろうが、慣れる。そういや、停止だけじゃなく加速減速ってできないのか?」


「多分あるはず……ですが名前が分からないので……調べ方……んー」


 適性持ちのとにかく少ない時間系魔法は、必要が薄いので扱われることもまた少ない。夜が学園で習うことはなかったし、本にも載っていなかった。知っていたノアが特別と言える。


「すぐじゃなくて良いが。対応幅広いに越したことはないからな。格上に勝てる可能性を持つの以上に、格下にやられる危険性を減らすために」


「がんばります」


「詰め込んだが。強さってのは余程突き抜けないと、絶対的じゃない。そんな中でなるべく強くありたいなら、技術備えて、知識身につけて、頭使え。悪い方じゃないだろ?」


「あはは、そう願います」


 話の区切りも良いところで、一層に到着。


「じゃ、次いつかは分からないが、また。騎士様によろしく」


「はい、ぜひぜひ。ありがとうございました」


 首都へ向かうアレンシュナイズと別れ、ひとまず夜は報告のため店に戻ることに。


「戻りまし」

「いらっしゃいま――ってあー夜さん! ちょっと! 来てください!」


 入って早々、ゲスト対応から夜を視認してそう声を上げたのはシルファーニア。


「え、何、どうしたの?」


「すぐ説明、いえお叱りします!」


 シルファーニアの方が一回り大きいので、ぐいぐい引っ張られてあっさりと店の奥、休憩室に。


 そこには苦笑いで夜を見るアンジェリカがいて、夜は首を傾げた。


「店長から聞いたんですが、店長に魔法、教えていたんですよね」


 いかにも私怒っていますな様子のシルファーニアだったが、夜の見た目由来か見えている色紋由来か、じっと顔を合わせていると照れたように目を逸らされた。


 仕切り直しとこほんと咳をして、夜とアンジェリカを見て尋ねる。


「うん」


 特に何か思うでもなく、素直に答えた。


「……その様子だと知らないんですよね、やっぱり」


「どういうことだろ?」


 アンジェリカを見やる。シルファーニアの方を手で示して促しの姿勢。


「あのですね。魔法を教えるには、資格が必要なんです。資格無しで教えてしまうと、捕まります」

「え」


 当然のように全く知らなかった夜は、ぽかーんとする。


 これはヴァーレストでも共通で、夜が知らなかったのは「常識のため誰も教えず、たまたま知る機会もなかった」ためによる。


「私達エルフみたいな、存在自体が魔法と深く関わっているような種族は例外とされていますが。魔法、適性持ちは少なくなくても、誰でも使えてしまうと色々大変なので。扱える人を調整するためのルールです。高額を貰って犯罪組織に魔法を教える、とか大きな事件が過去にあって有名です」


「にゃー……」


「にゃーじゃないです」


「みー……」


「みーじゃないです」


 へなへなぺたんと床に崩れ落ちる。

 どうやら今日は、ショックを受ける日らしい。


 そんな夜の様子を見かねてか、シルファーニアは溜め息の後ゆっくり言う。


「私だって夜さん捕まって欲しいわけじゃありませんし、無知故でしたら今回は黙っています。何故知らなかったのか、はすっごく不思議ですけど、魔法専門の学校でもないと案外習わないんでしょうか」


「…………ごめんなさい。ありがと。ありがと、でいいのかなぁ……? 私途中から入ったから、かも。ん、そういえばどうして、私資格持ってないって分かったんだろ?」


 悪いことをしたのは事実なのだから罰は受けるべき、という葛藤が残りつつ。


「もし罰受けるなら私が受けるから駄目よ、夜ちゃん」


 そう釘を刺されると、夜は受け入れるしかない。


「私、仕事戻るわね。残りのお叱りはまた後で受けます」


 アンジェリカはそう言って去り、これ以上夜を糾弾する気のないシルファーニアは、そちらに触れずに話題を先に進める。


「年齢制限があるんですよ、魔法を教える資格。教える相手として正しいか否か、判断できる必要があるからだそうです。どれだけ優秀でも、二十五歳から。基本は試験の難易度のせいで、三十過ぎで取れたら若い方みたいですが」


 当然、夜に殆どのことを教えたノアは未所持。


 幸いと言うべきか、今回夜はそれに気づかず複雑な気持ちになることはなかった。


「なるなる。……あ。シルファーニアさん、魔法専門の学校に通ってるんだよね?」


 叱られて早々だが、思いついてしまったんだから仕方ない。


「ええ。少し距離はありますが、隣の街ですよ」


「時間系の魔法について調べたいんだけど、シルファーニアさんが知ってたり、学校の方で調べられたりとかしないかな……?」


「時間系ですか? 私はあまり詳しくなくて……。うちの学院なら、調べられるでしょうけど……どうしてでしょう。って、分かりました」


 夜のお腹の辺りをじーっと見るシルファーニア。


「時間系の適性持ちなんですね、夜さん。見慣れないものあると思っていましたが、納得しました」


「本当すごいね見えてるのって……」


 シルファーニアは思案顔で唸ったかと思うと、また夜を見て。


「夜さんが宜しければ、来てみます?」


「……いいの?」


「夜さん何かと貴重なので、名目いくらでも作れますし、夜さん自身も面白いと思いますよ、うち来てみるの」


「じゃあ……よろしくお願いします」

そろそろ本筋動かします。

……しばらく騎士様出してませんね。

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