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学生生活、暫しの別れ。

「しばらくは、夜と会う機会も減ってしまうのね」


「それは……そうかも。なるべく連絡するからね。するからね」


 宴から一夜明けて、最低限の式を済ませて長い休みに入る学生達。

 その多くが浮かれているなか、スノウリリーは夜に寂しげに微笑む。


「うん。約束ね。――今日、レオはまたお仕事なの?」


 昨日はすっかりそれでむくれていた夜だが、今日こう口にしても問題ないだろう、とスノウリリーが判断したのは昨夜の二人をこっそり見たため。

 一緒に帰ろうと屋上庭園へ出て、月下で舞う二人を見て。まだ気持ちの整理がさっぱりとついたわけではない、のにあの光景は、ただただ見惚れるしかできないほどに綺麗で。


「お仕事……かな? お城の方に行ってて、ヴィクトリア様とお話がある、って」


「大事なお仕事分類ね、それは。帰りは遅いとか聞いてる?」


「うん、暗くなるだろうって」


「それなら……少しぶらぶらしていかない?」


 スノウリリーからこういう誘いをするのは、以前は大分ぎこちなさが垣間見えた。妙に肩に力の入ったと言うか、視線が泳いでいると言うか。

 今はすっかり自然になって、いつもの調子で。それほどに、回数をこなしたからこそ。


「ういうい。ぜひぜひ」




 一方、レオンハルト。


 大国の王城なだけあって、ヴァーレスト城はそれ自体が芸術的価値を見出せる程に美しい外装と内装を成している。


 そんな城内を歩くレオンハルトの心はひどく、ざわついている。


 綺麗なこの城の中に、どれだけの黒い感情が渦巻いているのかをよく知っているから。


 穏やかに歩けたのなどせいぜい、幼少期を除けば夜と来た時くらいだろうか。


 あの時ですら、ローレリアに夜は危険に晒されて。


「レオンハルト」


 そんな回想をしていたレオンハルトを、威厳のある落ち着いた男性の声が呼び止めた。


「……ヴィンセント伯父様」


  格式の高い騎士正装に身を包んだ、鋭い眼光の男性。外見から、レオンハルトと親子のようにも見えるその人物は現ヴァーレスト国王直属騎士団長、ヴィンセント=アラ=ツヴァイツィヒ=シャティ=サン=ヴァーレスト。

 レオンハルトの父親、ディートリッヒの実の兄にあたる。


 何故ヴァーレスト姓でないのか、は単純な理由で、より優れていたディートリッヒが家を継ぎ、ヴィンセントは第二王子家へと入ったため。


「変わらず活躍が目覚ましいと聞いている。私も自分のことのように嬉しく思う」


「ありがとうございます。伯父様及び国王軍の武勲も、末席の私ですら聞き及んでいますよ」


 形式的な会話。いつもの流れなら、次は。


「なに。暫くは大きな争いもないものだから、腕が鈍っていないか不安な位だ。鍛錬がてら、最年少の騎士がどれほどの実力か、手合わせ願いたい」


 気づいているのだろう、自分が力を隠していることに。表面上は普通でも、その前提ならあからさまな。そういうやり取りは幾度となく行われてきた。


 その意図からすると黒く、あの事件に関わっているとは決め手がないために断定できていない、そんな相手。


「残念ながら、これからヴィクトリア様とお会いしなければいけないのです。次の機会に、ぜひ」


 体の良い断り文句があって助かったと、内心で胸をなで下ろしたレオンハルトに。


「それは残念に尽きるが、仕方ない。同級生相手に遊んでも、退屈だろうと思ったが」


 嫌な突き方をされた、と直感する。キャンディスと当たって以降の経験が活きて幸い、反応として出すことはなかった。


「剣は、遊ぶために振るうものでもないでしょう」


「それは違いないが。態々手首を斬り落としてくっ付けて、等児戯でなく何と言うと?」


 これ以上続けられるのは、不味い。


 レオンハルトに対してなら良い、いくらでも言い様はある。

 問題は、斬り落とした手首の治癒がどうやって、誰によって成されたのか、という。その情報を知っているのだと仄めかされるだけでも、致命的。


 数秒ながら、レオンハルトにとってはひどく長く感じた沈黙。


 その静寂を裂くように、とん、とん、と絨毯越しの大理石を叩く靴音が響いた。


「ごきげんよう、騎士団長様に紅霧の騎士様。親族同士の談笑に、お邪魔をしてしまいましたか?」


 天使のような笑顔を張りつかせて、ローレリアは二人へと語りかけた。


 二人揃って膝を折り、向き直る。


「そう畏まらずとも。用件があって探していたのだけれど、見つけることができて幸いでした。レオンハルト。次回の案件についてのお話がございます」


 ついて来い、とにこやかに促すローレリア。レオンハルトは「失礼致します、伯父様」と頭を下げ、連れられるままにその場を離れた。


 ローレリアと適当な一室へ入り、鍵を閉めて。


「……………………一つ貸しよ」


 笑みを崩して、乱暴に。

 レオンハルトがこのローレリアを見るのは初めてではないが、そのあまりのギャップには未だに面食らってしまう。


「有難く。どうしてわかったので?」


「騎士団長が不穏なのは自明として、今日は貴方も彼も城にいて。接触がないか、警戒していただけ」


「……助かりました」


 味方になったローレリアは、極めて協力的かつ有能だ。夜にするつもりだった行いを許すことはできないとしても、邪険に扱うことはレオンハルトはしていない。


「あのままだったら、急所を突かれていたでしょうね」


「やはり、伝わっていますか」


「伝わって、というよりも。情報が存在しているから、得ようと思えば不可能ではない、という感じ。知っているということは知ろうとした、ということでもあるわ」


 あまり時間はないか、と考え込むレオンハルトに、ローレリアは一瞥をして。


「情報は、発生した時点で抗いようもなく伝わるもの。今ならまだ取り返しはつく段階だけれど――気をつけなさい」


 もし取り返しがつかなくなってしまった場合、どうするか。

 その時に向けて考えてはいる。ノアに準備もさせている。


 しかし本当に大事なのは彼女の意思のはずで、それを蔑ろにしてしまうだろうと、今から予想できてしまっていて。


 精一杯の誤魔化しは、考えているものの。


 まだ有効ではなく、たとえ有効だとしても、間違いなく「狡い」と言われるもので。


 もし本人からそう言われるなら、心満たされるものであっても。

諸々事情でたいへん遅れましてごめんなさい。


またぼちぼち、ペース安定させたいところですが……ここから、展開しっかり考えて詰めていかないとおかしくなりそうなので若干慎重になります。



何となく、小ネタをおひとつ。


キャラ設定に、クトゥルフ神話TRPG的数値を決めていたりするのですが

女性キャラのAPPは


ノア18

ローレリア17

スノウリリー16

ヴィクトリア17

ミルフィティシア17

キャンディス16


の夜が30です。

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