表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/87

一段落して。

「……成程。理解はしました」


 痛みの消えて夜とまともに接することができなくなり、結果脇腹に剣を刺したまま屋敷に戻り。


 暴漢にでも会ったような夜の姿にまずノアは彼女らしくない「夜様!?」という大声を上げ、ついで横の人型タイプ剣の鞘となっているレオンハルトに「どうしてそんな健康に……」と傍目からは狂っているような感想を述べ。

 諸々の処置をされながら、一通りの説明を済ました後。


「まず、夜様。私から、深く感謝を。レオ様は、私にも救うことのできない状態でした」


「僕からも、改めて。本当にありがとう、夜」


 レオンハルトがこうして生きているのは自分のおかげと。事実として理解はしていても、まだ感覚が追いついてこない。

 そのため、困ったように笑って返す。


「たまたま、できてしまっただけですから。でも、うん。……良かった」


 なおこの会話は、夜、ノア、レオンハルトと、ノアを仕切りにするような状態で行われている。

 勿論、万全のレオンハルトが夜に相対して、素面では済まないため。


「あ、と……夜」


「うん?」


 表情の窺えないため、切り出される話題が良いものか悪いものかの推測が難しい。トーンからすると、あまり明るい話題ではないように思えたが。


「結婚を申し込んだ本来の意図とは、違う結果になったわけだけど……夜がしたいならなかったことにしても」

「失礼」


 うん? と首を傾げた夜の前で、俊敏に動いたノア。

 レオンハルトを蹴り飛ばす、という動きで。


「全快と言っても、油断していれば当たるようで一安心です。アヴェロム・シルト、デュレイルカナント、ヴァンデュラム・ベイン」


 レオンハルトを中心に、まず黄色い光の幾何学模様の描かれた壁が屹立。次いで、その内側にドーム状に水色の光が展開。最後、さらにその内側から黒い光条がレオンハルトの手足を縛り。


 壁とドームは消えて、拘束されたレオンハルト、のみ残ってようやく、夜には何があったのかの理解ができた。


「……ノア? いきなり魔封じの拘束はいったいどういう理由で?」


 こういった経験は初めてではないのか、抵抗はそもそも諦めている様子のレオンハルト。

 聞こえていないといった様子で、ノアはそのまま続ける。


「魔素生成。純化、結合。変換器、形成」


 粘土をこねるように、手元で七色の光を加え、混ぜ、固め。輝く純白の球体が宙に浮かぶ。


「さて。思い残すことはございますか?」


 その球体に手を差し込み、ノア。


「……せめて説明をですね」

「自分から結婚を申し込んでおいて、予定と違ったから破棄しようか、なんて巫山戯たこと言ってんじゃねーぞクソ男ということですね」


「あー……私はいいですよ?」


 ノアが振り返る。


「まあ。それでは、ここで跡形なく吹き飛ばしてしまっても構いませんね」


 違う違う、とぶんぶん手を振る。


「や、そっちじゃなくて。このままで、ですね。……レオの良いならですけど」


「だ、そうですが?」


 半ば以上に脅迫に思うが、気づかないことにしておく。


「……不束者ですが、よろしくお願いします」


「……うん。こちらこそ」


 二人のやり取りを聞き、ノアは舌打ちとともに全ての魔法を解除。レオンハルトに背を向けて、意図的に無視しているような態度。


「それでは夜様。今後ともお仕えさせて頂きますね。今日はお疲れでしょうから、休まれては如何でしょう」


「そうですね……そうさせて頂きます。レオ、またね」


「ん。また後で」


 夜を部屋に送って、すぐに戻ったノア。

 先程の殺気は消え、いつもの様子。


「さて……これはまた随分と、予定の変わってしまいました」


「どうするかはお任せします、と言いたいところだけど」


 続く言葉を正しく察して、ノア。


「ええ。夜様には仕えますし、仕えたいですから。私とレオ様についても現状維持、を希望したく」


「了解。……それだけ?」


「……………………もう一つ」


 ノアの鉄仮面に、普段感じさせることのない怜悧な印象が混ざる。剥き出しにするだけ優しい先程の殺気とは違い、得体の知れない恐怖を抱かせるもの。


「当初の予定、再開を」


「ん……。その場合、夜は」


 断れない、というよりは断る気のないといった首肯を返すレオンハルト。

 出された名前に、いつもの無表情へと戻る。


「巻き込みたくはありませんから。本実行は、まだ行わずに。実行するなら何か考えるとして、隠しておいた方が良いでしょう」


「そう、だね」


「――もしもしたくないのなら、私一人でも構いませんが」


 見えた逡巡に刺すように。

 そうして消えた迷いは、昏い光を瞳に宿して。


「いや。やる。本当はそのために、ずっと」


「それでは。今後ともお仕えさせて頂きます。――屋敷の設備変更が残っているので、一旦失礼を」


 焚きつけて燃えたその結果には、さして興味を持つことなく。回答に満足したノアは、一礼をしてその場を去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ