17年にわたる綱引き、終戦。
生まれてからずっと、少年はいつか来る死を身近に感じていた。
それは不自然に達観していたからではなく、苛まれ続けていた病のため。
現実の世界はひどく辛く、何もなく。
少年が空想の――物語の世界に逃げ込むのは、当然の帰結と言えただろうから。
病院のベッドの上、その日の死との距離が遠ければ、本を開いて幻想に生きる。
自分の人生に不満を感じるのは無駄なことだと、とうに理解していたから。それだけの生活を、飽きることなく繰り返していた。
医療技術の発達した現代であっても、自分の病の治療法はわからないらしい。重篤になった際の対処は、多少できるからこそこうして病院暮らしを強いられているわけだが。
そんな兄よりも、健康体で特に大きな問題のない弟に親の愛情が傾くのは、責められないことで。
読みたい本を伝えられないほど、情報そのものに疎い自分に度々本を持ってきてくれる母には、充分すぎるほど感謝していた。父は長い休みくらいしか見舞いには来ないが、さして気にしていない。
不満は諦めたものの、無念はあって。
自分より後にここに来て、先に旅立ってゆく者達。生に意味を見出している、生きたいと願っている彼等より、何もなく生き長らえていくこと。それをただ、申し訳なく思う。
ある日。朝から調子の悪かった――全身の骨が体を突き破ろうとしているような、そんな痛みに襲われたある日。
生と死の綱引きを、どちらに加勢するでもなく眺め。
いつもは医療の助けがあってどうにか勝利する生が、今日は劣勢なのをただただ眺め。
17年間じりじりと続いていた綱引きは、あっさりと。
死が勝利してそのまま、幕を閉じた。