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Huge Iron  作者: 青目順次
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埃と土煙のゴーストシティ

ガリア歴2212年。極東連邦、西方聖教国家郡が戦争状態へ突入


ガリア歴2213年。ゲーテ市攻防戦勃発


ガリア歴2215年。連邦軍西進作戦の開始


ガリア歴2217年。ガリアの戦いにおいて連邦軍大敗。その勢力圏をゲーテ市まで失う


ガリア歴2220年。ゲーテ市近郊において小競り合いが頻繁するものの大きな衝突は減少


ガリア歴2222年。現在に至る

蒸気機関車の警笛に顔を上げれば、初夏に咲く真っ白な百合の花の香りが鼻を掠めて行った。

微かに胸を締め付けられるような感情に感情に眉を顰める。

今このご時世でそのような感傷に浸れるなどとは思っていない。いや、感傷に浸る事を許される立場ではないというのが正しいのだろうか。

現在、我が極東連邦は戦争中であり、そして連邦軍西方第9師団所属の第1戦機連隊の連隊長である自らに過去を振り返って思い出に耽るなどといった事は今この時に置いては許されるものでは無いだろう。と言っても誰に言われた訳でもないのだが。

最前線である都市、ゲーテ市は敵対国の西方聖教連合と勢力圏を接し、現在第1戦機連隊が駐屯中のエゼルベルグ市から西へ十数キロ離れた場所に位置し、初戦の戦闘により廃墟と化していた。

極東連邦に属し、最も西に位置するほんの小さな国だったゲーテ市は開戦した10年前は国花である百合の花が町中に咲き誇り、東西の交通の要所として栄えていた。そして自分の祖国でもあった。

「鷹目閣下」

聞き覚えのある声に振り向けば、灰色の軍服を模範的に着こなし、軍帽を胸に当てた男が私に頭を下げていた。彼は我が連隊の所属する第9師団の師団長たるオルドー=ヘンドリクセン中将閣下の秘書官で階級は大尉だったか。部下達からは堅物大尉と影で言われているのを耳にしたことがある。

「閣下がお呼びに御座います」

ここで言う閣下というのはヘンドリクセン中将で間違いないだろう。用向きはゲーテから西方軍を追い出したいからその作戦を立てよと言ったところか。

「承知した」

返事をして踵を返す。大尉が敬礼をする舗装を踏みしめる音が聞こえた。

ヘンドリクセン中将は還暦間近の老兵で極東連邦の宗主国、ギーシュタイン王国の出身、そして現在は廃れつつあるとは言えど貴族の生まれでもある。民衆を愛する男であったが、我々平民とは常識という点で少々のずれがある所が少し傷だった。

駐屯地はゲーテから極東連邦の中心部へ向けて伸びる街道沿いに設営され、大きなプレハブがいくつか建てられていた。そのうちのひとつが将官に割り当てられている。

プレハブの中は初夏の熱気にあてられてかなり暑くなっていた。

「やあ、ホークアイ。待っていたぞ」

中将の部屋はプレハブ内とはいえど、それなりに快適に保たれていた。空調は無いにせよ、小型の扇風機が部屋の天井に備わっていて首を振っている。扇風機の送る風が初夏の日差しに熱せられたプレハブ内ではとても心地よい。

部屋の隅に置かれたチェストの上には金属のトレーが置いてあり、白い布が敷かれた上にグラスが2つ伏せて置かれ、ウィスキーの瓶が乗っていた。

「閣下、ただいま参上いたしました」

鉄机を前に腕を組み椅子にふんぞり返って私を見つめる青い目に、僅かに緊張した所、ニヤリと口元を歪ませた中将に辟易する思いだった。

«嫌な予感しかしないな»

中将は組んでいた腕を解くと目の前にある書類を手に取り、私に差し出した。

「上からの指令書でございますか?」

受け取りながら問うと中将は目線で肯定する。ヘンドリクセン中将はあまり言葉が多い方ではない。多くを語ることを恥じるといった価値観をお持ちのお方だ。

ため息がでるのを耐える事が難しい、そもそも師団への指令書というものが半ペラ1枚の紙であるという時点で呆れてしまう。


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