8・執筆
感想文一つ書くために、だいぶ大がかりな製造工程となっています。こうして過程を一つずつ取り上げていくと実際に壮大です。
ここにきてようやく執筆に集中できるようになりました。
慣れてくるとこれまでの工程全部を頭の中で完結できるようになります。
作品を鑑賞すればするほど情報も蓄積されますから、むしろ書きたいことをまとめる作業が大変になるとは思いますが、それも頭の中でできます。
さて、執筆は、基本的には客観的立場に立って行います。そのほうが他人に伝わる確率が上がります。
客観的立場とは、理由を誰もが確認できる状態にすることです。
「何々の場面は自分が経験したことがあったので、実感が強くて手に汗を握り、はらはらした」
といったように、感じたことに何らかの理由が述べられており、感想文を読む人はこの理由に注目し、思いを理解します。
ここで、あまりに面白かったときには、ついつい一つ一つの場面に対して湧き起こった感情を逐一感想に起こしがちです。
「どの場面も面白くて仕方がなかった」
とてもよくわかります。
ですが、ドラマは最初から最後までいくつもの場面をつないで一個の作品となって、読者の心を動かします。
場面ごとに登場人物がそれぞれの思惑で行動していますが、物語を通してどのような意志で行動していたかを見ぬき「結局どうだったか」をまとめるほうが、個々の場面へ言及するよりも他人に伝わりやすくなります。
そのうえで関連した話題として一番印象に残った場面をひとつ取り上げて情熱を語るほうが、情報も感情の熱も伝わりやすいです。
たとえてみますと、個々の場面への感想を点として一個ずつ白紙に打っていきます。一個一個の点を見ていると、白紙のどの位置に打っているのか、点描によって何が描かれているかを把握するのが難しいです。
他人に伝える内容は、点の形や色の内容もさることながら、全体として何が描かれていると読み取ったのか、です。なので、白紙を見渡しどんな点描画だったのかを語って聞かせるほうが作品から受けた印象が伝わりやすくなります。
逆に、つまらなかった場合には一つも場面が思いつかないこともあると思います。
その場合にも、「総じてどうだったのか」という視点を持つと、白紙になにがしかの絵が描かれているのか、本当に白紙なのかくらいは伝えられると思います。
つまり、執筆するべきは作品から受けた印象ですから、全体と部分と双方に言及するとよりはっきりと伝わりやすく書けるはずです。
原稿用紙二枚八百字から三枚千二百字くらいの紙幅ならば、たぶんいやでもそういう構成になると思います。