5・読者が感じたことの整理、検討
読者は、作品を読んで湧きあがった感情を「そのままにする」か「内省する」か選びます。
経験的には、そのままでよいという性格の人と、そこから先のことを考えずにはいられない性格の人と、個々人の性格によって分けられるような気がします。
【そのままにする】
そのままにすれば、「面白かった、面白くなかった、何も感じなかった」という感情がそのまま感想となって残ります。
いっぱいの満足が得られたので、それ以上理由はいらないのかもしれません。
逆にあまりにつまらなくて、さっさと次の作品に行きたいのかもしれません。
作品を読み終わって感じるこのぼうっと大きな感情は、個々の作品に対する印象ではありますが、総括的なものです。
人物の心理描写、情景描写、物語の展開、感情移入の起伏など、こまかな作品のしかけについては語っておらず、作品全体として「こう感じた」というものです。
こういった読者の感想を作者様のほうから見ると、うれしい反面、時にもどかしい思いに駆られるかもしれません。なぜならこれは読書した結果の思いであって、作品個別にどう思ったかという具体性は欠いているからです。
しかし、これは読者の自由な感情の発露ですから、ここでとどまったとしても不都合はありません。
【内省する】
内省すれば、起こった感情に対してなぜそう思ったか、自分のなかで収まりのいい理由を得て納得したいという心の欲求が起こりえるでしょう。
その際に、感情を理屈で整理検討して、考える行動が発生します。
この検討では、自分の記憶だけでなく、他人の感想を読んだり、同じ作品を読んだ人と話したりなど、誰かの手や情報を借りることもあります。
インターネットやほかの書籍、辞書などの情報も検討の素材となるかも知れません。
この行動は自分が納得するまで、あるいは飽きるまで続きます。結論が出ないこともままあるかもしれません。
内省の結果、「感情」が、その湧いた理由や自分なりの作品解釈などを加えた「鑑賞」となって飲み込まれていきます。