096 ミツケタ
北の大陸はデカい。
南北にも大きいが、一応北半球に収まっている。
東西には更に大きい。どれくらいかと言うと、北東にあるヨホーロルテス国の首都と、北西にあるムガ国の首都とでは、時差が9時間ほどもあるのだ。
ちなみに西の大陸では、スエズエ共和国のアインの街と、一番西の方の地域で、6時間半程度の時差。かなりの差がある。
ヨホーロルテス国とアインの街で7時間ちょい、ムガ国とアインの間では16時間の時差だ。これだけ時間の差があると、【瞬間移動】で移動すると大抵昼夜が逆転する。
だからアインの街の新しい屋敷で寝起きするとは言っても、北の大陸で活動する場合は起きるのは夜中。深夜のランニングをこなし、複数の【灯り】で照らした広い庭を使って運動。朝食と言うか寝起きの食事を摂り、草薙さんから昼食用のランチボックスを受け取って【遅延】魔法を掛けて『アイテムボックス』へ。そして北の大陸へと【瞬間移動】する。
北の大陸で活動した後、アインの街へ帰って来ると、そこは夜中と言うか下手すると明け方。晩御飯を食べた後、風呂に入って身嗜みを整え、仕切りとカーテンで陽光がほとんど入って来ないようにした寝室で就寝する、までがサイクルとなっている。
それだけの生活をして、稼いだ魔力量を使って行うのは、鉄の確保だ。銅とかも欲しいんだけど、銅山の権利は持って無いからなぁ。鉄でも色々な物が作れるから、銅はしばらくは他からの購入で済まそうと言うことになった。
鉄は採取効率を求めなければ、そこら辺でもかなりの量が含まれているから、抽出し易い。市場の鉄鉱石がそこそこの値段で取引されるのは、化学的反応で製鉄するには、なるべく純度が高い方が効率良くなるからだ。その点、【成分抽出】の魔法を使うととてもお手軽だ。低練度の土魔法だと、それこそお小遣い稼ぎくらいにしかならないだろうけど、オレの土魔法や魔法拡大は<臨界突破>を使えば世界最高峰になるからな。効率の桁が違うし、魔力量も桁が違う。桁が違う同士が相乗効果でハッスル状態!
まあ、一番魔力を消費するのは、酸化した鉄から純鉄にする段階だしな。開放した場所で【元素抽出】しないと、分離した酸素が溜まってヤバい状態になるのも把握した。
うん、戒に言われて気付いた。数分ぐらいなら問題無いらしいけど、酸素中毒ってのがあるんだってな。たくさん酸素がある環境で焚き火をすると、ボーボー燃えて「面白れー」ってなるだけかと思ってたわ。反省。低酸素ってのは危険だとは知ってたけど、高分圧の酸素も長時間吸ってると命に係わるとは……。
そんなこんなで、起きてしばらくは北の大陸で半日ほど活動、その後は訓練や抽出・「神の迷宮」で魔石確保などを行っていた。
北の大陸では、魔車や魔鉄道以外にも近代的な物が幾つもあった。現代地球と比べるとまだまだ発展途上だが、確かな文明の発達が感じられる。
船もそうだ。そもそも北の大陸に魔族が移住して来た頃、船体構造に鉄を用いた鉄船を既に作っていた。現在は鋼船らしい。鋼鉄で作った船のことだと言っていたが、要は鉄じゃろ? って戒に聞いたら、大分違うって言われた。解せぬ。炭素の割合が云々って話だったが、そんなちょっとしたことで大きく変わるのかね? 二割は違うって言われたけど、余分に分厚くすれば良いじゃないかと思ってしまうのは、ダメなんだろうか。……ダメなんだろう。腰のベルトに擬態したミドリに、尻尾で叩かれた。
西や東の大陸では沿岸部近海でしか船を利用出来ていなかったが、北の大陸では普通に海運が発達している。魔族の人に聞いたところ、大体全長10メートル程度の海の魔物の体当たりを喰らっても大丈夫な船体を作れれば、問題無くなるらしい。
具体的には、鋼船で全長50メートルクラスであれば、まず大丈夫とのこと。この世界の人間が作ってる船は、木造だし全長も20~30メートルまでが多かったかな。そんなのが全長10メートルの生物の体当たりを喰らったら……うん、かなり危険だと分かる。
船の全長が50メートル以上になれば、向こうの方から意図的にぶつかって来ること自体が少なくなるとか。格上に喧嘩を売って来なくなるってことだな。ビビリめ!
それでも衝突による損傷は稀にあるらしく、船底を二重にしたり、防水隔壁が垂直・水平に作られていたりするんだと、東ヒロント国の造船所で説明を受けた。
動力については、魔法で風を生み出して帆で受けて進んでいるらしく、速度はハッキリ言って遅い。それでも、大量の荷物を少ない労力で輸送出来ることは、利点が大きい。地球の近代・現代で海上運送が発達した様々な要因は、異世界でも適用されるってことだ。
なお、魔鉄道も時速40km程度といまいち速度が速くないように、純粋に魔法のみを動力に活用しようとすると、出力が低くなる傾向にあるみたいだ。そう、技術全般を扱うことになったメンバーの狩野光輝君が言っていた。
今オレたちの仲間が研究してる魔道エンジンは、一度「水の生成」と「火での加熱」を経由して、蒸気機関・タービンで高い出力を得ようとしている。科学的なアプローチで低出力が改善されると言うのは、興味深い。せっかく魔法がある世界なんだし、魔法と科学のハイブリッドな新技術で革新出来ると面白そうだな。
それから、北の大陸の各国では、主に食料品を扱っている市場を幾つも回ってみたりした。
小麦がかなり潤沢に買えた他、なんと日本で日常的に食されている「うるち米」の品種の米が、ヨホーロルテス国の南の方で発見された。「もち米」もあった。
当然最優先で種籾及び精米された状態のものを買い漁り、確保してある。種籾は戒の配下の鈴木吾郎さんと植原君が責任を持って栽培、品種改良することになった。
食味はさすがに日本のと違っていたが、久しぶりに「御飯・焼魚・味噌汁(・ついでに海苔・納豆)」の黄金コンビを味わうことが出来、日本人の何人かが涙を流して喜んでいたことは特筆すべきことだろう。
寿司もちゃんとした「うるち米」で握って貰い、バカスカ喰いまくった。ちょっとパサパサする御米じゃこの風味は出せん! うぉぉぉおおおおお! マグロ・マグロ・マグロー! 中トロが無性に喰いてぇッ!!
だが、マグロはまだ入手出来ていない。仕方ないから、鯛やヒラメ、サーモン・イクラの軍艦巻きなどで満足することにする。
「うるち米」を味わったことで、オレたちは全力でこの米を守り、育てて行くことを誓ったのだった。
具体的に言うと、アインの街の一部を水田とすることが決定された。その際、陸稲ではなく水田こそ真理だと、草薙さんやら鈴木さんから力説された。あまりの力の入りように、水田用地を土魔法で整備することを強要されたりしたのだが……。確かに土魔法はそう言った作業をするのに向いているが、オレって雇い主だよな? そこんとこどうなのよ。
まあ、連作障害が極めて低くなる水田ってのは、気温と水さえ確保出来れば優秀だとは思うので、無駄にはならないだろう。
それとは別に、戒から依頼されて、何だか込み入った水田+変な施設を作らされた。それに連動して、今まで工場では姿見くらいの大きさの鏡しか作っていなかったが、一時的に今作れる最大の鏡(二畳くらい)を何十枚も作るように戒が指示を出していた。
特別仕様の水田は、何故かガラス張りの密室にするらしい。温室にでもするのかな? いやでも、スエズエ共和国は赤道にほど近いし、気温は25℃~40℃と十分と言うかむしろ過剰なんだよなぁ。
イヨッテン国の首都モッサンの近くには大きな港がある。
冬になると流氷で身動きが取り難くなるらしいが、一年の半分は普通に使えるので大事な交易場所となっていた。冬は北極に近い海に氷が多くなるので、南側の海路が活発化するとか。それでもカニなどが獲れる為、冬場でも港の一部は賑わうそうだ。
この世界の北半球で今は12月、となると地球での6月相当だろう、初夏だと言うのに気温は10℃から20℃程度と過ごし易いが、やや肌寒い。朝早くだから10℃ほどで、厚手の上着が必要。『アイテムボックス』から取り出して急いで羽織る。今までそんなに低い気温になる地域を経験してなかったので、この国に来てから購入することになった。
漁港では、既に幾つか仕事から戻って来た船がある。海産物の入った籠を、船から運び出しているのがその証拠だ。
「おっ、毛ガニじゃないか!」
籠からはみ出そうな毛ガニを見つけ、思わず叫んでしまった。
「おう。兄ちゃん、こいつが欲しいのか?」
その籠を持っていた大柄な壮年の男性が、オレに聞いて来る。
「そうだな。美味そうだし……毒は無いんだろ?」
「毒? ないない。こいつは、塩茹でしただけで美味いぞぉ!」
じゅるり。思わず涎が垂れそうになる。
「一籠幾らだ?」
「ん? これ全部で30匹はいるぞ。まあ、3万マキナってところだな」
マキナってのは魔族の国内で共通して使える通貨で、100マキナ=130円くらいの換算だ。1,000マキナ以上は紙幣が用いられている。最・先・端!
30匹の毛ガニを約4万円ってのは、お買い得、なのだろうか。うむむと唸って考える。
「なんでい、買わないなら退いた退いた。組合に卸に行くんだからな」
そうか。オレがここで買わねば、この毛ガニは他の奴に買われてしまうんだな。
そう思い至って、籠から飛び出そうな毛ガニの円らな瞳を見詰める。
(喰いたきゃ買えよ、買えば分かるさ)
そう言っている気がした。
うん、そうだな。この世界のカニの味を知る為にも、ちょっとくらい高いかも知れない買い物だって、やってみるべきだ!
「おっちゃん!」
「あん?」
「買うぞ! その籠、丸ごとな!」
「お? おう……。個人でこんなに喰えるのか?」
「でぇじょぶだ。オレの所は人が多くてな。これくらいペロリだぜ!」
「ほぅ、そうなのか。ちなみにだが、まだ他に三つほど、籠があるんだが……」
「買った!」
「……威勢が良いな。だが嫌いじゃないぞ。最後の籠は半分程度しか入ってないから、全部まとめて10万でどうだ?」
オレは頷き、懐から10万マキナ分の紙幣を取り出すと、おっちゃんに支払った。
「うめぇ」
オレはカニを貪っていた。先ほど買った毛ガニを、一匹丸々茹でて貰い、味見をしてみたのだ。
場所は漁業組合の建物の一部。組合員なら勝手に煮炊きに使って良いそうだ。さっきの売ってくれたおっちゃんが付き添ってくれて、使わせてくれた。
当番らしきオバちゃんに頼み、塩茹でして貰った毛ガニは、そのまま身を剥がして口に入れるだけで、美味だった。
カニスプーンなんてないから、【肉体強化】して指で潰してから抉じ開けたり、マイ箸で穿り出して食す。
「良い喰いっぷりじゃねーか」
おっちゃんがバンバンと背中を叩いて来る。力は結構強いが、オレもこの一年ほどで筋肉が付いて来たので、耐性がある。余程の筋肉ダルマ以外なら、多少強く叩かれても大丈夫だ。
鋏や脚の身が食べ終わったので、毛ガニの胴体を御開帳し、カニ味噌を堪能する。やっぱ毛ガニはこれだね!
「お、そこも喰うとは分かってんじゃねーか! それが美味いんだよなぁ」
バシバシと、叩いて来る速度が上がった。ちょっと痛ぇぞ、喰ってる最中なんだから自重しろやオラァ!
「甲羅に少しカニ味噌が残ってしまった……」
なるべく綺麗に食べてしまいたかったが、こればかりはどうしようもないか。
「喰い終わったか。じゃあ最後はこれだな」
そうおっちゃんが言い、調理場にあった何かを毛ガニの甲羅に少し注ぐ。そしてそれを火で炙り始めた。
「ほれ! 〆にグイッと行け!」
「これは……?」
「火酒を入れて、煮立たせただけだ。毛ガニの内臓が勿体無いからな!」
言われるまま受け取り、カニ味噌が溶け込み熱くなった火酒を、少しずつ飲む。
舌が、咽喉が、鼻が、胃が、カーッと熱くなる。ほんのりとカニ味噌の味もし、これで一匹丸々食したのだと、腑に落ちる感じがした。
「ごちそうさまでした」
「うん? まあ、こっちも少し儲けさせて貰ったしな。余計な世話だったかも知れないが、楽しんで貰えたようで良かった良かった」
「儲け……? ちなみに、組合に売ると幾らくらいだったんだ?」
「あー、まあ良いか。一籠2万から2万5千ってところだな」
卸値でそれなら、オレに提示した金額も、ボッタクリと言う訳では無いな。
「アリガトな、おっちゃん」
「おうよ!」
手間暇かけて調理した料理も美味しいが、こう言った野趣溢れる素朴な味も、たまには良いもんだと再確認した。
時間はまだ朝。これから漁に出掛ける船もあるらしく、港は騒がしくなっていた。
漁から戻って来た他の船の収穫物を探りに行くか、組合とやらへ行って競りに混ぜて貰うか。どちらにしようかと悩んでいた所、背後から近寄って来る人物が居た。
振り返って誰何するのと、相手が声を掛けて来るのがほぼ同時だった。
「誰―――」
「貴様がミツルだな! 女王様を誑かした罪、その命で贖え!」
オレと同年代くらいに見える、軍服を着た魔族。見た目同年代と言うことは、実際は多少年上のはずなんだが……精神年齢は外見と大差ないから、気にしないことにしよう。
そいつが腰に下げていた片手剣を抜き放ち、上段に構えてこちらを威嚇して来る。
突然の凶行に、周りが騒がしくなって来た。
オレは満ちた腹を擦りながら、どう対処しようかと考え始めるのだった。
高坂ミツル 年齢:25
精神11 魔力1,522 (最大)魔力量254,813
(拠点での就寝時回復魔力量約252,000)
所持現金:4億2130万円相当(西大陸)+218万円相当(バルバル島)+948万円相当(北大陸)+Gold 12,284kg
+(20億円+80億円)相当のファフレーン小金貨(予定)
鉄20kg×(1,076+倉庫に21,000)




