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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第七章:北の大陸
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094 二人は想い人


「ハッハッハ! この俺を難なく下すとはな! 思っていた以上に凄い奴だ!」


 機嫌良さそうに高笑いし、オレの肩をバンバンと叩いて来る東ヒロント国の国王。

 まだ【肉体強化】の魔法の効果時間だから大して痛くないけど、強化してない生身の状態なら、地面に叩き伏せられてもオカシク無い威力だ。


「……改めて、これまでの非礼をお詫びします。我が主殿あるじどの


 それまで荒っぽい行動だった国王ネジャスが、突然姿勢を正し、ひざまずいて丁寧な言葉遣いで詫びて来た。


「……何コレ?」

「陛下!? 一国のあるじがそのようなこと……許されませんよ!」


 女大将軍のイニーが国王ネジャスを嗜め、無理矢理立たせようとするも、筋力の差がかなりある為か出来ないでいた。


「あー、これは。魔族の悪い本能が出ちゃってますねぇ」


 案内役のバウナウ君が、以前も聞いたことがある『より強者へ従おうとする』魔族の習性を、語ってくれる。


「別に忠誠を誓って貰わなくても……」

「いえ。此度こたびの決闘、実は突発的なモノでは無く、計画的なモノなのです。

 あれほどの功績を挙げた者を、打ち負かして配下にすれば、この国は益々繁栄すると。……イニーの発案で」

「あっ! 陛下!? それは言わないって約束したじゃありませんかッ!

 そもそも、何で陛下まで決闘に参加して、しかも負けてるんですか!? 想定外過ぎてどうすれば良いのか、私……困ります」


 もじもじとイニーが身じろぎする。


「オレも、別に忠誠が欲しくて決闘を受けた訳じゃないしなぁ」


 なんで決闘したかって? そりゃ……流れで、かな。

 拒否の言葉は発してたんだが無視されてたし、周りは決闘の準備を進めるしで、雰囲気的にお膳立てされていた。

 本気で嫌なら抵抗していたが、ちょっとくらいなら戦っても良いかなと、思わされてたのも大きい。

 実際には、大将軍のイニーは【雷牢ライトニング・プリズン】と言うオレに効きそうな魔法を習得しており、意外と危なかったのが実情だ。その次の国王との戦いは、負けようが無かったのだが、それは相性によるものだ。


「そうは言われましても、あるじとして認めていますので……。何でもしますぞ」


 そう国王ネジャスが言ってくれるが、何でもって言われても困る。


「例えば、今この場で自害しろなどと命令されましても、実行する覚悟が……」

「ちょ!? ちょっと待って陛下! そんなことされたら大問題ですからッ!」


 なんでいきなり自害を想定してるんだ。

 そしてそれを聞いたイニーが、冷静さを失ってネジャスに縋りついていた。


「先ほども言ったように、計画して無理矢理決闘を申し込んだのは無礼と言える。ならばその責任を取る意味で……」

「いやぁ! 死んじゃあやだぁ! お願いだから、考え直して!」

「そこまで気にしてないから、死ぬ必要はないぞ」


 一応フォローは入れておくが、大将軍のイニーが涙を流しながら懇願してるのには、職務を超えたモノを感じさせた。


「それ以外にも、国を譲れと言われれば即座に行いますし、奴隷になれと言われれば……」

「あー、いや。そう言うの良いから」

「そうですか? ふむ、主殿あるじどのは一体何がお望みなのか。俺……我には推し量ることも出来ないか」

「そんな崇高な存在じゃないからな? 後、丁寧な口調が慣れないみたいだし、今までと同じで良いぞ。オレのこともミツルと呼んでくれ」

「それは助かり……助かる。国王になる前も無頼な為、どうにも慣れてなくてな。……それと、ミツル……様、で宜しいか」

「呼び捨てで構わないけど、変な呼称を付けなきゃ問題ない」

「うむ。ミツル様、御命令を!」


 国王が、この国最高の権力者が、オレに向かってひざまずいてこうべを垂れている。

 ここは練兵所の一角だが、立ち入りを禁止まではしていないのもあり、軍人たちの視線がかなり集まっていた。特に国王が戦闘を行い、負けて膝を突いている様は、異様なはずだ。

 どうしてこうなったんだか。少なくとも、オレは悪くない。


「……ん? そう言えば、大将軍はオレに負けたのに、忠誠を誓おうとかは思わないんだな」

「え? あ、う……うー。これは個人差、ですかね」


 ネジャスが自害を口にした結果、イニーは泣き腫らして目が充血していた。

 ついでに少し拗ねたような表情でツーンとしていたが、周りをキョロキョロと見渡し、気まずい空気を感知すると、渋々と言った体で国王ネジャスの少し斜め後ろで、同じように跪いた。


「参りました。数々の非礼、お詫び申し上げます。……下知があればうけたまわります」

「うむ!」


 やや偉そうに、聞きたかった言葉を受け入れる。

 計画の一部だったらしいとは言え、随分と一方的な物言いをしていた相手が、降伏してくるのは気分が良い。器が小さい? ほっとけ。


「しかし、どうするかだなぁ……」


 そんなオレの言動に、バウナウ君は引きった笑みで固まっていた。そちらへ僅かに視線を向けると、ビクリと痙攣するように反応し、顔を更に強張らせる。


「そうだな。やっぱり国王なんだし、ネジャスはそのまま国を治めてろ」

「御意!」

「イニーは大将軍の仕事を普通にやれ」

「はっ! ……え? 陛下の護衛の仕事は?」

「知るか。大将軍の仕事じゃ無いだろソレ。近衛兵にでもやらせろ」


 彼女は絶望に顔を歪ませ、涙すら流していた。


「っ! 御再考を! お願いします! 何卒なにとぞ、御再考を!」


 うーん。やっぱり反応が過激だなぁ。


「再考しろ? 何でだ?」

「それは、その……。ひ、非常に個人的な理由の為、言い難い……です……」


 イニーは顔を伏せて、震える声で伝えて来る。


「フーン? 言わないなら、再考の余地なしだな」

「そっ、そんな!? ……言う。言います! だから、考え直して下さい! お願いします!」


 オレのやや一方的な決定に、止む無く決心をした彼女が言葉を発しようとする。

 国王ネジャスも彼女の横で注視し、練兵所に集まっている人たち(魔族だが)が耳を傾けていた。


「わ、私は! ネジャス陛下のことが……好きです! お慕いしてます! だから、一時も離れたくありませんッ!!」


 頬どころか顔面全体が上気して、本来青黒い肌が更に青くなる。血が青いらしいから、興奮しても赤面するんじゃなくて、青さが増す方向なんだな。

 そっかー。そう言うことだったのかー。


「それを聞いたネジャス国王、返事は?」

「……む? うむむむむ! ……俺もイニーのことは、憎からず想っている」

「……ッ!!」


 返事を聞いた彼女が、口元を手で塞いでボロボロと涙を流していた。


「ネジャスは結婚してるのか?」

「いや、してないが……」

「じゃあ、イニーとしろ。嫌か?」

「なっ! いえ、別に嫌では……」

「イニーの方はどうだ? ネジャスと結婚は嫌か?」

「と、とんでもない! むしろ願ったり叶ったりです! ……嘘? 私、もう死んでも良いかも」


 妄想をしているらしく、視線が怪しい方に彷徨さまよっていた。


「なら、決まりだ。ネジャスはイニーと結婚し、引き続き国を治めろ。イニーはネジャスと結婚し、職務を全うしろ。家庭に入ったり所属を異動したりするなら、引継ぎはしっかりな」

「「はい!」」


 そんな流れで、オレは国王の結婚の仲人的な役割を果たしてしまった。

 居住区へと戻った後、国王ネジャスが部下たちに結婚することを話した所、衝撃はあったものの極めて温かく受け入れられ、結婚式の準備が慌ただしく始められた。

 その際、日取りが決まったら「短くて良いので、仲人として一言だけお願いします。他の準備などは全てこちらで行いますので」と出席を求められた。

 服装は失礼が無い程度で構わなく、希望があれば仕立てると言われてしまった。ううむ。

 慶事だし断るのも忍びない。【瞬間移動】があるし、小一時間程度予定を開けておけば、きっと大丈夫だろう。

 快諾し、日取りが決まった頃にまた訪問すると約束して、その場を辞した。

 去り際に、国王ネジャスから「いつでも御命令を!」と念を押すように宣言されてしまう。その時の周りの官僚たち(20人くらい居た)の視線は、物理的にオレを刺し貫いたと感じさせるほどだった。






 少し気疲れしたので、スエズエ共和国の我らがアインの街にある屋敷へと帰宅。

 物が少なく広々とした居間でだらけていると、信号シグナル受信の魔道具である腕輪が、黄色い光で点灯していた。


「ええと、この場合は……今本館に居るんだから、信号シグナル送受信を管理してる所へ行けば良いのか」


 屋敷の別館に用意されている、緊急信号監視室に向かうと、雇っている監視員から直立不動で迎えられた。


「何か起こったのか?」

「あ、はい。これはウェントの旧屋敷ですね。何かミツル様に関係する出来事が発生したようです」


 そうか。さすがにオレと大して関係ないことで呼び出すほど、軽くは見られてないんだな。

 戒なんかは普段は割と気安く接して来るけど、こう言った所はきちんと締めてるからなぁ。


「よし、行ってみるか」




 【瞬間移動】で旧屋敷へと行くと、そこの責任者が待機しており、すぐにオレへ事情を伝えて来た。

 話を聞く限り、ミドネア王国のとある町に住んでいた、タイニィとナンディと言う名の夫婦が来訪しているそうだ。

 ……あの、ちょっと怪しい関係っぽい奴等か。半年は経ってない、な? 4ヶ月くらいか。

 思い出せたので、待たせているらしい応接室へと足を運ぶ。


「あ! ミツルさんだ!」

「……御無沙汰してます」


 兄……もとい、夫のタイニィ君の腕を掴んだまま、妹……もとい、妻のナンディが声を上げた。

 タイニィ君は立ち上がって御辞儀をしようとしたが、腕を取られたままだったので、不格好な動作となる。


「すみません。ナンディが放してくれなくて」

「気にするな。年齢的にまだ仕方がない」

「えーっ! 私、もう子どもじゃないですよ!」

「なら、ボクたちの雇い主になるミツルさんには、失礼が無いように応対しないと」

「……それもそうね」


 ナンディが同意するが、具体的にどうすれば良いのかが分からないのだろう。戸惑ったまま、ややしょんぼりとしていた。


「まずは、オレたちの街へ移動するか」

「ここじゃないんですか?」

「少し前まではここが拠点だったんだが、ちょっと前に新しく街を作って、そっちに移ったんだ」

「新しい街!?」


 どうやら、混乱しているようだ。

 そりゃそうだ。普通街なんて新しくニョキニョキ生えるようなもんではない。オレのチート染みた魔法能力で外側だけ作ったとは言え、人口もまだ少ないしな。


「それじゃ、行くか。『かれれ、繋ぎ合わせて一つ所に。SpaceJoint【空間接合】』」


 アインの街の新しい屋敷、その居間へと直接空間を繋げた。


「え? 何ですかコレ!?」

「え? ええ?」


 夫妻だけでなく、旧屋敷を管理してる責任者も、オレの魔法行使に愕然としている。


「細かい事は向こうで戒たちと相談して決めよう。さあ、入った入った」


 やや強引に移動を促し、戒と数人の使用人を呼び集めて話し合いをすることになった。




 結論から言うと、タイニィとナンディの二人はしばらく勉強させることにした。

 タイニィ君の方は、最低限の教養を得たらウェントの旧屋敷を活動拠点とさせ、迷宮で魔石を集めるお仕事をして貰う予定に。

 ナンディの方は、ある程度勉強させて適性がある分野を伸ばし、IFEアイエフイーの、会社の手伝いをさせようと言うことになった。


「しかしあの二人……兄妹なんですよね?」

「始めはそう見えた」

「始め?」

「聞くな! オレが雇う話を持って行ったら、出発の日には夫婦と言うことになってた」


 気になってこの世界の法律関連を軽く調べてみたが、半数程度の国では親子や兄弟姉妹間での婚姻を禁止する文章があるようだ。

 逆に言うと、法整備が未熟な為、少なくない国では明文化されて禁止とはなっていない、のだろう。暗黙の了解で普通はしないっぽかったが。

 そして、禁止を盛り込んでいる国も、甥・姪と叔父・叔母での婚姻は、禁止されてたりされてなかったりと違いがあった。

 さすがに従兄妹にまでなると、禁止している所は見当たらなかったけどな。

 異母なら兄弟姉妹でもオッケーな国もあり、そこら辺まだまだゆるゆるなのだろう。


「義理の兄妹、なら問題無いんですが……」

「この件については、深く突っ込むと藪蛇になりそうな気がするんで、詮索禁止ってことで」


 アイコンタクトを用い、忖度そんたくし合ってお互いに頷くこととなった。

 なお、地球から拉致されてこの世界に残っている元中学生組の和三盆わさんぼん味華みかちゃんが、この話に異常な喰い付きを見せたことを付け加えておく。

 禁断の関係とか世間の目が厳しい間柄に、特に興奮する体質(?)だと、彼女自身が自己紹介してくれた。

 そんな情報、知りとうなかった……。





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