085 そんな話は聞いてない
人間:寿命80-100前後。繁殖力旺盛。
エルフ:寿命150-200前後。美形が多いが筋肉や脂肪がやや付き難い体質。5歳~50歳での成長は、人間の1/5。以降は1/2程度の老化速度。
ドワーフ:寿命70-90前後。身長短め筋肉質。男女問わず髭モジャ。成年すると老化がやや遅くなり、寿命間近でも現役なことが多い。
魔族:寿命100-150前後。青黒い肌で、魔力が高い。更に魔力量は人間の5~10倍。繁殖力だけは人間に劣る。
※東と西の大陸では乳幼児の死亡率が高い為、平均寿命はこれよりかなり減少しています。
魔族の歴史は約500年前、この世界の創造神と袂を分かった所から始まる。
正確には1,200年ほど前から、人間やエルフ族・ドワーフ族と共に暮らしてはいた。しかしそれは、創造神に従属するような生活であった。
創造神は特に人間に目を掛けており、その為に人間と言う種族自体が自然と増長し、傲慢になっていた。
エルフとドワーフはそれに良く耐え、或いは距離を置いていたが、魔族は人間とほぼ同じ生活圏の為、奴隷のような扱いを受けざるを得なかった。
魔族の多くは、それに我慢がならなかった。
創造神によって、人間をベースに改造され、基本的に人間を超えるスペックを持つ魔族。それなのに、自身より劣る種族から虐げられる毎日。
それが創造神の思し召し、となればまだ耐えられ―――る訳が無かった。
劣悪な環境に追いやられていた魔族は、ある程度数を増やした時点で、人間が住んでいない北の大陸への移住を画策した。
百数十年もの年月を費やして用意された、移住の為の船。当初作られていたのは木で出来た船だったが、計画終盤では密かに鉄の船が作られるようになり、移住実行時にはその多大な積載量に大活躍したと聞く。なお、中小の木の船は大海を渡るには不向きとされ、西の大陸に放置されることになったらしい。
創造神への絶縁状は、懇意にしていたエルフやドワーフなどに複数預け、移住が完了した頃合いに叩き付けて渡す様にと言付けた。
移住を開始した際には10万人ほどの人口だった魔族。北の大陸へ渡った後は急速に勢力を拡大し、今ではその500倍ほどにも増え、繁栄している。
魔族の国は現在六つあるが、それは統治上の理由で分かれているに過ぎない。国の中心から二週間以上も移動に掛かる地域は、その国に属するには適さないのが普通だ。道路の整備や乗り物の改良により、ある程度改善することは出来ているが、北の大陸全土を国とし、一つに纏まれるほどでは無い。
その為、地域毎に分かれ、それぞれの首都を中心に国を形成しているのが現状だ。
そしてそれぞれの国は争うこと無く友好的―――であれば良かったが、国と言う仕組みの上では、ある程度のいざこざが生まれ、多少の好悪が発生するのは仕方が無かったと言える。
それでも、魔族は人間たちが繰り広げていた悪しき前例を反面教師とし、戦争を行うほどの関係悪化は避けて来られただけマシだったと思われる。
そんな状況で、ある日、長らく接触して来なかった人間が、単独でバジンニアの街へと現れたのだった。
幸いだったのは、北の大陸へ移住した段階で、創造神や人間たちの干渉を受けることを覚悟し、法律の類いもそれを想定したものにしていたこと。
魔族で無ければ人に非ず、なんて思想は(表向き)出回っておらず、人間も魔族と変わらぬ扱いをするように憲法や法律で定められていた。無論、エルフ族やドワーフ族もだ。
それ故に、不意の人間の訪問でも、こちらの不手際を素直に謝罪することが出来、失礼な態度を取らずに済んだ。
後程判明したことだが、この人間はなんと、かの『魔王』を継ぐ者であり、恐らく一騎当千以上の戦力に値すると推測された。
『魔王』は、かつて1,000年ほど前、猛威を振るった存在である。
その前後に、同じように創造神からの祝福を得た人物が頭角を現していたのだが、『魔王』はそれらを複数相手取って、尚且つ勝利を得たほどの圧倒的戦闘力を誇ったと記録にある。
創造神の支配下にあった当時、国家間の争いはなるべく闘技場での戦闘で決着を付けると言うルールがあり、その勝敗によって様々なことが決まっていた。
つまり、色々な国に散在していた神の祝福を得ていた人物が、それぞれの国の代表として闘技場で戦っていたが、『魔王』がそのバランスを崩し、一強の存在となってしまったのだ。
幸いにも『魔王』は特定の国に所属せず、その時々で与する所を変えていたが、まともに対抗出来る存在が一向に現れなかった為、10年ほどで姿を消したとされる。
以後、『魔王』は最強かつ不可侵の存在と認識され、絵本などで伝説として語られるようになった。
小隊長のブラッカスが追加注文の為、席を立つ。アレをホールでとか、正気か? 絶対胸焼けする。
私は中隊長として、二代目『魔王』殿に本音で話そうと提案した。
『魔王』殿が私の隣で立ち尽くす者に視線を向け、それによってオライン副長は正気を取り戻した。
「まず、『魔王』と言っても<臨界突破>を得てからまだ一年ほどしか経っていない点は、白状しておきたい。
端的に言えば発展途上で、戦闘能力的に先代『魔王』より劣る可能性はある。『魔王』の伝説って奴も簡単にしか聞いたことが無いしな。
ただまあ、現時点でも人間の軍勢10万人程度なら壊滅させることが出来た事実があるってことは、気に留めておいて欲しい」
『魔王』殿の言に、唖然とする。
10万人。軍隊として原始的な、農民に槍を持たせただけのような集まりだとしても、10万と言う数は多い。
雑兵だとしても、ある程度訓練された1万の兵で以ってしても、用兵を間違えば呑まれかねない。
100人や千人ならまだ分かる。一騎当千の強者と言うのは存在するからだ。千は誇張だとしても、100人を相手取って生き残れるようなイレギュラーは、母体が大きくなればある程度発生するものだ。
だが『魔王』殿は文字通り、桁が違う。
一方的に言われた内容を丸飲みすることは出来ないが、空を飛行していたこと、『魔王』であると明かしてくれたことを鑑みるに、無視するべきではないと判断出来る。
それに……目の前の青年は、嘘を吐いている気配が無かった。
「では、先ほど砲撃してしまったお詫びと言っては何だが、何か要望はあるかな?」
中隊長のモロンギさんの言葉に、少し考えてから返答する。
「オレとしては、この北の大陸を旅するのに不自由が無いようにして貰いたい。
そもそも人間のオレが、魔族の国で真っ当な扱いを受けられるとは思えないしな」
そんなオレの発言に、モロンギさんは否定を返して来た。
「いや、我々魔族の国は、人種差別をするような決まりは無い。
個人では魔族至上主義を掲げる者も居るが、そもそも500年ほども他種族と交流が無かったのだ。実質無意味な思想だった。
それに、成り立ちからして創造神や人間たちの干渉を受けると覚悟していた為、種族が別だからと差別をしたり、無意味な区別をして貶めるようなことはそもそも法で禁止している。
とまあ、そう説明した所で簡単には安心出来ないか」
思想としては先進的だ。人間の国家にも見習って貰いたいくらいだと言えよう。
恐らく魔族を虐げていた過去を知る人間たちは、もし今魔族と出会ったら、かなりの割合で彼ら魔族を下に見るだろう。
それを想定している魔族は、それだけ賢い存在だとオレには思われた。
「いや、それならそれで嬉しい誤算だ。オレとしては気楽に旅をしたいだけだからな。
後は、降り掛かる火の粉を振り払ったとしても問題無いだけの保証をしてくれれば、助かるんだが」
「ふむ……。そうなると、バトル・ライセンスをランクAで発行するのが一番か?」
「バトル・ライセンス?」
「ああ、人間たちの国では少し違った形だったか。確か、傭兵やハンターの所属するギルドでのランク付けに近かったはずだ。
ランクはABCの3つのみで、Cは新兵から一般兵、Bは熟練兵から達人未満、Aは達人以上となっている。割合は、Cが7割弱、Bが3割強で、Aは全体の1%に満たない。
そしてランクAともなれば、様々な優遇措置が得られる。例え人間であっても、それは変わらない。法でそう守られているからな。
ちなみにバトル・ライセンスの取得法だが、魔族は単純な戦闘力を重視していてな。ライセンスの判定者にその力を認められれば、実績が無くてもAやBの認定を受けられる仕組みになっている」
区分けは大雑把だけど、合理的ではある。それに―――
「つまり、オレがそのライセンス判定者の前で力を示せば、バトル・ライセンスってのを発行してくれるんだな?」
「その通りだ。付け加えるなら、ライセンスの判定者は10人以上で立ち会うことが義務付けられている。
駐留大隊の中にも判定の資格を持つ者が何人か居るし、このバジンニアの街に住んでいる有資格者のほとんどは知り合いだ。
今から声を掛けても、夕方までに10人集められるだろう。
場所は、兵舎の近くの練兵所でどうだ? 認定され次第、その場でライセンスは発行出来るぞ」
やや悪乗りしている雰囲気のあるモロンギさんの申し出は、こちらとしても願っても無いことだ。
すぐに了承し、バトル・ライセンスのランク判定をして貰う事にした。
夕刻。
バジンニアの街中、上空100メートルから放たれた【巨岩大砲】は、時速7,000kmもの速度で外壁を越え、丘の裾野へとぶち当たった。
重量13トンもの石弾は、砕け散りながら土砂を巻き上げ、地形を変えたのだった。
「「は……?」」
「「……え?」」
「なん……だと……!」
バジンニア方面軍の中隊長モロンギによって急遽集められた面々は、その光景に己の目を疑いながら、唖然としていた。
しかし10分後には満場一致で、ランクAのバトル・ライセンス発行がされたのだった。
一旦ウェントの屋敷へ戻り、戒たちと情報共有。【瞬間移動】の為の目印は、いつもの通りだ。
しかし旅の途中で自宅に戻って寝るのも味気ないと判断し、北の大陸のバジンニアの街へ戻り、紹介された宿へと泊まることにした。食事は普通に美味かったし、サービスもまずまずだ。
翌朝、モロンギさんに頼んでおいた金塊10kgの換金を受け取り、その中から宿代を支払う。これでとりあえず、活動資金には不足が無い状態になった。
だが北の大陸の紙幣と硬貨を受け取った際、大隊の作戦参謀とか言うお偉いさんから、半ば無理矢理に話を聞かされてしまう。
「いきなりで申し訳ありませんが、バトル・ライセンスのランクAを発行した以上、依頼をしない訳には参りませんので……。
現在、東ヒロント国では第八州のコルメニシア付近で、魔物の大発生を確認。
戦力を集結して対処してますが、拮抗状態です。
これを打破する為、国内で余裕のあるランクAのライセンス保持者は、討伐軍に参加して欲しいとのこと。
宜しいですか?」
全然宜しくありません。
つーかどこよ?
エイス・ブロック? 東ヒロント国? 場所がまず分からんて。
「地図はこちらになります。
北の大陸の南東にあるのが我が国、東ヒロント国です。
第八州は国の北西に位置します。
コルメニシアの街はその州の真ん中よりやや南東にあり、魔物はその北西方面から襲来して来てます」
ほうほう、なかなかの精度の地図ぢゃないか。
ミドリから聞いた情報を元に描いた北大陸予想図と、大差ない。伊能忠敬が江戸時代に描いた日本地図の正確性に、迫っている気がする。
「一週間ほど前の情報では、魔物の進軍は一応止められたものの、殲滅や押し返すまでには至らずとのこと。
ここからコルメニシアまでは、魔鉄道で三日ほど。コルメニシアから現地の軍集合地点まで20kmほどは、悪路の為に徒歩などで向かっていただくことになります」
魔鉄道ってなんじゃらホイ。
え? 魔力で動く列車を、鉄のレール上で運行している?
随分と文明が進んじゃって、まあ。
ううむ、500年も絶え間なく研鑽を積んでいれば、これくらいの発展はあり得るか。人間たちは、その力を別のベクトルに向けちゃったんだね。戦争とか、身内での闘争とか。愚か過ぎて涙も出ない。
でもそうなると、自動車みたいなのもありそうだけど……。
「馬無しで時速20kmほどの走行が出来る車はありますよ。
ただ、価格が高く数がありませんし、急な勾配も登れません。
開拓され整備された地域で無ければ、今でも馬の方が融通が利くのは仕方ないでしょう。
しかし、そう言った馬や魔車は、戦闘区域ではほとんど軍が押さえてます。個人で利用するのは厳しいでしょう。
ランクAだと明示して求めれば、優先的に迎えを寄越されるとは思いますが……待つ時間を考えると、大きな差は無いでしょうね」
何故かスカートの軍服で足を頻繁に組み替え、大きめのバストを自然に強調する作戦参謀のお姉さん。動きに合わせて、良い匂いが漂って来る。多分香水だろう。
デザイン性の高い軍服に身を包んでいるが、肉感的な身体を隠し切れず、身体の線が強調されてしまっていた。
ミドリから伝え聞いた情報では、魔族と人間は遺伝子的に交わり合えないほど差異が生まれてしまっているんだっけか。これだけ刺激されているのに何故かオレの食指が動かないのも、それが原因か。ピクリとも来ない。
「それで……ミツル殿は、討伐軍に参加していただけますか? 今から2時間ほどで魔鉄道がバジンニアを出発しますので、乗り遅れないようにお願いしたいのですが」
「三日かぁ。魔鉄道って、時速どれくらいなんだ?」
「はい? ……ええと、そうですね。時速ですと40kmから50kmでしょうか。
地方の町や村では、鉄道が敷かれて無かったり、本数が少なかったりしますが、高速馬車の2倍以上の速度ですからね。これを利用しないことは考えられません」
「そっか、時速50kmくらいなのか。それじゃオレは、飛んで行くわ」
「飛……ぶ……!?」
作戦参謀のお姉さんは怪訝な顔をするも、すぐに合点が行った風になる。
「そう言うことでしたら、向こうのコルメニシア軍部宛てに、通達文をしたためましょう。
ミツル殿が即日現地へ到着しても、便宜を図って貰えるような内容にしますね」
そう言ってこちらに笑みを浮かべる様は、出来る大人の女性を感じさせた。
所持現金:1億8650万円相当(西大陸)+218万円(バルバル島)+2498万円相当(北大陸)+Gold 11,286kg
+(24億円+80億円)相当のファフレーン小金貨(予定)




