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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
間章:忘れ去られた島
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081 遠距離通信はじめました


 この島の最高司法権限持ちにアークドイ・フォールナーを断罪して貰ってから、奴隷として買い取ったナナルート・ゴルダストを解放することにした。

 元々買い取った時点で、奴隷の身分からは解き放つつもりだった。これ自体は既定路線だ。

 想定外だったのは、ナナルート自身が泣き出してしまったことだ。往来のある道の一角で、オレが魔力を流して外した『奴隷の首輪』を両手で持ち、さめざめと泣く彼女。

 どう対応すべきか困って、オレはオロオロとしていた。


「……ひっく……ぐすっ……。私は……あるじの奴隷失格ですか?」


 いや、そんなことは無い。

 強いて問題点を言えば、オレが現代地球で育った為に、奴隷に忌避感を持つと言う点だろうか。それもこの異世界に来てから、大分薄れている。


「そう言う訳じゃ無いんだが……。その、だな……。何と言うか……説明するから、ちょっとこっちへ来い」


 少し乱暴だが、ナナルートの手を引っ張って手近な場所を探す。

 飲食店は開放的な所ばかりで、個室があるようなのは見当たらない。もっと高級な店ならば、あるのだろうが。

 ともあれ、不特定多数に聞かれたい話じゃないので、この付近では話せない、話し難い。

 少し歩いて裏道に入った所で目に入ったのは、一晩幾らの宿屋。否、御休憩的な使い方をする即席ホテルだ。

 数秒迷ったが、諦めてナナルートと共に宿屋へと入る。扉をくぐる際に、彼女の耳が真っ赤になった点は付け加えておく。


「『秘密の話をしようじゃないか。他の人には聞かれぬように。SoundBlock【音声遮断】』」


 部屋に入ってから、【音声遮断】の魔法を発動させた。これでこの部屋では大声で話しても、外には聞こえない。

 基本効果時間は1分しかないので、大幅に延長して問題無いようにしてある。チートな魔力量万歳。


「あ、あのっ、あるじ……様? こ、こう言うことは、もっと段階を踏むべきカカカカトぉ!」


 どうやらテンパって、勘違いしてしまっているようだ。

 上気している表情と銀髪が相まって、綺麗だなと思う。彼女の両肩に手を置いて、顔を近づけて囁くように言った。


「落ち着いて聞いてくれ。ここへ来たのは、話をする為だ。オレの事情を伝えておきたい」

「……へ?」


 彼女の目から光が消え、雰囲気が一気に冷え込んだ。


「そ、そうですよね。私なんて、大勢の無法者になぶられた、薄汚い敗者です。あるじの寵愛を受けることが出来るなんて、考えることすら烏滸おこがましい。申し訳ありませんでした。何なりと御命令して下さい。既に奴隷としての任を解かれた身ではありますが、命を賭して行います。死ねと仰るなら死にます。だからどうか、私を御捨てにならないで下さい」


 え、何? いきなり病みモードになってる?

 何か選択肢間違えたか?


「と、とにかく、聞いてくれ。オレは、オレたちは、ある国の宮廷魔術師によって、異世界から連れて来られたんだ」


 所々端折りながら、こちらの世界の人間にもなるべく分かるようにと考えながら、これまでのことを説明して行く。

 全てを話し終える頃には、彼女の表情にも柔らかさが若干戻り、ホッと一息つけるようになった。


「そんな訳で、オレは魔族たちがいるらしい北の大陸へと渡るつもりだが、それにナナルートは同伴出来ない。

 だから、この島で暮らして貰おうと思うんだが、オレ個人として奴隷は好みじゃないからな。解放させて貰った。

 と言うことなんだが、お分かりいただけただろうか?」


 どこぞの心霊番組っぽい言葉で締める。


「は、はぁ。……突飛も無い話過ぎて、ちょっと消化仕切れないと言うか……」

「ああ、そうだ。生活に必要な金銭は用意する。と言っても、西の大陸の硬貨は使えないだろうから、純金のインゴットで渡すことになるけどな」


 『アイテムボックス』を開き、中から10kgの金の延べ棒を幾つも取り出して見せる。

 彼女の目の色が一瞬変わったが、すぐに元に戻ったので多分気のせいだろう。


「それで……私に何を求めているのですか?」


 ちょっと艶やかに、ナナルートが問うてくる。二人してベッドの上に座って居るが、姿勢を少し崩した格好は、ちょっぴり色っぽい。


「出来れば、だが。オレに協力して欲しい。

 大陸と大陸の間にある大きな島と言うことで、今後海運などの中継地点になる可能性がある。

 人口も、思っていたよりも居たからな。内部に協力者を作っておくことは、何かと融通が利くと考えている。

 勿論、これを断ってくれても良い。当座の生活費用分くらいは渡すよ。

 焦らなくて良い、じっくり考えて結論を出してくれ。

 と言っても、オレ自身、そんな悠長にここへ逗留する訳でも無いから、早い方が嬉しいけどな」


 ベッドへと身を投げ出し、頭の後ろで両手を組んで、目をつむる。

 寝具に使われているだろう干し草の匂いが、鼻腔をくすぐった。


「そう、ですか……。あの、協力するのは良いんですが、条件があります」


 寝っ転がったオレに、にじり寄って来る彼女。

 耳元で囁くようにして、オレの上へと覆い被さって来た。


「お、おい? 一体どうし……ナナルートさん?」


 吃驚して目を開けると、潤んだ瞳でこちらを覗き込むようにしている彼女の姿があった。


「条件と言うのはですね……」




 結論から言うと、ナナルート=サンを抱くことになった。

 しかも【再生】でとある部分を復元してからのプレイと言う、何と言うべきか上級者な行いだった。これはオレの趣味では無く、彼女からのリクエストだ。まあ、あんな事件の被害者だし、心理的傷害もあるだろうから、なるべく叶えてあげたオレは悪くない。これは医療行為なんだ、間違いない。

 協力の件については、オレに心酔してくれているようなので心配はないんだが、逆に行き過ぎてしまいそうな危うさがある。

 それでも色々と話し合って、オレの持つ純金を元手に、金貸しと傭兵・用心棒などの警護を主軸に、人材を発掘して行くと言うことになった。


「それでは、手足の不遇者なども視野に入れて、初動に必要な人材を見繕って来ますね」


 オレがスエズエの自宅へと戻る間、彼女には自由に動いて貰うことになった。

 手持ちのバルバル島の金銭の大部分と、純金30kgを渡してある。拠点用の邸宅と人員、戦闘員などを都合するつもりのようだ。


「無理はしないで良いぞ?」

「大丈夫です。……愛してますから」


 うん。……うん?

 話の脈絡が繋がらないって、怖い。

 でもまあ、美人だし。構わないかなと思ってしまうのは悲しい男のさがか。

 ともかく、【瞬間移動】でウェントの街へと戻った。




 バルバル島とスエズエ共和国との間には、時差が6時間ほどある。

 うん、考え無しに跳んだ。後悔先に立たず。

 向こうを出たのが夜。屋敷に着いたのは明け方の少し前。

 誰も起きていないんだから、出迎えがある訳が無い。


「ちょっと困った。迂闊だったなぁ」


 独り言を溢しながら、なるべく静かに屋敷の中を移動する。眠っているのをわざわざ起こす必要は無い。

 時間が早いが、早朝ランニングをしよう。いつもより多めの訓練を行うのも、たまには良い。

 まだ夜闇の濃い暁の中、オレはウェントの街中を走り始めた。




 通常時の3倍近い訓練を終えた頃には、屋敷の中も活発に動き始めていた。

 素振りをしていた槍を『アイテムボックス』に仕舞い、背後で控えていた戒に話し掛ける。


「そろそろ、朝食は出来てるかな?」

「お帰りなさいまし。食堂へ着く頃には、出来上がっているかと」


 うむ、相変わらず手回しが宜しい。さすがに執事っぽさを追求しているだけある。

 そのうち執事レベルとか上がるんじゃないか? どっかの使徒みたいな、物理法則を無視するようなのは無理だろうけど。

 出来立ての朝食をお代わりしつつ腹に収め、戒や草薙さんたちと情報共有を済ませる。

 ナナルート・ゴルダストの件についても、ヤンデレ疑惑も含めてきちんと話してある。


「ふむ。ミツルのシンパが増えたことは、喜ばしいですね」

「その言い方、なんかヤだ」


 眉をひそめ、抗議をする。

 だが残念。戒には効果が無かった。


「そんなことより、これから活動が広がるに連れ、互いに連絡が出来ないと困った事態が発生しても助けられないですよねぇ」

「あれ? でも以前、モルティナさんに魔道具作成を依頼してませんでしたか?」


 草薙さんが何かを思い出したかのように言って来た。


「そうでしたっけ? 生憎、無線通信の方はまだ技術を再現出来てません。

 短波での通信なら、電離層があるお陰で長距離通信も簡単に行えるようですが……。

 適宜、機能の一部を魔道具に置き換えたとしても、やはり真空管くらいは作れないと……」


 戒の受け売りになるが、無線通信と言うのは扱う電波の種類によって性質が変わる。

 小型低出力の個人用だと数百mから数km、テレビなどだと数百kmが精々だが、大気に電離層があれば、短波で惑星の裏側まで通信出来たりする。

 尤も、それなりに高いエネルギー出力を求められるので、お手軽にとは行かない。


「無線通信は早々腐らない技術だろうから、頑張って開発を進めていてくれ。

 モルティナには、何とか出来ないかの相談と、魔道具制作の進捗を聞いて来るよ」


 そう言って、フルーツ牛乳を一息に飲み干し、出掛ける準備を始める。

 メイド姿のポリナが、オレの口元をハンカチで拭いて来る。どうやら、牛乳で髭が出来ていたようだ。


「……他の女のニオイがする」


 ふぁっ!?

 唐突なその言葉に、オレは一瞬硬直した。

 と言うか、運動後にシャワーを浴びてあるんで、臭いは洗い流せてるハズだ。解せぬ。


「ミツルさんは私が先に唾を付けたのに。一体どこの泥棒猫かしら……」


 危険な雰囲気を放ち始めたポリナの頭頂に、オレはチョップを叩き込む。


「いたっ!」

「そもそも、オレが誰と何をしようが、オレの勝手だろうが。勘違いするな!」


 そのまま身を翻して、屋敷を出て行こうとする。


「こ、これが! 世に言う、ツンデレって奴ですね! 『か、勘違いしないでよ! お前の所有物なんかじゃ無いんだからねっ』ですか! ムッハー!

 つまり、『もうとっくにオレはお前のモノなんだから、心配しないで待っていろ』って意味ですね! 分かりました!」


 何だか背後で、盛大な勘違いをされているようだが……オレは知らん。

 心の中でツッコミを入れることすら億劫に感じながら、オレは屋敷から出掛けたのだった。




 魔道具技師のモルティナ・ペンペナルドは、借りた工場こうばの一室にいた。

 他の魔道具技師も三人雇い、モルティナがそれを統括する形になっている。

 入室してしばらく観察していたが、こちらに気付く様子はない。その為、近寄って声を掛けることにした。


「よっ、モルティナ。元気か?」

「ひゃっ!?」


 椅子から飛び上がるように跳ねるモルティナ。

 こちらに顔を向けると、いきなり罵声を浴びせて来た。


「ミツルさん! もー、要望出すだけ出して、音沙汰無しとか酷いですよぉ」

「スマン、スマン。こっちも忙しくてな」

「それより、聞いて下さい! 魔道具作りでお金に困ることは無くなったんですけど、自分の作りたい物が作れないんですよ!

 もっとこう、生活に必要ではないけれど、無駄に綺麗だったり、心安らぐような、そんな風なガラクタを、私は作りたい」


 真面目な顔して、何を言ってるんだ。

 そんなガラクタ作ってたから生活に困ってたんだろ。まともな製品を作っていれば、少なくとも食うには困らない職だ。

 そして、オレたちの発案する魔道具を作っていれば、かなりの額が支払われる。

 特に付与する魔法をオレが込める必要がある『遅延箱スロウボックス』みたいなのは、大金が稼げるからな。ウハウハだ。


「それで、優先的に作って貰いたいのが出来たから、それを言いに来たのと、進捗を確認しに来た」

「へー、珍しいですねぇ。あ、そうだ。ムセン通信?とか言うのは当分出来そうもありませんけど、その代わりの信号シグナル送受信は出来ましたよぉ。

 へへ~、褒めて下さい。頭撫でても良いですよ?」


 と、オレの方に頭を向けて来たので、要望通り撫でてあげる。なでりこなでりん。

 良い大人がと言うなかれ。これはこれでコミュニケーションだ。


「ん? 信号シグナル送受信? 一体どんな魔道具なんだ?」

「あれぇ、説明してませんでしたっけ?

 何かあったことを、離れた相手側に知らせる為の魔道具ですよ。

 既存では、つがいの指輪なんてのがありますね。あれは片方を壊すと、もう片方も壊れる、と言う代物ですけど。

 送信側が、魔石をこの部分か、もう一つのこっちの部分に嵌めると、特定共振部品のα(アルファ)ちゃんが振動します。

 で、受信側は特定共振部品のβ(ベータ)君が振動するんで、それを感知してこの部分が黄色く光るか、赤く光るかします。

 戒さんの仕様書には、黄色の場合は『喫緊ではないものの、異常あり』となっていて、赤の場合は『緊急事態』となってますね。

 送信側は一瞬だけ振動すれば良いんで、魔力量が入っていれば1等級のクズ魔石でも起動します。

 逆に受信側は、常に振動の有無をチェックしないといけないんで、微量ながら常時魔力を消費します。とは言っても、6等級の安い魔石でも1ヶ月以上持ちますから、大きな負担にはならないですね。

 むしろ、この魔道具を見張る人員の方が、経費が掛かるかと。

 どうですか。求められた性能を全て実装した上で、かなりコストは低く仕上げました! 特別ボーナスを出してくれても良いんですよ~」


 これは……素晴らしい。

 オレが今必要としていた代物じゃないか!


「ちなみに、距離は?」

「距離? ……あー、動作距離ですかぁ。

 うーん、どうかなぁ。理論的には、魔素が存在する空間で繋がっていれば、制限は無いですねぇ」


 なん……だと……?

 この世界なら無制限ってことか。

 残念ながらこの世界は一つの太陽系しかないらしいが、もし銀河とかある宇宙なら数百光年だろうと物ともしない、と言うことか?

 魔法、パナイな。あっさり恒星間通信を実現出来るなんて。多分だけど。


「そいつは凄い。特別報酬を小金貨100枚出そうじゃないか」


 オレのその言葉を聞いて、魔道具工房の他の面子も集まって来て、喜びの声を上げることになった。

 試作品のそれは、30個の送信ブレスレットと、それらの信号を受信する機能を集めた受信一覧ボードだ。受信ボードは、ちょっと大きい焼肉プレートくらいある。

 試運転はしなきゃいけないが、まともにこれが動くなら、何かあったと言う連絡が取り易くなる。

 受信ボードを置くのは、順当に戒の管理下だろう。そこへオレが定期的に訪れれば、対処が出来るようになる。

 限定的ではあるものの、一気に危機管理が容易くなる魔道具が手に入り、少し心が躍る気がした。






所持現金:1億8650万円相当(西大陸)+222万円(バルバル島)+Gold 10,786kg

+(24億円+80億円)相当のファフレーン小金貨(予定)


SoundBlock【音声遮断】 『秘密の話をしようじゃないか。他の人には聞かれぬように/音を漏らさぬ空気の壁よ、我が身を覆え』

風魔法4 消費12~ 効果範囲内で発生した音を、その外側へは漏らさないようにする。基本消費で半径1m、効果時間1分。消費21で半径8m。効果範囲は、最大範囲内であれば発動時に任意の形状へ融通出来る。魔法名に音声と付けているが、物音でも可。真夜中の閑静な住宅街でも、音量の大きい楽器の練習が出来る。



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