表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
間章:忘れ去られた島
78/114

076 バルバル島


 翌日11月11日。大陸西端のバ・ジャン皇国の、南側の街ドルフから再び旅立ち、飛行で北上して幾つかの街を通り過ぎた。

 目指すのは首都の更に先にある、ガルガイテスと言う街。そこが一番、北の大陸との間にある大きな島までの距離が短い場所だ。ミドリの提供してくれる大雑把な情報で知ることが出来た。

 とは言え、直線距離でも1,000km弱もある。比較すると、沖縄と鹿児島の間よりも遠い。この世界の船は、陸地から沖合に40kmも離れたら不安になる航海性能しかないので、渡航は厳しそうだ。


「あん? あっちの方にある島へ行きたい?

 馬鹿言っちゃいけない。基本的に船ってのは、海岸沿いを行くものだ。見えないほど遠い場所にある島なんて、行ける訳が無い。

 他の漁船や商船だって同じだ。諦めな。

 そもそも、そんな島の情報、どうやって知ったんだ?」


 ガルガイテスの港で、魚網ぎょもうつくろいをしている漁師の一人に聞いてみたら、こんな答えが返って来た。

 これだけでは仕方ないので、もう少し聞き込みを続けてみると、老齢で引退した漁師のお爺さんからこんな話が聞けた。


「何? あの海の向こうへ行きたいとな?

 そう言えば、昔々この港から、別の大陸を目指して大船団が向かったことがあったそうな。

 何でも、100を超える船の数で、新天地を目指したそうじゃ。

 ……どうなったかって? なーんも。音沙汰無しじゃよ。一つの船に少なくとも20人、多いと100人近く乗り込んでいたらしいからのぉ。話によると、5,000人あまりの人間が消息を絶ったらしい。

 以来、外洋へと向かうことは無謀とされておる。禁止はされておらんから、数年に一度目指す奴がおるが、消息が知れるのは途中で引き返した者だけ。

 お主も辞めておくんじゃな。無駄死にするだけじゃて」


 うーん、昔っていつ頃なんだろうな。

 それと、なんで100以上の船団で向かったんだろう? 調査なら少数で十分じゃないか。何だか疑問の多い話だった。




 まあ、そんな無駄になった聞き込みは忘れ、岬から飛行の魔法を使い、飛び上がる。

 まずは上空へ向けて高度を稼いだ。1,000メートルほどの高さにもなれば、視界は100kmほどにもなる。平地の20倍くらいだ。

 更に上昇し、高度3,000メートルでは視界は200kmに達する。これでも目的の島は見えない。この高さになると、呼吸が苦しくなって来る。高山病になっても面倒なので、少し高さを抑える。

 仕方ないので、当初の予定通り北西へと高速で飛翔。ミドリの情報通りなら、時速460kmでも2時間しないうちに見えて来る筈だ。

 大きな海原を眼下に、一人大空を行くことになった。




「さすがに、少し心細いな」


 寄るも無い、大洋の上空で一人切り。掴む物も無い、立つべき大地も存在しない。

 いざとなれば空間魔法の【瞬間移動】で帰れるが、人間の本能的なものなのか、大海原の真ん中では不安が心をぎる。

 うーむ、そんなに豆腐メンタルなつもりは無かったんだが、大自然の前では所詮ちっぽけな人間と言うことか。

 そんな物思いにふけりながら、腕を組みつつ空を飛び続ける。


 大して変わり映えのしない景色に飽き、飛翔の速度を時速460kmから1,800kmへとシフトアップしたことで、30分もしないうちに陸地が見えて来た。

 無意識にホッと一息を吐く。

 何だかんだで、オレも陸地に生きる生物なんだなと実感する。

 さて、この後どうするかだが―――




 海岸線に沿って島を見て行くことにした。

 ミドリの情報では、日本の本州の2倍以上の面積がありそうな、大きな島だ。

 しばらくは人工物が見られず、たまに魔物などが視界に入って来たが、速度を落として小1時間ほど海岸を巡った頃、街とその外壁が見えて来た。どうやら人がいるようだ。

 しかし、大陸の人間たちと交流があるようには思えない。話を聞く限り、少なくとも西の大陸の人間とは交流が無さそうだ。気を付けて様子を探ってみよう。

 門番の兵士はオレが門を通る際に、視線を向けて来るだけだった。飛行は当然、解除してある。

 壁自体は5メートル強ほどの高さがあり、なかなかしっかりした作りだ。

 何はともあれ、街の中心部へと向かう。

 途中に人と擦れ違うが、特に変わった点は無い。話している言葉も、若干の訛りがあるようだが、十分通じる程度。

 露店が幾つかあったので観察してみると、扱う商品自体に西の大陸との差異は見られない。貨幣は今までもあったように、この国独自のモノだろう。銅貨と銀貨の大小が見受けられた。

 烏賊の塩焼きが売ってたので、大銅貨を出して買ってみる。


「あいよ! ……って、これ見たことの無い銅貨だな。まあ、銅貨なら大丈夫だろうけど」


 やばっ、不審に思われたらしい。

 店主が首を捻りながら、オレが渡した銅貨を露店の銭入れへと放り込んだ。

 今のは深く考えない人だったからスルーされたが、オレが使った銅貨は西の大陸ウェスティンでは珍しくもない物。そこと交流が一切無いのならば、その銅貨に触れたこの島の人間は、その流通経路に疑問を持つことだろう。

 封鎖された環境だからこそ起きるその波及を思い、悩む。

 住んでいる人々は、どうやら普通の人間のようだ。魔族では無い。ドワーフやエルフも見掛けない。

 ―――どう行動すべきかしばらく考えた末、オレはこの街で一番立派な館へと足を向けた。




「頼もう!」


 緊張感の薄いオレの声が、立派な館の門の前で響く。


何奴なにやつ!?」


 門番の片割れが、オレの素性を問い質して来た。


「この街の御領主に御目通り願いたい。オレは、海の向こうの大陸ウェスティンからやって来た者だ」

「何? 海の向こう?」


 半信半疑の兵士が、オウム返しにこちらの言葉を繰り返して来た。


「証拠となるかは分からないが、西の大陸ウェスティンで流通している硬貨を、幾つか渡す」


 用意しておいた革の小袋に、大小の銅貨・銀貨を2,3個ずつ入れ、門番の一人へ渡した。


「ふむ、確かに見慣れぬ貨幣だ。しばし待たれよ」

「提督殿に御報告するのか? 悪戯かも知れんぞ」

「そうかも知れないが、そうで無いかも知れん。わざわざ独自の貨幣を作ってまで狂言を働くと言うのなら、逆に興味が出るじゃないか」

「ううむ。まあ、そうかもな。詰所へ寄って、代わりの見張りを頼めよ」

「あいよ」


 二人の門番のうち一人が、館の中へと入って行った。

 どうやら嘘の類いだと決めつけられた訳では無いようだ。






 立派な応接室に通され、オレは待たされていた。

 お茶と菓子は出て来たので口を付ける。赤くて酸味のあるお茶と、香ばしい焼き菓子にジャムを乗せて食べるのが流儀のようだ。そこそこイケる。

 トントントン。応接室の扉が軽く三度叩かれ、間を置かずに開かれた。

 立派な服装をした恰幅の良い男性が入って来る。傍に護衛の兵も居た。

 失礼にならないよう、席を立って待つことにする。


「君が、海の向こうから来たと言う使者かね?」


 オレの対面にドカリと座り、やや短めの錫杖に両手を重ねて問うてくる。


「海の向こうから来たのは確かですが、使者では無いですね。……座っても?」


 相手がてのひらを向けて、了承の意を示して来た、と思う。違っても分からんけど、とりあえず座ってみた。咎められなかったので間違いではないようだ。


「見た所、君は魔族では無いようだ。人の住まう大陸からやって来たのか?」

「ええ、そうですね。魔族には会ってみたいとは思いますが、その途中でここに寄ったもので」

「ここに寄った?」


 片眉を上げ、疑問を感じた様子を露わにする。


「ところで……貴方はこの街の領主様、で良いんですよね?」

「領主、か。まあ、その類の地位ではあるな」

「門番には『提督』などと呼ばれてましたが、別なんですか?」


 給仕きゅうじ係に茶の追加を命令し、口髭を撫でながらジャムたっぷりの焼き菓子を頬張る領主。乗せられる板の部分が1にジャムが9だ。胸焼けしそう。


「本来は違うのだろうがな。この街の、いや『この島』の成り立ちの特殊性故に、『提督』の地位にある」


 少し古い話になるが、と断られた上で話をされた。

 要約すると、500年ほど前に北の大陸へと向かった魔族が居るが、一部の人間が船でこれを追い掛けた所、航海途中で人間の過半数が脱落。辛うじてこの島へと辿り着いたが、先に補給基地として島を開拓していた魔族に、追跡を辞めるよう説得され、これを受諾。

 残った船も、もう一度同じ場所を引き返す航海に、耐えられるような状態ではなかった為、船を降りて島で生きて行くことを決定する。

 以後、当時以上の船舶が作れるようになるまで、大洋を渡ることは禁止されることになったとか。

 その頃、一番偉いのは艦隊を率いていた『提督』だったので、以降一番偉い人物、王か領主と呼ばれるべき人間はこれを踏襲することになった。


「改めて自己紹介しよう。このバルバル島の総督にして『提督』の、ジャモンジャ七世。ジャモンジャ・オゥ・ユックリー・バルバルだ」


 言われてみれば、海軍の軍服に近いような気がしないでもない。飾緒しょくちょと呼ばれる飾りの紐が、良いアクセントになっていた。


「常に軍服を身に着け、常在戦場の気構えと言う訳ですか。感服します。それとその服、格好良いですね」

「お。分かるぅ? 分かっちゃう~? いやー、参ったなぁ。この服の格好良さが、分かっちゃうかぁ」


 ニヨニヨして凄く嬉しそうに、服を見せびらかしながら聞いて来る。

 それから30分ほど、服について語り合うことになってしまった。




「提督。そろそろ御時間が……」


 補佐官らしき人物が部屋に現れ、いつまでも話しまくる提督に諫言をする。


「もうそんな時間か……。ミツルよ、楽しい時間であった。部屋を用意させるので、好きに使って良いぞ。期限は無い」


 喋りまくる合間に、そこそこの情報交換を行っていた。オレが傭兵・ハンターと呼ばれる類いの職種で、腕利きであること。一人で長距離を【瞬間移動】出来る、空間魔法の達人であること。飛行の魔法も使えることなど。

 かなり信じ難い話なので、半分以上信じていないようだったが、それはそれで良いみたいだった。度量の大きい人物であるのは間違いなさそうだ。

 提督の取り巻きの一人がオレの担当にされたので、そいつの後に付いて行って部屋を見せて貰った。


「ミツル殿、と言ったか。正直私は、貴殿を疑っている」


 用意された部屋は、狭くは無いが広過ぎもせず、2,3人が寝泊まりするには十分な程度だった。


「もし、提督を利用する為に近づいたと言うのならば、すぐに後悔することになるだろう」

「そんなことより、金塊を少し渡すから、交換でこの島の硬貨を用意してくれないか?」

「そんなこと、だと!?」


 おやおや、御立腹のようだ。

 けど、オレが『アイテムボックス』を使って10kgの金塊を取り出すのを見ると、大口を開けたまま呆けてしまった。


「どうした? 見慣れないか? 『アイテムボックス』の天恵は」

「……あ……あぁ……」


 どうやら、得体の知れない力を持っていると判断された模様。オレと相対しても、腰が引けてる状態になってしまった。


「そんなに、天恵を持つ者が珍しいか?」

「……いや、天恵自体はそれほどでも無い。だがそもそもの人口が少ないのもあって、『アイテムボックス』持ちは話に聞いたことがあるだけだった。少し戸惑っているのは確かだ」

「ふぅん」


 天恵は普通にあるみたいだ。


「加護についてはどうだ?」

「加護? ああ、何だか分からんが技能の習得が良くなる恩恵のことか」


 これを聞いて、500年前に大陸を離れたこの島の人間は、創造神や新しい世界神代理のことを知らないのだと、確信した。

 知らないのならそのままで良い。女神アン・サンへの信仰は少ない方が都合が良いしな。


「何か気になることでも?」

「いや、何でもない」

「……そうか。今宵は、貴殿の歓待の為、宴の席が設けられる。それまで、湯浴みをしてくつろがられたし」


 普通の旅人なら、かなりホコリまみれ何だろう。だが数時間しか飛行してないオレは、喫緊きっきんで汚れを落とす必要性は薄かった。

 まあ良い。

 手近な使用人に聞いて、庭先にオレ魔石を埋めさせて貰い、そのままウェントの屋敷へ一度戻って戒たちと情報共有をする。その際、バルバル島に宿泊する旨を伝えて、草薙さんにも料理を幾つか用意するよう頼んだ。

 一時間ほどしてバルバル島のユックリーの街、ジャモンジャの館へと戻り、湯浴みをすることを伝えて準備して貰った。




 公衆浴場みたいに広い風呂場から戻ると、オレの担当の人が硬貨を用意して部屋で待っていてくれた。


「10kgもの金塊を提供して貰って悪いが、用意出来た貨幣は少な目だ。スマナイ」


 確認してみると、小さめの金貨が80枚、大銀貨400枚、小銀貨400枚、大銅貨100枚、小銅貨100枚と言った所。10kgの金塊と交換にしては、少ないのは確かだ。価値で言うと1/4程度じゃないだろうか。


「実の所、そんなに必要になりそうでは無いんだけどな。まあ、用意してくれてアリガトさん」


 ぞんざいに労いの言葉を伝える。


「なっ!? 貴殿は理不尽を感じないのか!? 正味、半分以下の交換レートだぞ! 私が貴殿の立場なら、怒って金塊の返還を求めるか、苦情や嫌味を連ねるのが普通だろうに……」


 急に怒り始めたオレ担当の人は、尻すぼみになって言い淀んだ。


「まあ、商人や普通の人間なら、そんな態度が当たり前だろう。けど、オレは西の大陸から来た人間で、ここの硬貨は一切持っていない。だから、ある程度のボッタクリは勘定の内だ」

「……そうか。貴殿を疑っていたこと、失礼した」


 頭を下げて、謝罪して来る。


「それに、あの程度の金塊は、オレにとっては大したこと無いからな」

「……は?」


 『アイテムボックス』から同様の金塊を10本ほど出して見せると、顎が外れそうなほど口を開いて驚いていた。うむうむ、気持ちの良いリアクションだ。

 すぐに回収してベッドへと倒れ込み、宴の時間が来るのを待つことにした。




 宴が開始する少し前に、草薙さんの所へ寄って用意してくれた料理を貰って来た。

 宴の席ではこの島の料理を少し味わってから、草薙さんの作った料理を取り出させて貰った。ピッツァやフライドポテトに唐揚げの山盛り、ビーフステーキなど、ややファーストフードっぽい品揃えとなる。時間が無かったし、仕方ないね。寿司やあら汁、カレーライスなども出した所、ジャモンジャ提督に大層好評だった。


「いやぁ、大陸の方ではこれほどまでに食文化が発展しているとは! このジャモンジャ七世、欣幸きんこうの至りである!」


 まだ十分話し合っていないからか、齟齬があるようだ。


「こうなると、ミツル殿が腕利きだと言う話も、俄然真実味を帯びて来るな!」


 黄金色のウィスキーみたいな酒を飲み干し、ジャモンジャ提督が肩に手を回して来て親友の様に振る舞って来る。

 同じ酒を頼んで舐めてみた所、滅茶苦茶甘い蜂蜜酒だった。この人、甘党だ。


「実は、ここらの近海で最近困った事態が発生していてな。それの解決を、貴殿に頼みたい」


 聞くだけ聞いてみよう。面倒くさそうだったら、オレは断固として拒否する。ノーと言える日本人なのだ。






所持現金:2億650万円相当(西大陸)+2,482万円(バルバル島)+Gold 10,816kg

+(24億円+80億円)相当のファフレーン小金貨(予定)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ