071 モデルが繋ぐ縁結び
昨日まで、サーキュラス共和国の街ツネギにて、水不足だった所を魔法で手助けしていた。
端的に言うと、移住する気のある者に水を与え、尻を叩いて移動させるような方法だった。あのままだと水も食料も無くなって、悲惨な未来が待っている可能性が否定出来なかったから、仕方ないと言える。
最終的には領主の同意も辛うじて得られていたし、オレが4日も拘束されてしまった以外は被害は無いから良しとしよう。
「しかし、この世界って水資源が少なくないか?」
ウェントの屋敷にて、戒やミドリに対して疑問を零してみる。
「海水を含めれば、地球と然程違いは無い筈じゃが……」
「となると、淡水部分の利用可能な水が少ないのでしょうか」
難しい話は勘弁だが、これはいずれ考えないとイケナイ問題だろうなぁ。
「ツネギの街の川の水も、まともに浄水処理すればある程度使える水になるとは思うんですけど、そもそもの水の量が少ないですよね」
あのヘドロみたいな水を?
「元の水質がどんなであれ、科学的に浄水処理を行えば、飲めない水なんてそんなにありませんよ。凝集剤とか使って沈殿させて、濾過して消毒すれば、驚くほど変わります」
戒が言うなら、実際そうなんだろうな。日本の川の水だって、綺麗な所ばかりでは無いし。
しかし降水量自体が、この世界は地球より少なめな気がする。
「ふむ。……確かに、地球の平均より大分少ないのかも知れんのぉ」
何か考え込んでいたミドリが、情報を出して来た。
「となると、方法としては二つになるな。自然をどうにかするか、自分たちで調達するか」
「幾らミツルが多大な魔力量を持っているとしても、大自然をどうにか出来るとは思えませんね」
戒が辛辣な判断を下す。
「ちなみに、自然をどうにかする場合、どう言ったことを想定してるんだ?」
「大山脈を造成して雨を降らせるポイントを作ったり、大地を削って人工的な浅瀬にしたり、ですかね」
うぅむ、それは出来る気がしないな。精々が、壁や港を作ったりする程度だ。
「自分たちで調達する場合は、どんなのがある?」
「淡水ならば、基本的な浄水処理を行えば、利用可能な水にすることは出来るでしょうけど……ミドリの話では、そもそもの淡水自体が少なそうなんですよね」
鉄で出来た身体を持つミドリが、クネクネと身体を踊らせながら首を縦に振る。尻尾に触ろうとしたら叩かれた。ちょっと痛い。
「となると、海に近い場所で海水から水を得るくらいしか無いのか」
「地球でも、海水から真水を得る試みは行われてましたね。
古くからある蒸留、減圧蒸留が無難でしょう。圧力を通常大気圧の1/20以下にすると、人肌程度の温度でも沸騰して蒸発しますから、それを冷やして集めて真水を得る方法です。それでも、相応にエネルギーが必要となって燃料消費が激しいことが注意すべき点ですね。
他には、近年の逆浸透膜、通称RO膜でしょうか。水分子がようやく通れる程度の膜を利用して、圧力を掛けて海水から塩分の少なめな水を抽出します。こちらは燃料はそれほど必要ありませんが、逆浸透膜はある程度の速度で劣化しますので、設備経費は余計に掛かります。
逆浸透膜は、友人が研究対象にしていたので多少分かるのが幸いでしょう。要は酢酸セルロースを作れれば良いのですけど、天然高分子のセルロースを酢酸エステル化すれば良いだけですので、天然素材のセルロースと、酢酸・無水酢酸・硫酸などがあれば、可能ではありますね」
戒があれだけ、加圧器・減圧器に拘っていたのが、少し理解出来た。
何と言うか、色々近代的なことをやるのに、必須なんだな。
「天然素材のセルロースってのは?」
「溶解パルプやコットンリンター、要は木材を亜硫酸に溶かした物や綿の微小な繊維をイメージして貰えれば、間違いありません」
ふむふむ。何だか、この世界でもギャクシンなんちゃらとか言うのが出来そうな気がして来たゾ!
「戒、頑張れ!」
「え? ええぇ……。とりあえず、工業的にある程度発展させないと、まともに化学的な取り組みは出来ないですからね?」
ドワーフたちの助力もあるんだし、何とかなるさ。
その後、草薙さんや納豆係の鷹村順慶君、そして中学生凸凹三人組を交えて、今後の我が社の戦略構想を練ったりした。
醤油や味噌などの日持ちする調味料の販売、養鶏による卵や鶏肉の増産、酪農業拡大によるチーズ製造の強化など、これからが楽しみな展開になりそうだ。
ちなみに、ソーレンスニア王国のスニアでは、いつものように空間把握用のオレの魔力を入れた魔石を適当な広場の地面に仕込んで、【瞬間移動】出来るようにしてある。
空間魔法の【瞬間移動】系で移動出来る対象は、実はある程度制限がある。
端的に言えば、記憶容量を喰う。
例えば、オレの利用可能な記憶容量が100とする。自宅の寝室や玄関などは、このうち20くらいを占有する。あまり頻繁に引っ越したりするとこの中に入らないが、半年に一度くらいの頻度なら、重要度と時間的な近さと思い出補正で幾つかを対象に出来る。オレなら3つから5つと言った所か。地球の実家などは、世界が違うので流石に無理。
初期にオレが識別の為に使ったテントは、それぞれ特徴付けていたとは言え、容量を3~10くらい要する。使い慣れれば必要容量は減るみたいだ。
そして、最近良く使うオレ魔石の場合、容量は1程度しか必要としない。
つまり、オレ魔石でマーキングする手法なら、この世界に80ヶ所弱もの【瞬間移動】対象地点が作れる訳だ。
これはそもそもオレの容量が100ならと言う前提での話な訳だけど、テントを使っていた時に、12個くらいで詰め込み過ぎ・満タン・ギブアップな感覚があったので、そんなに的外れな数値では無い、はずである。
翌日10月26日。
毎朝の日課の運動の後、軽くシャワーを浴びて朝食を摂っていた際、戒が報告をして来た。
「少し、気になる情報が入ってます」
「うん?」
分厚いベーコンエッグをナイフとフォークで食べながら、先を促す。ステーキと勘違いしそうなほど分厚いベーコンに、新鮮な玉子が目玉焼きの形で半熟状態にて添えられており、焼き立てで香ばしい匂いのパンもどきと一緒に食べるととても美味しい。目玉焼きは1個なんてけち臭いことは無く、2,3個がデフォだ。
「しばらく前にファフレーンで発行した新金貨ですが、クォルノグ共和国のヴィアナの街を治める代表の息子が、欲しがっているようです」
戒が話しながら淹れてくれた紅茶を飲み、一息吐く。
「ふーん。別に良いんじゃないか?」
「ええ、まあ。ですが、ファフレーンの新金貨1枚(20万円相当)に対し、聖教会の小金貨1枚と大銀貨2枚(合計で24万円ほど)が交換レートのようです」
「ほーん」
なんじゃそりゃ。オレの手持ちにその新金貨は一杯あるから、冷やかしを兼ねて様子を見に行ってみるかな。
具体的に言うと、手持ちは4,000枚ほど。そろそろ新金貨以外の小金貨は無くなって来たので、世間に流通させる時期かも知らん。何となく使うのを後回しにしていた為に、オレの取り分で使用された新金貨はほとんど無い。
そんな訳で、クォルノグ共和国のヴィアナへ【瞬間移動】……は出来ないので、同じクォルノグ共和国のホークェンを経由して、飛行魔法で行くことにした。
以前みたいな、手荷物が無いから怪しまれる、なんてことが無いように、偽装した荷物を背負っている。
タオルケットや着替え、干し肉・焼き締めた黒パン、水・酒などである。20kg近くあって何気に重い。
ヴィアナの門番、御苦労さん。それじゃ、失礼すんべ。
「……おい、待て」
「へ?」
何かオレに用事?
「貴様、以前この街に入ろうとして逃げ出した、『アイテムボックス』保持者だろう!」
まさかコイツ……覚えていやがったのか!?
なんて面倒臭い、陰湿な奴め!
「いや、人違いじゃ無いかな?」
「んな訳あるかぁ! とぼけるんじゃねえ! 数ヶ月前とは言え、手荷物検査を前に逃げ出す奴なんて、数えるほどしか居ねーから、良く覚えてるぞォ! さあ、お縄に付けィ!」
執念深い奴だ。過去のことは水に流して忘れようぜ。
「『アイテムボックス』の中身ならこれから晒すから、それで我慢しないか?」
「ふん! 今回はどうやら大人しく取り調べを受けるつもりらしいな。だが! 変な真似をしたりしたら、牢屋に入れてやるからなッ」
へいへい。
とりあえず、擬装用の荷物を色々と『アイテムボックス』から取り出し、ファフレーンの新金貨も200枚ずつ袋に入れた状態で出してやった。
「これは……」
「ああ。ここのお偉いさんの息子が欲しがってるらしいから、持って来たんだ。けどなぁ、門番に言い掛かりを付けられたりすると、このまま帰りたくなって来るよなぁ」
「……少し、待っていろ」
どうやら少しは頭が働くようだ。事情を上層部へ伝えに、兵士の一人を向かわせたみたいだった。
「どうした? さっきまでの威勢の良さが無くなってるぞ」
「……俺だって、臨機応変に対応ぐらいは出来るさ。ムカつくが、貴様は重要人物扱いだ。この街の代表の御曹司が、その金貨に熱を上げてるからな。無下に出来ないのは仕方ない。我慢するさ」
「ほー、大人だねぇ。感心感心」
「要望があれば、茶の一つでも出すが?」
「んー、それじゃあ一杯、貰おうか」
その後、小一時間ほどして兵士が戻って来た頃には、オレとそいつはバックギャモンで打ち解けていた。
バックギャモンってのは、簡単に言えばサイコロを振って駒を動かす、二人でやる双六みたいなもんだ。手軽なゲームとしては秀逸な面白さを持っていると言える。
卓上ゲームならトランプを使ったカードゲームが一番だろうが、均一なカードを作る印刷技術はこの世界では未成熟だ。手擦りで作るにしても、難易度が高い。
その点、この系統は遊戯板や道具を作るのが楽だ。多少ベコベコでも問題無い。囲碁や将棋もあるけど、あっちはあんまり得意じゃないし。麻雀も牌の形を揃えなきゃいけないしなぁ。
サイコロを使うので運が絡むのも初心者に優しい。勿論、ベテランが初心者とやったら大抵ベテランが勝つが、10回に1回くらいは初心者でも勝てる可能性が残されてるのが大きい。
「報告! お客人は丁重に扱い、館へ案内すること。また、関税は今回特別に免除措置とすることを承りました!」
「だそうだけど?」
「上の命令だ。従うさ。それより、このバックギャモンとか言うゲーム、結構面白いな」
「オレの故郷のゲームだ。簡単に出来る割に奥が深く、運要素もあるから一時期流行ったらしい」
「……らしい?」
「あまりにも熱中し過ぎた奴等が多かったらしく、禁止された過去があってな」
「そいつは……まあ、何となく分かる。そうだ、館への案内は、俺が請け負おう」
そんな訳で、この兵士長に連れられて街の代表の住まう館へと向かった。
「やあやあ、貴方が例の金貨を持っているのですね?」
代表の御曹司は、肩まである銀髪を端で縛った、そこそこ顔が整った人物だった。身長も結構ある。180cmくらいだろう。
兵士長の後ろに居たオレを視認するや否や、駆け足で近寄って来て手を握り締めて来た。嫌な感じがしないのは、イケメンの特権だな。
「確かに持ってるけど、少し性急過ぎやしないか?」
オレが呆れたように言うと、初めて気付いた風に戸惑い、謝罪をして来た。
「これは、スミマセン。なにせ、求めてもなかなか手に入らなかったものですから」
「良いけどな」
改めて、応接室の席へと座らせて貰う。
すぐにメイドの手によってお茶と菓子が出て来たのは、流石だ。
お茶を一口飲み、菓子を一つ摘まむ。うむ、悪くない。
「それで、どうしてこのファフレーンの新金貨が欲しいんだ?」
「それは、その……」
御曹司が言い淀む。何だよ、気になるじゃんか。
金の含有率か? いやでも、純金ではあるけど、1枚当たりの金の量は他の一般的な小金貨とほとんど変わらないはずだぞ。
「笑わないで欲しいのですが、金貨にデザインされたモデルが気に入ってしまいまして」
えっと、確かメアリーが意匠されてたっけ。かなり美化されてるけど、まあ本人と言えなくもない。
「そう言えば、メアリーとは二ヶ月近く会ってないな」
「御存知なのですか!? と言うかお知り合いでございますでしょうか!?」
待て待て、落ち着け。敬語が酷いことになってるぞ。
「知り合いと言えば知り合いだな。魔物退治で一緒に行動したこともある」
「……ハ、ハンターなのですか!?」
「そうだ。そして、現在のファフレーン国王の三女でもある。末の娘だな」
「は? えっ、はぃ? 王族、なのですよね? それが、ハンター?」
普通はそうなるよな。とは言え、メアリーは妾の子だし、冷遇されてたからそんな境遇なんだよ。
「そうか、やはりファフレーンの……。しかし私では釣り合わないか。所詮一地方をまとめる一族の、次期族長。一国の王女には相応しく……」
何やらブツブツ言ってる。
「会いたいなら、会いに行けば良いんじゃないか? 伝手が無いなら、オレが仲介してやらんこともない」
「ほ、本当でございますか!?」
メアリーと年齢も近いし、上手く行けば本懐を遂げられるかも知れない。
「ただ、オレが持って来たファフレーンの小金貨は、どうするんだ?」
「そっ、それについては! 全力を以って買い取らせて……」
「んー。次期族長である程度権限はあるみたいだが、公金に手を付けるのは好ましくないぞ?」
オレが手を前に翳して発言を遮り、忠告をする。そんな不正を堂々とする奴に、うちのメアリーちゃんを会わせる訳には行きませんッ!
「……ハイ。確かに、そうですね。分かりました。私財で何とかなる範囲で買い取らせて貰います」
「これだけあるけど、どれくらい買えるかね?」
オレが『アイテムボックス』から金貨を20袋、合計4,000枚取り出すと、御曹司の貼り付いた笑顔が凍った。
その後、交渉により小金貨200枚(4,000万円相当)をお買い上げいただくことになった。聖教会の小金貨240枚と交換となったので、800万円ほどの利益を得られたことになる。うまうま。
「それじゃ、ファフレーンの国王とメアリー本人には話を通しておくから、使者を寄越すなりなんなりして訪問の段取りをするのはそっちでやれよ」
「ええ! 助かります! この御恩は一生忘れません!」
まあ、そうなるな。
もしこの話が上手く行ったら、結婚の仲人をしたようなものだ。
さて。これで好奇心を満たすと言う用事は済んだので、早速ファフレーン王国の王都へ【瞬間移動】し、話を付けておくことにする。
メアリーはやや挙動不審だったが、国王の方は喜んでいたから大丈夫だろう。
所持現金:8億3,730万円相当+Gold 10,846kg
+(28億円+80億円)相当のファフレーン小金貨(予定)




