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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第一章:始まり
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007 神の迷宮


 翌朝。

 いや、起きたらもう昼でした。


「よっ、良い日差しだな。昨日の成果は聞いた。良く頑張ってくれた」


 そうヤナさんが労ってくれるが、これだけは言いたい。


「昨晩、お楽しみ、でしたか」

「ぐはぁ!」


 ダメージを受けているようだ。うむ。

 しばらくピクピクと震えていたが、気を取り直したのだろう、真面目な表情でオレの方を向いて来た。


「君の、ミツルの『アイテムボックス』が5枠になったと言うことで、迷宮へ連れて行くことに、パーティ内に不満がある者は居なくなった」


 そうだよな。ただの荷物持ちなら、もっと少しでも役に立つような人を入れた方が、幾らか効率的だ。

 5種5枠のアイテムボックスだって、最大125kgの差が出るだけで、決して覆せないほどじゃない。草薙さんほどの収納なら、最大8,000kgもの差が生まれるから、そんな迷いは出ないんだろうけど。


「これは、ミツル自身が決めて欲しい。危険な『神の迷宮』への探索に、荷物持ちとして参加してくれるか、否か」

「今頃、言うこと、違うです。それに、奴隷の主人、命令すれば、良い、です」


 まだ短い付き合いだけど、ヤナさんは元貴族なのに、平民や奴隷に対して隔意が無いのが分かる。良い意味でも悪い意味でも差別が無い。だから奴隷と主人の関係なのに、こんなにも気安く接することが出来るのだろう。普通なら、こんな口を利いたら御仕置きモノだ。


「分かるだろ? ボクは命令するのが苦手だし、命に関わるようなことは自分の意思で決めて欲しいんだ」

「リーダー、なのに?」

「そう。リーダーなのに、だ」


 二人して神妙な表情になった後、唐突に弾けて笑い始めた。ハーッハッハ、愉快だ愉快! 心の底から笑ったのは、異世界に来てから始めてだな。


「命令するの、仕事。なのに、苦手」

「ハハハッ! その通り! 仲間にはいつも苦労を掛けてる」

「ダメな、リーダー、です」

「クックック、違いない。情けない限りだよ」

「でも、みんな、付いて来て、くれる?」

「……そうだな。物好きな奴らも居たもんだ」


 穏やかな笑みを浮かべるヤナさんは、多分一流の人特有の表情をしていた。……うん、これはジルミアさんが惚れるのも仕方ないな。


「えっと、オレからも、お願い、です。ヤナさんのパーティに、入れる、して欲しい」

「あ、ああ。大歓迎だとも!」

「夕食、みんな居る、もう一度、オレ、パーティ、入れて、申し込む。リーダー、受ける、良いです?」

「あ、うん。……なんか、段取りを押さえられてしまうと、ボクのリーダーっぽさが益々薄れて行くような」

「小さいこと、気にしない。リーダーの役目」

「うーん、そうなのかな? ま、良いか。それより、昼飯どうしようか。……ちょっと良いところ行ってみるか?」

「良いです、か!? 喜んで!」


 その日の昼食は、絶品の魚料理を堪能させてもらった。支払いに大銀貨1枚(2万円相当)消えていたけれど、納得です。


 夕飯の際、打ち合わせ通りにしたオレは、『暁に吹く風』(ヤナさんのパーティだ)に温かく迎えられた。

 そのまま場は宴会へと発展し、あまり飲み慣れない酒に酔うこととなった。






 結論から言うと、『神の迷宮』へ直ぐに潜るようなことはしなかった。


 まず、ウェントにある冒険者ギルド(兼傭兵ギルド兼ハンターギルド)に登録。最下位のランクHからの始まりだ。

 ランクの説明? 上から順に、ABCDEFGH。ランクEが一人前と認識され、Cで高位、Bで一流、Aは一国に一人居るかどうかの超一流になる。更に上にはAA(ダブル)、AAA(トリプル)があるが、AAでさえ一つの大陸に数人いるかどうか、AAAに至っては居ない期間の方が長いと言う有り様。ランクSとか謎の区分けは、無い。


 次に装備だ。武器は素人だからと扱い易い槍にした。サブウェポンで長剣とナイフ。素振りの基礎を半日掛けて教わったが、習うより慣れろになりそうだ。

 防具は基本、皮装備。要所は金属で補強してあるが、荷物持ちだから重さ控えめを重視している。

 随分とお金を掛けて貰っているのが気に掛かるが、亜空間荷袋を買うよりかは遙かに安いから気にするなと言われてしまった。小金貨500枚、日本円で1億? うん、オレとオレの装備に掛かる金額なんて、それと比べたら大したことないな。


 問題になったのは、『アイテムボックス』に入れる物資の選別だ。

 まず、水と酒を半分ずつ。水を魔法で生み出すのは余裕がないと難しく、予備も含めてある程度は用意するものらしい。酒は主に飲用だ。水だと傷んだ場合に飲めなくなるのは致命的。アルコールがある程度入っていれば、気温にも因るが1~2ヶ月は持つ。

 次に食料。焼き締めた全粒粉のパン(みたいなの)を主体に、干し肉とチーズをかなりの量、ナッツ類とドライフルーツは各自好きな物を個別に持って行くのが常らしい。それでも栄養が偏るから、迷宮から出た後は野菜を中心にドカ食いするのが習わしになっていると聞いた。

 長期になる場合、調理前の穀粉こくふんを持って行き、水と塩を加えて生地にして棒に巻き付けて火で焼くと言う方法もあるらしいが、攻略階層を更新する場合でも無ければ考慮に値しないと言われた。料理するのも体力が要るのだから、そんなものなのだろう。

 迷宮の中の気温は、過ごしやすい20℃前後。身体を暖める為に、茶葉やハーブを持ち込んで御茶にして飲んだり、干し肉のスープを作る程度はするらしい。




 日が過ぎて10月5日。オレの『神の迷宮』への挑戦、初体験となる。

 低層で慣らし運転をするだけなので、アイテムボックスや亜空間荷袋に大したものは入っていない。

 槍は手持ちの為、時間が空いてるとつい振り回したくなってくる。うずうず。シュバッと振り抜き、ザッザッと突きを繰り出す。


「『三連突きッ!』」


 思わず必殺技っぽく日本語で呟いて、どうにものろい突きを放っていた。


「ふむ」

「……!」


 振り向くとそこに、ボルさんが居た。


「こ、これは……。アハハ、練習、です。練習」

「そうか? 素人なのは見て分かるが、意外と無理のない動きだと思ってな」

「有り難うございます」


 この世界にはテレビやビデオも無いみたいだし、創作物でも映像で殺陣たてを見た経験は、多少のアドバンテージになっているのかも知れない。槍を振り回して使うなんて、物語でも大立ち回りする時ぐらいだよなぁ。オレは無理をせず、突きを主体に小回りで動くことを誓う。

 それから直ぐにパーティメンバーが揃って、迷宮の入口へ向かうことになった。




 『神の迷宮』は、そのものズバリ、神が作ったと言われる迷宮だ。魔物は出るが、倒すと魔石のみを残して、肉体は霧のように消えてしまう。『神の迷宮』の外での魔物は、きちんと肉体も魔石も残して死ぬので、ここだけの特性だ。

 現在確認されている最奥は28階で、50年以上前にランクAのパーティが残した記録とのこと。この1年での記録は、暁に吹く風が22階、他のランクBパーティが22階と23階だそうだ。

 5階毎に敵の強さがやや大きく上がる(1-5/6-10/11-15/16-20/21-25/26-?)ので、今日を含めてしばらくは3階~5階を探索することになっている。


 1階の魔物は、大きな蟲型。黒蟲くろむしと呼ばれる、見た目完全に「太郎さん」である。隠語が分からない? Gから始まる台所で見るアレだ。30cm~50cmほどだが、昆虫らしくタフで厄介ではある。

 フォローされながら何匹か切り潰したが、油断すると外殻に刃が滑らされてしまう点は注意が必要だと思い知らされた。魔石は1cmほど。


 2階の魔物は狼型で、体長50~60cmの小型である。小型なので、狼と言うか犬と言うか、猫に近い感覚だ。黒蟲より常時動き回って素早いので、斬り付けるタイプの攻撃の方が通りが良かった。

 狼型の割に集団行動は取らず、各個撃破の形になったのは楽である。

 魔石は心臓付近にあり、生きてるうちに取り出しても死亡判定になると、ボルさんが実演して見せてくれた。生きたまま解剖とか、エグイです。


 3階は小鬼、ゴブリンと言った方がゲームなどで馴染みが深く分かり易いかも。

 身長80cmほどしかない子供の体つきに、集団行動が合わさって、結構手古摺(てこず)ることになった。

 相手の攻撃が下から来ることになり、こちらの攻撃は当然相手にしたら上からとなるので、ワンパターンになり易い。魔法や弓でフォローが来ると、途端に崩し易くなって攻めることが出来た。

 3階に来て初めての会敵かいてき。5体の集団だったが、倒し終えた頃には息が完全に上がっていた。オレの戦果は、フォローされまくって2体だ。


「今日はここまでだな」

「ゼー、ヒュー、ゼー、ヒュー。……ま、まだやれます!」


 カイナスさんが、ポンと肩に手を置く。


「『まだやれるは、もう危ない』、だよ」


 息を呑む。地球でも同じ言葉があったが、それを体感することになるとは。


「そう……かも、知れません」

「ふむ。意外と引き際を心得ているな」


 ボルさんが感心してくれるが、それ多分、先人の知恵のお陰です。


「初心者は大抵無茶をするからねぇ。ヤナだって、初めての時は引率のオジサンに……」

「わー! わー! その話は辞めろって!」


 ジルミアさんが面白そうに話してくれる。どうやら、血気盛んで引率の人に食って掛かった挙句、骨折しない程度にボコボコにされて引き摺られるようにして迷宮から放り出されたそうだ。

 と言うことは、このウェントの街の冒険者ギルドは、新米の育成システムみたいなのが一応あるんだな。もしかすると、それが出来るまでに沢山の犠牲があったかも知れない。

 その日、迷宮から出た際に、近くにかなり広い無縁墓地があるのを見掛けてしまった。


「『迷宮に挑み、迷宮に死す』か」


 夕陽に赤く照らされる墓石に、諸行無常を感じる。つい日本語で格好付けてしまった。


「どうしました~?」


 ルノーアちゃんが声を掛けて来た。


「いえ、何でも……。そう、ですね。オレも死ぬかも知れない、と思うと……」

「それは確かに。でも迷宮に入らなくったって、人は死ぬんですからね~」


 ドキリとすることを言う。そうだ、人はいつか死ぬ。ならばせめて。


「どうせ死ぬなら、夢に賭けたい……」

「ミツルさんの夢は何ですか?」


 夢? 自分で言ってて何だけど、ハッキリとしたのは無いなぁ。異世界に来る前は、良い会社に就職して、良い生活して……。

 もう無理じゃん。

 じゃあ、今は? 魔法を使いたい、ってのはもう叶ったかな。水をちょっと出すだけだったけど。魔力量がなー、根本的に少ないんだよなぁ。『アイテムボックス』は魔法っぽいけど、魔力量の消費が無い為、若干実感に欠ける。

 美味しいものを食べたい? ルノーアちゃんと被るな……。まあちょっとはその思いはある。でも主目的じゃない。

 良い女を抱きたい? それは、まあ、そうなんだが。ちなみにルノーアちゃんはストライク・ゾーンから外れてる。これは一旦置いておこう。

 もっとこう……。


「強く、なりたい?」

「ふーん。……ンフフ、結構、男の子だったんですねぇ、ミツルさんも」


 顔がカアッと熱くなる。やだこれ、恥ずかしい。


「ち、違っ。今の、無し!」

「ダメですよー。しっかり聞きました! 今晩の酒の肴は決まりです!」


 ルノーアちゃんは逃げるように、ヤナさんたちの後を追って行く。オレも釣られるように、その後を追い掛けて行った。






 ミツルが少し流暢に喋り過ぎる場面があるかもですが、本当はもっと片言だけど、後で思い出す際に脳内補正してるってことで、一つオナシャス!


 冒険者ギルドは、傭兵ギルドやハンター(狩猟)ギルドと兼業みたいになってます。所属を示す個人証は共通。

 場所によって、交通の要所なら傭兵ギルド(護衛依頼)の面が強くなり、魔物や動物が多い所はハンターギルド(狩猟や採取)としての役割が強くなります。

 冒険者ギルドと名乗ってるのは、『神の迷宮』があるウェントくらいです。迷宮のお陰で魔石が大量に持ち込まれ、魔道具で使う用に世界中へ出荷されます。

(スエズエ共和国は、ベラスティア皇国などのある西の大陸ウェスティンと、東の大陸イースティンを繋ぐ場所です。他には北の大陸ノースティンが魔族勢力下)

 ランクは、ギルドに納品・売却した金額や、こなした依頼料の総額で上昇します。

 ランクHなんて短期間です。具体的に言うと、黒蟲の魔石100個でランクアップ。

 ランクH・Gは、小遣い稼ぎ感覚で登録している子どもも多く、Fでようやく見習いと言った所。



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