066 いつも通りに逸脱気味
前衛タイプの自己中青年ケール、サイドテールのギャル系ミファ、苦労人のオインス。
それが、オレが急遽助けてやろうと言う相手のパーティメンバーである。体調を崩したらしいザザズーは、名前しかまだ判明していない。
時間が無いらしいので、ハンターギルドの建物から三人を押し出し、寄り切りにより外へと搬出成功する。白星三つ。
続いてオレは、自分と彼ら三人の全員に、魔法を掛けた。
「『魔力を以って肉体を強化せよ。PhysicalEnchantment【肉体強化】』」
倍率は320%アップ、全身4.2倍が20分間だ。魔力量を最大値の5%近くも消費した。やっぱりこれ、効率悪いよなぁ。短期戦なら強いんだけどな。
「なっ、何だ?」
「な!? 何なの!?」
「これは……力が溢れるようだ……」
「オレが【肉体強化】の魔法を使った。今ならいつもの4倍近い力が出せる。目的地がどこだか知らないが、軽く走れば間に合うんじゃないか?」
騒ぎ始める若人に、解説をしてやる。
「本当か!」
「じゃ、行こ!」
「あっ、そっちは細い道ばかりですよ! 大きい通りをなるべく使って行きましょう! では、こちらです」
オインスがオレに目礼し、導くように歩き始めた。すぐに早歩きになり、徐々に疾走へ移行して行く。
「……そう言えば、お名前を伺っていませんでしたね」
「ミツルだ」
「ミツルさん、ですか。本日はよろしくお願いします」
走りながら頭を下げると言う芸当をしてくる。直進が続き、障害物が比較的無いことを見定めてからの行いみたいなので、危険はほとんど無かったが。
先導されるがまま10分ほども走ると、特徴的な建物が幾つかある場所が見えて来た。大きな部屋が幾つも内包されている、学校みたいな所だ。
走るスピードが落とされ、閉じた門の前で停止することになった。
「ここです」
「だな!」
「だよー」
「フローティス帝国の国立魔法学院です! エリートばかりが集まる名門校なんですよ」
オインス君が、まるで自分のことのように自慢して来た。フーン。
オレより凄い魔法使いが居たら見てみたいなぁ、と内心ゲス顔で思う。
まあ、珍しい種類の魔法を使うのが居たら、参考にさせて貰うとかは良いかも知れんけどね。
「200万の人口を数える帝国全土から、素質のあるものが集められ、難関の試験に合格することで初めて入学を許可される場所です。
僕たちみたいな素人習いの魔法とは、正直レベルが違うでしょうね」
学校の門の付近にいる警備員を呼び、門を開けて貰いながらオインスは解説してくれた。器用なことだ。
「そうなのか。で、オレは何をすれば良いんだ?」
「え? あっ、そうか! まだ言ってなかった! ……単純に、現役ハンターの実力を見せれば良いみたいですよ」
依頼では弱過ぎるのを弾く為、ランクC以上と言う目安を設けたのか。
二人の警備員のうち一人がオレたちの案内に付き、生徒たちが集まっている校庭へと向かって行った。
「ハーイ! 今日は毎年恒例の、『現場を知る』授業ですよぉ! 皆、静かにねーッ!」
やや調子の軽そうな女性教師が一人に、男性教師が三人控えている。
女性教師の声に、4つに分かれて集団となっている生徒たちは、疎らに了解の声を上げていた。貴族の子弟も多いが、平民らしき子も少なくない。
まあ、勝手な推測なので、実際はどうだか知らないけど。今居る生徒の年齢は12,13歳くらいっぽい。中学校相当か。
「では、自己紹介、お願いしまーッス!」
こちらへバトンタッチのようだ。
「あー、まずはチームリーダーのケールだ。得意な武器は、この、腰に付けた剣だ!」
「はい、有り難うございますー。次の方ー」
まだまだ喋り足り無さそうなケールだったが、中年の男性教師が慣れた様子で仕切る。
「あっ、私ィ? えっとぉ、私はー、ミファって言います。17歳です! 恋人募集中~」
「オイこら! オレとの関係は遊びだったのかァ!?」
「フーンだ。二股するような男の人は、願い下げデース」
「はい、有り難うございました。では次の方」
ううむ。ケールとミファが軽く修羅場ってるが、中年男性教師が見事に遮って、小芝居染みた雰囲気に仕立て上げている。
一体どれほどの修羅場を日常とすれば、これほどの仕切り能力を得られるのだろうか。少し気になった。
「はい。僕はオインスって言います。一応後衛で、魔法使いって立場になりますね。本日はお手柔らかにお願いします」
「どうも、有り難うございます。それでは、最後の方」
魔法使いと言う言葉に対して、生徒たちの見る目が少し鋭い物となっていた。興味があると言うか、見定めてやろう的な意気込みが感じられた。
「あ、オレか。ええと……彼らの仲間では無く、今日臨時に助っ人として参加しているだけなんだが……。名前はミツルと言う。よろしく」
「おっと、助っ人さんでしたか。よろしくお願いしますね。それでは早速、授業を始めましょう」
好青年風の男性教師が前に出て来たが、次の段取りを仕切る役目のようだ。
オレたちは普段の戦闘スタイルについて聞かれ、シャドースタイルな演舞なども行うようお願いされた。
ケールは長剣を生かした前衛。避けるか剣で受けるか籠手で弾くのがスタイルのようだ。
次手はミファ。ショートボウ(小さい弓)と短剣で補助的な役割を担っているようで、使える魔法も低威力の物ばかりらしい。
実際に攻撃魔法を発動させるのは、ここでは危険な為、動きの中で「ここで【水球】!」などと補足するだけだった。
三番手はオインス。武器や防具は特に無く、使う魔法は土魔法や火魔法が多かった。
使う魔法の名称を彼が挙げた所で、生徒たちの目に嘲りや失望の色が広がって行くのが見えた。
最後にオレの番のようだ。
「武器はお持ちでないようですが、魔法を主体とされているんですか?」
老齢の男性教師が、オレへ訊ねて来る。
「ん? まあ、そうとも言えるけど……必要があればこうやって」
『アイテムボックス』から十文字槍を取り出し、構える。
「『アイテムボックス』に仕舞ってある武器を使う」
「ほぉ!」
周りが、教師陣も生徒陣も、オレの『アイテムボックス』に騒然となる。
注目を受けるのはちょっと気持ち良い。<臨界突破>で槍や回避の練度を上げ、演舞をしてあげる。
「よっ! はっ! ほっ! とぉぉぉおおおおお!」
最後にちょっとだけ【肉体強化】を行い、足を揃えて大ジャンプを敢行、格好良くバッタ的な大威力のキックを地面へと放った。
着地後、一回転してポーズを取る。
パチパチパチパチ!
盛大な拍手が鳴り響いた。決まったぜ。
「こ、これほどとは! 凄いですね! 本当にランクCの方なんですか?」
女性教師が思わずと言った風に、疑問を溢していた。
「いや、オレはランクAだけど」
ギルドカードを取り出し、見せてあげる。
「わっ! 本当にランクA!」
「ランクAだと!? バカな……」
「ランクB以上では釣り合わない報酬だったはずなのに……」
それについては、突っ走りのお馬鹿さんが暴走した結果だろう。
その後、オレたちへの質問タイムとなったが、オレが『神の迷宮』へ潜ったことがあると判明すると、全ての質問がオレへと集中した。解せぬ。
質問されたことに、結構答えてしまったが、良かったのだろうか。
救いは、午前中の授業の終了時間が直ぐに来たため、多くの質問を受ける時間が無かったことだろう。
「50階!? 50階なんてあるの!? マジで!?」
「トカゲ……火を噴くトカゲ……それはもうほぼドラゴンでは?」
「落とし穴怖え」
「毒はやはり致命的。ポイズン!」
「オークは豚肉の味らしいが、これは人肉食となるのか、それともただの肉食なのか。それが問題だ」
昼休憩の鐘が鳴っても、熱気に満ちた生徒たちは、なかなか解散する様子を見せなかった。
「こら! そろそろ食事に行きなさい!」
「へーい」
女性教師に怒られ、ようやく塊が散らばり始める。
「オレたちも昼飯か?」
「そう、なりますね」
「なんか……オジさんばっかり目立ってた」
「うん。ミファも同意」
オジさん言うな。オレはまだ25歳だぞォ! ……虚しい。
「ちなみに、どこで昼飯喰えば良いんだ? 一旦戻るか?」
「戻るって、どこへです? 校舎を出て、近場の食事処でも行けば良いのではないでしょうか?」
「ああ、まあ。どこでも良いんだが。オレ一人だったら、空間魔法の【瞬間移動】でスエズエ共和国の屋敷に戻るのも一瞬だし」
「へっ!?」
あ。三人ともが固まった。
「おっと、お誘いするのを忘れてました。本日は学食に予約入れてますので、是非食べて行って下さい。……ん? どうしました?」
老齢の男性教師が、やや慌てた様子でオレたちに声を掛けて来たが、三人が正気を取り戻すには更に数秒を要した。
蒸かした芋と酢漬けの野菜と酸っぱいパンもどきの、美味しくない昼食が終わった。
オレは『アイテムボックス』からピッツァを取り出して貪ってたので、どうでも良い。オレが食べずに無駄になった分は容れ物に入れておき、後でウェントにある畜産農場で豚の餌にでも混ぜてあげる予定。
午後の授業は、魔法学院らしく魔法が主体のようだ。
「はい! それではミツルさんに、魔法を使って何かやって貰いましょう!」
ォゥ!
いきなり打ち合わせも無しに不意打ちでそう言うことやるの、やめてくれないかなぁ?
まあ、いっか。
「じゃあ、【肉体強化】の魔法を使って見せよう」
詠唱文言を唱えて【肉体強化】を発動させる。両脚を13万倍、それ以外は100倍程度で。効果時間は2分だけ。
そんでもって、『アイテムボックス』からジャベリンを取り出す。
軽く投げる。
投げた方向にオレも走り出す。
追い付いたらジャベリンを掴んで止め、今度は逆方向に軽く投げる。
以下ループ。
漫画やアニメなら割と良くある描写。コツは、投げるのはかなり遅めに。自分が動くのは必死で。
実際にやってるのを見ると、凄いキモイと思われる。ほら、周りの生徒の目なんか呆れ半分、尊敬半分。
えっ、尊敬すんの? これで?
「ほいっとな。こんなもんだ」
2分の効果時間が終わったので終了だ。
「……あ、有り難うございました」
顎が外れそうなほど驚いた男性教師が、謝辞と共に授業内容を次へと進めていた。さすがプロ、やるじゃん。
「次は、攻撃魔法を的に当てて威力を競いましょう!」
どうやらオレたちも参加して、現役ハンターと教師や生徒の力量を比べてみるつもりらしい。
まずは選ばれた生徒たちがやってみせる。【石弾】や【水球】、【火矢】などが、用意された藁人形っぽい的へと放たれ、賞賛を受けていた。子どもが撃てる魔法としては、実用レベルで良いんじゃないか。
続いて教師陣営。【火球】や【石槍】、【気流】、【氷弾】なんてのもあった。
最後にオレたちの番。
肉体派のケールは【火炎】を生み出し、チョロチョロとした速度で動かして何とか的へと当てただけだった。
補助役のミファは、【水球】。
魔法使いのオインスは【石弾】と【火矢】の両方を使っていた。
トリ(最終演者の意)のオレとなったが……。
「何使っても良いのか?」
「ええ。あっ、でも、出来たら校舎とかは壊さないでいてくれると……」
オッケー。どうやらこの短期間で、オレが校舎を壊しかねない非常識な威力の魔法を放てるとの正しい認識が醸成されたようだ。
「まずは、『雷の子よ、低きへ流れろ。thunderbolt【電撃】』」
手の平に発生した電気が、狙った的へと流れて小さな稲妻のような軌跡を描いた。
「へっ?」
「……すっげー! 今の、雷魔法じゃね!?」
「習得してる人、初めて見たわ」
おう。どうやら珍しい魔法だったらしい。
「『硬き大地を砲弾とし、敵を穿て。StoneMortar【石弾臼砲】』」
今度は、大きめの石が高速で飛んで行く。ガコンと音がして、当たった部分が折れて吹っ飛んだ。
「そして最後に……『火よ、風よ。燃え盛る嵐と成りて焼き尽くせ。FireStorm【炎の嵐】』」
格好を付けて、発動時に手をバッと上に持ち上げる動作をする。
的が土台ごと炎に包まれ、燃えた。
「え? え? これ、普通の火魔法じゃないんですか?」
「うわぁ、えげつないなァ」
「凄い勢いで燃えてますね。これ、人に使ったら絶対死にますよね」
生徒たちはほとんど分かっていないようだが、教師たちはこの魔法の高度さに気付いてしまったようだな。クックック。
そんな風に内心で思っていると、声を掛けて来る人物が居た。
「おやおや、これは一体どう言うことですか?」
白髪のお爺さんだ。ローブ姿なので、凄く魔法使いっぽい。
「ヘテロ校長!」
「どうしてここに?」
「うむ。折角、外部から人を呼んでの『現場を知る』授業ですからね。ちゃんと出来てるか確認しておこうと思いまして」
教育熱心なだけか?
「しかし実際に見た所……傭兵やハンターの実態とは掛け離れた有り様になっているようですね」
あん?
「た、確かに、このミツルと言う人はとんでもない魔法の使い手ですが、それはそれで見応えが……」
「喝ッ!!」
男性教師の一人が弁明しようとしたのを、校長は遮った。
「言い訳は見苦しいッ! 今回の授業の目的は、あくまで世間一般のレベルを知ると言うもの! それを達成出来ないようでは、教育者として失格である!」
クソ爺のその言葉に、オレの中の反骨心が疼いて来てしまった。
ムクムクッ




