表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第六章:平穏までの距離
63/114

061 こってり


 王への謁見に一緒に行かないかと、ビュヘット男爵が食事中に言い出して来た。

 オレはそれを無視して、ジャガ芋とベーコンのチーズ掛けを堪能する。もぐもぐもぐ。


「……えーっと? 聞こえましたよね?」

「ん?」


 一体何が、と言うていで首をかしげる。


「いやいやいや。私が明日王へ謁見する際、ミツル殿に御同行して貰えると嬉しいなぁと」

「そうか」


 聞き間違えじゃなかったみたいだ、無念。あと、料理が尽きてしまった。量は結構あったので、少し遅い昼食だとしても腹は満足してる。


「しかし、どこの馬の骨とも知れない人物を、イキナリ王様に会わせるなんて、そんなこと」

「いえいえ。ランクAともなれば問題ありませんって」

「……そうか?」

「そうです」


 とぼけてみたが、通用しない様子。


「そうまでして、会わせたいと?」

「顔を合わせて損するものでも無いですし。それに我が王は寛容ですから、多少どころかかなりの失礼があっても、水に流して下さいますよ」


 普通は相手が王様ともなれば、是非とも顔繋ぎをしておきたいと言うのが大半だろう。商人なんかは、かなりの大金を払っても謁見したいに違いない。


「他に理由は……」

「まあ、恩人ですからね。色々世話を焼きたいと言うのが本音です」


 何だろ。意外とオバちゃんみたいな性格してんなー。


「御負担でしたり、他に用があるのでしたら、無理にとは言いませんが」

「うーむ。……急ぐ用事も無いし、時間がそんなに掛からないのなら、同伴させて貰うよ」


 オレのその答えを聞くと、ビュヘット男爵はニパッと笑顔になり、楽しそうに笑った。


「いやー、良かった良かった。断られそうな雰囲気があったので、失礼なことを頼んでしまったのかと戦々恐々としていましたよ」


 悪い人間じゃないみたいだし、袖すり合うも他生の縁と言うから、ここは流れに任せてみるのも一興だ。

 互いに食事も終わったので、その後はチーズを少し分けて貰った。硬いのやら柔らかいのやら、8種類くらいあった。少しと言っていたが、結構な重量になる。このチーズがあれば、草薙さんのピッツァが更に進化を遂げること、間違いなしだ。

 宿の裏手の木々の根元に例の魔石を埋め、【瞬間移動】でいつものように屋敷へと戻る。

 草薙さんに御土産を確認して貰った際に、ウナギも渡した。日本での蒲焼きの匂いが想起され、胸がいっぱいになる。でもこの思い出は、この世界産のウナギの蒲焼きで上書きしてしまいたい所だ。郷愁の念は邪魔になりそうだからな。






 翌朝、色々と時間を潰しておいて【瞬間移動】を行った。

 スエズエ共和国のウェントの屋敷から、ミルキカイワ王国の王都サカニの高級宿へと。時差が3時間ほどあるので、屋敷で昼近くまで待ち、朝の宿へと跳ぶことになる。ここら辺、面倒臭いんだよねぇ。そのうち夜型人間とかになってしまいそうだ。

 宿の人に取次ぎを頼むと、少し待たされてから部屋へと案内された。


「おお、来てくれましたか。けれど、少し早いですかね。どうせ急いで行っても、向こうで待たされるだけなので、お茶でもして時間を潰しましょう」

「だったら、昨日譲ってくれたチーズで幾つか料理を作って貰ったんで、どうですか?」

「ほお?」


 乗り気なようなので、『アイテムボックス』から草薙さんに今朝作って貰った料理を出して行く。それぞれ【遅延】の魔法をいつも通りに掛けてあり、封印を解けば出来立て状態だ。封印の解き方は、密封状態を解除するだけである。

 出した料理は、様々な具を乗せた多種多様なピッツァ、バターとミートソースが絶妙なラザニエ、ホワイトソースとチーズがたっぷりのマカロニ・グラタン、香ばしい厚切りベーコンが主張するカルボナーラ、ナスと挽肉のハーモニーがそそるミラノ風ドリア、小麦とチーズ等を混ぜて揚げた薫り高いシャットである。どれも美味そう。


「………………」


 ビュヘット男爵は、それらの料理を見て絶句している。

 それぞれ余計に作って貰ってあるので、『アイテムボックス』にはまだ半分以上保管してあったり。


「温かいうちに食べよう。……はむ」


 給仕きゅうじ係の人が、部屋に備え付けのフォークや取り皿などを用意してくれる。だがピッツァは素手だ。

 オレが満足そうに食べているのを見て、男爵も恐る恐る手を伸ばし、ピッツァを口に運ぶ。

 味を確認するかのように一口、二口。三口から先は、口の中に詰め込むかのように押し込んでいた。


「ふがっ、ふがっはっ!」

「食べながら話すな」

「……んぐ。なんて、美味しいんだ!」


 思わず耳を塞ぎたくなるような大声で、料理を賞賛する。


「確かにピッツァは料理の一つの頂点と言いたくなるほど、完成された味だよな」

「ピッツァと言うのか! これは! ソースと具とチーズと生地のハーモニーが素晴らしいな!」

「お、おおぅ……」

「他にも、見慣れない料理が多い!」


 まるで大量の宝石を目の前にした女性のような目の輝かせ方だ。

 そこから先は料理会談になった。

 カルボナーラを食べてはベーコンとチーズの風味を絶賛し、ドリアとラザニアを食べ比べて違いに唸り、熱々のグラタンを蕩けるように平らげ、蕎麦の香りが混じるシャットで気分転換をし、淹れて貰ったジンジャー・ティーで一息つく。


「ふぅ」

「朝を食べてそんなに経ってないだろうに、結構食べたな」

「あんな美味しいもの! 幾らでも胃の方を空けるに決まってますよ!」


 いや、それは勘弁して欲しい。どうせ吐いてでも食べる系だろう?


「いや、しかし。ミツル殿は極めて優秀な……と言うのもはばかれますか。世界一と言って良い料理人を、雇われているのですなぁ!」

「あー、まあ、そうなるかな。草薙さん、結構雑多な感じで世界中の料理をある程度作れるみたいだし」


 ある意味、日本らしいとも言える。色々な美味しい料理を取り入れて作っちゃおうとか、良く考えるととんでもないよな。


「クサナギ殿と仰るのですか! 今度是非! お会いしたいですなぁ!」

「ははは、それはちょっと無理かなぁ」


 距離的に遠くに居るし。


「ほぉ……。分かります、分かりますぞ! これほどの料理の腕前。引き抜きを警戒しておられるのでしょう。でしたら、『非常に美味しかった。生涯で一番と言える至福の時だった』と伝えて貰えますか?」

「まあ、それくらいなら」

「お願いしますゾ! ……おっと、そろそろ良い時間ですな」


 随分と熱くなっていたが、王様への謁見の時刻が迫って来たようだ。

 少し慌ただしく身形みなりを整え、馬車へと相乗りする。

 城へ着くまでの30分ほど、先ほどの料理の詳細を訊ねられたが、オレには簡単なことしか教えられなかった。






 城に入ってからは待合室で待機させられ、時間がすぐに来たので呼ばれた。

 長い廊下を歩いていると、向かい側から複数人が近寄って来るのが分かる。


「おや、これは。ビュヘット男爵では無いか」

「これはこれは、ブンヘルト子爵様。王に呼ばれたのですか?」


 少し神経質そうな、貴族の男性だ。お伴に護衛を5人付けている。


「いや。嘆願したいことがあったので、ワザワザ、な」

「そう、でしたか。あまり無茶な要求をされて、王を困らせたりはしないよう、お願いしますよ」

「何、我が領地は地位に相応しくないので、加増か配置換えを願ったまで」

「そうですか……」

「聞けば、貴殿は先日、野盗に襲われたとか。跡継ぎの無いまま鬼籍に入っては、後の領民が困りますぞ?」


 そう言って、子爵の旦那は去って行った。


「随分と耳が早いな」

「それだけだと、良いのですが……」


 ん? 気になる言い方だな。まるで……いや、よそう。オレの勝手な想像で、悪戯に場を乱したくない。




「トビィ・ビュヘット男爵様と、そのお伴の方、おな~り~」


 謁見の間の前では、逐一名前を呼ばれるようだ。オレの名前は呼ばれなかったから、眼中に無いのかも知れない。


「さっきの、ブンなんちゃら子爵ってのは、親しいのか?」

「クジィーク・ブンヘルト子爵ですね。領地が隣接してるのもあって、付き合いはそこそこあります。うちの政策が上手く行っていて、領内が活気づいていることに嫉妬しているんですよ」


 へー、そいつは要注意人物だな。


「ちなみに、今から会おうとしてる王様って……」

「私が、この国の王、マシマニ・キカイワである。……トビィ、久しぶりだな」


 うわっと! 玉座までまだ1/3くらいあるのに、この王様自分から近づいて来てるよ。


「マシィ……。いい加減、そのフットワークの軽さ、直しなよ……」

「ふん! 級友と気楽に話しも出来ないなら、王の立場など不要だ!」

「とまあ、こんな人なんです。我が王は」

「色々残念と」

「しかり」

「おい。目の前に王が居るんじゃぞ?」


 その立場に甘んじることを自分から投げ捨てている人が、何を言うか。

 ちなみに身体はそこそこ鍛えられているようで、背も標準より少し高い。顔は、髭を剃れば優男風なのかもって所だ。


「それにしても、珍しいな。いつものともでは無いではないか」

「ああ、昨日厄介事があったんでね。大事を取ってシャルナスには休んで貰ってるんだ」


 ありゃ、護衛の御伴の人が来てないのは、そんな理由だったのか。昨日は奮闘してたしな、一時いっときだとしても一人で30人近くと競り合ってたんだ。精神的疲労が溜まっていてもおかしくない。

 ちなみに、雇っていた三人の傭兵の遺体は、昨日のうちに傭兵ギルドの人が回収しに来たそうだ。


「ふむ……。どうやら、少し話をした方が良さそうだな」


 そそくさと玉座へ戻って座り直す王様。

 オレたちは膝をつかされるようなことは無く、近くに寄って話をするよう求められた。とことんラフだな。

 結局、親友との世間話みたいな形になった。




「その時! 上空から現れたのが、稀代の大魔法使いにしてランクAハンターのミツル殿!

 彼はシャルナスに声を掛け、助けが要るかを確認した後、おもむろにこう言ったのです。

 『死を恐れるならば、武器を捨て、平伏ひれふせ! さもなくば、我がかいなに宿りし地獄の業炎が、貴様らの罪を喰らうだろう』と……!」


 言ってない。そんなこと言ってないよ?

 近いことは言ったけど、あれ降伏勧告だから。


「ほほぅ……! それで?」

「数に勝る盗賊団は、当然ながらその言葉に従いませんでした。

 中には笑う者すらおり、怒り出した盗賊団の一人は、ミツル殿に対し何本もの投げナイフを放ったのです!

 しかし彼は冷静にそれを防ぎました。……どうしたと思います? 何と! 刃の部分を指で挟んで受け止め、そのまま投げ返したのです!」


 投げ返してないぞー。あと、一本だけだから。脚色、酷過ぎない?


「反撃でやられた盗賊団は色めき立ち、ミツル殿を襲おうとしました。しかしその時、既に呪文は唱えられていたのですッ!

 そう! 地獄の業炎、ヘル・ファイアー・ストーム・インフェルノ!

 この世の物とは思えないほどの高温の炎に、30人を超える盗賊団全員が焼かれました。それは悲鳴すらも焦がし、黄泉へといざなう業火。……私も実際目にしましたが、骨すらも跡形も残らないほどでした。想像を絶する威力だったのでしょう」


 何か、オレの知らない新しい魔法が生まれてるんだけど。

 あと、『夜闇よりも暗き黒の団』は、30人にちょっと足りなかったと思う。数え間違いで無ければ。


「それを見た私は、我が王に是非引き合わせようと、王都へ一緒に行って貰えないか頼んだのです」

「……そうだったのか。いや、素晴らしい活躍をしたのだな! ミツル殿は」

「えっと。半分以上嘘が混じってるんで、その辺は……」

「いやいや、謙遜されなくとも宜しいでしょう!」

「なんと。類稀な実力を持ちながら、謙虚な心をも持つとは! 天晴あっぱれである!」


 勝手に盛り上がらないで欲しい。もうやだこの主従。


「えーっと、話も終わったようなら、オレもう退室して良いかな?」

「話?」

「おおっ、そう言えば! 話があったのを忘れておった!」


 え、ちょ。まだ始まってすら居なかった!?


「モルヘン! 近くへ」


 そう王様に呼ばれた人物が、謁見の間の横の方から近づいて来た。

 年の頃は20歳前後か。やや気弱そうな貴族っぽい若者が、王と男爵、オレの居る場へと姿を現す。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ