060 芋とベーコンとチーズと
銀の鉱山については、良い結果は得られなかった。非常に残念だ。
「仕方ないですよ」
戒がこう言ってくれるが、別のアプローチをしていれば、上手く行っていたかも知れない。
「それでも、銀は得られる利益が低いですからね。無理してまで入手しようとしなくて構いませんよ」
ちなみに、仮にあの契約が受け入れられていたら、どれくらいの利益になると思う?
「さて。小さな鉱山では、ミツルの【成分抽出】で銀を抽出し切るのが1年か2年か、そんなところでしょう。利益は、金の場合の1/10から1/100程度でしょうから、悪くも無いでしょうが、破格でも無いでしょうねぇ」
そんなもんなのか。
……金と銀と言えば、銅は扱わなくて構わないのか?
「うーん、そんなに魅力は無いですね。
貨幣としてある程度存在してないと困るのは確かですが、積極的に調達する意味は薄そうです」
そうか。仮にオレが魔法で銅を抽出するとなると、どれくらい取れる?
「その問いには、ワシが答えよう。銅の鉱石、つまり鉱山での銅の比率は、0.4%から2%程度が多い。
つまり、1トンの岩石の中に、4kgから20kgくらい含まれるってことだのぉ」
「金や銀の場合、1トンの中で数gから100g程度が精々じゃ無かったか?
だとすると、銅の場合4,000gから20,000gってことになるから、随分多いな」
「金や銀の地殻中の平均濃度と比べると、数百倍から1万倍くらい銅は存在してますからね。当然と言えば当然ですよ。
最悪、そこら辺の岩石から抽出しようとしても、ミツルならある程度入手出来ますよ。廃鉱になった金山から金を【成分抽出】する程度には」
ふむぅ、そんなもんなのか。また一つ、賢くなってしまったな。
この話し合いの後、精神魔法用に互いの魔力を染み込ませた魔石を交換し合った。
何かあった時に、ウェントの屋敷に毎度戻る必要があるのは不便である。故に、ミドリの助言を得て、【思考共有】の魔法が便利だと知り、その媒介に魔石を使うことにしたのだ。
これで、(ファ○チキ買って来て)と念じれば伝えることが出来る。逆も然り。(こいつ、直接脳内に……ッ!)ごっこが出来るのだ。
ちなみに、割と強く念じなければならず、ちょっとした考え事程度や過去の記憶とかを共有出来る魔法ではない。
ジルベールの領主が凄惨な事件に遭った翌日9月9日、レッペレット連邦のロッケント付近へ【瞬間移動】し、そこの目印の魔石を回収。
いつも通りに空を飛んで、西側へと旅を再開した。
目的地は、レッペレット連邦の西側にあるミルキカイワ王国。これまた海に面しているらしい王都サカニを目指す。
高地の多いザルチャ地方を抜け、平地で形成されているキレ地方に入る。
乾燥した大地が広がり、人の活動区域は基本的に川沿いの水のある所に限定され、農地も水辺にポツンポツンとあるだけだ。
すぐに川とはオサラバし、荒れ地の光景が眼下に広がる。途中、関所のような所があったが、恐らく国境だったのだろう。飛んでるオレには関係無いことである。オレは今、鳥なのだからな!
しばらく行くと、低めの山地とそれに寄り添うような森が見えて来る。森を従えるように水量のある川があり、海へと流れ込む付近に人の切り開いた街が存在していた。
森の広がる速度と、人の切り拓くスピードが鬩ぎ合っているのだろう。ともすれば大自然に飲み込まれそうな街の様子が、心許無く見えた。
少し高度を下げると、馬車と、それを襲う者が争っているのが見えた。
馬車は二台。一つは人が乗るような造りで、もう一つは荷物用の幌が付いた物だ。
襲っているのは20人……いや、30人近いか? 結構大人数だ。
近くに寄って、上空から声を掛けてみる。
「もしもーし! 加勢は必要か!?」
何人かが周りを見回す。だが、そっちじゃない。上だ、上。
「誰だか知らんが、加勢してくれ! 謝礼は払う!」
馬車を守るように立っている人が、ヤケクソ気味に言い放った。
「良し、分かった」
飛行魔法を解除し、そのままスチャッと、その人物の横5メートルほどの所に着地する。
「うわっ!? どこから来た!?」
「東の方からだ」
多分、そう言うことじゃ無いとは分かってる。
「新手か!? 死にたいのか、貴様! 手出しをしなければ、見逃してやっても良いぞ?」
大人数で襲っている側の一人が、オレに向かって勧告して来た。
「一応ハッキリさせておきたいんだが、襲っている方は野盗か賊と言う認識で良いんだよな?」
「その通りだ! 襲われてる我々は、ビュヘット男爵様の一行だ」
「はっ! たかが貧乏男爵、オレたち盗賊団、『夜闇よりも暗き黒の団』の敵じゃねえ!」
「そうだ、そっちの護衛は三人とも倒した! あとはお前と御者と、男爵本人だけだ!」
「野郎ども! 勝利は目の前だ! 一気にやっちまうぞぉ!」
「「おおっ!」」
何だか、盗賊団の士気が上がっているようだ。
「あー、念の為言っておきたいんだが」
「ん? 正義の味方ごっこは、時と場合と場所を選んでするんだな! まだ死にたくないだろ? 帰ってクソして寝な!」
「ゲラゲラゲラ」
「良いから言わせろ。……死にたくなかったら、武器を置いて抵抗せず、降伏しろ」
途端に、戦場だったはずの一帯が静まり返る。
「……おい」
「舐めてンのか? てめェ」
「殺すぞ?」
「むしろオレが殺すわ。あ、手が滑った」
そう言って投げナイフを投擲して寄越して来たが、既に【肉体強化】や技能の<臨界突破>は完了しているので、ナイフの刃の部分を指で挟んで止める。
「おっ?」
「意外とやるじゃねぇか」
「おい、余裕で止められてるゾ」
「……うるせぇ、本気じゃなかったんだ。今度は三本同時に投げてや……」
「『火よ、風よ。燃え盛る嵐と成りて焼き尽くせ。FireStorm【炎の嵐】』」
視界内にいる30人近い盗賊たちを、全員ターゲットにした【炎の嵐】を発動。
人が炎に焼かれ、燃え盛る。髪の焦げる臭い、皮膚が焼けて痛みに絶叫する盗賊たち、脂に火が移って人の焼ける臭いが辺りに満ちる。
「こ、これは……!」
「盗賊ならこれで十分だな」
「何事か! ……これは一体!?」
馬車の中から出て来た、恰幅の良い男性が絶句していた。
しばらく警戒して様子を見ていたが、盗賊たちはあれで全員のようだった。5分ほどして燃える為の燃料が尽き、30人近い人間の燃えカスが残った。骨の芯まで融けるほどの、高火力の魔法だからな。
「見ての通り、オレが助太刀して盗賊を燃やしただけさ」
「幾ら何でもこれは、非常識な威力……」
高威力の【巨岩大砲】換算で5発分ほどの魔力量を消費したしな。オーバーキルも甚だしいのは確かだ。
でも、死体の処理とか考えると手っ取り早い。
「いやはや、助かりました。察するに、御高名な魔法使い殿とお見受けしますが」
貴族の男爵様が、腰を低くして来た。
「ランクAのハンターをしている、ミツル・高坂だ」
「ランクA……! さすがと言うべきでしょうか。どうです? 王都サカニまで2時間ほどですが、御一緒に……」
「うん? うーむ……」
飛んで行けばすぐそこのサカニ。馬車で行くと2時間近く掛かるらしい。時間の無駄なんだが……。
「お礼もしたいですし、是非!」
結局、このビュヘット男爵に押し切られ、同行することになった。
まあ、切羽詰った旅じゃないし、こんな無駄もたまには良いかな。
街の外壁では、さすがに貴族待遇の為、順番を待つことも無く入ることが出来た。賓客扱いのオレも、ノールックノーチェック。
高級な宿に泊まるらしく、宿の使用人が何人も出て来て、馬車を誘導したり、手荷物を運んだり、客室まで案内したりしていた。
その使用人に追加の金を払って、城への伝令役と傭兵ギルドへのメッセンジャーを任せてもいた。
「もし良ければ、私がここの支払いをしますので、泊まられては?」
とビュヘット男爵が言って来る。
「いや、泊まる当てはあるし、そこを今から断るのは悪いから」
そんなのは無い。ウェントの屋敷に戻るつもりだ。
それにしても、男爵の割に結構金払いが良いんだなぁ。
「ん? ああ、もしかして金遣いが荒い、などと思ってますか?
懐がそれなりに温かいのは確かですが、これくらいは必要経費ですよ。
たまにしか来ることの無い王都に、わざわざ屋敷を建てて維持する。そんなお金の掛かることよりかは、年に数回泊まる際にある程度金を使うのは、効率的だと考えてます。
まあ、もっと偉い方でしたら、王都にも私などより頻繁に訪れるでしょうし、屋敷を持つ意味があるのでしょうけれどね」
そう言うものなのか。
「宿の者には我が領の材料を渡し、既に料理させてます。自慢の郷土料理、是非とも味わって下さい」
聞くと、料理が出来るまで、小一時間ほど掛かるらしい。
それまで、市場を見て回りたいと言ったら、「少ないですが、先ほどの礼です」と小金貨10枚の入った小袋を差し出して来た。お小遣いだな。
最近、金銭感覚が麻痺して来てる気がする。
王都内での市場は、それなりの品揃えだった。
南北に長い領土の為か、バリエーションはそこそこあったのだが、鮮度は微妙と感じる。冷凍・冷蔵技術も未熟だし、輸送に関しても現代地球と比べるべくも無いからなぁ。
それでも幾つか気になったのがあったので購入し、【遅延】を掛けたりして『アイテムボックス』へと放り込んだ。
ウナギっぽい魚も見かけたので、あるだけ買って、魔法で氷漬けにし、保存してある。普通に料理したら、煮凝りみたいになるんだろうか? 折角だから、オレは蒲焼きを所望するぜ!
醤油あるしな。山椒も完備だ。御飯だけは、ちょっとグレードが下がるが……仕方あるまい。
男爵の居る高級宿へ戻ると、料理はもう出来上がっているようだ。
「さあ、早く! この料理は出来立てが一番ですぞ!」
と待ちかねた男爵に急かされてしまった。オレが来るまで待ってたらしい。律儀な人だ。
席に着くと、宿の従業員が早速料理を持って来る。
「これこれ! ジャガ芋に豚の厚切りベーコンと大量かつ様々なチーズを掛け、塩と胡椒で味付け。じっくり焼き上げた一品です。我が領自慢のチーズとベーコンが、存分に味わえますぞぉ」
ほぅほぅ。これはなかなか……。
もうちょっと気温の低い地域だと、更に美味しく味わえそうだ。
ここらは熱帯か亜熱帯で気温が高いが、そんなの気にせずに、ハフハフしながらアチチと言いつつ、チーズの掛かった芋とベーコンを頬張る。
「これは……美味い」
素材が良いのもあって、素朴ながらとても美味しい一品に仕上がっていた。
「でしょう! 庶民的過ぎるとか、貧乏人の御馳走とか言われることもありますが、そんなの気になりません! なにせ、王様だって認めてくれてるんですから」
へえ。こんな大衆的な料理を評価してくれるなんて、ここの王様は気さくなのかも知れないな。
何にせよ、今はこの美味なる物を頬張るだけだ。うンまい!
「ほっほっほ。ミツル殿も気に入っていただけたようで、嬉しいです」
「特にチーズが、今まで味わったことの無いタイプもあるな」
「おや、お分かりですか? では、少しですがチーズそのものを後程差し上げましょう」
「良いのか?」
「ええ。王様に献上する分はさすがに手を付けられませんが、私が自分で消費するように持って来たのを半分程度差し上げるのなら、問題ありません。代わりの食糧を買い込めば済む話ですから」
「それは、申し訳ないような……」
「いえいえ。我が領地の特産品を褒めて下さる方に、悪い人は居ない! 最大の便宜を図るべきだと、確信してます!」
いや、悪い奴は居ると思うけどな。でもまあ、そう言ってくれるなら。
「有り難う」
「フォッフォッフォ」
オレの礼の言葉に、ビュヘット男爵が笑って応える。
そこへ、宿の従業員の一人が男爵の傍に寄って来て、何事か耳に囁いた。
「ほう、明日ですか。いつも通り、我が王は腰が軽いと言うべきか……。そうだ! ミツル殿も明日、王への謁見に御一緒されませんか?」
「え?」
唐突な提案にオレは一瞬料理の味を見失ったが、チーズ塗れのベーコンを新たに咀嚼することで、香ばしさに脳を蕩けさせた。
所持現金:8億9152万円相当+Gold 11,685kg+32億円相当のファフレーン小金貨(予定)




