059 傲慢
分割するのも切りが悪かった為、いつもより長くなってます
最初は、前回の分と合わせて一話にしようとしていた無計画っぷり
村外れの牧場から飛び立ち、まずは丘を抜けて鍛冶場をチェック。飛び立つ前でも、視界内に捉えることが出来た場所だ。
少し離れた所に川があり、川幅は5メートルと言った所。そこで作業をしている人が何人か居た。
川の先には、砂利が敷かれた細い道があり、山の上の方へと伸びている。そのまま辿って行くと、割とすぐに広場へと到着。皮鎧を着たおっさんと、何人かの男達がいる。
面倒なので、高度を落としてから飛行魔法を解き、近くへと着地した。
「なっ!? 何者だ!」
皮鎧のおっさんが、誰何して来た。
「あー、突然すまん。アンタがポロスさん?」
「……そう、だが」
不審者への対応となっている。
「ちょっと銀山に興味があってね。見学に来たんだ」
「見学、だと?」
オレがギルドカードを出し、名前の所を指で伏せてランクAと書かれている所を見せると、少し態度が変わった。
「見ても面白いものでは無いが」
「そうか? まあ、今晩の酒代くらいは奢ってやるから、説明出来る範囲でオレに教えてくれないか?」
指で大銀貨1枚を弾いて渡すと、ポロスさんの表情がニンマリとしたものに変わった。
「んっ、ん~。そうまで言うのなら、軽く説明して差し上げるのも、吝かでは無いな」
チョロい。
まあ、鉱山奴隷の監督役なんて、基本的に暇だろうしな。
「ではまず、ここにある坑道についてだが……中は1km近くまで掘られ、銀を含む鉱石を採掘している。
中は狭く、人が一人か二人しか作業出来ない。足場も悪く、劣悪な環境の為、犯罪奴隷を使って採掘作業を行わせている。ああ、部外者を中に入れることは、規則で出来ないから、その点は諦めてくれ。
坑道へは一度に入れる人数が少ないから、ローテーションで休憩を多めに取らせているのが、ここの特徴だ。良くある、奴隷を使い潰すタイプでは無いので、奴隷の彼らも待遇への不満は少ないはずだ。
他に、麓の鍛冶場近くの水場で、鉱石を砕いて細かくし、選鉱を行っている。
得られた純度の高い銀鉱石の欠片から、鍛冶場の職人の手により銀が抽出され、そのまま小銀貨と大銀板へと加工される。
一日の枚数? 平均すると、小銀貨は40,50枚、大銀板は4,5枚だったか。それほど多くないな。それに、出来上がった貨幣の半分近くが、作るまでの経費みたいなものだ。純粋な利益はそれほど大きくはない。
二ヶ月に一度、リャパに居るジルベールの現領主様の所へと、馬で銀貨を運んでいる。この時が、私の休暇みたいなものだな。おっと、この話は余計か。
まあ、話しても問題無いのはこんな所だ。正直、ここの鉱山は小規模で生産量も多くないから、あまり重要視はされていない。
もっと大規模な所なら、守秘義務も厳しくなってくるのだろう。だが、精々20人程度が働いているここでは、大したことはない。
とは言っても、あまり大っぴらに話したりはしないでくれよ? 秘密では無いが、積極的に広める内容でもない。貴様ならその点大丈夫だと信頼しているのだ」
信頼とは一体。一見さんだよ?
「ああ、有り難う。参考になったよ。……採掘した鉱石を、少し見せて貰っても?」
「……どうぞ」
目の前で人が見ているのに、チョロまかすようなことはしない。そんなことが出来るとしたら、その手のプロだ。
まじまじと鉱石を見ると、ミドリから聞いていた輝銀鉱と濃紅銀鉱の組み合わせらしく、黒みを帯びた銀色の鉱物が主で、やや不透明な暗赤色のルビー・シルバーがたまに見える。
一種類だったら魔法で抽出の際に楽だったのにな。その点で、金の方が楽だ。
「坑道の入口近くも、この鉱石と同じタイプか……?」
オレの独り言に、ポロスさんが追従する。
「ああ。しかし、入り口付近はそれほど銀が含まれてはいないし、奥の方を掘った方が実際の効率は上だ」
「ふむふむ。……この付近で土魔法を使用しても?」
「……構わない」
責任者の許可が取れたので、輝銀鉱のAg2Sを意識して魔法を使う。
「『混ざりし物よ、分かたれよ。ComponentExtraction【成分抽出】』」
続いて、濃紅銀鉱のAg3SbS3を意識して【成分抽出】の魔法を使った。意識すると言っても、実際に目で見たルビー・シルバーをイメージしているだけだが。化学式だけで構造までハッキリと想像できるほど、オレの頭は良くない。
魔法の行使の結果、15kg弱の輝銀鉱の粉末と、3kg強の濃紅銀鉱の粒子が、地面から染み出すように出て来た。
「こ、これは!?」
「土魔法の【成分抽出】と言う魔法だ。魔力量を大量に必要とするが、岩石などから狙った成分を抽出出来る」
「ほう、それは素晴らしい!」
「ちなみに、今の魔法2回の消費で、【火球】が20発近く撃てる」
「…………」
【火球】20発と聞いて、ポロスさんが沈黙した。詠唱文言に習熟して消費を減らしても、【火球】10発も撃てれば達人と見做されるからな。
「勿論、オレの魔力量はまだ大分余裕がある」
おもむろに【火球】を10発、自身の周りに待機状態で浮かせて見せた。威力は低くて良いから、無詠唱だ。
「ひぇっ!?」
指パッチンをして、待機状態の【火球】を消して見せた。今のオレ、格好良い。良くない?
「で。今抽出したこの鉱物、銀貨に加工するとしたら、労力が減るんじゃないか?」
「何? どう言う意味だ?」
唐突な話だし、戸惑うのも無理は無いか。仕方ないので、少し腰を据えて、計画について詳しく話した。
「つまり、貴様が……失礼。貴殿がこの鉱山から魔法で銀の鉱物を抽出し、ジルベール家のこの鉱業を手伝う、と言うことか」
「そうなるな。まあ、あくまで提案だ。断って貰って構わないし、こちらも利益が出るような契約を結ぶつもりだ」
「……どう言った内容だ?」
まず前提条件として、この鉱山では1日に2kgほどの銀の鉱石を産出している。(純粋な銀の含有量としては800g/1日ほどとなる。年間として、純銀としては280kg前後。実際には銀含有量40%くらいの銀貨として鋳造・輩出しているので、700kg程度の重さの銀貨が毎年作られている)
これと同量の銀の鉱物を、既存の基本採掘量として最低限ジルベール家に提供。同じ量を、オレの方でも享受出来るとする。
そして既存の2倍を超えた分は、1割をジルベール家、9割をオレが貰う、と言うものだ。
「同じ量を享受? 暴利では無いか? それに9割と言うのは、論外だろう」
「そうか? 採掘や選鉱の手間が無くなるんだ。必要なくなった労力を別の所に振り分けられるし、十分だと思うけどな。9割と言うのは確かに多く思うかも知れないが、そもそも既存の採掘量を増やしたり、2倍以上までにする労力を考えると、そんなでも無いはずだ」
「それは、まあ、一理あるかも知れんが……。我々には採掘量を増やすなど簡単には出来ないから、その点は貴殿次第であるのは確かだ。だが、私にそんな裁量は与えられてないぞ。仮に交渉するならば、ジルベールの現領主様にだろう」
「まあ、そうなるか。出来たら、仲介となる紹介状を用意して貰えると助かる」
「……それくらいなら、用意しよう。簡単な物になるが構わないな?」
「ああ」
ポロスさんはオレの返事を聞くと、広場の端の方にある小屋の中へと入って行った。
10分ほどすると、羊皮紙を丸めた物を手に持って、小屋から出て来る。
「要点しか書いていないから、詳細な説明は自分でして欲しい」
「十分だ、助かる。有り難う」
礼を言って頷き、紹介状の羊皮紙を受け取った。
領主の居るらしいリャパの街へ行こうと、飛行の為の魔法を使って空を飛ぶ。ジルベールの村がすぐに見えて来て―――
「そうだ。あの嬢ちゃんがどうして酒場であんなことになっていたのか、少し気になるな」
例の牧場へと、行き先を変更した。
夫婦と少女が、牧草を刈ってまとめている。そんな作業をしている所へ、空からお邪魔した。
「よっ! さっき振り」
「うわぁっ!?」
「きゃあっ!」
「……あ。さっきの旅の人」
少女以外は吃驚していた。
「いきなり過ぎだよ! 空を飛ぶ人なんて珍しいんだから、驚かせないで!」
実は少女も驚いていたようだ。
「キヤナ、知り合い?」
「うん! さっき酒場で、牛のミルクを買ってくれた人!」
「これはこれは。娘がお世話になりました」
「御丁寧に、どうも」
形式的なやり取りをする。
「それで、何か御用でしょうか?」
キヤナと言う名らしい少女の、その父親が尋ねて来た。
「まあ、その。酒場でのやり取りが気になって……。良ければ話を聞かせて貰えないかなと」
「それは……構いませんが。面白い話ではありませんよ?」
そう断って来たが、オレが頷くのを見て語り始めてくれた。
「そうですね……私たちの祖先、祖父がこの地に住み始めた頃から遡った方が、分かり易いでしょうか。
今でこそ、牧場の広さの割に家畜が少ないですが、初めは100頭近い馬を扱っていたそうです。私も幼い頃から、馬を乗り回していました。乗馬技術はこの村でも一番だと、自負しています。
しかし今から15年ほど前、北のラナルカ王国が攻めて来たのです。
戦場は幸い、西部のキレ地方でした。けれど、同じ国に属する者として、戦争の手助けをしない訳には行かなかったのです。
御存知でしょうが、馬は貴重な資源であり、戦略物資でもあり、騎兵などの戦力に直結する重要な生き物です。当然、馬の供与を求められました。
それに猛反発したのが祖父です。徴発に来た軍部のお偉いさんに突っ掛かり……反逆罪として処刑されました。
私の父は、泣きながら軍に馬を引き渡しました。
残された馬の数は、僅かに5頭。父は心労で病気になり、間もなく死亡。私も弱っていた所を、今の妻に支えられて何とか生き延びた次第です。
戦争は、双方の痛み分けで2年ほどで終わりました。
結局、馬の代金は支払われていません。ジルベールの領主様やリャパの大領主様に嘆願の手紙は出しましたが、色好い返事はありませんでした。
牧場を少しずつ農地に変え、生活出来るように頑張ってはいるのですが、勝手が違いますからね。苦心している次第です。
祖父が貯めていた貯蓄も尽き始め、生活が苦しくなったのを娘のキヤナも感じ取っていたのでしょう。自家用に絞っていた牛のミルクを、売れないかと試行錯誤してくれました。その結果、何とか村の酒場に置いて貰えることになったんです。
それが今から、3年ほど前でしょうか。始めた当時はそこそこ売れていたようです。
しかし―――今日の話を聞いて、事情が変わって来たのだな、と思いました。
正直な所、もう限界です。馬を増やすにしても、元手が必要だ。領主様たちから補填があるなどと考えず、少しでも余裕があるうちに全財産を叩いて、馬を何頭か買って増やせる環境を作るべきだった!
……後悔するばかりです。
スミマセン、詰まらない話で」
目頭をそっと押さえて、キヤナの父親は堪えていた。
怒りと悲しみが混ざった、複雑な表情だ。
「馬以外にも、牛の世話が出来るのか?」
「……そうですね。今、家には馬が5頭、牛が5匹居ます」
父親の代わりに、奥さんが答えてくれた。
「何故牛が……?」
「それは……」
「徴発の際、それまで仕方なく牛に曳かせていた分が不要になったので、下賜すると。笑えますよね」
うぅん、笑っちゃイケナイ気がする。
「どちらも草食の大型動物ですから、飼育の扱いにそれほど大きな違いは無かったのが幸いです」
そうなのか? まあ、豚や鶏よりかは近いだろうけど。
「うーん。牛などの扱いに慣れている人が、欲しい可能性はあるな。……もしオレの組織で働いて欲しいと言ったら、付いて来てくれるか?」
オレの話を聞いた親子三人ともが、キョトンとして目を瞬かせていた。
結論から言うと、国外へ出るには領主の許可が必要だと言うことだった。
三人は乗り気ではあったし、【瞬間移動】で戒へ相談しに戻り、簡単な会議をした結果も、受け入れオッケーだったのだが。
要は、ジルベールの領主にキヤナ・ノルディーンら三人の移住許可を貰えば良いってことだ。
再度ジルベールの村に戻り、三人には必要な荷物を軽く纏めておくように言っておいた。牛と馬については、現状維持で。
リャパの街まで飛行で10分ほど。
街へ入り、ジルベールの領主が居る館を聞いて、そこの門番にポロスさんからの紹介状を渡して貰った。
「お会いになるそうだ」
暫くして、面会の許可が出た。
それほど広くも無い館の廊下を歩き、応接室へと通される。
『アイテムボックス』から、オレが魔法で抽出した輝銀鉱と濃紅銀鉱の入った袋を取り出しておく。
五分ほどして、領主と思しき人物が入って来た。
「初めまして」
礼儀に乗っ取り、立ち上がって挨拶をしておく。
「楽にして構わん」
やや厳つい顔をしている。
「ポロスさんに無理を言って書状を書いて貰いましたが……」
「目は通させて貰った。いまいち概要が掴めんので、詳しく説明して貰おうか」
少し前に、ポロスさんにした説明と同じ内容を話す。
現在採掘している量と同じだけの銀の鉱物を提供。それと同じ量を、オレも銀山から取る権利を貰いたいこと。そして更にそれを超えた分は、1:9でオレが貰うと言うもの。
「話にならんな」
「そうでしょうか? 採掘や砕石、選鉱に必要な人手は、少なくありません。それがゼロに近くなるのですから、十分なメリットでしょう」
御貴族様相手なので、さすがに丁寧な言葉を選んでいる。メッキみたいなものなので、すぐ禿げそうだが。
「……だとしても、精々が半分と言った所だ。超えた分についても、2/3を我がジルベール家に差し出すべきだ」
「それは少々暴利かと。現状で、更に採掘量を増やせる当てでもあるんですか?」
「人を増やせば、少しは増えよう。今の少人数体制が一番割が良い故に、そうしているだけだ」
「ちなみに、これが魔法で抽出した銀の鉱物になります」
なかなか譲歩してくれないから、半分諦めることにした。先ほど『アイテムボックス』から取り出した二つの袋を差し出す。
「……ほお? これほどの物が手に入るのか。これを一日で?」
「正確には、2回の魔法行使で、です。2分と掛かりませんよ」
「何!?」
予想を遙かに超えたらしいオレの答えに、ジルベールの領主が浮足立った。
「もっとも、その2回の魔法で、【火球】20発が撃てる魔力量消費となりますが」
「【火球】を20発!? バカなッ! 有り得ん!」
「信じる信じないは御自由になさって下さい。それより、今日は別件でもう一つお願いしたいことがありまして……」
興奮した領主をスルーし、別の話を振ってクールダウンさせようと画策。
お願いとは、ジルベールの村の親子三人の件だ。簡単に彼らの現状を説明し、移住を希望していると打ち明ける。
「彼らをこちらの部下として働かせたいので、移住をさせたいのですが……どうやら、領主様の裁可が必要とのことで」
「うむ、確かにな」
「こちら、心ばかりのモノとなります」
そう伝えて、小袋を差し出した。
中を覗き込んだ領主が、笑みを浮かべる。小金貨10枚は、賄賂として強力だろう。
「ノルディーンの三人の家族だったな? すぐに許可証を発行しよう!」
「いえ、そんな。お仕事中でしょうし、お手を煩わせる訳には……」
「何、急ぐ類の仕事は無い。30分も待たせないからここで待っておれ」
そう言い放つと、金貨の入った小袋の口を締め、懐へ入れて応接室から去って行った。
待っていると、ハウスメイドの手により、お茶と菓子が出て来た。今までは茶を出すべきか迷う客扱いだったようだ。アポイントメントをお持ちでなかったからな。
甘味の薄い、明らかに砂糖の入っていない菓子を齧りつつ、青い液体を啜る。
喉がスッとする珍しいハーブティーだった。これ欲しいかも。
「待たせたな」
出て行ってから15分も経っていないが、領主が戻って来て丸めた羊皮紙を渡して来た。
紐を解いて中を検めてみると、ノルディーンの親子三人の名前が記された、領外移住許可証になっていた。
「日付がありませんが……」
「お、おお。そうだったか」
『アイテムボックス』から羽ペンとインク壺を取り出し、差し出す。また執務室か自室にでも移動されると、余計な時間が掛かって仕方ない。
「これは……いや、気が利くな」
その場にある応接室の机の上で、許可証に今日の日付、9月7日を記してくれた。年号は聖暦で、今年のものとなっている。
「これで良いか?」
「……ええ、ありがとうございます。では、そろそろ失礼させていただきますか」
「そうか? 先ほどの銀山の件は……」
「それについては、そちらでも考える時間が必要でしょう。また明日以降にでも伺いますので……いつ頃、御都合が宜しいでしょうか?」
「う……む? 明日! 明日の午前、空いているぞ!」
苦笑しながら、頷く。随分とせっかちだ。
「分かりました。明日の午前中にまた伺いますので」
「そうか。門番には通すよう伝えておく」
そっちの交渉は上手く行くか微妙だけれどな、と言う心の声は、口から出さずに済んだ。
【瞬間移動】でジルベールの村へと戻り、キヤナたち親子三人に移住の許可証を貰えたと伝えた。
「本当ですか!?」
「こんなに早く? 嘘でしょう……」
「わー、旅人さんスゴーイ」
目の前で羊皮紙を開いて見せて、ようやく信じてくれた。
「と言う訳で、スエズエ共和国のウェントの街まで、移動しようか」
「家財道具は必要なのをまとめてはありますけど……」
どれほどかと見に行くと、そんなに無かった。一番多かったのは奥さんの分で、料理道具などが結構あった。
『アイテムボックス』へとドンドン入れてしまう。
「牛さんと馬さんはどうするの?」
「それは……」
「残念だけど、お別れかしらね」
三人で何やら覚悟を決めているようだ。
「家畜が死んでしまう可能性はあるけど、試したい方法がある。任せて貰えるか?」
「……ここまで来たら、否やは無いでしょう。お任せします」
「弱い雷で仮死状態にした後、『アイテムボックス』に収納。現地で蘇生措置を取るつもりだ」
「……生き返るの?」
「半々だな」
オレの言葉を聞き、少女のキヤナが涙を溜めた目で、牛と馬たちにお別れを告げ始めた。
半ば家族みたいなものなのだろう、随分と感情が篭っていた。
【感電】でのショック死は少し離れた所で行い、土魔法で即席に作った石の箱に入れ、【遅延】魔法を掛けてから『アイテムボックス』へと入れた。地味に魔力量消費がエグい。
キヤナの両親は、最後に村長へと挨拶したいと言っていたので、許可する。後ろから付いて行くと、どうやら酒場では無い方の大きい建物が、村長の家だったらしい。
五分ほどの短いそれが終わり、村中を周って酒場のマスターや世話になった人へ、一言二言別れを告げて行く。
こう言うのが煩わしいなぁと思いつつ、必要なことでもあるかと考え直す。関係を断ち切るなんて、人間そう出来るものでも無いし、やる意味がない。
「それじゃ、そろそろ行くか」
「……馬の付いていない馬車を出しましたが、これは一体?」
「さあ、乗った乗った!」
「え? ちょっとまっ、質問に!?」
「あらあら、乗れば良いのかしら?」
「何だか楽しそう!」
三人とも乗せて、出入り口をしっかりと締める。
「移動中、外に出たりしないように!」
そう注意を飛ばして、飛行の魔法を自分と馬車の両方に掛けた。
「私は、生きてるのだろうか……?」
「ふわふわするわ~」
「楽しかったね! お空の散歩!」
スエズエ共和国のウェントに着いた頃には、夕暮れ時になっていた。
着地点は、屋敷から少し離れた所にある、牛を飼っている所だ。
さっさと馬車を収納し、仮死状態のはずの馬と牛の入った石棺……もとい石の箱を、柵の中で取り出した。
「まずは弱めに 『痺れろ。ElectricShock【感電】』 そんでもって 『怪我よ治れ。healing【治癒】』」
【感電】の魔法は、心臓マッサージ的な効果を期待。
馬は3頭、牛は4匹が息を吹き返したが、馬2頭と牛1匹は何度か衝撃を与えてもダメだった。
「うえぇぇぇえええええん!」
キヤナが大泣きしてしまうが、こればかりは仕方あるまい。
『泣き止むんだ』と言いたくなるが、グッと堪える。オレにとってはただの家畜の死だが、彼女にとっては家族の死なのだ。
「話は通してありますんで、明日からこの牛舎……馬が混じったので厩舎と言うべきですか。そこで働いて貰います。良いですか?」
「はい」
「ええ」
戒が手を回してくれていたので、後は任せてその場を立ち去る。
泣く子は苦手だ。
翌日。リャパの街のジルベールの領主を訪ねる。
応接室に案内されると、既に領主が待ち構えていた。
「おおっ、来たか!」
「ええ、まあ」
昨日と違い、部屋で待機している兵士が一人から四人へと増えていた。
案内してくれた門番も、扉の傍から動かない様子なので、しめて五人となる。
「昨日の話、考えてくれたかな?」
「ん? ……ああ、まあな。こちらとしても利益が出るのならば、一考の価値がある」
オレは懐から3枚の書類を出す。3枚とも同じ内容だ。契約者双方と、第三者で保管する用の合計3つ分を用意してあるだけだ。
「これが契約の書類だ」
「……何?」
領主が意表を突かれた様子で、慌てて内容を読む。
「何だこれは! 昨日お前が言っていたことと変わらない条件ではないか!?」
「その通りだ。不服があれば、契約不成立と言うことで引き下がるが……」
「冗談ではない!!」
怒りのあまり、領主が契約書のうちの一つを縦に破り捨てた。
あーあ。戒が夜鍋して作った契約書なのに。いや、夜鍋かどうかは知らないや。ちょっと遅くまで頑張ってたってだけだ。
「こんな条件が飲めるものか! これから互いに歩み寄って、詳細を詰めようと言うのに、これは無いだろう!」
「この条件が受け入れられないなら、契約を結ぶ価値無しと、こっちは判断してるんだ。議論は無駄さ」
「はぁ?」
ポカンとした表情で、領主が止まっている。
少しして口を閉じると、兵士に目配せをしてこちらに向き直った。
「勘違いしているようだな。こちらの出す条件を飲まないと言う選択肢は無い」
不敵な笑みを浮かべ、領主が顎を刳った。
兵士の一人がオレの背後に陣取り、長剣を抜く。
「手足が片方無くなっても、魔法を使うのに支障はあるまい? ……拒否したら斬れ」
そう指示を飛ばし、オレに笑みを向けて来た。
「どうかね? 現在採掘している量の二倍、選鉱した後の銀の鉱物をこちらに提供し給え。その1/10の量まで、お前が得る権利をやろう。更に超えた分は、9:1でこちらが9割貰う。これで手を打とうじゃないか。うん?」
「断る」
「……やれ」
話にならない条件を出して来た領主に、お断りを入れた。領主ちゃん怒って暴発。
(『痺れろ。ElectricShock【感電】』無詠唱・並列発動)
<臨界突破>は事前に色々やってあったので省略。6発の【感電】が、兵士と領主に放たれた。
「あぎゃあ!」
「うぎゃっ!」
「あががっ!?」
「ギッ!?」
「っ!?」
「いぎぃ!」
毎度バリエーションが少なくて飽きて来たが、一番無難な対処法なのでワンパターンになるのも道理なのだ。
でも、今回は攻撃の意志がハッキリしてたし、これで終わらせるつもりはない。
「攻撃して来たってことは、反撃される覚悟があるってことだよな?」
抜剣されていた長剣が、絨毯に転がっているので拾う。
領主の顔を左手で掴み、剣を無造作に振るった。
「ぎゃあああああああ!!」
領主の左の太腿に斬り付けた。半分くらいで骨に阻まれ、剣が止まっている。
「剣は苦手だから、上手く斬れないな」
領主を解放し、剣を両手で持って、今度は【肉体強化】を使ってから切断途中の左足を狙った。
ブヅン。繊維と骨の断ち切れる感触がし、左足がきちんと分離され、領主の絶叫が響き渡る。
「あああああ!? 足がぁ! 私の足がああああ!」
「ウルサイ。喚くな。……そうだ、さっき何か言ってたよなぁ」
「わ、私は貴族だぞ! 手を出したらどうなるか、分かっているのか?」
「お前こそ、現状が分かっているのか? 護衛は全員倒され、抵抗する手段は無し。普通、命乞いの一つでもするところだろ?」
「……そ、そうだ! アレだ、昨日の何だったか……三人の移住、その許可を取り消されても構わないのか!? 私の命令一つで移住は出来なくなるし、状況によっては命だって簡単に……」
何言ってんだコイツ。しかも言ってる内容がゲスい。
「もう移住は完了したぞ? 昨日のうちにな」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。ウケるんですけどー、プークスクス。
「そうそう、思い出した。確か、『手足が片方無くなっても、魔法を使うのに支障はないだろう?』だったか? 自分の言動には責任を持とうな。
『手足が片方無くなっても、政務を行うのに支障はないだろう?』」
その言葉を聞き、領主は深い絶望に染まった表情をした。
その時のオレは、とても良い笑顔で笑えていたと、確信出来ていた。
その日、ジルベールの領主の館では、『客人が酷い悲鳴を上げるかも知れないが、気にする必要は無い』と厳命されていた。
その為、昼近くになるまで、応接室に近寄る者は居なかった。取り込み中だと判断されたのだ。
発見された領主は気を失っていて、右手と左足が欠損した状態であったが、傷跡はワザワザ治癒魔法で塞いであった。
兵士たちは全員が、きつく拘束された状態で転がされていた。結果的に領主の危機を救えなかった為、彼らは処罰された上、冷遇されることとなる。
領主は意識を取り戻すと、名前も所属も分からない、謎の魔法使いを捕まえるよう命令を下した。
だが、情報が乏しいそれをどうにか出来る者は居なかった。
少なくとも、暫くの間は―――
結論、どっちも傲慢(;´Д`)




