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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第六章:平穏までの距離
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057 黄色い御菓子


 今日はウェントの屋敷にて、戒を交えてミドリと共に話し合いを行っていた。

 たまには目的を忘れて訓練なども免除する方が、身体や精神面で良いと判断したからだ。

 肉体派の人の中には、毎日休まず練習しなければ身体がなまり、1日休んだら取り戻すのに3日掛かる、などと強弁するタイプもいる。けれど、定期的に2,3日以上のまとまった休暇を取るのは、溜まった疲れを解消したりする意味で効果的だ。

 朝の鍛錬は半年近く大体継続してるのもあり、筋力や持久力はかなりついて来た。苛烈な訓練が課せられている騎士などと比べると、その平均にも届かないだろうが、一般的な冒険者・ハンター・傭兵は超えていると思われる。魔法での強化もあるから、平均的な騎士並の体力をとりあえずの目標に、頑張るつもりだ。ブーストするにも、元の性能が高ければ効果も高いからな。

 仕事は、当面は世界を踏破するのがミドリからの宿題であり、これもそんなに急ぐものでも無い。

 オレとしても、今の1日4時間から6時間程度の稼働が性に合っている。早ければ午前中、遅くともオヤツどきには終了。午後の残りはまったり過ごし、余裕があれば魔力の鍛錬に当てると言った具合。魔力鍛錬の前に魔力をバカ食いするきんの採集をするのは御約束。今日みたいな場合でも、きんの収集だけは欠かさない。折角の魔力、使わないと勿体無いし。


きんはかなりの量を入手出来ているようですが、経済的な観念からすると、銀も手に入れたいところですね。銀貨も提供出来れば、バランスが良いです」


 戒が、またお節介なことを言い始めた。


「銀? きんと同じように集められるのか? 廃銀山とかって、あるのかねぇ」

「銀は……自然銀としての排出は少ないでしょうから、化合物や合金として存在する、のでしょう」

「大体そんな感じじゃの。輝銀鉱きぎんこう(Ag2S)、塩化銀鉱(別名:角銀鉱かくぎんこうAgCl)、淡紅銀鉱たんこうぎんこう(Ag3AsS3)、濃紅銀鉱のうこうぎんこう(Ag3SbS3)、脆銀鉱ぜいぎんこう(Ag5SbS4)の形で鉱脈に含まれることが多い。

 まあ、実際に現地の鉱物を確認し、抽出の対象を決めるのが良いじゃろう」


 ミドリが細かい情報を提供してくれる。だが専門的な内容なので、良く分からん。


「銀山に限らず、掘り尽くされた鉱山があったら気にする、程度で良いかと思いますよ」

「ふーん。そう言えば、地球の日本じゃまともに稼働してる鉱山がほとんど無かった気がするけど、何でだ?」

「それは……古い鉱山は長期間資源を提供した結果、枯渇したものが大半だからでしょう。

 古い時代だと採掘技術も稚拙で、生産量も少ないものです。しかし年代が近代に近くなってくると採集の規模も大きくなり、それだけすぐに採り尽くしてしまうんですよ。ですから、現代でも稼働している鉱山は、最近発見されたものばかりです」

「え、そうなの?」

「はい。しかも現代では、数百年前と比べると効率も数百倍です。僅か1年で昔の100年分以上が採掘される訳ですから、余程の埋蔵量で無いと、すぐに無くなってしてしまうんですよ」

「はへー」

「この世界では、中世レベルの採掘技術みたいですから、今しばらくはそこまでの心配は無いですけどね」


 この男、技術革命みたいなのを起こす気満々である。


「そうなると、地球の金山なんてすぐ掘り尽くされちゃいそうだけどな」

「……一応、そう言う予想はされてますね」

「……なん……だと?」

「そうなったらそうなったで、きんの価値が上がるだけです。例えば10倍にもなれば、採算が取れずに手付かずだった所も、採掘を始める可能性が高まるでしょう。日本の場合は人件費などの問題で、閉鎖された所も多い筈です」

「ほーん。確かに10倍とかになったら、砂金採りとかやる人出て来そうだ」


 オレの日課の金抽出も、気分的には砂金採りに近いかも知れん。


「確か、きんってプール何杯分かしか存在しないんだっけか? あ、地球での話な」

「この世界でも、そんなに大きくは変わらんぞ」


 ミドリのツッコミが入る。


「そうかー。そうなると、オレが金だけを抽出するマッスィーンになれば、この世界のきんを粗方ゲット出来ちゃうんじゃね?」

「……それは無理じゃないですかねぇ」

「え? どうして?」

「今、ミツルは1日200kg前後の金の抽出が出来てますよね。この惑星の可採埋蔵量が仮に10万トンとして、毎日やっても1,000年以上確実に掛かりますよ」

「うへぇ」


 結構チートで卑怯なことをやってると思っていたが、人一人だと限界があるな。でもまあ、20年もやれば一人で全体の1%とか取れちゃうと考えると、とんでもない気もする。


「そんな馬鹿な妄想はいい加減にして切り上げて、金や銀の収集は当面の資金源とする程度に留めておくのじゃぞ?」

「分かってらぁ。どうせ国を持たない状況で財力だけのうちは、資金を対価に他人の力を借りている状況だしな」

「……意外と理解しておるのだな」


 『意外』は余計だ。

 そんな折、トントントンと部屋の扉を叩く音がする。


「どうぞ」


 入って来るのは、お茶の用意をして来た草薙さんと、酔っ払ったザルクだった。


「そろそろ、喉が渇く頃合いだと思いまして」

「よぉ大将! 会議は進んでるか? しかしこの酒、うめぇなぁ。メスカルかと思ったら、米を原料にした奴なんだって?」

「それはッ! まだ試作の段階で、日本酒とは呼べない出来だったので、封印していたんですよ!」


 お。日本酒造り、進んでたのか。とは言ってもインディカ米っぽいのしか今の所無いしな。材料からして微妙な線だろう。


「これだけ美味けりゃ、文句出ねぇって! それより、何の話してたんだ? ん?」


 ウザイ。やはり酔っ払いは、いつの時代もクソだな。


「……銀山についてだよ。この世界の銀山ってまだ見たこと無いからな」

「へぇ。銀山見て、どうするつもりなんだ?」

「状況次第だが、手に入れられれば一番かな。銀貨も鋳造出来れば便利だし」

「そっか、そっか。そう言うことなら、ヒッパス地方のどこかに、小規模ながら隠し銀山があるって噂を聞いたことがあるな」

「ヒッパス地方?」

「レッペレット連邦の東部、ザルチャ地方の東側に隣接する地域だ。ザルチャと同じく貧乏な所だが……そもそもレッペレット連邦自体が貧しいか! クカカカカッ! まあ、昔から小規模ながら独自の銀貨を作っていてな。それで周辺国から食料を輸入して、やりくりしている所なんだよ」


 ザルクは酒瓶を呷ると、美味そうに叫んでいた。心底うるせぇ。


「意外な所から、情報が出て来ましたね」

「と言っても、いきなり『くれ』と言って貰えるものでもないだろ。情報収集程度はしても良さそうではあるが」

「明日からの予定が決まりですね」


 戒が嬉しそうに、議事録っぽい物へと書き込んで行く。いつの間に記録を……。


「次は何について話す?」

「ドワーフに注力して貰うのは、ネジ、ベアリング、歯車でしょうかねぇ。早めに加圧器を完成させたいところです」

「戒、お主自身が優秀な技術者で無いのならば、急激に技術を発展させることは難しいぞ」

「……それは、そうなんですが」

「例えば、500年掛かる進歩を、100年に縮めるくらいならば、素人知識の拠出でも何とかなろう。だがそれを、5年や10年に圧縮して実現するのは、ほぼ不可能じゃ。技術は積み重ねが大きい所がある。概念や理論を幾ら先んじて導入しても、それを実践するのに技術が必要で、更にそれ扱うには前段階の技術が必要、と入れ子の様になっとるのが現実じゃ」

「……確かに、そんな所がありますねぇ。でもなぁ、高圧環境を作れれば、空気中の窒素から窒素化合物を作って肥料とかに使えるんですけどねぇ。それを農作物に効果的に使えれば、収穫量が数倍になる可能性もあるんですよ」

「数倍? 肥料一つでそこまで増えるの?」

「いえ、肥料は過不足なく与えないとイケナイですが……。最もネックなのは窒素化合物なんですよね。どの道、本当に数倍にするには、水やリン・カリウムと言った他の栄養分も必要で、更に品種改良が前提みたいなものですが」


 え? 数倍っての冗談じゃなくマジで?


「劇的な効果があるのは小麦くらいなもので、平均すると1.5倍とか3割増しとかでしょうけれどね」


 それでも結構効果あるんだね。


「鉄砲とか火薬はどうなんだ?」

「この世界は魔法がありますし、微妙かと。それに先ほど言っていた窒素化合物、要はアンモニア系があれば、爆薬を作る目途も立ちますし」


 いきなり爆弾が出て来るのか。


「メタノールを酸化させてホルムアルデヒド、これとアンモニアを反応させてヘキサメチレンテトラミンを作って、大量の硝酸でニトロリシス化させればRDXが出来ます。C4つまりプラスチック爆弾の主成分です」


 戒、お前……危ない奴だったのか。


「これぐらい普通ですって」

「どう考えても普通じゃない件について」

「私にだって……中二病的な時期が無かったわけじゃないんですよ……」


 それは分かるが、物騒過ぎだろ! プラスチック爆弾の作り方を覚えてるとか、呆れを通り越して引くわ!


「まあ、色々と危ないので、ある程度技術が高まって安全が確保出来てからになりますけどね」

「心強いんだが、反面怖過ぎて任せたくない自分がいる」


 しばらくは出来ないみたいだし、この問題は先送りにしよう。未来のオレ、頑張れ。


「そう言えば。以前小耳に挟んだ記憶があるのですが……」

「なんだ、言ってみたまえ」

「……核融合炉が、どうとか」

「その話か」


 いつもの怪しい踊りをしていたミドリが、話に加わって来る。


「化石燃料が殊更ことさら少ない世界じゃからの、その代替と言うか先取りと言うべきか、活動に使うエネルギーを得る手段を用意しておく。それだけのことじゃよ」

「石油とかが少ないとは聞いたけど、核融合って危なくないのか?」


 一般人として聞いておきたい。


「危ないとは、もしかして核分裂を利用した原子力発電のことを踏まえて、放射能の危険性が高いのではと言うことでしょうか?」


 オレの聞きたいことを察してくれたので頷く。


「確かに、ウランやプルトニウムの核分裂を使用した発電では、周囲への放射線の危険度が高かったのは事実です。

 しかしそもそも、実験などの初期段階ならばともかく、過去の教訓からやるべき対応が判明している状況では、危険はある程度コントロール可能です。

 放射能汚染の事故は、どれも人災の傾向が強い。やるべきことをやらなかったから、悲劇が起きたに過ぎません。

 例えば、導火線に火の付いたダイナマイトを口の中に入れて遊ぶ、なんてことをしている人が居たらどう思いますか? 死んでしまっても何の不思議も無いでしょう。

 個人的には、それと大差ない認識になります。危ないと分かっていることをやってしまった、その結果です。

 結論から言えば、大事故が起こる危険性を意図的に無視していた責任者は、どんな事情があれどそれを扱う資格が無かった、と言うしかありません。


 それに、核融合は核分裂とは大きく違います。

 まずメルトダウンの危険性がありません。メルトダウンは、核分裂特有のと言っても良い事故です。

 核融合の場合、反応を維持すること自体が困難な為、事故などで何かあったらすぐに反応が止まってしまいます。


 また核融合の場合、ウランやプルトニウムを使った核分裂よりも、放射能の危険度はとても低くなります。一説によると1/1,000以下とか。話半分としても1/100程度でしょうね。

 実際に稼働し始めたりしたら、求められる出力は際限が無いと鑑み、これよりもある程度高くなると推定されます。既存の原子力発電の数十倍、数百倍の発電を求められれば、当然発生する放射線量は増えますから。

 それでも、得られる利益、発熱量からすれば、発生する放射線及び二次的な放射能はかなり低い水準になります。


 以上のように、全く危険が無いとは言えませんが、その危険性はそれほど高くありません。

 ただ、地球の現代社会で、車や飛行機の事故がゼロでは無いのに、大半の人が利用しています。それと同じでしょう。むしろ対処次第では、それらよりも遙かに安全に稼働出来る可能性があります。


 ……こんな所で良いでしょうか?」


 おぅふ。戒が凄い雄弁だった。得意分野だと喋りまくるって奴なのかな。


「随分知識があったみたいじゃな。特に訂正するところもあるまいて」


 ミドリが偉そうにふんぞり返っていた。何様。神様? そう言えば、ミドリの正体って精霊みたいな存在なんだろうか。


「付け足すとすれば、魔法を使えば核融合反応を起こすことは、とても楽になるな。結界魔法で包み込んで、温度魔法の高度な使用法でエネルギー準位を直接上げれば、御茶の子さいさいじゃ!」

「……酷い。幾ら魔法とは言え、人の努力を笑うかのようなあるまじき抜け道ッ! 全世界の研究者に謝れ!!」


 珍しく戒が取り乱し、ミドリを掴んでボディブ○ードよろしく振り回した。


「ワ、ワシに言われても、のう?」


 ヘロヘロになりながら、ミドリが弁明する。戒の気晴らしの為、しばらくオモチャになっていてくれ。


「核融合炉が実現出来れば有用っぽいのは理解出来た」


 と思う。多分、きっと、メイビー。ま、ちょっとは覚悟しろよ。オレの頭に入ってないことを。


「でも、その燃料は正直な所、どうなんだ? 割とすぐに無くなるようじゃ、困るんじゃないか?」

「その点は大丈夫でしょう。重水素を燃料と想定しますが……」

「ん? 重水素って何ぞ?」

「……水素のちょっと重いバージョンです。普通の水素の原子核は、陽子が1個だけですが、重水素は陽子1個と中性子1個の約2倍の重さ。性質も、普通の水素とちょっとだけ違うので、その違いを利用して分離すれば、海水から手軽に抽出出来ますよ」


 む? 高校の授業でちょっと聞いた記憶があるな。


「普通の水素じゃダメなん?」

「……ダメです。普通の水素の原子核、陽子1個同士の核融合反応は、平均反応時間が140億年も掛かります」

「そんなん、待てないやん!」

「あくまで平均なので、太陽のような恒星はこの反応で、エネルギーを発しています」

「随分と悠長だな!」

「まあ、太陽自体が極めて巨大ですから、短い時間スケールで見た場合その極々一部が反応したとしても、莫大な質量が核融合を起こしていることになりますからね」

「うぅむ。これが宇宙スゲーって奴なのか」

「とにかく! ええと、重水素の資源量でしたっけ? 確か、地球の海水に含まれる分から1%だけ採取出来たとして、それでどれだけのエネルギーが得られるかですが……2,100年を想定した日本基準のエネルギー消費を、200億人が行ったとして、約1,000万年から2,000万年ほど支えることが出来る試算、だったかな?」


 ふぁっ!?

 ミドリを見ると、頷いていた。訂正しないってことは、大体でも合ってるのか。


「核融合しゅごい」

「ですから、未来のエネルギーとか言われてたんですよね。机上の空論でもあったので疑問視されて、研究が遅れがちだったのは、非常に残念です」

「なんじゃ、そんなことで研究が遅れていたのか」


 ミドリ先生の地球情報は、オレたちの時代より少し前のものっぽいからな。どんな情報源なのか、微妙に気になる。


「核融合、実現すると良いですねぇ」


 戒が遠い目をしている。


「そうなのか? 話を聞いているとすぐにでも実現しそうなんだが……」

「仮に、万が一、億が一にでも核融合が実現出来なかったら、その分の投資は無駄になりますからね。近年、数億度が維持出来るようになってようやく、かなり可能そうだと言う時勢になって来たところです」


 数億度と言っても、普通の大気の数十万分の一の濃度ですが、と戒が補足する。その情報、要らんて。


「何にせよ、核融合の実現は、知的生命体の重大な出来事の一つと言えるからのぉ。戒の力の入れ具合も、納得じゃよ。

 火の利用、ゼロの発見・発明、それらに並ぶほどの革命じゃからな」

「そうなのか? ただのエネルギー的な変革だと思うけど」

「主に恒星から発せられるエネルギーを利用していたそれまでとは、明確に線引きされる。それが分からんとは、ミツル。お主……残念な奴じゃの」


 余計なお世話だ!

 何だか小難しい話ばかりだったので、気分転換とばかりにティータイムとすることにした。

 ああ、美味い紅茶が沁みる。お茶請けは……チーズケーキ、だと? 草薙さん、料理の幅広いなぁ。あ、レモンの香りがする。濃厚なチーズの芳醇さと砂糖の甘さ、それにサクサクのクッキーを砕いた下地が心地良い。紅茶を間に挟めば、何切れでも入っちゃいそうだ。

 パクパクパク。無心で貪る。

 結局その日の夕飯は、普段の半分も入らなかったことを、ここに懺悔する。

 だって美味しかったんだもん、仕方ないじゃないか!






高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力1,264 (最大)魔力量175,746


所持現金:8億8964万円相当+Gold 11,685kg+32億円相当のファフレーン小金貨(予定)



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