055 ハーレム野郎
一人娘を連れ去られてしまった夫婦に対し、オレは無視を決め込んで横を通り抜けようとした。
「カゥナ! カゥナは無事か!?」
前方から、若者が声を張り上げながら走って来る。
「イオ君か……カゥナは連れて行かれてしまったよ」
父親の方が、若者に対して簡潔に説明した。
「そんな!? カゥナが何をしたって言うんだ!」
「……もう、生きて行く希望が見えないわ」
イオと言う名らしき若者が憤り、母親が絶望に嘆く。
「そこの人……もしかして傭兵かハンターではないですか?」
カゥナの父親が、オレの方に向かって訊ねて来た。
足を速める。
「もし! そこの方! お待ち下さい!!」
大音量で叫びやがった。
仕方ない、一旦足を止める。
「…………」
「…………」
「オレのことか?」
「ええ、そうです」
人違いを願ったんだが、叶わなかったようだ。人の往来も多くなかったし、甘かったか。
「で?」
「ハンターか傭兵を生業とされてはいませんか?」
「……確かにオレはハンターだが」
「ではッ! 是非、依頼を受けて下さい!!」
ガバッと身を乗り出して近づいて来ると、頭を下げて来た。
「断る」
「お願いします! うちの宿をずっとタダで使って良いですから! お願いします!」
「他を当たれ」
「お願いします!! 正規の手段で依頼を出しても、間に合わないんです! 貴方しか縋る人が居ないんです!」
凄い傍迷惑です。
「わ、私からもお願いします。たった一人、育ってくれた私たちの子ども。それがこんなことになるなんて……生きて行けません」
カゥナの母親も、お願いコールに参加するようだ。
「知るか。オレは忙しいんだ」
「僕からもお願いします! カゥナを助けては貰えませんか?」
おやおや、イオ君とやらまでオレに頼ろうとしている様子だ。
「やることがあって手の空いていないオレに、お前たちは一体どんな対価を払って、どんな仕事を頼みたいんだ?」
敢えて聞いてみる。無駄だけどな。オレが欲しいと思う何かを、こいつ等が出せるとは思えない。
……ん? そもそも王様クラスでも、早々オレを納得させられないだろうから、至極当然だな。
「うちの宿に泊まっていただいても、お代は要りません!」
「貯蓄の小金貨20枚を差し上げます!」
「ぼ、僕も大銀貨15枚くらいなら出せます!」
どれも要らんな。熨斗付けて返すレベルだ。金は幾らあっても邪魔にならないとは言われてるし、仕事達成と言う条件が無ければそりゃ貰うけど。
「で、仕事は?」
キツイ口調で問う。
夫婦が顔を見合わせ、徐にイオ君を眺めた。
「娘を、カゥナを領主から取り戻して欲しい」
「その後は、あの子とそこのイオ君が、この国から出るのを助けてあげて」
「え? 僕!? なんで……」
予想外だったのはオレだけじゃなかったみたいだ。
「うちの子と君が、憎からず想っているのは分かっているよ」
「今更誤魔化しても、成人の日にキスをしたって聞いてるわよ」
「へぁ!? ……アイツぅ」
顔を真っ赤にし、右手の握り拳に力を込めながら、攫われた対象に怒りを向けるイオ君。微笑ましいな。
「だが、お断りだ」
現実は非情である。
「そんな!?」
「そこを何とか!」
「お願いします! お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします……」
たっぷり息を吸って、溜め息を吐く。
「お前らなぁ。そもそも、そんな権力者に盾突くようなことをして、その後どうなるかも分からないような馬鹿じゃないだろ? それを人任せにするなんて、覚悟が足りていないんじゃないか? お前らの、カゥナって娘への愛情は、その程度だってことだ。清く諦めろ。どうせ、お偉いさんの妾にでもなるんだろ? 良かったじゃないか、玉の輿で。おめでとう、おめでとう!」
パチパチパチと拍手をして祝福する。これにてハッピーエンド。誰も不幸にならない、優しい結末だ。カゥナって娘の精神的苦痛と、その関係者の苦い思いを除けば、だが。
「……ふざけないで下さい! 私たちの愛情が、薄っぺらいものだとでも言うのですか!?」
「そうですよ! もし娘が帰って来るなら、私は死んでも構いません!」
「……いや、ちょっと待って下さい。そもそも、この人の腕前も知らずに頼んでるんです。仮にも領主様、常時10人以上は近くに護衛がいるでしょうし、屋敷の近くには屯所もあります。すぐに応援を呼ばれてしまって、手も足も出ないと言う可能性も十分ありますよね?」
む? オレが、手も足も出ないだと?
「ふんっ、どれほどの兵が居るかは知らないが、10万人以下なら問題ない」
オレの言葉に、三人は急に白けた表情になった。
「さすがに10万は……」
「もしかして虚言癖のある方だったかしら?」
「実力を大きく見せたいのでしょうけど、これは余りにも……」
おい、聞こえてるぞ。
「お前らェ……。オレは一応、ロークト王国で血塗れ荒野と呼ばれたこともあるんだぞ。ランクもAだ。ほれ」
イマイチ好きじゃない二つ名を名乗り、ギルドカードを見せてやる。
「お、おお……この国には居ない、ランクA……」
「あらやだ凄い」
「初めて見たけど、これはどれくらい凄いんですか?」
説明するのも面倒臭い。『アイテムボックス』から、10kgの金塊を10個ほど、ボトボトとその場に落としてみる。
「これぐらいは大したことが無いと言える程度だ」
唖然としている三人。イオ君が「失礼」と断って、地面に落ちた金塊の一つを手に持ってみた。
「本物……みたいです」
そりゃそうよ。
「これほどなら、実力の方も相当高いと見て、間違いなさそうですな」
「ああ! アナタ!」
「お前!」
夫婦でいきなり抱き合わないでいただきたい。ここ、往来のある普通の道端よ?
まあ、オレも金塊出している時点で五十歩百歩だけどさ。そそくさと、用済みの金塊を回収して行く。イオ君から受け取る際、少し抵抗があった。めっ!
「お取込み中スマンが、オレは仕事を受けるとは言ってないぞ」
「そ、そんな殺生な!」
「後生です。娘をお助け下さい」
「確かに仰ってないですけど……助けられる力があるなら、尚更お願い出来ませんか?」
オレにメリットないじゃん。
「そう言えば、先ほどは私たちの愛情が足りないようなことを仰っていましたね」
「まあ、な」
「では、今からここで、私が自殺します。それで以って、我が娘への愛情の証として下さい!」
え゛?
「アナタ! そんなの、ダメよ!」
そうだ、言ってやれ。馬鹿な真似はよせと。
「アナタが命を捧げるなら、私もお伴します! 私もここで、死にます。ですから、どうか……どうか娘だけは……。それと、イオ君も……」
彼の方をチラッと見る、カゥナの母親。いや、何口走ってるの!?
「そ、そんな!? 僕にどうしろと……」
「イオ君。こんなことを頼める義理は無いが、どうか娘をお願いする」
「二人で、どうか幸せに……」
だから、勝手に話を進めるなと。
「仕事を受けるとは言ってないんだが……」
「先ほどから頑なに拒否されてますけど……もしかして、自信無いんでしょうか? あ、いえ、構わないんですよ? 達成出来ない仕事を受けられるよりは、事前申告していただいた方が、こちらとしても助かりますし」
何? オレがこんな小国の一地方の領主相手に、自信が無いだと?
ハッハッハ、面白いこと言うな、イオ君。……後で土下座で謝らせてやろう。
「良いだろう、領主に連れて行かれた娘の解放、受けよう」
「あ、ありがとうございます!」
「有り難うございます! 有り難うございます!! これで心置きなく成仏出来ます!」
「いや、死ななくて良い。娘を思う心意気は、十分見せて貰った」
何より無意味だろう。
「あ、あの……ありがとうございます! そしてカゥナを、どうかお願いします……ッ!」
イオ君が直角に御辞儀をして、立ち去るオレを見送っていた。
うーん、どうしてこうなった。
こんな依頼、受けるつもりじゃなかったんだけど。ついカッとなってやった、反省は今してる。
「煽り耐性、低過ぎじゃろ……」
ミドリがオレの腰周りでボヤく。チッ、うっせーな。分かってるよ。
少しずつ改善して行くつもりだから、将来性に期待していてくれ。
領主の屋敷の場所は、馬車が去って行った方向の道を辿る際、そこら辺の人に尋ねて聞き出した。
ぶっちゃけ、この街で上等な屋敷を幾つか虱潰しにすれば、すぐに該当するんだろうけどな。
「ここか」
思ったよりもグレードの低い屋敷だった。質実剛健とでも言い直すべきか。
出入りの門の所には、兵士が二人立っている。正面で立ち止まったオレに、やや警戒心を抱いているようだ。
「何用か! ここは御領主様の御屋敷だぞ!」
槍を軽く構えて、質問して来た。
「ああ、いや。ここの領主に用事があってな。何、正面から突破させて貰おうと思ってるから、取り次がなくて問題無いぞ」
「……は?」
オレが悪びれも無く言い放った言葉を、すぐには理解出来なかったのだろう。間抜けな声を発して、オレの【感電】の餌食となった。
「ぐあぁああ!」
「あがっ!?」
己に【肉体強化】はしてあるから、木で出来た門を蹴破るくらいは出来なくも無いが……跳躍して飛び越す。3メートル程度しか無かったし。
そのまま開け放たれている玄関口を通り、土足で中へ入って行った。日本みたいに靴を脱ぐ場所も無かったので、問題なさそうだ。
「ちーっす、お邪魔しまーす」
「何奴!」
通り過ぎた部屋の扉から、兵士が4人飛び出して来た。
「怪しい奴でーす。以後良しなに」
巫山戯た調子で返答する。
それとは裏腹に、剣に手を掛けていた彼らへ、情け容赦のないオレの【感電】魔法が襲い掛かった!
その後も、逐一出て来る兵士たちを、どんどん痺れさせていく。お、コイツは門で見た奴だな。復帰して追い駆けて来たか、感心感心。
「領主はどこ?」
かなり奥の方まで来た所で、お手伝いさん風の歳の行ったオバさんがいた。そろそろ手掛かりが欲しいので、聞いてみる。
「御領主様は、今入浴中です! 何なんですか、貴方は!」
「ただのランクAハンターだ」
「ひっ!?」
ちゃんと答えてあげたのに、逆に怯えられた。兵士を一瞬にして無力化して見せたのがイケナイかも知れない。悲しいなぁ……。
「で、浴室はどこ?」
「お命ばかりは!」
床に蹲って、頭を守るようにしていた。辛うじて指で何かを指しており、それが恐らく浴室のある方向なのだろう。
「ありがとな、オバちゃん」
「わ、私はまだ30歳です!」
うそん。40歳くらいに見えた。老け顔って奴かな。
浴室へ乱入すると、やや広めの湯舟に浸かり、薄着の女性二人に手足を揉ませている男が居た。
「何者だ!」
「曲者だ!」
「「きゃぁ!」」
開き直ってみた。
若い女性の悲鳴が心地良い。……いかん、この方向は多分間違ってる。修正せねば。
「俺様を領主と知っての狼藉か!?」
「勿論だ」
そしてモロチ○、隠せ。
「良い度胸だ。だが、生きて帰れると思うなよ? 誰か! 警備の者はおらぬか!」
しばし待機の為、静寂が訪れる。
「……おらんのか!? 誰か! 誰か!?」
「そもそも、どうやってオレがここまで来たのか、分からないか?」
「何?」
片眉を上げて、オレの言葉に反応する。こうやって見ると、顔は悪くないんじゃねーの? 普通に女性からモテる気がするぞ。
「既に粗方、この屋敷の兵士は倒してあるってことだよ」
「何だと!」
50人くらい居たかな。そこそこ強そうな奴も居たが、投擲などの一撃を避けてる間に【感電】の魔法を使えば、倒せた。
電撃喰らって悶絶するのは、抗いようがない。だって人間だもの。
「それで、頼みの綱が無くなった領主様は、これからどうするのかな?」
「くっ、役立たずどもめ……。良いだろう、俺様が直々に引導を渡してやる」
そう言って、何やら手の平を上に向けて、周りに対し……多分二人の女性にでも向かってだろう、言葉を発した。
「剣を持て」
「「…………」」
「何をしている! 早ぅ剣を持てと言っている!」
女性二人は困惑している。
「あの……自室に置かれて行ったかと」
「何だとォ!?」
本気で驚いているようだ。
「とりあえず、服を着るくらいは待ってやるけど」
微妙な空気になっていたのでオレが口を挟むと、領主の男が喜色を露わにした。
「おお、助かる! 何だ、話が分かる賊では無いか」
それで良いのか?
何にせよ、身体を拭いて服を着るまで、浴室の外で待つことになった。
「待たせたな」
領主が数分で、浴室手前の更衣室から出て来る。
「本題に入ろうか」
再び襲って来て返り討ちにされた兵士数名を、足蹴にしながらぞんざいに話す。【感電】の魔法で無力化出来る時間は、そんなに長くない。でも掛け直すにしても、莫大なオレの魔力量からすれば、200人程度までなら大したことは無い。今は手足を拘束するのが手間で面倒だからやっていないが、相手が大人数で魔力量が追い付かないならば、普通に縛る。
「ああ。俺様が制裁してやるから、大人しくしろ」
何勘違いしてるんだ、この領主野郎。
「領主の貴様を自由にしているのは、いつでも倒せるからだ。抵抗するのは構わんが、手足を全て切り落とされるくらいの覚悟はしろよ?」
「ハッ、上等だ! おい、俺様が剣を取って来るまで待っていろ! ……ぐぎゃぁ!?」
オレを無視して、堂々と横を通って自室に戻ろうとしたので、【感電】を放ってあげた。
間抜け過ぎて掛ける言葉も見つからない。
「えーっと……」
残された若い女性二人に対し、どう声を掛けるべきか迷った。
「……私たち、でしょうか?」
「そうみたい、ですね」
「あー、二人は、この馬鹿領主とはどんな関係なんだ?」
「一応側室待遇です」
「私も同じく」
二人ともか。
「ん? 正妻は居るのか?」
「え、ええ。少し離れた別館にお住まいです。と言っても、日を置かずに会われてますから、仲が悪いのではなく……」
「御実家の力が強い為に、特別待遇と言うだけですね」
ふーん。下半身が強そうだし、そう言った方面の不満による不和は無いのかもな。
「言われてみれば、オレは事情をほとんど知らずにここに来たんだな」
オレの呟きに、側室の女性二人は呆れ顔をした。分かる。何も知らない奴が乗り込んで来るとか、意味不明だよな。
「それじゃ、領主に無理矢理連れて来られて、今も嫌がっているようなのは居るか?」
「正室のニナシアス様は政略結婚ですし、特に嫌がっている風には……」
「私たちも、家の関係があるので納得済みですから、不満はありません」
「今日連れて行かれた、カ……カゥ何とかみたいな子は、他には居ないのか?」
「あ、ああ、さっき連れて来られた……」
「そうですね、8人ほど……今日のを入れて9人ですか、居ますけど。そのうち3人程は諦めてますね」
正室一人、側室二人、妾が九人の全部で12人か。多いな。少し羨ましいが、それだけの異性関係を維持するのは大変そうだ。
「それじゃ、その妾たちが居る所へ、案内して貰えるかな?」
「無理矢理では、無いんですか?」
「こう見えてこの人、強引に迫られるが好きだったりするのよ」
「今は関係無いでしょ!」
性癖を暴露された方が少し赤面しながら、もう一人の方を軽く打った。
そう言う生々しいの、良いから。さっさと教えてちょ。
お妾さん九人は、3つの部屋に割り振られていたので、少し大きい部屋に全員集まって貰った。
「あの、何でしょう?」
「あっ、私が攫われた時に近くに居た人だ」
お、カゥ何ちゃらちゃん発見。
「はい、静かに。……ここから出たい人、オレが連れ出してやろうと思う」
「本当に!?」
「「やった!」」
「……嬉しい」
「えっ」
「嘘でしょ?」
「……今更、よ」
「待遇自体は前より良いし、私は結構だわ」
「あの人、上手だしね。私も残る」
お、おおぅ。女性の扱いが上手いと、攫って来ても許容されちゃうのかねぇ? あれか、ストックホルム症候群とか言う奴か?
イケメンなら無理矢理でも許される風潮。無いです。
「でも、この首輪が……」
「ん? 『奴隷の首輪』か」
「そう。そのせいで私たち、この屋敷から許可なく出られないの」
監視だけじゃなくて、そんなアイテムも使ってたのか。ふむふむ。
「『魔よ、退け。disenchant【解呪】』」
妾の九人ともが首輪をしていたので、<臨界突破>して首輪の魔法を九つ全部消去する。
「これで、その首輪の力は無くなったはずだ」
「……嘘?」
「いやいや、有り得ないでしょ」
「そう言った芸当は、一部の高司祭様くらいしか出来ないって、お婆ちゃんの友達の親戚の友人が言ってた」
それはもう他人では?
「すぐに死ぬほど締め付けられる訳じゃないだろ? 確認してみれば良いさ。あと、カゥ何かちゃんは両親と恋人が心配してたから、早く戻ってあげた方が良いぞ」
「『カゥナ』です!」
オレが助言すると、彼女は頬をほんのりと染めながら、名前を乱暴に名乗った。
「他に、国外まで逃げたいのが居たら、責任もって送るけど」
残り八人に対して言ってみるが、少し待っても国外逃亡希望者は出て来なかった。
「多分、大丈夫です」
「まだ日も浅いですから……」
「また連れて来られたら、さすがに……」
おっと、その懸念があるか。
「そうだったな。ここの領主には、きちんとオレから説得しておこう。今回ここを去った者や今後の妾候補を、強引に連れて来る真似はしないように、な。だから安心して欲しい。なぁに、これでも交渉(物理)は、最近慣れて来た方だ」
身の安全を請け負ったことで、彼女らも安心したのだろう。少し目が潤んでいるのも居た。
「今この人、交渉 括弧 物理 括弧閉じって言った!」
「そう言えば、どうやってここの警備を……えっ、全員倒した!?」
「凄い……貴方、結婚してる?」
「ニーリーちゃん、趣味悪くない?」
「大丈夫。顔は気にしない」
「……性格の方に難有りな気がするんだけど」
「ほ、本当に、助かるんだ……!」
「やったー! 自由よ、自由!」
「解放されるの? 私……。そうね、これからは真実の愛を探すのも悪くないわ」
「あの人に、怪我させたり勃たなくなるようなことはしないでね」
「あ、私からもお願い。モノは良い物を持ってるのよ。横暴だけど」
アッ、ハイ。
逞しいな。女が三人寄れば姦しいと言うし。その3倍だもんな、煩くて当然か。
領主への説得は、呪詛の技能を<臨界突破>して、拘束して背中に呪いを貼り付けることで行った。
「な、何だこれは!?」
「所謂呪いって奴だ。何、貴様がオレとの約束を守れば、何も悪影響は無い」
「……もし破ったら、どうなる?」
ニチャリと口の端を歪めるように笑い、目を細める。
「少なくとも、貴様の身の破滅は保証しよう。あと、オレが楽しくなるようなことが起きる」
「ひっ!?」
本当は、約束を破ったことをオレに知らせる程度でしかない。呪詛と言うのは、存外使い勝手が悪いのだ。無難な利用に抑えておくに越したことは無い。
それでも約束を破ったら、それを知ったオレが御仕置きに来るだろうし、その際どんなことをするか楽しみにするのは当たり前だから、さっきの言葉は完全な嘘と言う訳では無いのだ。
嘘を信じさせるには、真実を適量混ぜるのが効果的って奴だな。
「分かった! 権力を笠に着て、気に入った女を相手の同意無しに連れて来るような真似は、金輪際しない! 約束する!」
「ああ」
「無論、今回のことで誰かを咎めたりするようなこともしない! 絶対だ!」
オレの侵入を許した警備の兵士たちにも、お咎め無しと言う温情。彼らは職務に忠実だっただけで、能力を超えた仕事を期待するのは、上位の者としてダメだもんなぁ。
これくらいで十分かな?
その後、カゥナが無事戻ったことを確認し、イオ君には地面で土下座をさせ、頭を軽く踏み躙る刑を執行した。
うむ、満足である。




