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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第六章:平穏までの距離
56/114

054 過去の記録とどこまでも青い空


一週間のつもりが、大幅に予定を超えてしまってすみませんでした。



『アクセス申請』


<一般壁からの非管理者によるアクセスを確認。ゲスト扱いとなります。>


『ゲストの権限で可能なことを、開示求む』


<ゲストよりのアクセス確認。情報開示は、隠匿いんとくされていない全ての情報が可能です。また、一部機能が使用出来ます。>


『開示可能な情報の要点をまとめた一覧を提示せよ。ゲスト権限で使用可能な機能の詳細も送れ』


<情報の一覧と、機能の詳細を送信しました。>


1.----------

2.+++++++

3.xxxxxxxxxxxxx

4.ooooooooo

5.当施設の暫定地図

6.××××

~~~(中略)~~~


A.緊急アラートの送信(現在、管理者側のアラート受信は、自動で拒否する設定となっています)

B.仮想モンスターの具現化(1日あたり上限10体まで)

C.特定階層の壁の変更(1日1階層限定、3回まで変更可)

D.<臨界突破>の付与

~(省略)~




『創造神の行動記録について、概要をまとめたものを頼む』


<ゲストからの情報開示要求を承認。以下に表示します。>




 今から約1万3,000年前、神は新たな世界を試作することにしました。

 特定世界NGW-1i45i41Q1Qから一つの太陽系を丸ごと盗……無断かつ無期限拝借し、魔法の要素が強いこの世界の僻地へと移動。

 小惑星の一つを改造し、1万ほどの中型生物が生活出来るようにし、とある世界の知的生命体を500体あまり誘拐……移住を強要して住まわせることに。

 以下、この知的生命体を「人」・「人間」と呼称します。

 神は人に手を加えることにし、その間に移して来た恒星及び惑星の調整を行うことを決定。

 時間スケールの不足を補う為、恒星及び惑星には1万倍の時間加速を施す。(居住区域のある小惑星は対象外)

 恒星及び惑星の軌道の修正に4,000万年(絶対基準で4,000年)、植物導入による大気成分の調整に5,000万年(絶対基準で5,000年)、動植物の本格導入に1,000万年(絶対基準で1,000年)の計1億年を費やす。(絶対基準で1万年)

 小惑星内の人の遺伝子修正(主に髪の色)は1,000年ほどで完了、以後惑星の環境が整うまで数が1,000前後になるよう調節されるものの、半ば放置される。


 今から3,000年ほど前、人の惑星への本格移住が始まる。

 2,000年ほど前、たわむれに変化をつけようと、神が人を大幅に改造。その800年後(約1,200年前)、エルフ族・ドワーフ族・魔族として500人ずつを入植させた。

 1,000年ほど前、ひ弱な人に力を与えようと<加護>システムを構築しようとする。その際、<臨界突破>を試作したが、逸脱し過ぎた為に封印。

 <加護>システムも、想定した効果が得られなかったので放置となる。

 500年ほど前、魔族が人と相容れない為、自主的に第三大陸へと移動。移住完了後、人と神に絶縁状を叩き付けた。

 420年ほど前、魔族の暴走に気を病んだ神は、『長い旅に出る。絶対に追い掛けて来るな。良いな、絶対だぞ』とメッセージを残して失踪。当太陽系付近100億光年からの反応消滅を確認。

 以降、創造神に関するデータはありません。




(分かってはいたが、随分奔放な創造神のようだのぉ。まあ、我が儘ではない創造神の方が珍しいのかも知れん。

 太陽系を丸ごと移動させたり、系をごっそり1万倍加速したりと、大きな力は持っていたようじゃ。

 半面、遺伝子操作などの細かいことは、やや苦手としていたのか? 改造にかなりの時間が掛かっておる。

 あと、創造対象から反発を受けた際、ダメージ受け過ぎだろう。メンタル弱っ!

 この場合、失踪したと言うことは、この世界のことは見捨てたと同義じゃろうなぁ。

 仮に戻って来るとしても、1万年後とかになりそうだ)


『……<臨界突破>の付与、についての詳細を求む』


<権限を認証しました。説明をします。>




 <臨界突破>そのものの説明。

 <加護>システム構築の際、様々な状況に対応出来るものを模索した結果、生み出されたものです。

 世界記憶とリンクし、特定の技能の情報をダウンロード、一時的に使えるようにします。

 前提条件として、ダウンロードする対象の技能を、本人も多少は習得している必要があります。これはリミッターであり、本人の習得度合いに応じ、ダウンロード可能な情報量も多くなります。

 副作用として、ダウンロードした際の記憶域を確保する為、<臨界突破>を持つ本人は技能の習熟を高度に行うことが出来なくなります。

 また、世界記憶に記録されていないものは使えません。

 注意すべき点として、<臨界突破>は<加護>システムと反発してしまい、互いに排他的な関係となります。

 現在の記録上、最初にして唯一の<限界突破>持ちは、約1,000年前のゴルトーバ・アッレで、卓越した戦闘能力から『魔王』の二つ名で呼ばれていました。


 付与について。

 現在、<臨界突破>は管理者権限により放置されています。その為、ゲスト権限でも付与対象を選び、<臨界突破>を対象へ与えることが出来ます。

 <臨界突破>の維持は、当管理システムにかなりの負担となりますので、唯一となります。残存付与可能数:1


『ミツル・高坂へ、<臨界突破>の付与を申請』


<……申請は受理されました。対象を選別、単体です。付与シークエンスを実行……完了。<臨界突破>の付与を終えたことを伝達します。残存付与可能数:0>


「ぐぁぁああああああ!!」


 暗闇の中、ミツルが突然奇声をあげた。ただ、それも一瞬だった。


「……何だ? 何をした? ミドリ、分かるか?」


 白く半透明な蛇のようなミドリが、激しく動いて肯定をあらわす。


『ワシがこの迷宮のシステムに組み込まれている機能にアクセスし、ミツルへ<臨界突破>と言う加護のような力を付与した』

「……は?」

『なかなか良さそうな力だ。ここからの脱出に使えそうだぞ。まず……』


 呆気にとられるミツルに対し、得た情報を整理して説明するミドリ。

 習熟すれば強力な能力を得られる<臨界突破>だが、彼に残された時間はさほど多くは無かった。

 否。この場合、切羽詰っていたからこそ、無理矢理魔力を伸ばしたのである。繰り返す痛みによって痛覚耐性を伸ばす機会が生まれ、上手い具合に循環したことになる。

 だが、追い詰められ、精神が壊れそうになったことで、若干性格が変容してしまった。

 それが吉と出るか凶と出るか。知る者はいない。






「ミドリ? どうした、間抜け面を晒して」

「酷いのぉ。ワシとミツルが初めて会った時のことを思い出していただけじゃ!」

「ほーん?」


 それがどうかしたのか、とでも言いたそうな視線で、ミツルがミドリを見た。


「思い返せば、あの状況から良くここまで漕ぎ付けた、と感心することしきりだ」

「まあなぁ。途中で死ぬかと何度思ったことか」

「実際、痛みでショック死しかねんことを延々とやらせていた訳だからのぉ。その節は、すまなんだ」

「あいよ」

「軽ぅイ!」


 ミツルが軽く笑い声を上げる。


「だけど、しんみりするのも何か違うしな。それに、全ての元凶はまだ健在だ」

「……そうだの。今のところ、【異世界間通路アナザー・ゲート】でのこれ以上の被害は、防げる見通しと言える。だが、あくまで対症療法みたいなものじゃな」


 しばし、部屋の中が沈黙で満たされる。


「こっからが、本当にしんどそうなんだよなぁ」

「それはまあ、そうじゃな。頑張れ!」

「へいへい」


 軽口を叩きながら、立ち上がるミツル。


「ツマミでも作って貰うわ」

「酒はほどほどにな」

「日本の学生を大方帰還させられた祝いみたいなもんだ。少し大目に見てくれ」


 そして、扉を抜けて1階へと降りようとした際、ふと思い留まってミドリへと声を掛けた。


「戒と何を企んでるのか知らんけど、ほどほどにな」


 ついでのように言い捨てて、ミツルは調理場にいるはずの草薙くさなぎ健太郎けんたろうの所へと向かった。






 9月4日に、紫苑寺しおんじ花蓮かれんが姿をくらましたと、不意打ち気味に報告を受けた。

 事後処理の為、ヴィオネッタやイルセス殿下と軽い打ち合わせをする予定で、地球人保護地区に寄っただけだったのだが。

 しかし、頭のオカシイ少女一人にかかずらっている暇は無い。特に何事も無く話し合いを終え、ウェントの屋敷へと戻る。

 いつものように、戒とミドリを交えて情報交換を行った。


「紫苑寺さん、ですか。確か大和撫子な美人だったんですよね?」

「ああ。多分、戒のストライクゾーンからは大分離れてるぞ」

「そんなことは聞いてません! ……でも、そうだとすると、旅をして無事かどうかは微妙ですね」

「腕は良い。この世界の人間と比較すれば、戦闘能力自体は上位に入るだろう。だが、一人だと限界もある。隙を突かれれば、後れを取る可能性は高い」

「しかし、どこへ行こうと言うのでしょうね?」

「さてな。ベラスティア皇国と目下戦争中のコールン・イエール公国か、或いはその先の国か。個人的には、野垂れ死んでくれていた方が助かるな」


 戒との間に、苦笑が生まれる。


「それより、学校の方はどうなんだ?」

「一昨日の落成式、昨日の始業式で、今日が本格稼働でしたが……」

「ああ、昨日は何か、給食御披露目会みたいな雰囲気だったな」

「ええ。草薙さんの肝煎きもいりでしたからね。正直、かなり完成度が高かったです。試食に来ていた近所の方々が、給食を食べる為に通いたい、なんて言い出すほどでしたね」

「栄養バランスにも腐心してたんだろ? 凄いよなぁ」

「今日は授業が本格的に始まったとは言え、やることは読み書き計算、道徳、運動とかですから。それに、地球だと小学低学年向けの内容です。先生方も、終始和やかな雰囲気でしたよ」

「そいつは良かった」


 まだ大したことをしている訳では無い学校運営だが、これを足掛かりに、基礎的な教育は済ませた人材を確保して行きたいものだ。


「長い目で見て行きましょう。それはそうと、明日以降、ミツルはどうされるのですか?」

「うーんと、そうだなぁ。次はローザンク王国の北西、レッペレット連邦になるかな。ちょっと寄ってみて、何も無ければもっと西に足を伸ばすつもりだ」

「実際には飛んで行くのでしょう?」

「そうなるな。ん? となると、足を伸ばすと言うのは正確じゃないか。……なんて言うべきなんだ?」


 ベッドの上のミドリが、テーブルに跳び乗って来て、話にも割り込んで来た。


「ワシなら、身体を伸ばす、じゃな」


 少し得意気なミドリを掴み、引っ張ってみる。伸びない。さすが金属、ミドリの意思に反する伸縮は行われないようだ。


「……飛距離を伸ばす、で良いのでは?」

「語呂(わり)ーなぁ」

「仕方ないでしょう!?」


 何だかんだで、こうやってバカやってる時間が一番平和だと感じる。




 翌9月5日、ローザンク王国のスリーピースへ【瞬間移動】で跳んでから、外壁に出て、お馴染み飛行の三連魔法を使用する。

 【風防】! 【重力操作】! 【念動力】! 大空へ飛ぶぞ!

 謎のテンションで飛び上がり、空を翔ける気持ち良さに目を細める。


「さて、どのルートで行くかな」


 いつも通り海沿い、と言うのも芸がない。たまには変化を付けよう。そう思ってやや内陸部寄りのルートを選び、レッペレット連邦へと向かった。




 国境を越えて、しばらくした所にある大きめの街。壁はややみすぼらしく、木や石や土で補強してあるが、高さは3メートルを少し超える程度だった。

 人口も10万を切る程度だろう。少し高地にあるのも、人口が少ない要因かも知れない。人間は、基本的に低地に安住する。8割以上の人間が、1,000メートル以下の標高に住んでいると、授業で習った覚えがある。

 門でのチェックに合格し、中に入る際に門番の兵士に聞いてみた。


「この街の名前は何て言うんだ?」


 少し歳の行った兵士は、訝し気に答えてくれた。


「ロッケントだ。レッペレット連邦のザルチャ地方では随一の街だぞ」


 そうか、ロッケントと言うのか。……これで随一? 地方を付けるってことは、連邦国の中で一番では無いって事だろうが、しょぼいと感じた。


「アリガトよ。ついでに、ここの名産とか教えてくれると嬉しい」

「……ねぇよ、そんなもん」


 10cmほどの木の枝みたいなものを咥えながら、面倒臭そうに言う。


「これが気になるか? チャナって草木の枝だよ。噛むと少し甘いんだ。ザルチャ地方じゃどこにでも生えてて、子どもの頃から口寂しさを紛らわすのに咥えるのが、一種の習わしみたいなもんだな」

「へー、面白いな」

「そうか? そんな美味いもんでも無いし、腹も膨れないんだけどな。……在庫はあるから、一本譲ろうか?」


 物欲しそうにしてたのを勘付かれたみたいだ。「悪いな」と断ってから、チャナの枝を一本貰い受ける。

 ナイフで先端の皮を剥いて、その部分を噛むんだそうな。


「……甘いな」

「だろ?」

「だが……マズくね?」


 何と言うか、苦みと言うか渋みと言うか、独特な香りが口の中に広がる。


「ハハッ、初めての奴は大抵そう言うな。慣れれば気にならなくなるんだが」


 さすが年季が入ってる奴は言うことが違う。

 しばし、チャナの枝を味わう。うん、まじぃわ、コレ。


「もう2,3本、貰えるか?」

「なんだ、にいちゃん気に入ったのか? ま、良いけどな。やるよ」


 そう言って、枝を3本オレに差し出して来た。礼を言って、小銀貨1枚(2千円相当)を渡した。


「……おいおい、貰い過ぎだっての。精々小銅貨1枚(20円ほど)だぜ?」

「面白い体験をさせて貰った礼だよ」


 日本の公務員みたいに、その程度でも賄賂になるからと突っ返してくるようなことは無かったので、そのまま街の中へと進んで行った。

 後で戒と草薙さんに、味合わせてやろうっと。




 大通り沿いに歩いて店を見て回ったが、品揃えはそんなに宜しくなかった。

 屋台で何かの穀物で作った餅みたいのを食べたり、食用の虫を見掛けて背筋が寒くなったり、草や枝で編んだ何かを鑑賞したりと、その程度だ。


「外れかなぁ」


 そう呟いて、街から出ようとしたその時。

 少し離れた所から、揉め事のような大きな声が聞こえて来た。


「離して! 離して下さい!」

「こっちも仕事だ! 大人しく付いて来い!」

「イヤ! イヤァ! お父さん! お母さん! 助けてェ!」

「カゥナ! お辞め下さい、お役人様!」

「ダメだ! 御領主様の御指示だからな!」

「そんな横暴な! お願いです! 私たちの一人娘なんです!」

「知ったことか! それに、御領主様の御手付きになるのだ。名誉なことだろう、喜べ!」

「ああ……カゥナ。幾らなんでも、これは……。お願いです! 私が何でもしますから、娘だけは!」


 連れ去られそうな娘の父親だろう、彼は役人らしき人物の襟を掴んで、懇願していた。


「何でもするなら、娘を大人しく差し出せ!」

「それだけは! 御容赦を! 御容赦をォ!」


 えーっと、何だこれは。時代劇か何かかな?

 そのまま、役人の部下らしき屈強な兵士たち数人によって、娘は馬車の中へと押し込められる。二人ほど一緒に入って、逃げないよう押さえ付けているようだ。

 役人は、父親の手を荒々しく外すと、自らも馬車に乗ってその場を後にした。


「ああ、カゥナ……」

「私の、私たちのカゥナ……」


 同情するが、どうしたもんかね。

 人間のゴタゴタなど知ったことかとばかりに、低く見える雲と鮮烈に青い空のコントラストが、目に痛かった。





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