053 地球へ……
【記憶消去】の魔法が使えるようになったことで、在異世界の地球人を帰しても、問題無いようになった。色々とやらなきゃイケナイことは、たくさんあるけれど。
戒の思い人の名前が犠牲になったが、それは必要なことだったのだ。
「何だか……記憶から消された名前を後から教えて貰っても、しっくり来ないと言うか、腑に落ちない感じですね」
「左様か」
精神的致命傷ではないみたいだから、気にしないことにする。
今後のことについて、戒とミドリ、そして草薙さんを交えて作戦会議を開くことにした。
「と言う訳で、【記憶消去】の魔法が使える練度になったから、中高生はなるべく帰してしまおうと思う」
「異論はありません」
「うむ」
「ですね。中高生と言えば、ロークト王国のモギュナ……何とかと言う街で労働に従事しているのも居ましたよね?」
モギュナクト・オス、な。面倒だしモギュの街で良い。
「ああ。小湊ちゃんと紫苑寺さんだな」
「確か、今月いっぱいで解放される予定ですね」
「今日が8月6日ですから、3週間ちょっとありますかぁ。あ、鷹村君はいつ頃こっちに来ます? 戦力として期待してるんですけど」
「一人で来させるなら、必要な金子を持たせて馬車にでも乗り継いで来て貰えれば、可能ではあるけど」
「やや危険ですが、仕方が無いですか」
「……奴隷商のポルトさんを頼るのは、どうでしょう?」
居たね、そんな人。
「何度もこの街と皇国のフーケンバケットを行き来しているらしいし、お金を払ってでも頼んでみるのは良さそうだな」
「ヴィオネッタと懇意にしていた奴隷商ですよね。……良いんじゃないでしょうか」
「じゃ、決まりだ」
今ポルトさんがどこに居るか知らないけど、単独で旅をさせるよりかは、少し遅くなっても安全度が高い方が良いだろう。
「地球人保護地区にいる中高生は、中学生18人、高校生26人でしたっけ」
「それ、地球への帰還を望んでいる奴の人数な。他に中学生は4人、高校生は2人が、この世界への移住を希望してる」
「モギュ……の街のお二人は?」
「聞いてなかったな」
今度聞いておこう。
「強制労働が終わった後、フーケンバケットへ行って貰うにしても、徒歩や馬車だとかなり時間掛かりますね。馬車で1週間、徒歩だとその3倍以上を見積もらないと」
「あー、なるべく早く帰還させてしまいたいな」
「でしたら、ミツルが手伝ったらどうです?」
戒が、積極的介入を勧めて来た。
「どうやって? 他人を【瞬間移動】させるとなると、多分200kmちょっとが精々だと思うぞ」
「それでも十分凄いのですが……」
フーケンバケットとモギュの距離は、700kmくらいあるからな。1回で行けないなら、【瞬間移動】の性質上ちょっと厳しい。
【空間接合】の魔法も、距離的な限界は他人の【瞬間移動】と同じ感じなので、適さない。
「【念動力】で荷物扱いにして連れて行くってのはどうなんだ?」
「それはちょっと……」
「馬車に詰め込んでそれごと、いつもの飛行に使う魔法を掛ければ、自身と同じように飛ばせるぞ」
ミドリがカットインするが如く、有用な情報を出して来た。
「空飛ぶ絨毯ではなく、空飛ぶ馬車ですか」
「絨毯? そんなものに乗って空を飛んだら、落ちるじゃろうに」
確かに。謎の力場でも発生していればその限りじゃないけど、そんな高等テクニックはオレには無理だしな。無難に空の馬車を用意して、それを飛ばそう。飛ばす練習くらいはしておいた方が良さそうだ。
魔法並列の練度が限界まで上がっている現状、それを<臨界突破>して複数の魔法を使おうとした場合、3種類までの『異なる種類』の魔法を同時に使える。1種類に絞れば500ちょっとの数が同時発動出来る。これ、3種合計で500ちょっとの数に収めれば、1つ目10個、2つ目50個、3つ目450個と言った分散も可能だ。
【炎の嵐】の魔法は、2種類の魔法を組み合わせた高度なものだ。他にも魔法並列の高熟練度が前提となる魔法はあるかも知れないが、普通の人間ではそれに至るまでの時間が足りなさそうでもある。前人未到の域っぽい。
ちなみに、空を飛ぶ際に、3種類の魔法を同時に発動させる必要は無い。まず【風防】の魔法を効果時間長めに発動させ、次に【重力操作】を十分な効果時間で掛け、最後に【念動力】を使えば問題ない。既に発動した魔法を維持すると言う、やや難しいコントロールに慣れる必要はあるけれどもね。
「じゃあ、戒。これからも使うかも知れないから、特注の馬車も含めて発注や購入を頼む。人数特化の馬車とかも欲しいかもな。魔力量さえあれば、100人くらい運べるんだろ?」
「そうじゃな」
イメージとしては、ジャンボジェット機を丸ごと持って行く感じ。スーパーな人間だなぁ。
「……鷹村君も、それで連れてくれば良いのでは?」
草薙さんの容赦のない指摘に、オレと戒は頭が真っ白になった。
不覚……ッ! その通り。馬車ごと連れて来られるのなら、手間を厭わない場合、オレが連れてくれば良いやん……ッ!!
「まあ、道中で不審がられてしまうかも知れませんが」
「大抵の場合、100メートルも上空になれば、『アレは何だ? 鳥か?』程度にしか思わないもんだよ」
「実体験ですか」
「まあな。あとは、いきなり空から降りて来ても、人間が空を飛んでいたとは頭で理解出来ず、普通に応対する人が結構多い」
そんなものさ。
ともかく、この世界に留まる人の中で、オレたちの下で働いても良いって人は、ウェントの街へ連れて来る方針に定まった。
しばらく月日が流れ、9月1日。任期の明けた五十嵐さん、七尾君、鬼瓦さん、紫苑寺さんと小湊ちゃんの5人を、馬車へと詰め込み、飛行魔法の3点セットで宙へと浮かべた。
オレ自身にも同じ魔法を掛け、空へと一緒に浮かび上がる。結構難しいが、練習した上で既に何度か実行済みの為、危な気なく飛行を維持出来ていた。
1時間ほどの空の旅は、特に何事も無く終わる。
到着したフーケンバケットの地球人保護地区は、ざわついた雰囲気になっていた。
無理もない。中高生のみ対象だが、今日これから地球へと送還する予定なのだから。
主に動くのはオレと、ヴィオネッタの配下として働いていた、ナルカンさん他2名の騎士たちだ。
「……地球から拉致されていた中学生と高校生を、これから送り返すんですよね」
紫苑寺さんが少し緊張した表情で訊ねて来る。
中学生18人と高校生26人、プラス先ほど連れて来た紫苑寺さんと小湊ちゃんの2人で、合計46人と3人の平服の騎士3人、およびオレで50人。それだけの人数が、屋内の訓練施設に集まっていた。
「そうだ」
「……記憶を消してしまうんですよね?」
「その通りだ」
何が言いたいのだろうか。問題が無ければ、とっとと作業を始めて、彼らを帰してしまいたいのだが。
「やっぱり、納得行きません!」
紫苑寺さんの言葉に、幾人かはしかめっ面をしていた。
「納得行かないなら、地球へは帰らないと言うことで良いな?」
「それも納得出来ません!」
はぁ、と溜め息が出てしまう。
「あれもダメ、これもダメ。そんなのは通らない」
「それは……そんなのは、貴方の勝手な都合です! もう少し譲歩したらどうなんですか!?」
「出来ない」
「……少しくらい考えるポーズ、取ったらどうなんです!?」
「結論は変わらない。それに、大分前から通達してあっただろう。考える時間は十分あった。この土壇場でゴネるなんてのは、拒否と同じと見做す」
「……ちょっとくらい、記憶を残しておいたって、良いじゃない! 貴方の都合でしょ!? そんなの、幾らでも目溢し出来るんじゃないの!?」
勘違いしているな。それについて、オレに決定権は無い。ミドリの言ったことが全てだ。
「出来ん。これ以上話が続くなら、紫苑寺さんは地球へ戻らないと判定するぞ」
「そんなの……横暴よ! みんなも、好き勝手に記憶弄られて、思い出消されて、それで良いの!?」
紫苑寺さんの言葉に、中高生の何人かはピクリと反応するが、既に諦めているのだろう、視線を彼女から逸らしていた。
「ねえ? 紗良ちゃんも、嫌でしょ? こんな奴に頭の中弄られて。この1年弱は、辛いことも多かったけど、でも大切な、私たちにとってはとっても大事な思い出でもあるんだよ!」
「……それは、そうだけど。でも……」
「あんた、まさか。私のこと、否定するの?」
「っ! そうじゃない! 否定するつもりじゃ、ないの。ただ……地球へ戻してくれるのは、今を逃したらきっと、二度とチャンスは無い、と思うの」
「何よソレ! 結局、こいつは私たちを戻せるからって、強権を振りかざしてるだけなのよ! 騙されないでッ!!」
「でも! 私、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも、お爺ちゃんお婆ちゃんにも、また会いたい! 近所の人や、学校の先生や、親戚の人とも、もう会えなくなるのは嫌だよ……」
「私だって嫌よ! でも、ここで譲歩したら、こいつの良いようにされるのよ! 私はそんなこと、我慢がならないッ!!」
「……もう良い。紫苑寺さん、あんたは帰還対象から除外する」
「勝手に決めないで! そうだわ、ミツル、あなた私と勝負しなさい! 魔法無しで、一対一の模擬戦よ。私が勝ったら、私の記憶はそのままにしなさい!」
何を言ってるんだ、コイツは。
「花蓮ちゃん!? ヤメテ! 滅茶苦茶なこと言ってるのは花蓮ちゃんの方だよ!?」
「そんなの分かってる! でもね、ダメなの。コイツが色々なことを出来る力を持ってるのは分かってるけど、それをみんなの為にちゃんと使ってくれないのは、どうしても納得出来ないの!」
もしかして、力を持っている者は、全体へ福祉する義務があると言う考えなのか?
それならまあ、納得と言うか……。だけど、それを他人に押し付けるのは、それこそ横暴だと思うんだけどな。
「もう良い」
「戦いなさい! ミツル、貴方の考えは、私が正……!」
【感電】の魔法を、紫苑寺へと強めに発動する。
レディとしてあるまじき悲鳴を上げ、白目になって痙攣していた。『アイテムボックス』から縄を取り出し、素早く手足を拘束して行く。
紫苑寺を荷物の様に抱え上げ、部屋の外へと出る。扉のすぐ傍で待機していた、ベラスティア皇国の騎士団員3人へ、紫苑寺を託した。
「これを、私室へと戻しておけ。未帰還対象だ」
団員の一人が、「了解しました」と受け、御姫様抱っこで彼女を運び出して行った。
小湊ちゃんは、親友であろう紫苑寺の退場に、心の底から悲しそうにしていた。
それから先のことは、計画通りだった。
45人の中高生全員の、ここ1年ほどの異世界での記憶を、会話をしながら引き出しつつ、【記憶消去】で一人分ずつ消して行く。
最初に手足を縛った状態で始め、記憶の消去が終わったら目隠しと耳栓をして情報を与えないようシャットアウト。ついでに騒がないよう、猿轡もして行く。それを45人分逐一行った。最後の一人になる頃には、それまでの作業量にややウンザリしていたが、それも仕方のないことだろう。
「最後は小湊ちゃんか」
「はい。……あの」
「ん?」
「花蓮ちゃんが、お手数をお掛けしました」
座った状態で、出来る限りの御辞儀をして、謝意を示して来た。
「構わん。そもそも小湊ちゃんの責任じゃない。あれは本人の強情さ、勘違い故の悲劇だろう」
紫苑寺が聞いたら、勘違いさせるだけの情報しか寄越さなかったお前が悪い、とか言いそうだ。知らんがな。そんな手厚くフォローなんかしてる余裕、ないっつーの。
「それでも……。何となく、しておいた方が良いかなって」
「そうか。……始めるぞ」
「はい」
「この世界に連れて来られる際の、ヴィオネッタたちの襲撃について思い出してくれ」
今までと同じ工程が始まる。彼女たちが連れて来られた際の情報を話として聞き出し、待機状態の【記憶消去】の魔法で消去すべき記憶を選別して行った。
関連する記憶を引き出して行って、地球ではない、この世界に関する記憶は、なるべく消す対象に入れて行く。
さすがに思春期の頃だけあって、かなりの記憶容量が消去対象になるが、今更心変わりする訳も無く、オレはあっさりと彼女の記憶を消した。
「……あれ? ここどこですか? 私、学校にいたはず……」
後ろで待機していた騎士の一人が、素早く目隠しを施し、耳栓も付けて、最後に猿轡目的で口に縄を噛ませた。
「わっ、きゃ! な、何で目隠し……え、耳も? どうし……ムグウググゥ」
全ての対象に処置を施した後、オレはおもむろに、【異世界間通路】の魔法を起動する準備をした。
己の魔力と同じものを、異なる世界である地球に置いて来た分を、感じ取ろうとする。
1分、2分……3分ほどして、ようやく対象を感じ取ることが出来た。それを手掛かりに、空間の相対的位置座標を意識する。
「『我が故郷にして還ることの無い彼方よ。しばしの間、此処へと至る回廊を魔力により作り出し給へ。AnotherGate【異世界間通路】』」
潜ることの無い、黒い円が浮かび上がる。目線で騎士3人へと促すと、それぞれが縛られた中高生を運んで黒い円の中へと消えて行く。
しばらくすると戻って来て、再び中高生を地球へと運ぶ。それを訓練施設に誰も居なくなるまで行った。
「これで全員、運びました」
「ああ。後は手筈通りに頼む。24時間後に再びゲートを開くから、それで戻って来てくれ」
「はい」
一度に40人以上もの行方不明者が発見されたら、以後その近辺はマークされてしまうだろう。
だからオレの魔力を入れた魔石は、掘り出して他の場所へと移す予定だ。日本国内に1ヵ所。海外に1ヵ所。場所を二つにするのは、主にナルカンさんたちの活動の為である。
まあ、そんなに活動して貰うつもりは無いんだけどな。
翌日、日本から海外へと渡り、魔石を人目の付かない場所へ埋める任務を終えた3人の騎士は、オレの【異世界間通路】で無事に帰還した。
人の少なくなったフーケンバケットの地球人保護地区から、紫苑寺が失踪したと聞いたのは、更にその二日後だった。
高坂ミツル 年齢:25
精神11 魔力1,262 (最大)魔力量175,190
所持現金:8億8565万円相当+Gold 11,478kg+32億円相当のファフレーン小金貨(予定)
お読みいただき、ありがとうございます。
既存の、説明不足な部分の補足や、細かい所の修正などを行いたいので、一週間ほど時間をいただきたいと思います。
読み直さないと意味が分からなくなるようなことは極力無いようにするつもりですし、仮にそうなったとしても該当部分を報告しますので御安心をば。
それでは、今後ともよろしくお願いします。m(_ _)m




