052 スリーピースIV
「051 スリーピースIII」の植物知識の下り、戒の言葉に置き換えました。
フェズから調査結果を受け取ったオレは、マルハール氏とその部下5人に再度【感電】を追加で喰らわせ、痺れているうちに手足を縄で縛って行った。
何かしら変化が欲しいと感じた為、マルハール氏だけ特別に亀甲縛りを施すことに決める。
やり方だが、実は結構簡単だ。まず、縛りたい対象の長さの8~10倍程度の縄を用意し、二つ折りにする。繋がっている方の端を首に掛ける部分とし、そこから喉元や腹に輪っかが出来るよう八の字結び(もしくは単なる結び目)を3つか4つ程度作成。それを実際に対象へ掛け、切れている方の端を先端の輪っかに通し、そこで二つに分割。左右対称でそれぞれ前方の二つ目の輪に通し、輪を少し広げて形を整え、後ろ側で交差、前方の同じ輪の下の方に入れて六角形に成形する。これを穴の数だけ繰り返し、最後はまあ、どこかで綺麗にまとめて縛れば出来上がりだ。一つの輪に1回しか縄を通さない菱形も良し、アレンジして美術的価値を高めるも良し、である。
大学時代に、『縛りの伝道師』を自称する奴がこれを教えてくれた。普通のペットボトルとかにすると存在感が非常に高まる。
『縛りとは、愛の一つの形。縛り縛られることで、深まる愛もある。
亀甲縛りは、縛ると言うより、着せるに近い。身体の自由も制限しないし。本来、身体を傷つけないで拘束する為の縛り方として編み出されたものであり、その機能美は芸術の一種と言っても過言では無いッ!!
亀甲縛りが正装と思えるようになったら上級者だ。その時は是非、吾輩の流派の門扉を叩き給え』
と言う、極めて有り難くない言葉を頂戴した。周りに同じ被害を受けた奴が10人くらい居た記憶もある。
マルハール氏と仲間たちは、以前と同じように【念動力】で動かして、酒場から連れ出した。
近くの広場へと向かうと、周りの目が呆れを含んだものになる。
「またかよ」
「イヤだわ、またあの人……」
「しっ! 聞こえたら、何をされるか分からんぞ!」
あ、うん。これは風評被害では無く、正しい認識だと思う。
人が徐々に離れて行き、近くを通る人も減ったので、貸し切りみたいな雰囲気になった。
「さて。マルハール」
「貴様! 一度ならず二度までも! このような無法を我々に働いて、生きてこの街から出られブギャッ!」
とりあえず裏拳で殴っておいた。
「こ……この野グギャッ! ……おまゲハッ! ……やめブギョッ!」
「オレの許可なく喋るな。黙るまで殴り続けるぞ。分かったら一回頷け。それ以外の行動は認めん」
しばらく睨み合いが続いたが、根負けしたマルハール氏が渋々首肯したので、話を進めることが出来るようになった。
「まず、どうしてオレを探していたんだ?」
「それは……捕まえて公開処刑する為だ……です」
「罪状は?」
「そんなもの、幾らでもデッチ上げ……るつもりでした」
「大体、オレから手を出した訳でも無いのに、どうしてそんなことをしたがるんだ?」
「それは……彼女……フェズに纏わりつく虫だから……」
いまだ解けない誤解に、大きなため息を吐く。
「あのなぁ。オレとフェズは、調べ物を依頼した側と、依頼された側、それだけの関係だ」
「そ、そんなデタラメ、信じる訳が!」
「いや、信じろよ。嘘じゃねーって」
「……無理」
「何でだよ!?」
そこで、腰に巻き付けていたミドリがにょろんと抜け出し、地面へと降り立った。
「ミツル。こう言う頭の固い奴には、精神魔法で何とかしてしまうのも手じゃぞ」
「……精神魔法?」
「うむ。【精神統制】と言う魔法があるんじゃが、即効性があまり無い分、自由度が高くてな。精神魔法の練習にも丁度良い」
「へー」
「な、なんだこの蛇は!?」
「失礼な! 龍じゃ! ドラゴンじゃぞ! がおー!」
キシャーっと、ミドリがマルハール氏を威嚇する。ほのぼのしてしまうからヤメレ。
「その魔法を使えば、こいつの変な考えを正すことも?」
「ある程度習熟すれば、可能じゃな」
良し、やるか。
早速、代表的な詠唱文言をミドリから聞き出し、マルハール氏へ向けて魔法を掛けた。
「『心を我が手に。MindControl【精神統制】』」
ボウっとオレの手の平が光り、マルハール氏の首がガクリと垂れ下がった。
「えっと。これで、どうすれば?」
「……分かりません」
「へ?」
マルハール氏が、オレの言葉に反応して返答する。
「いや、お前に聞いている訳じゃ……」
「自動的に、魔法の対象となった者は、術者の命令を聞こうとする状態になっている」
そうなのかー。でも今は縛ってあるしね。ま、質問に答えるぐらいは出来るか。
「じゃあ、尋ねよう。何故オレを殺そうとした?」
「目障りだから、です」
「どうして目障りと感じた?」
「フェズ嬢を手に入れるのに、私より若くて容姿の良い輩は障害となるから……です」
オレ、そんなに容姿は良い方じゃないけどな。最近は羽振りが良いから、補正があるのかも知れん。
「フェズを手に入れる、とは具体的に?」
「交際を申し込み、恋人になり、結婚してやがて家庭を持ち、子どもを作って幸せに暮らしたい」
う、うーむ。ちょっと年の差があるけど、多少はね?
「でもそれって、向こうは、フェズ自身は、交際を申し込まれてると感じて無いんじゃないか?」
「そんなことは無い筈だ。ハッキリと好意を何度も口にして伝えている」
「うん。多分伝わってないわ。ただのセクハラ好きのおっさんに悪戯されているだけ、って思われてるのが落ちだろう。口説き文句も、揶揄われているとしか認識出来てない可能性高いわ」
「……」
あ、エラー吐いてそう。
「とにかく! フェズのことが好きなら、キチンと正式に伝えること!」
「フェズ嬢のことは好きだ。しかし正式な伝え方が分からない」
「奥手か! 恋文でも何でも良いから書いて、茶化さずに渡せば良いだろうがッ」
ガキか、このおっさん。
「恋文……恋文……」
ん? 何か手の平の力場に、抵抗と言うか手応えが。
「さっきの魔法の効果で、そいつの意思を変化させることが出来るぞ」
お、ミドリ先生の魔法レクチャーだ。まるでゲームのチュートリアルみたいな雰囲気なのは御愛嬌。
むむむ! この反発力を抑え込めば良いのだろうか。
「恋文……恥ずかしい……他の方法……」
「恋文で良いだろ! 好きです、付き合って下さいって書いて渡せ!」
力を籠める。
「恋文……書く。フェズ嬢に恋文、書く。恋文、書く。恋文書く」
「オゥケィ、それで良い」
何となく意思を誘導出来た感じがした。ふぅ、と掻いてもいない額の汗を拭う動作をした。
「次、オレのことだな。オレに最初に切り掛かって来たのはそっちだったよな?」
「事実はそうだが、お前が先に攻撃して来たことにしたい」
「したい、じゃねーよ! してねーだろーがッ! お前が最初に攻撃して来た。それは良いな?」
「良くない……攻撃、お前が先……これは決定事項」
「勝手に決定すんなよ……。お前が先に攻撃。はい、復唱!」
「お前が先に攻撃」
「あ、くそっ。ちげーよ! マルハールが先にミツルへ攻撃。ハイ!」
「マルハー……ルが先に……ミツルへ攻、撃」
「ほい、復唱!」
随分と抵抗があったので、手の平に纏わりついている力でマルハール氏の精神を誘導した。事実を何とか認識させるまで、結構時間が掛かったとだけ言っておこう。
どんだけ頑固なんだよ。
「私、マルハールが全て悪かった。ミツル殿は悪くない。先に攻撃したのは私。捜索したのも職権の濫用。フェズ嬢に恋文。ダイエットして腹を凹ます……」
少し、壊れたレコードのように(この例え、今通じるのか?)なってしまったが、オレ的に正しい状態になっていた。
やれやれ、難産だったぜ。
『アイテムボックス』から木の板と棒を取り出し、板に文章を書いてから棒を釘で打ち付け、近場の地面へと刺した。
続いて太い縄を取り出し、木の太い枝に引っ掛けてマルハール氏をぶら下げられる様にする。
周りに仲間5人を配置し、完成。ちょびっと芸術品っぽい。アートだぜ。
『第一警備隊の隊長マルハールは、ランクAハンターのミツル・コウサカに対し誤解で危害を加えようとした。
その結果返り討ちに会い、逆恨みで大規模捜索を行ったのが事の真相である』
亀甲縛りにされ、エビ反り状態で木に吊るされていたマルハール氏が保護されたのは、その日の夕方であった。
「『第一』のマルハールがここに吊るされていたと言うのは、本当かね?」
第二警備隊の隊長オランド・エイドスが、立ち入り禁止にした現場にいる警備兵の一人へと尋ねる。
「は、はい! 肯定であります! またその周囲に、当時同行していた警備兵5名も縛られていたと報告されています!」
「そうか……」
立て札を見ると、マルハールの罪が明記されていた。
「これは本当か?」
誰かに向けた訳では無い呟きが、『第二』のオランドの口から漏れ出た。
「それよりも、マルハールの縛られ方が、今まで見たことの無い……素晴らしいものだったと聞いている」
『第三』のグラント・ローゼスが、珍しく興味津々にしていた。
「目撃者は?」
「ダブルエーのシルナス殿です!」
「そうか」
グラントの目の端に、腕組をして難しそうな表情をしているシルナスの姿が映った。
グラントは早速彼に近づくと、マルハールの縛られ方について質問する。
「え? 確かに綺麗な縛り方だったけど……。縛ると言うか、縄を巻き付けてるとでも言うべき、負担を掛けないことに極力配慮したものでした」
「そうかそうか。で、その縛り方は具体的には?」
「イエ、チョット分カリマセン」
真顔で迫るグラントに、シルナスは困惑。縛られていたマルハールは既に解いてあること、他の5名は手足が縛られていただけだったこと、再現は難しい事などを伝える。
それを聞いたグラントは、大変残念そうな表情をし、警備隊の本部へと戻って行った。
「……何をしに来たんだ、奴は」
『第ニ』のオランドは、グラントの奇行に呆れながらも、同じく本部へ帰ることにした。
後日、第一警備隊の隊長だったマルハールは降格処分となり、15名を率いる分隊長となる。
彼が酒を控えるようになり、運動をするようになったのは、改心したからか、はたまた別の要因があったのか。知る者は少ない。
「さて。精神魔法の技量は少し上がったと思うけど、記憶を消去する魔法は使えるようになったかねぇ?」
ウェントの屋敷へ戻ってから、戒やミドリたちと共に打ち合わせをしていた。今日あったことも伝達してある。
「その辺はどうだろうな」
ミドリにも分からないらしい。ってことは境界線上っぽい?
記憶を消去する為の魔法がどんなものなのか、軽く教えて貰う。
「実際に使えるか試してみ……実験動物が居ねぇ!」
痛恨の極み! マルハールで試せば良かった。
「こうなったら! 戒! 頼む! 犠牲となってくれ!!」
「え? えぇえええ……」
気持ちは分かる。だが、オレの進歩の為に尊い犠牲となってくれぃ!
「『忘我の彼方に消してしまおう。MemoryErase【記憶消去】』」
戒に対し、魔法を発動した。ビクンと、彼の身体が小さく跳ねる。
「……で。これからどうすれば?」
「……昼と同じようなことしておるのぉ。消したい記憶を浮かび上がらせて、選択して消去すれば良い。具体的には、会話で記憶を呼び起こさせるんじゃ」
ラジャー。お安い御用だ。
「それじゃあ、戒。この世界に来てから始めて娼館へ行った際の……」
大分前の記憶になるが、エナさんと言う思い人が居たことを、戒の記憶から取り除くことにした。
うわっ、結構ごっそりだわ。何? 強い記憶程、容量も大きくなるって? ほぇー。
既に乗り越えたことだから、消さなくても良いかも知れないか、と今頃になって気付く。
うーん、でも実験もしたいしな。
そうだ! 『エナ』と言う名前だけ消してみよう。
「……ギュッとして、キュイッ、キュイッとな」
微妙な、否、絶妙な力加減を要し、戒の記憶の一部を消すことに成功した……っぽい。
魔法を解除し、戒に確認の為に尋ねてみる。
「戒。思い出せるか? 娼館で会って、お前が惚れた人のこと」
「え? ええ、まあ。あの、笑うととても可愛い、あの人ですよね」
「……名前は? 思い出せるか?」
戒が訝し気にこちらを見て来る。
「それは……あれ? 何でだ。思い……出せない……!」
実験は成功だが……何だかとてもいけないことをしていると感じてしまった。
人の記憶を弄るなんて、必要があっても極力すべきではないってことだよな。
高坂ミツル 年齢:25
精神魔法3(2Up!)




