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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第一章:始まり
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005 暁に吹く風


「奴隷の能力の説明に、虚偽があった! 返品したい!」


 オレの主人となったヤナさんが、強い語調で奴隷商に食って掛かっていた。


「いえいえ、虚偽は一切ありません。お客様にお伝えした情報の、どの部分が間違っておりましたでしょうか?」

「『アイテムボックス』の天恵持ちでありながら、枠が1つと言うのは誤解を招く可能性があり、それを解消する義務が少なからず貴方(がた)にはあったはずです。返品は妥当」


 覚えてない異世界の言葉が出て来るが、ジルミアさんの言ってる内容は大体推察出来た。地球の現代社会では、おおよそ認められることだろう。しかし法整備などがしっかりしていない中世的な世界では、それは通らないんじゃないかな。


「仰りたいことは理解出来ます。しかし、このように様々な出品者がいるオークションで、そこまでのことを求めるのは、土台難しいのではありませんか? そしてそれを了承した上で、お二人とも御参加されていたはずだと認識しております」

「それは……そうなんだけど」

「ジル、もう良い」

「ヤナ? でもこんな不良品を掴まされたんじゃ、私たちの名に傷が……」

「名誉とか体面は、貴族を辞めた時に気にしないことにしたんだ」

「ヤナ……」


 おい、誰かこいつら止めろ。幾ら主人になったとは言え、周りの目がある中で急に二人のムードを作るとか、砂糖吐く。


「まあ、ランクBの有名人であるヤナ様・ジルミア様が、どうしてもと仰るのでしたら、返品を受け付けさせていただきますよ」


 急に態度を変えてきたが、視線の先を追って理解した。草薙さんの販売金、どっさりだ。護衛の人が見張っているが、7億円前後の金貨をニコニコ現金一括払いって、恐ろしい。あれに比べたら、オレの販売金額何て雀の涙……ぐはっ。自分で言ってて自分にダメージが入った。


「では、返品されるのでしたら手続きを……」

「いや、ちょっと待て。もし返品したら……彼はどうなるんだ?」


 ん? オレ?


「ハハハ。輸送費もただではありませんし、この街の本店に置いても売れる見込みが薄そうですからね。さっくりヤってしまおうかと」


 え、ちょ。ヤる? 犯る? 否、る!?

 習得中の言語の上、抽象的だから正しい意味が分からない。だがしかし、ポルトさんから殺意が漏れてるんですけど!

 か、勘弁して下さい。オレこんなところで死にたくない。


「ヤ、ヤメテ。殺す、イヤ


 震えて涙目になりながら、必死に声を絞り出す。


「……心配するな。返品しねーよ」

「ヤナ?」

「おや? では、そのまま奴隷を連れて帰られるのですね」

「ああ。……まったく、喰えないおっさんだよ」


 ヤナさんは、縮こまっているオレの腕を少し乱暴に掴んで、誘導するように連れ歩き始めた。慌ててジルミアさんが、追い駆けて来る。




 20分ほど歩いて辿り着いたのは、そこそこ立派な宿屋。太陽と月の絵が看板に掛かっている。多分、『太陽と月』亭とかの名前だ。かなり高確率で。

 宿に入る頃にはオレの緊張も解けていて、手首を掴んで来るヤナさんの力も軽いものになっていた。


「あ、あの……。助けてくれて、買ってくれて、有り難う、ございます」

「ん。あまり気にするな。あそこで殺されたら、寝覚めが悪いしな」

「たーんと感謝なさい。ヤナは優しいんだから!」


 感謝は沢山するけど、偉そうにするジルミアさんが意味不明です。何? 彼氏自慢ですか? 砂糖吐くぞコラ。爆発しろリア充。


「それにしても、ミツルって目付き悪いわよねぇ。何か変なこと考えてるんじゃないかしら?」

「え? 考えてナイヨ? 本当ダヨ? 真実ダヨ」

「……怪しい」


 女の勘って5人に一人くらい馬鹿にならないからね。誤魔化し切れなさそう。まあ、主人はヤナさんだし、別に良いか。




 夕方になると、ヤナさんの残りのパーティメンバーが三人とも宿に帰って来て、全員揃ったようだ。

 改めて自己紹介し、逆に全員から軽く挨拶をされた。これから長い付き合いになりそうなので、心の中で整理して覚えておこう。


 まず、パーティリーダーでもあるヤナ・キルナックさん。

 体格が良く、前衛を務めている。貴族の次男坊だが、冒険者になった際に貴族の身分を捨てた(つもり)らしい。親が世襲制の貴族だと、家族も自動的に貴族に準じる扱いをされるのが普通みたいなので、実はあやふやとのこと。勘当でもされない限り、本人が「貴族辞めた!」と言っても無視されるっぽい。

 二十歳前後の好青年だが、顔や身体にかなりの傷があり、一目で堅気ではない雰囲気と分かる。


「夢は金持ちになって、出来ればランクAの冒険者になって、幸せな家庭を築きたい」




 ジルミア・ヘンシルク。キツイ感じのする美女で、ヤナさんに惚れている。ヤナさんも満更ではない。

 年齢は20代前半か。実家が商家の為、金勘定にはウルサイと評判。戦闘では後衛で、主に魔法で攻撃をする。体格はモデルに適していると言うべきか、起伏はあまり極端ではない。この感想を抱いている時に、殺気をこちらに向けないでいただきたい。怖い。

 多分、直感に優れている。


「将来の夢? ランクAになりたいわねぇ。男爵扱いになるし。そしたら、彼とも結婚……ごにょごにょ」




 ルノーア・ホーリーベル、ぽやぽやっとした可愛い系の女性で、年齢は19歳。彼氏無し。

 パーティでは弓を使い、回復魔法も担当している。日本のRPGだと、回復担当って刃物系を使わないイメージあるけど、異世界だしね。

 一応、『主神であり世界神でもあるアン・サン様』を祀る聖教に属し信仰しているようだが、緩い。とにかく緩い。本人の性質もあるが、聖教の聖地があるサンタン教国やその付近でも無いと、熱心に活動している宗教家は少ないようだ。逆に言うと、サンタン教国には狂信者が居そうでヤバい。


「えっと、そうですね、美味しいものが食べたいです。あ、あと恋もしてみたいなぁ。え? ネビル君? やだなぁ、恋人じゃないよ~。色々奢ってくれるけど、そんなんじゃないし~。ネビル君も私なんかに構ってないで、恋人を探せば良いと思うんですけどね。え、可哀想? ネビル君が? 何で?」




 ボル・ゾーン、26歳。武骨で無口な大男。2メートル近い身長と100kgを軽く超える筋肉質な体格は脅威。

 武器は斧系を好み、ハルバードとグレートアックスの中間みたいなのを使用している。

 生まれ故郷の村は、魔物の襲撃で壊滅しており、生き残りは彼含めて数人。これは別に珍しい事ではないらしく、特に気にしてないし気にするなと言われた。え、何ソレ、この世界ってハードモード? いや、初手奴隷なのはルナティックモードなんだけど、普通に生きて行くのに集落の全滅が珍しくないとか危険過ぎやしないか?


「今は魔物を狩っているだけで充実している。他の願いは無い」




 カイナス・モント、20代前半。イケメン風のチャラそうな男で、魔法担当だが槍も多少使う、中衛的ポジション。

 浮気性らしく、恋人をコロコロ変える点が他のパーティメンバーから非難されていた。ジルミアさんのことは好みではなく、ルノーアさんには玉砕したらしい。そして、ルノーアさんを酔わせて手籠めにしようとしたところをボルさんに殴られたとか。それを切っ掛けに正式にパーティへ加入したそうな。……何で?

 他のメンバーより1年ほど後に加入した為、パーティの一番の新顔と言える。


「この青と緑の魔導士にして最強の魔法使い……予定のカイナス様と知り合いになれるのは、光栄なことだよ。ミツル君」




「と言う訳で、ヤナは『アイテムボックス』の天恵持ちと言う言葉に騙されて、ミツル君を買い取ることになってしまったのよ」


 ジルミアさんが、今日の奴隷オークションでの顛末を、他のパーティメンバーに説明していた。


「へぇ~。1個だけ? 1個だけ何で?」

「わ、分かりません。魔力、少ない?」

「少年よ、気にするな。加護も天恵も無いのが普通」

「そうだぞ。加護を有り難がってそれを絶対視する今の風潮は、色々問題があると思ってる」

「加護を持ってる私たちが言っても、説得力無いだろうけどね。ああ! 自分の溢れる才能が怖い」

「あ、あの。少年じゃ、ないですよ、オレ。24歳」


 場の空気が一瞬固まった。


「嘘、私より年上……?」

「へー、そうだったんだー。20歳くらいにしか見えなかったなぁ」

「童顔と言うのとも少し違うか? 異世界人の特徴だろうか」

「少し、意外。けど俺の方が年上だ。頼れ」

「この私と同い年とはな! 良し、この偉大なるカイナス様と友達になれる権利をやろう。有り難く思い給え」


 あー、欧米では東洋人は少し若く見られるのと同じか?

 この世界テハルの人間の顔は、やや掘りが深い。ヨーロッパと中近東を足して割った感じだ。肌の色は、白人に近いのと、日に焼けた褐色に近い人が半々と言ったところ。

 ちなみに気温は極めて高く、昼間は30℃~40℃になる。夜は20℃前後だけど。みんな薄着だから、若い女性も肌の露出が多く……いろいろと見えそうになってしまうのが目に毒だ。ジルミアさんはブラジャーをしていなかったとだけ語ろう。ポッチがエロス。

 そして気温の割に、日差しはそんなに強いとは感じなかった。何でだろう? でも、肌の色は日差しの強さで徐々に千年単位で変化して行くと聞いたことがあるから、黒い肌にはならない程度の日差しなのだろう。

 そんなこんなで宿の一室で過ごしていたが、夕飯時になり、一階の食堂で食事を摂ることになった。




 食事はなかなか量もあり、美味しかった。トマトソースの掛かった鳥のステーキに、シャキシャキのレタスっぽい葉っぱ物を中心としたサラダ、少し辛いけど様々な食感の具が入ったスープに、食べ放題の黄色いパンもどき。薄めのワインは水代わりだろう。パンの材料は、きびと小麦の中間っぽい穀物で、ここらの主食みたいだ。トウモロコシに似た香ばしさが癖になりそう。


「で、だ」


 夕食後、宿の部屋の一つにもう一度集まり、会議となっている。


「これからどうするか話し合おう」

「ハイハーイ! ミツル君をパーティメンバーに入れて探索に一票~」


 ルノーアさん―――もう「ちゃん」付けで良いかな―――のお気軽な発言に、オレ戸惑う。

 いきなり探索って、そんな無茶な……。と言うか意味が分かりません。最初からちゃんと説明して下さい。


「まず、奴隷市場に行った理由から説明しましょう」


 さすがジルミアさん。論理的で建設的な話の組み立てに、痺れる憧れるゥ~!

 大変助かります、ハイ。


「私たちは『神の迷宮』の22階まで攻略しているわ。でも、中層から先は持てる物資に悩まされるのが御約束。現状では攻略階層が伸びず、足踏みしているわ。そこで……」

「確か亜空間サブスペース荷袋バッグを買いに、パーティ資産の小金貨300枚を持って出掛けたはずだ」


 亜空間荷袋? 前後の文脈から、何か収納に便利なものなのだと推測される。


「けれど、魔道具屋に行ったは良いが、目当ての物は無かった」

「まあ当然よね。人気商品だし、品薄で常に入荷待ち」

「今パーティにあるのも、30kg程度入る袋で小金貨200枚だった」

「今度は同じ物を予約するのに、小金貨500枚と言われたんだぞッ!」


 ヤナさんが怒りを紛らわすかのように、備え付けの机を叩いた。

 ……うん、手加減してるんだね。本気で叩いてたら壊れてそうだ。


「最近は、西の大陸で亜空間荷袋の大半を作っている、空間魔法の権威モズズ氏が多忙だそうで、供給が滞っているのがその原因らしい」


 ん? モズズ? どこかで聞いたような。いやよそう。勝手な想像で間違った結論を出すのはマズイ。


「お年を召してるそうだし……死んでないだけまだマシなのでしょうね」

「確かに。30kg入るこの袋でさえ、とても便利に使わせてもらってるし」

「そこまではまだ許せる。問題は、小金貨500枚でも他と横並びの発注になるだけで、納品はいつになるか分からない点だ」

「他のパーティでも手に入れようとしてるところは多くて、競争になっているのが現状よね」

「あのボッタクリ魔道具屋の主人、確実に他より優先して手に入れたいなら更に100枚上乗せしろとのたまわってきやがった……ッ!」

「「…………」」

「妥当っちゃあ、妥当なんだが」

「は・ら・え・る・か! 自腹で100枚くらいは出せるが、あと300枚もどうしろと。しかもそれでも入手はいつになるか分からない。相対的に他より早いってだけの話だしな」

「そんな折……ある噂を聞いたわ。今日の奴隷オークションで、『アイテムボックス』の天恵を持つ奴隷が売りに出されると」


 あっ―――


「それがミツル君か」

「いえ、それがもう一人居たのよ。『アイテムボックス』(しょう)の天恵持ちが、最後の大目玉に」

「へ?」

「なん……だと……?」

「ふむ」

「つまり、本当に売りたい目玉商品はもう一人の方で、ミツル君はオマケだった?」

「多分、ね」

「ちなみに、その本命の方の値段は……?」

「最終的には、大金貨370枚。ボルボー商会のメントモリ老が落札していた」

「うわー、絶対手が届かないじゃない! 無理無理、絶対無理」

「……そうだよな、おかしいよな。ミツルを競り落としたボクが馬鹿だったよな」


 安物買いの銭失いって奴ですね。……アカン、またも自分で言っててダメージ受けてる。


「まあ、買ってしまった以上は仕方ない。面倒は見よう。それで……」

「ちょっと良いか? 結論を出す前に、少し話があるんだが」


 中二病疑惑のカイナスさんが、真面目な声で提案をしてきた。






パーティ名:暁に吹く風

 ランクBの冒険者であるヤナをリーダーとする、スエズエ共和国でも三指に入る上位パーティ。

 同じくランクBのジルミアとボルを中心とし、ランクCのルノーアとカイナスも実力者。後者二人はランクB間近の噂あり。

 パーティの名前はカイナス発案、ジルミア監修。



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