表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第五章:諸国漫遊
41/114

040 教育と孤児院と


 スエズエ共和国の首都ウェントは、大河と海に挟まれた地形だ。

 運河のあるジャ川を挟んでその対岸には、イエイラと言う街が発展している。東の大陸イースティンへの窓口であり、地形的にも悪くない。しかし『神の迷宮』があるウェントほどは栄えていない。そして人口にも差があり、ウェントは30万人以上だが、イエイラはその約1/4程度。

 イエイラは農業が盛んで、作られた物は主に首都ウェントで消費される。一次産業が主であり、魔石の産出で大きな利益を得られるウェントよりも、平均的な収入が少ない傾向にある。

 つまりは、余裕がそれほど無いのだ。子どもへの教育なども御座なりで、識字率は半分程度。計算は簡単な物しか出来ないのが普通となる。

 その点、ウェントの街では教会や孤児院などが充実しており、文字の読解や計算を含めた初等教育、道徳などもそこそこ仕込まれている。魔石売買での利益があるが故の、富の現れと言える。




 オレたちの今後を考えると、この世界の住人を味方に付け、動いて貰う必要が出て来る。初等教育くらいは終わっているのが最低条件であり、かなりの数が欲しい。人数は多ければ多いほど良いが、使える金にも上限がある。

 そこで、イエイラの街の子ども中心に教育を施し、協力者に仕立て上げる、と言うのが戒の計画だ。

 まずは孤児たち200人程を対象にし、いずれ学び舎の建設・拡張とともに一般の子どもにも手を広げる。

 最初に行ったのは、イエイラの街のおさへの挨拶だ。「コレコレこう言ったことをしたいのですが、宜しいですか?」とお伺いを立てる。変なことじゃなければ、そんなに邪険にされることも無い。お土産の、大銀貨50枚(100万円相当)のいぶし銀も効果を発揮した。


「学校を立てたいのですが、街の中心で良い所、ありませんかね?」


 イエイラの街の簡易な地図を広げつつ、街の長のオーネスさんが後退した額に手を当てて唸る。


「むむむ! 今空いてるのは一軒家程度ですな」

「それでは困りますね。いずれ更に大きくするかも知れませんし……」

「大きく? でしたら、街の中心通りからは一本外れますが、ここなんかはどうですかな?」

「……そこならばこちらでの問題はなさそうですが、今現在住んでる人が居るのでは?」


 町の中心から200メートルほどはズレるが、全体を見れば大差無い。むしろ街の端っこの方からすれば、等距離になるのでより中心とも言える。街が発展し拡大するに従って、最初の中心通りが全体の中心からは徐々に外れて行ったのだろう。

 とは言え、住人が居るのであれば、どうしようもない。わざわざ立ち退かせるのにも、結構労力が居る。


「いえ、今住んでいるそこの人物は、壁近くの離れた所にも土地を持っていましてね。最近はそちらの果樹園に力を入れていて、『出来れば町の中心の土地は手放してしまいたい。しかし安値で叩き売るのも勿体無い』と言うジレンマがあると、愚痴ってましたよ」


 ふむ。ちなみに、オレたちが取っ掛かりとして必要としている土地の広さは、どれくらいなんだろうか。


「そうなりますと、これくらいの土地を、小金貨200枚前後でまず買い取り、その後は必要に応じて買い足したり借りたりするのはどうでしょう? 基本的に現在農地みたいですし、こちらが必要とする予想最大値でも、受け入れられるキャパシティがあると言うのは有り難い」


 戒が、欲しい土地の大きさを示しつつ、値段の確認も入れて来た。


「200枚! それは嬉しがるでしょうな。なんせ一応壁の中の土地とは言え、このあまり発展していないイエイラの土地だ。いや、自虐じゃ無いですよ。正当な判断と言って欲しい。実際即決で売るとしたら、その半分どころか1/5も怪しいですからね」


 日本は土地が高いと言われるが、それは首都圏に限ったことだ。地方の僻地などは、安値でも早々売れない。

 さすがに今回のソレはそこまででは無いが、ちょっと離れた田舎くらいの感じだろう。


「それに、長年農作をしていますので、土地が痩せてしまって、収穫も期待出来なくなってますから」


 イエイラの街の長の言葉に、この世界の文明レベルが知れてしまう。肥料をやれば、ある程度は回復するだろうに。創造神ならその類の知識を与えていてもおかしくはないのだが、その後の歴史の中で失われてしまった可能性もあるな。


「では、早速当事者へ話を付けに行きましょう! 何、これくらいの労力は何てこと無いですぞ」


 随分と張り切っていたが、該当の土地を持っている人物との交渉は、実にスムーズに進んでしまって、呆気無く終わってしまう。

 そして親睦を深める為、近場の食堂で一緒に食事を摂ることになった。だが、農村主体の街に洒落た店などある訳が無く、普通の大衆食堂みたいな所である。


「いやあ、丁度良かった。あんな高値で土地を買い取ってくれるとは……。それで、残りの土地も、全部買い取ってくれるんだべ?」

「いえ、全部買い取ることは無いでしょうね。今計画している『人材補完計画』が問題無く進めば、規模を広げるのは確かです。しかし、そんなに大勢の人を教育しようとしても、対象が無くてはどうしようもありません。ある程度までは買い取るでしょうけど、それ以上は一時的に借りる、と言うことになると思いますよ。ちなみに買い取る可能性が高いのは、ココとココと……」

「へえ、へえ! なら、問題ないべ。早速明日から、果樹園の近くへ引っ越す準備せねば! 太っ腹なことに、即金で土地の販売金貰っちまったもんなぁ!」


 『人材補完計画』って、何。初めて聞いたんだけど。凄くパクリっぽい。

 戒、たまに突っ走ってくれるよね。ミドリも関わってそうだ。


「いやしかし、本来なら我々街の上層部こそが、子どもの教育を考えないとイケナイと、常々思ってたんですがね。お金が足りないんで、仕方なく、仕方な~く自主性に任せているのが現状でしてな。そこへ颯爽と現れた救世主! よっ、御大臣! ミツル様! カイ様!」


 褒められるが、それはまあそうだ。教育なんて、国やそれに近い組織がやるもので、個人で手出しするのは貴族の娯楽に近い。お金もどんどん消費される。

 見返りとしては、将来オレたちの味方になって貰うってところだな。具体的に今のところは、戒と草薙さんが経営している会社・商社に勤めて貰うって形になる。


「となると、あとはそれぞれの孤児院の所へ行って同意を貰って、その人数に見合った学び舎を立てて……。お、そうだ。給食も出さないとな。なら、欠食児童全員の胃を満たすだけの食事を作れる場所も、確保しないと」


 色々とやらねばならないことが出て来る。計画を進める人や補佐の人、雇った方が良いんじゃないか?


「おう、兄ちゃんたち。面白そうな話してるな!」


 誰だ? オレたちの御食事タイムを邪魔する奴等は。怒るほど美味って訳じゃないけどな。


「大工だよ、大工。一応この街で活動してるんだが、仕事が微妙に少ない上に、大した金にもならないからな。細々とした修理やらで食い繋いでるのさ」


 アルコール度数の低い酒を一気に飲み干し、げぇっぷとこちらに息を吹き掛けて来る。臭い。汚い。


「もしかして、大工のかしらみたいな?」

「もしかしねーよ! どっからどう見てもかしらダルォ!?」


 ゲハハハと、戒の質問に答えて笑う。


「そーか、そーか。ちなみに、動かせる大工って何人くらい居るんだ?」

「あ? そりゃおめー、俺くらいになれば、この街の大工全員動かせるぜぇ? 人数? んーとな……10人が2組と、5人が5組だ!」


 おい。計算しろよ、簡単な算数だろ。45人って言え。


「応! それくれーだな! だから、全員集まれば、平屋の1軒や2軒、あっという間に建てちまうぜぇ? ヒィック!」


 酔っ払いめ。


「となると、教室が4つか5つ程度、その他に教員用に使う部屋を一つ、更に給食調理用の部屋を確保してっと。あ、全員集まれる大広間も欲しいですね。……こんな間取りで建てて欲しいんですけど、どうですか?」

「おお? こりゃ結構なモンじゃねーか。ふむふむ。外見は?」

「簡素で良いですよ。余計な飾りは要りません」

「そう言うの、嫌いじゃないぜ。なら金額はこれくらいで……」

「ちょっと安過ぎませんか? 基礎とか色々やるとなると、その3倍くらいは……」

「あん? 基礎って何をするつもりだ?」

「例えば地震対策に、って地震がそんなに無ければ、対策する必要無いか」


 交渉事は戒に任せて、オレは決まった金額を前金で全額渡した。ATMな気分だ。世のお父さん方は、こんな切なさを感じてるんだろうか。尊敬する。

 建設案は未確定のはずだが、教室の1つくらいは後からでも融通が利くとか言ってきやがった。とにかく建設を始めてしまいたいらしい。堪え性が無いタイプか。


「じゃあ、俺は早速手配して来る。人とか物とか、色々な!」


 嵐のように、食堂から去って行った。騒がしい奴め。


「オレたちはとりあえず、8つの孤児院に話を持って行くか」

「そうですね。トントン拍子に進んでしまって、順番が無視されてしまってますが、本来はそっちの方が先にやるべきことですよね」


 横で見ていたイエイラの街の長が、「お前さん、金持ちじゃの。即金でその額が出せるか」と言ってくる。

 ちょっと悪戯心が湧き上がったので、金塊をポンと出してみる。ひとーつ、ふたーつ、みーっつ。よつ、いつ、むつ、ななつ、やつ、ここのつ、とお!

 フッフッフ。余りのことに、街の長が引っ繰り返って痙攣してしまった。面白い。


「何やってるんですかミツル。食事も終わりましたし、孤児院へ行きますよ。……オーネスさん、気絶してる?」


 結局、オレがおぶっていくことになった。




「と言う訳で、教育を受けた期間に応じて、私たちの商社で数年働いて貰うことになりますが、勿論給金はきちんと出ますし、双方にとって利益のある話だと思いますよ?」


 何だか某アーマードな何かを想起する戒の言い方。有体に言って胡散臭い。


「それは素晴らしい提案ですが……オーネスさん?」

「んむ。この方の財力は、私が保証しよう!」


 財力だけかい。


「私は、信頼に足るかどうかをお聞きしているつもりなのですが」


 真顔でオーネスさんにツッコミを入れてる孤児院の院長さん。ちょっと怖い。


「一応、オレはBランクではあるが」

「うぅん、もう一声」


 ギルドカードを見せたが、少し足りないようだ。


「では、私から。まずは、私たちの素性からお話ししましょう。時を辿ること今から46億年ほど前……」


 戒の頭頂部へ、軽くチョップをお見舞いする。


「そんな昔の話から入ってどうする」


 あっけに取られる院長さん。


「失礼しました。では、真面目に。

 ベラスティア皇国、と言うのは御存知ですか? 実はそこの計画によって、モズズ氏の【異世界間通路アナザー・ゲート】と言う魔法が使われ、私たちはこの世界へと強制的に連れて来られました。

 そして奴隷として売られましたが、ミツルは幸運なことに、強大な力を得る機会を得ました。

 話を聞く限りでは、努力や忍耐が必要ではあったものの、絶大な力を入手し、現在活躍中です。

 大金を手に入れたミツルは、知り合いである私を購入し、奴隷から解放してくれました。

 そんな状況ですが、これから私たちは、元居た『地球』と言う場所で一般的に広まっている『科学』の知識など、進んだ文明の知識を広めて、この世の中を少しでも良くして行きたい。

 そんな風に考えています」


「は、はぁ」

「唐突過ぎて、理解出来ないですよねー。ハハハ」


 空回りしちゃったかも知れない。戒めを込めてバシンバシンと、戒の背中を強めに叩く。


「ぶっちゃけた話、大勢が幸せになれそうな方法があるので、それを広めて行きたい、と認識して貰えれば間違ってません」

「……熱意は伝わりました。けれど、貴方方あなたがたが信頼に足るかどうかは別問題です」


 おおう、手厳しい。


「しかし、一方的に拒絶するつもりもありません。今日の夕飯は、こちらで食べて行って下さい」


 何故か有無を言わせずに、オレたちを晩餐ディナーへと招待して来るのだった。




「夕飯の支度をしている間、子どもたちの面倒を見ろって……」

「まあ、良いじゃないですか」

「お前は良いよな。ロリコンだし」

「ロロロ、ロリコン違うし!」


 バレバレです。今だってほら、ちっちゃいけど可愛い女の子を目で追ってるし。


「あの人の目、何だか……」

「アタシ、見たことある! ブナンマのおじちゃんがおんなじ目で見てた!」


 おや、戒の同志が居るみたいだ。


「おじちゃん! 追い駆けっこしよ! おじちゃんオーガ役な! みんなー、逃げろー!」


 わーっと、オレをオーガに仕立てて、小さい子たちと、男の子たちは庭を走って逃げて行った。

 残ったのは10歳前後の女の子だけだ。

 孤児院は13歳くらいまでが原則で、14,15歳には働き口を見つけて独り立ちしなくてはいけないらしい。


「待ちやがれぃ!」


 仕方ないので、追い駆けっこをしてやろう。まずは足の遅い小さい子からだ。


「捕まえて食べちゃうぞぉ!」


 ガバッと、5,6歳から10歳くらいの子を捕まえてはリリースする。一度捕まった子は、行儀良く庭の端の方に集まっていた。


「へっへーん! おじちゃん遅いよー! そんなんじゃ、捕まってやーれなーい」

「はっはっはー。オレの本気は、こんなもんじゃないぞぉ」

「嘘つけー。やーい、ノロマのオーガ、お尻ペンペーン!」

「ムッキー! もう怒ったぞぉ。3倍モード発動!」


 無詠唱で、【肉体強化】を320%Upモード、つまり4.2倍の脚力で発動する。

 さすがにそんなことをすれば、あっという間に捕まえられる。子どもは小回りが利くが、残ってるのは脚力も結構ある、身体の比較的大きい奴等だ。

 さっくりと全員を捕まえると、子どもたちから賞賛の眼差しで見られた。


「スゲー、おじちゃんスゲー!」

「3倍モードって何! 教えて!」

「急に早くなったけど、あれってなんかの技なのか!? 格好良いな!」


 戒の方を見ると、何やらお話をしているようだ。雨と雲? ふーん。虹? 夕焼けと青空? どうでも良いな。


「良し! 諸君、もう一度追い駆けっこをするぞ!」

「今度は負けない!」

「やったー! おじちゃんグルグルしてー」

「おじちゃん冒険者なんでしょ? 剣教えてよ、剣!」

「んー、オレの武器は槍と魔法だから、剣術は無理だな。一番最後まで捕まらなかった奴には、少し教えてやっても良いぞ」

「わーい! 逃げろー!」


 そんな風にして子どもと遊んでやっていると、夕暮れ時になった頃に、夕飯の支度が出来たと孤児院のお手伝いさんが知らせに来た。

 空きっ腹を抱えた子どもたちは嬉しそうに、食堂へと走って行く。




「……結局、何だったんだ?」


 『アイテムボックス』からチーズと干し肉を出して齧る。食事は終わったが、大人も子どもも均等だった分、ちょっと物足りなかったのだ。

 子どもたちがオレたちの齧る肉を欲しがって来るので、一切れずつ恵んでやった。あ、お前はもうやっただろ、いけません!


「それは……聞かせて貰えるんですよね?」


 戒の言葉に、院長さんが頷く。


「ええ。……極稀に、何らかの思惑で孤児院を、そして子どもたちを利用しようとする人が居ます。その場合、どうしても子どもたちを見る目は、商品を見るようなものになってしまう。しかし、貴方たちは……」


 普通に遊んでしまったぞ。


「悪意とかは感じられませんでした。良いでしょう、お二人を信用して、子どもたちをお預けしたいと思います」

「本当ですか! やりましたね、ミツル!」


 うむ。


「どうせですから、他の孤児院へ行った際、この孤児院の院長、ラーニアが賛同していた。そう伝えて構いませんよ」


 およ?

 狐につつまれた、もとい、つままれたような気分になったが、後日他の7つの孤児院を訪ねた際、ラーニアさんの了承を貰ってる旨を伝えたら、あっけなく全ての孤児院でオッケーを貰えた。

 急がば回れって奴なのかね。






所持現金:7億2531万円相当+Gold 2,938kg+36億円相当のファフレーン小金貨(予定)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ