030 光魔法で格好良い演出を
ベラスティア皇国の首都スティアの城で、オレは警告を行った。その結果、亜空間荷袋は値崩れする可能性がある。なので5つほど、安値で捌いてしまうことにした。モズズ氏が魔道具の作成補助に復帰したら、供給が増えるかも知れないからな。
今しばらくは、スエズエ共和国の首都ウェントで鍛錬に励む予定だ。長距離移動をすると、魔法力の残りが心許無くなってしまうので、それを補いたい。
「なあ、ミドリ。飛行魔法って無いのか?」
地面を走ると言う原始的な方法だと、イマイチ速度が出なくて不便なんだよなぁ。
「重力魔法を使って自らの重量を軽減し、風魔法で風を纏わせて身体を浮かせれば、出来なくは無いかの。個人的には、念動魔法で浮かせる方が、小回りが利くので便利じゃと思うぞ」
ほーん。重力魔法とか、ラスボスっぽくて良いじゃん。
念動魔法と言うのも興味があるな。
「重力魔法は、そうじゃのぉ。……脚力をある程度強化してジャンプしまくれば、重力を感じられて習得し易くなると思うぞ。空中で、自身の重量を軽減するよう念じて魔法を使おうとすれば、そのうち発動するじゃろ」
なーんか、いい加減だなぁ。
「数学者や物理学者なんかは、そんなことせんでも重力魔法をいきなり使える奴がおる」
……才能か。
とりあえず代表的な呪文の言葉は教えて貰ったので、試してみる。
「『この小石に掛かる重力を、意のままに。GravityControl【重力操作】』」
魔法を掛けたはずの小石を摘まんで、地面へ落としてみる。……何も変わったように見えない。
「掛かっとらんのぉ、イメージ不足じゃ。脚を強化してジャンプを100本やって来い。重力をその身に感じるのじゃ!」
ニュートンさんなら、リンゴが落ちるのを見ただけで、重力魔法が使えるようになるのだろうか。
頭が良ければなぁと思いつつ、外へジャンプしに行くことにした。しょんぼり。
念動魔法については、既存の攻撃魔法は、似たような原理で飛ばしていると言われた。
要は、【巨岩大砲】も念動魔法みたいな力で飛ばしていたってことか。あらビックリ。凄い速度が出せて「魔法って便利」と単純に思っていたが……。まあ、既に下地は出来てるってことで、念動魔法は重力魔法より遙かに楽に習得出来た。
これを繊細に扱えれば、メイドとして雇っているポリナのミニスカートも、こんな風に。ピラッ
「きゃっ! 何するんですか!? ミツル様。……命令して下されば、自らたくし上げることも厭わないですよ?」
もじもじするのは可愛くて良いんだが、最近ポリナのエッチな誘惑に慣れて来てしまった自分がいる。
特注品の、レースを使用した黒い下着には満足している。わざとらしく転んで見せつけて来たことがあったからな。サイドが結ぶ紐になってたのもグッドだった。
でも、そうまでされても興奮しないと言うのは、もうこれ生き別れの妹とかの線がありそうだな。無いけど。
何と言うか、マネキンにエロイ格好やらをさせているのに近い感覚。いつでも賢者時間。
「ポリナ。一つ言っておきたいことがある」
「は、はい!」
「……元から短いスカートが捲れるより、少し長めのスカートが捲れて、下着が見えそうで見えないのが一番興奮する!」
「……は、はあ?」
わっかんねーかな。わっかんねーだろーなー!
ポリナの『何言ってんだコイツ。頭おかしくなったか?』的な視線を浴びつつ、オレは鍛錬に戻った。
念動魔法で自分を飛ばそうとしたところ、一瞬で凄い加速度が掛かって大変だと言うのが判明した。一応、念動魔法を段階的に掛けて、徐々にスピードを上げる方法なら何とかなりそうではある。
だが、これを軽減出来てしまうのが重力魔法。重力魔法は加速度に対しても有効らしい。何でも、重力と加速度は似た力、だそうな。詳しくは物理学者さんに譲る。
また、<臨界突破>して重力魔法を使用すれば、「この惑星」から受ける重力の影響を、完全に無視出来る状態に出来た。そうなると、月や太陽に引っ張られるのを感じられるのだが、これがなかなか不思議な感覚だった。ふわふわっとして地面から足が離れて、太陽とか月の方に引っ張られるのだ。何かを掴んだりして止めないと、魔法を解くまで太陽や月に向かって一直線。
飛行までのプロセスは、まず【風防】、次に【重力操作】、最後に【念動力】、と言う手順を踏めば、実用出来る段階まで漕ぎ付けた。速度は最大3,600km/h。いや、もっと出せるけど怖過ぎて無理。普段は460km/h程度で十分だろう。ドラゴン的な球っころな空飛ぶ状態が体験出来て、至極満足です。
『警告』の一件から十日ほど経ち、一度首都スティアへ様子見および情報収集をすることにした。
【巨岩大砲】の魔法で崩された部分は撤去されているようだが、復元は全然されていない。城門も、無くなった壁の部分には簡易に柵を作って、兵士が警備していただけだ。
商店街で買い物をしつつ情報収集をすると、どうやら皇帝陛下は大怪我をし、床に臥せっているらしい。御年62歳。
政務とかは、嫡男である皇太子が代わりに取り仕切っているとか。長男様は35歳。
次男や三男、嫁いだ元皇女たちは、これに反発している様子。え、権力闘争してるの?
そんなところに、先日ロークト王国へと攻め込んだ部隊の、壊滅の一報が届き、城内は混乱を極めている、と言うところまで聞けた。
「警告した件については、履行しているかな?」
例のベネチアンな仮面を付けて、皇太子様と御面会している。道中の兵士や騎士たちは、【感電】の魔法で休みを差し上げた。彼らも疲れていたのだろう。
なお、結構強くビリビリしても立ち上がろうとするのが居て、最大で通常無力化の5倍まで出力を上げる必要があったのは驚きだった。その精神力と肉体は、素晴らしいと褒めてあげたい。
「ひ……ッ!」
「聞いてるんだから、答えてくれ。履行はしているか?」
散々「曲者だ! 出会え出会え!」をやった後なので、もう出て来る近衛兵は居なくなっている。それを理解している皇太子は、オレに怯えている訳だ。
部屋の入り口と廊下には、感電して動けない騎士が山の様に折り重なっている。
「わ、分かっているのか? 余は、余は皇帝だぞ!」
「ああ、うん。正しくは、皇帝『予定』ね」
「余を侮辱するつもりか!?」
あー、もう面倒臭い。
「オレの質問に答えられないなら……死ぬか?」
【火球】の魔法を生み出し、適当にそこら辺へ放り投げる。石造りの城だから、なかなか延焼しない。後処理要らずで楽。
「くっ。何が望みだ!」
「答えろ」
既に同様の質問を13回も繰り返してるので、イラッと来てた。ちょっと僅かに【肉体強化】して、皇太子の頬をぶん殴る。
「宮廷魔術師のヴィオネッタとモズズの計画は、凍結したか否か」
「……? し、知らん! 何を言っている?」
あちゃー。引継ぎとかしてないのか。
「情報を与えられていないようだが、さっき言った宮廷魔術師が、異世界への通路を開く魔法を頻繁に使用している」
「な……! なんだと!?」
「お前はそれを知って、オレの言う通りにそいつ等を止めてくれるか?」
頬を押さえながら、少し考える皇太子。
「こ、断る!」
「……何故?」
「賊の言うことなど、聞けるかァ!」
その答えを聞いて、【石弾臼砲】の魔法を、皇太子の頭部目掛けて発動した。
平和な時ならまだ何とかなったかも知れないが、こんな時に交渉が出来ないんじゃ邪魔だ。
「じゃあ、残った奴らに期待するわ」
赤い華を咲かせた後、部屋にあった羊皮紙とペンを使い、メッセージを残しておく。
「次に来る時までには、進展してるかな?」
殺しを躊躇しなくなった自分に微かな恐怖を感じつつ、城の一室から【瞬間移動】で退去した。
五日後の6月8日。再びベラスティア皇国の城内に潜入する。
ちなみに、いきなり城内に【瞬間移動】も考えたけど、あちこちの壁や部屋に仕込まれている防御用の魔法の影響で、難しい状態だった。なんかこう、バスケのシュートをディフェンダーに妨害されているような感じ。尖塔のような出っ張り部分の部屋とかなら、割と行けそうだった。
まあ、素直に城壁を介して侵入だ。ちぃ~っす、見張り御苦労さん。これ、気持ちばかりの【感電】魔法。しばらく転がっていてくれぃ。
「さて、皇帝陛下」
「……なんだ?」
「ぶ、無礼ですよ!」
皇帝の病室に御邪魔している。年配のメイドさんは、結構肝が据わってた。
「ロークト王国へ侵攻した10万人の軍を壊滅させたのはオレなんだけど……」
「ひっ!?」
皇帝は眉を動かしただけだった。うん、こっちも神経図太いね。
「警告と要望書は、把握して貰ってる?」
「……警告とは、壁への落書きの件か」
「壁に描いたのは確かだけど、落書きだと思って無視すると、あっと言う間に皇帝の血筋が途絶えることになるよ」
メイドおばさんは、あまりの事態に気を失って、その場に倒れてしまった。割とソフトな倒れ方だったから、まあ大丈夫だろう。
「皇太子がまともに交渉出来そうも無かったから、要望書を出したはずだけど、そっちは?」
「……その前に、一つ聞きたい。お主が、我が息子を殺めたのか?」
「ああ。生かしておいた方が害がありそうだったんでね」
皇帝が、目を右手で覆う。
「確かにアレは愚かだった。だが、もう少し政治の実務経験を積んで、思慮深くなってくれさえすれば、我が禅譲して引退することも考えておったのに……」
あの年齢で矯正するのは、厳しかったんじゃないかなぁ。
「それで、どうする?」
「我も人の親だ。悲しむくらいはさせて欲しいのだが」
「今は交渉中だ。オレが帰ったら、咽び泣くなり、喚き散らすなりして良いぞ」
「……宮廷魔術師モズズとヴィオネッタの計画、だったか。確か主導はヴィオネッタの方だったと記憶しているが……」
「簡潔に頼む。出来るか出来ないか。やるかやらないか」
雷魔法を使って両手の人差し指の先で電気をパチパチさせながら、皇帝に問う。これは脅しじゃなくて、ただの魔法の練習だ。他意は無い。
「……出来る。お主の要望だ、やろう。だが……」
「詰まらんことは言うなよ?」
「……元々暴走気味だったところだ。上手く御せぬかも知れん」
ゴンッ!!
【肉体強化】を10倍ほどで使って壁を殴った。ボロボロと崩れて、少し拳の形に凹んでいるのが見て取れる。
「配下の不始末は、上司の責任だ。分かるな? まだ次男と三男が居るんだろ。どっちかをその監視に回して、『要望通りに上手く事を運ばないと、お前が殺される』とでも脅しておけ」
「う、うむ。相分かった」
「それと、これはオレの要望を叶える際に使ってくれ」
そう言って、小金貨200枚が入った袋を渡す。
「こ、これは……。何故?」
「現金が無いと素早く動けないこともあるだろう。拉致られた中高生の境遇に同情するし、これくらいは援助しても罰は当たるまい」
「国庫から出すのも、多少時間が掛かるのは確かだ。次男のイルセスにでも持たせて、臨機応変に使わせよう」
「ただ、あからさまな横領とか中抜きをやられたら、怒るからな?」
にっこり笑って皆で笑顔になろう。皇帝陛下も、引き攣りながらも笑ってくれている。やっぱ笑顔は世界を平和にするね!
「あと、左手と左足、見せてみろ」
「!? いや、これは……見苦しいモノだ。とても……」
「良いから見せろ」
『警告』の際、崩れた現場に居た為、巻き込まれて左半身が埋まってしまったらしい。左腕は肘から先が粉砕骨折程度で済んでいるが、左足の方は、膝から下が壊死して切り捨てたそうだ。
助ける義理は全く無いが、治療した方がオレの要望が速やかに通り易いだろうと言う思惑からだ。無言で治癒魔法を<臨界突破>して使う。
「『失った部位よ、甦れ。regeneration【再生】』」
四肢の欠損や眼球の再生には、この高度な治癒魔法が必要となる。網膜や歯の再生も出来る優れモノだ。
左足の膝の皿の辺りから、徐々に肉や骨が盛り上がって再生し、ついには爪先まで完全に復活した。
無から有を生み出す訳では無いので、全身の筋肉や脂肪、骨密度などが下がってしまう。十分な体組織の余分が無ければ、再生で取り戻した部位もなよなよだったり不完全になる、とミドリが言ってた。
皇帝はさすがにある程度余裕があり、その辺の心配は要らなかったが。
「お……おぉおおお……」
「『怪我よ治れ。healing【治癒】』」
左手の骨折については、治癒魔法の初歩を強めに何度も掛ければ治る状態だった。……その程度の使い手は、このくらいの大国なら居そうなもんだけど。単純骨折の治癒15回分ほどで、皇帝の左手も治った。地味に骨折箇所多かったな。
「骨折まで綺麗に……。上級治癒魔法使いは、戦場に出払っておってな。だが、高度な【再生】魔法をも使えるとは、驚愕を通り越して頭の中が真っ白になったぞ」
戦場……? やべぇ、ロークト王国方面のは、生き残ってる可能性の方が少ねぇ。ま、まあ、従軍してたんだ、死ぬのも覚悟してただろう、多分。
治った左足と左手を、自ら擦って確かめながら、皇帝の目はこっちをチラチラ見ていた。
「本当に、凄まじい力の持ち主だな。……お主が欲しい」
「ヤメロォ! そう言うの、ゾワッとするから! ヤメテ、マジで!」
「ぬ? どうしてだ? そのお主の力を、我の下で揮ってみて欲しいと言うことなんだが」
「お断りだ! 帰る!!」
腐女子でも居たらネタにされかねない言葉に、即刻帰ることを決意した。
薄い雨除けのコートを上から羽織る。実用性はともかく、デザインが気に入っている。魂がこう言うのを求めているんだ。
「じゃあな、皇帝陛下。怪我を直したんだから、オレの要望はきっちり果たせよ」
「ああ。……そ、そうだ、この治療費は……」
「良い! 要らん!」
「そう言う訳には……」
溜め息を吐いて、頭を振る。
「もし払いたいなら、拉致った奴等への補填にでも注ぎ込んでくれ。ただ、甘やかせ過ぎるなよ? 年齢的に、調子に乗り易い時期だしな」
「……注意事項として心に留めておく」
新たに修得した光魔法で、自分が徐々に光の粒子になって消えるようなエフェクトを掛け、【瞬間移動】を発動した。
これぞ、秘儀・格好良い退出エフェクト!
ヒュッと唐突に消えるのも良いけど、たまにはこう言うのに凝ってみたくなる。心は常に14歳の少年。男の子は冒険心を忘れないものなのさ。
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