026 捕獲
「001~025」を少し修正していますが、大筋は変わりません。
言い回しや文言(MP→魔力量)に手を入れているだけです。
ポニーテールの髪型をした若い女性が、薙刀みたいなのを構えてオレの前に立っている。
「そう言えば、売られた人たちが居るって五十嵐さんが言ってたわね」
「そうか。……五十嵐さんは?」
周りを見回すが、近くには居なさそうだ。
射掛けて来た中で話をして来た弓使いと、その近くに重装備の黒髪の男性を確認。って、あれは確か鬼瓦さんだったか? 顔が怖いけど、性格はまともで頼りに出来そうな人だった。印象に残っていたので名前も覚えてる。名前も印象的だったから覚えていた可能性は、否定出来ない。
あと黒髪なのは、若い女性二人だけだ。攻撃して来た火魔法使いは、死んでいそうだから除外。
「五十嵐さんなら、あっちに居るわ」
彼女、紫苑寺さんが指す方を見ると、門から50メートルほど離れた所で警戒態勢を取っている歩兵の集団がいる。
そこからオレに向かって走って来ている奴が一人居た。黒髪だ。と言うか五十嵐さんだ。
近づくまで数秒待っていると、オレから10メートル程度の距離を取って声を掛けて来た。
「花蓮、紗良! 大丈夫か!?」
「下の名前で呼ばないでっていつも言ってるでしょ! 紫苑寺って呼んで下さい」
「わ、私も小湊と呼んで下さい!」
オレよりそっちが気になるのか。
五十嵐さんはオレと対峙すると、さすがに誰なのかを理解したようで、少し戸惑っていた。
「……芝浦さんは元気か?」
「……ああ、まあな。私が戦争で活躍すれば、無事な期間も伸びるだろう」
あー、そう言えばヴィオネッタとそんなやり取りもあったね。
「で、そっちの可愛い新顔の子たちは?」
「……新しい犠牲者だ。連れて来られた」
ヴィオネッタまじ許すまじ。いや、ベラスティア皇国と言うべきか?
「可愛いって……」
「紗良、社交辞令よ」
「そ、そうかも知れないけど! 多分花蓮へのは、嘘じゃないと思うよ」
紫苑寺さんはスラッとしていて、顔が整っている。美人と言って差し支えない。
小湊さん……小湊ちゃん?の方は、愛嬌のある顔で、胸が結構大きい。全身柔らかそう。個人的にはこっちの方が……。
「と言う訳で、引いて欲しい。この兵力差だ、一人で頑張ってもどうにもならない」
まあ、普通ならそうだよね。普通なら。
大きく息を吸ってー、吐いてー。
「だが断る」
大きめの声で言ってやった。
「……仕方ないな。骨の2,3本は覚悟して貰う」
そう言って、五十嵐さんは日本刀みたいな刀を腰から引き抜いた。凄いな、日本刀は地球から調達して来たのか?
いや、良く見ると刃文が無い。形だけ真似て、この世界で作ったのかね。
戦闘に掛かりそうな時間分、槍と回避と時間魔法の技能を<臨界突破>しておく。
「手を出すなよ」
五十嵐さんは、そう周りに言い放ち、刀もどきの刃を裏返す。峰打ちにするつもりらしい。
「一応こっちからも降伏勧告しておきたいんだが。聞き入れてくれそうにないな?」
返答は気配の薄い突き技で行われた。ってオイオイ、避けられなかったら四肢でも大怪我だぞ。
回避の練度が底上げされている今、何とか避けられたが。
そのまま刀が、オレの脇腹目掛けて振られた。槍の柄で力を込めて弾く。今のオレの膂力は常人の10倍以上ある。
これだけの力があれば、幾ら常日頃鍛えている相手でも、技量の差が大きく無い現状、五十嵐さんでも体勢を崩す。
驚いた表情の彼に、チートで悪いなと思いつつ、石突きで追撃の鳩尾攻撃を行った。
数メートルほど転がって、咳き込んだ五十嵐さんは、それでも経戦の意志を持ってこちらを睨み付けて来る。
「げほっ…! がはっ……」
「そ、そんな!? 達人と言えるほどの五十嵐さんが、こんな簡単に!」
勝負は見えたし、面倒になって来たから、魔法遠隔と雷魔法を<臨界突破>させ、確認出来ている日本人5人全員に【感電】の魔法を掛ける。
突然雷に打たれたかのように、痙攣してその場に蹲る4人と五十嵐さん。いきなりの出来事に、どう対処して良いか分からない皇国の兵士たちは、オレや日本人全員と距離を取った。
その場に居るのは、弓兵と魔法使いと日本人。そして、少し離れた場所にいた兵士らが指揮官に率いられて、いつの間にかオレを1,000人以上で半包囲していた。
「タケシ殿が倒されている!? 総員、あの黒髪の槍使いを包囲しつつ追い詰めよ!」
このまま距離を詰められると面倒になる。主に、日本人が魔法の余波で、怪我したり死んだりしかねない。だから、その前に―――
「『爆炎よ、彼の敵を討て。FireBall【火球】』」
魔法並列と火魔法を<臨界突破>し、100個の【火球】を包囲網に向かって放った。かなりの魔力量を消費する。
「「は?」」
その場に居るオレ以外の全員が、異常な事態を理解出来ていないようだ。多数の【火球】が着弾し、燃え盛る人の臭いで、ようやく彼らは被害を認識していた。
勿論、最優先で敵の指揮官を狙ってある。既に馬と共に丸焼けになっていた。絶叫も数秒で途絶える。
【火球】1個あたり2,3人は焼けているか。コルストイと言う補佐官の情報通りなら、様子見の部隊の1割前後が削れた計算になる。
更に【火球】を20個ほど生み出して攻撃しながら、風魔法の【拡声】でオレの声を響かせる。
「ハーッハッハ! 逃げないと、オレの魔法で、焼かれるぞォ!」
内心は、人の焼ける臭いに吐きそうになってたが、強気に出ないと逃げてくれないだろう。
兵士たちが散らばって行くのを眺めながら、『アイテムボックス』からロープを取り出し、いまだ電撃の硬直から解けない五十嵐さんたちの手を結んでいく。
女の子を結ぶときは、ちょっと柔らかくて罪悪感が高まった。さすがにスカートではなくズボンだった為、チラリなどの特典は無かった。チッ。
地面に落ちていた刀もどきも回収しつつ、日本人を5人とも門の近くに連れて行く。
「どうする……つもり?」
【感電】の効果が抜けて来て、喋れるようになった紫苑寺さんが聞いて来る。
「そうだな。女の子二人はお楽しみの後……」
「最っ低!」
紫苑寺さんが睨み付けて来る。美人だから結構怖い。あと、変な性癖に目覚めそう。
「ほ、本当ですか?」
小湊ちゃんは小動物みたいに怯えてしまっている。可愛い。
「冗談だよ。性欲を持て余した時には、娼館にでも行くし」
「……不潔」
酷い言われようである。しょうがないじゃん、男なんだし。
「とりあえずは、捕虜待遇かな」
その後、門越しにモギュの街のロークト王国軍に呼び掛けたが、バリケードが設置してあるので開門は直ぐには無理とのこと。反対側の東門を利用するように言われてしまった。
仕方ないので、一人ずつ抱えて壁の上に跳ぶこととする。軽い女の子の時は良かったけど、男どもの場合は助走が必要になった。
壁の上から5人を引き連れて、階段状になってるところから降りて行くと、指揮官のボーマン隊長が待ち構えていた。
「……その5人は?」
「捕虜だ。魔法で倒して捕まえたが、オレと同郷で知り合いの為、殺すのは勘弁して欲しい」
「……門の前に居た偵察部隊らしき奴等は、どうした?」
「攻撃したところ、逃げて散って行った。敵の指揮官は二人くらい殺ったと思うが……」
「何!? 報告では2,000人近く居たはずだが?」
「ああ。オレ一人で200人くらいは殺したと思う」
「嘘を吐け! おい、壁の上から一応確認しろ! 敵がまだ居たら、射掛けられる前に戻って来て良い」
そう言って、壁の上へ部下を二人行かせた。
暫くして戻ってきた後の報告では、門の近くに敵影はほぼ無いこと、焼けた死体が多数放置されていること、かなり離れたところの大規模な野営場所は変わらず健在で、今も数万の大軍が集結中であること、などが述べられた。
「……とにかく、近くの部隊は居なくなったようだな」
「捕虜はどうします?」
「適当に空き家になったところを使わせろ。人手が欲しいなら、3人まで使って良い」
その命令を補佐官が了解し、二人の兵士を選んでオレに付けてくれた。
「食事は軍の食堂で出します。空き家については、事後報告していただければ結構です」
補佐官のコルストイさんが丁寧に対応してくれた。
魔力量も少なくなって来たので、今日はもう活動を自粛することにする。危ない橋を渡って死にました、じゃ格好が付かない。
空き家になっていた屋敷を勝手に借りて、庭にテント君7号店を張った。
それから、納屋のような逃げ場の無い部屋に捕虜たる日本人5人を集め、拘束を外した。御茶と茶菓子を用意し、寛ぎながら話を聞くことにする。
「良いのか? 縄を外して」
手首を擦りながら、五十嵐さんが言ってくる。
「食事とかトイレとかあるでしょ。垂れ流しや食事抜きならともかく、面倒なだけだから」
美女の捕虜とかなら、お世話するのも吝かでは無いのだが。捕虜がおにゃのこ二人だけなら、お世話することに心惹かれるものがある。だが、男女平等を謳う最近の若者としては、対応に差別があってはいかんのだ。いかんのだ。
「あっ、交代で休憩とか取って構わないのでー!」
部屋の入り口で見張っていてくれている、二人の兵士に向かって叫んだ。
「予め言っておくけど、三浦のことは気にしなくて良い。最近、ちょっとタガが外れてたし」
弓使いの七尾さんが、そう言ってフォローしてくれる。って、三浦って誰?
「誰?って顔してるぞ。【火球】を使った奴だ」
鬼瓦さんがオレの考えを読んでくれた。感謝。
「あ、この焼き菓子美味しい!」
「む、本当」
小湊ちゃんと紫苑寺さんも、例の焼き菓子を気に入ってくれたようだ。相変わらず御値段分の良い仕事をしてくれてる。
「さて。これまでのことを聞かせてくれ」
ベラスティア皇国で過ごした日々のことを、少しずつ持ち回りで話してもらった。
戦闘に使える技能の加護持ちは、血を吐くような訓練漬けだったらしい。最近ようやく一定の戦力に達したと見做され、まずはザルミナ王国との戦争に4月から従軍。戦闘経験を積まされたのだろう。ザルミナは攻略の目途が付いたので、占領を急ぎたいロークト王国側に、5月から戦力として回されたとのこと。
また、去年の11月に高校生33名が、12月には中学生24名が新たに拉致され、訓練を施されたそうだ。既に数人亡くなっていることを口にした際に、紫苑寺さんの目が剣呑になっていた。紫苑寺さんと小湊ちゃんは加護が強く中級で、戦力としても他の学生たちより高い為、特別にロークト王国側へ回されたそうな。
「それで、高坂はどうやってそこまで高い戦闘力を得たんだ?」
五十嵐さんが、ちょっと馴れ馴れしくオレを呼び捨てにする。まあ良いけどさ。
「スエズエ共和国で奴隷として売られて、荷物持ちとして買われて、『神の迷宮』で罠に掛かって遭難した挙句、色々あって、強くなった」
「『色々あった』ってところが重要じゃないのか!?」
ツッコミ御苦労、七尾さん。
「まあ、それについては話しにくい事情もあってね。オレと一蓮托生の仲間になってくれたら、そのうち話す機会もある、かも知れない」
「仲間……?」
「ああ。今は戒……駒沢戒と草薙健太郎さんが同志になってくれている」
「同時期に売られた二人もか! 無事なんだな?」
「まあね。ま、仲間になる件については追々考えてくれれば良い。まずは戦争をどうにかしなければならないし、攻めて来た側の人間である5人は、今は捕虜だし」
「そ、そうだ。あれだけの兵士の数、このロークト王国に勝ち目は無い。捕虜交換とか、そもそも助け出される可能性も―――」
パンパン、と手を叩いて席を立つ。
「希望を語るのを咎めるつもりはない。けど、一応捕虜として分別の付いた行動をお勧めする。下手に逃げようとしたら、見張りの兵士に殺されるだろうし」
ゴクリと、誰かの唾を飲み込む音がした。
「じゃ、オレは用事があるから失礼する」
見張りの兵士に労いの言葉を掛け、捕虜について任せる旨と、明日の朝にまた寄ることを伝えた。
オレと入れ替わりに、指揮官のボーマン隊長が来て、「捕虜たちと話をしても構わんか?」と聞いて来たので、「極力乱暴をしなければ、どうぞ」と返しておいた。
皇国側の情報が欲しいんだろうな。絶望的な戦力差でも、淡々と業務をこなす姿勢に尊敬の念を覚える。
オレの方も今日一日で色々あり、整理したいのでテントの中へと入って行く。
「『我が心ここに在らず。ならば我が身もここに在らず。teleport【瞬間移動】』」
いつものように、7号店からウェントの屋敷へと瞬間移動した。
遅めの昼食を平らげながら、戒・草薙さんの二人と情報共有をする。
「おっ、マヨネーズ作ったんだ! やっぱりサンドウィッチにはマヨが無いとねっ」
「酢を多めにしてるので、大丈夫だとは思うんですが……」
「何が?」
「……いえ、何でも。知らないなら、どうかそのままで」
戒が、「あれ? 卵、生? 大丈夫?」とか言ってるけど気にしない。美味い。
「三浦さん?は仕方が無かったですね。ミツルを殺そうとしたのでしたら」
「新たに拉致された人たちですか。酷いですねぇ」
そう言えば、没収した刀もどき、良く見てなかったな。『アイテムボックス』から取り出して観察してみる。
「やっぱり刃文が無いな」
「それ以外にも、先っちょが何か違和感ありますね」
「鍔も大き過ぎるような」
しばらく観察した結果、結論を下す。
「似非日本刀」
「紛い物」
「異世界の鍛冶屋が刀を再現しようとしたけど微妙に失敗してる件」
オレたちの中で共通見解が出来た。
時間魔法「使う必要が無かったので出番が無かった。謝罪と賠償を要求する!」
サルモネラ菌「自家製のマヨネーズを作る際、酢の配合を少なくしたり、1日以上の時間をおいてしまうと、ワイの危険度アップやで」




