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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第ニ章:西へ
24/114

023 遅延箱


 物を直接冷やせるような魔法が無いか、ミドリ先生に訊いてみた。


「あるぞ」


 え、マジで!?

 教えて下さい、何でもしますから! 戒が。


「少し異色の魔法でな。『温度魔法』と言う」

「練習すればすぐに使えるようになるか?」

「問題なかろう。ただ、習得者が少ないだろうから、<臨界突破>を使っても、高練度では使えない可能性が高い」

「確かに、少しイメージが難しいなぁ。……そう言えば、オレってちょっと練習すれば割とすぐに魔法使えてるけど、これってどうなんだ?」


 もしかして、超天才とか!? いやー、参ったなぁ。


「魔法を使うには、いちに魔力操作、にイメージ、さんに詠唱文とされている。……この世界では、だが。

 ある程度の魔力操作とイメージがあれば、詠唱文が無くとも発動させることは出来る。これが無詠唱魔法じゃな。

 逆に、魔力操作が出来てなくとも、確固たるイメージと、その世界で使い古された詠唱文を使用すれば、低級の魔法なら発動する。

 イメージは、地球の先進国出身ならかなりの水準じゃろう。稀にダメなのも居るだろうが。

 魔力操作については、毎日散々、膨大な魔力量を使用している関係で、ミツルは相当こなれている」


 驚愕の真実! オレに魔法の才能は別段なかった……ッ!!

 いや、分かってたけどね。加護が無かった時点で。夢見たって良いじゃないですか。

 良いんだ、別に。器用に色々出来れば、便利だし。

 そんなことより、今は『温度魔法』とやらをイメージしよう。コップに入れた水を、冷やしたい。魔法対象の質量とどれくらい冷やすかを、イメージと魔力操作で指定する。


「『凍れ凍れ、止まって冷たく。cool【冷却】』」


 あ、『温度魔法』を未収得だと全然冷えそうにない。


「ミツル。魔法拡大を意識して使えば、少しはマシになるぞ」


 お、良い事聞いた。魔法拡大は、その名の通り魔法の威力などを向上させることが出来る技能だ。

 初っ端からそれが必要になる魔法は珍しいんだが、『温度魔法』自体レアみたいだしな。

 もう一度詠唱し、同じ魔法を使って見る。しかし、魔法の効果が出たはずなのに、水はそれほど冷たく感じない。なして?


「魔法拡大に対して、<臨界突破>を使ってから、『温度魔法』を使え」


 御教授有り難うございます。ふんぬ!

(魔法拡大の<臨界突破>)

 続いて三度目の冷却魔法。お、今度は結構魔力を注ぎ込めることが出来る感じだ。

 さっきの8倍くらい込めたら、コップの水がピキピキ凍って氷になり、コップ自体も触ってると痛いくらいの冷たさになった。


「阿呆め! 魔力の込め過ぎじゃ。その半分程度で凍るわい」


 あちゃー。やり過ぎちゃったか。

 いかんいかん。今度は逆の、温める魔法で。


「『ふるえよふるえよ、激しく熱く。heat【加熱】』」


 同じくらいの魔力を込めたら、無事室温くらいになった。やれやれ。

 これで、先日狩って来たバイコーンの肉の熟成が捗るな。地味に毎日やるのが面倒だったんだよ。




 翌朝起きると、メイドとして働いてるポリナが、オレの上に乗っかっていた。


「こうやって起こしに来るシチュエーションが、全ての男性の夢だと聞きました!」


 おい、馬鹿、ヤメロォ! 朝は敏感なことがあるんだよ!

 そこ、乗っかって擦り付けているところ、危険だから! ユッサユッサはやめぃ!


「命令だ、降りろ」


 なるべく威厳が感じられるように命令する。若干震え声だったのは、御愛嬌だ。

 さすがにこの命令には従ってくれた。

 しかし、戒は要らんことをポリナに教え過ぎだな。後で文句を言っておこう。


「機嫌が悪そうだな、ポリナ」

「……ええ、まあ。どうやら私以外の女に、鼻の下を伸ばしているようなので」

「メアリーのことか? あれはファフレーンの王族だからなぁ。手を出すつもりはないぞ」

「嫌がる彼女に無理矢理キスを強要したって聞きましたよ!」

「遊びだ」

「酷い! 私のことは遊んですらくれないのに!」

「生まれ変わったら考える」

「何気に凄く失礼なこと言われてる!? そんなに私、不細工ですか?」

「好みじゃないと言うだけだ。軽口を言い合う関係は望むところだが、恋愛対象には……無理だ」

「うわーーーん! 御主人様が、私に発情してくれなーい!」

「仕方あるまい。兎は魚を食べないようなものだ」

「乾燥させて砕いて粉にして餌にまぶして食べさせます!」


 無理矢理食べさせてんじゃねーか、それ。かなり虐待に近いぞ。


「お前の都合をオレに押し付けるな。少しなら見逃すが、度を超えたら叩き出すぞ」

「うー。御主人様がイケずで、メイドの私が性欲を持て余しますぅ」

「何なら、良さそうな恋人を見繕って来てやっても良いぞ」

「そんなことされたら、幻滅します!」

「してくれて構わないんだが……」

「あ、もしかして寝取られに興奮するタイプですか? いやー、あれはちょっと……」


 寝取られ? 出所は戒か? 戒なんだな!? 余計な知識を与えやがって。特殊な嗜好を広めるんじゃない! あとで糾弾せねば。

 ともかく、いい加減アレが収まって来たのでベッドから降り、ポリナを部屋から追い出して着替えを始めた。




 その日は午前から、また王都レーンへと飛び、メアリーと会った。

 昨日助言した通り、ネム爺のところへ顔を見せに行くそうだ。

 平民街の少し良い所に居を構えているようで、日向ぼっこしているお爺さんが見受けられた。


「あ、ネム爺!」


 って、あれがそうなのかよ!


「……? お、おおっ! メアリー様であらせられますか!」


 身体を動かし難そうにして膝を突き、礼をしようとするが、メアリーが体当たり気味に制止させた。


「私はいずれ降嫁する身。大仰な礼など不要と、いつも言ってるではないか」

「ぐふっ」


 いや、その膝が結構良い所に入ってたぞ?

 台所を借り、オレが茶を淹れてやって傍観に徹した。やっぱこの菓子うめー。自分で買った奴だけど。

 2時間近く話し込み、色々と有意義な時間を過ごせたようだ。これからは定期的に来ると約束も付けている。


「一つ聞きたいことが。騎士団や国軍の情報を少し知りたいんだが、どうすれば良い?」


 ネムニス・ハロウス爺は、オレのことをメアリーの恋人だと誤認していて、気を許してくれている。

 違うと否定しても、その度にメアリーが赤面したり、頬を赤らめたり、オレを熱い視線で見て来るので、誤解が解けてくれない。


「一般市民では、やはり難しいかと。しかし、なぜそのような……?」

「ああ。これは戒の……オレの心の友にして部下の推測なんだが、ベラスティア皇国がロークト王国も狙っているのではないかと」

「な、なんですと!?」

「それは本当なの!?」


 メアリーも驚きだ。話してないし。


「根拠は薄いし、現状じゃ可能性は低いみたいだが、有り得なくはないんでね。それで、ロークトを狙うとなると、自然ファフレーンの援軍も警戒することになる。この国の軍に何か計略が仕掛けられているかも知れないから、念の為に確認したくてね。いや、何も仕掛けられてなければ、それが一番なんだ。杞憂になるしな」


 中国古代の杞の人がこの世界に居ない以上、杞憂なんて言葉も当然この世界には無い。翻訳済みである。

 ラカットの太陽消滅論と言う、「太陽が無くなったらヤバくね?」的な戯言の一文が対応語である。

 数億年単位を扱う天文学だと、別に太陽が無くなるのは当たり前なんだが、気にしない。


「いや、しかしそれは……。分かり申した。この老骨、少しばかり動きましょうぞ」


 そう言って、騎士団の練兵所へ一緒に行くことになった。




 道中聞いた話だと、この国の軍事トップは国王であり、現在は国王代理の王子ウルブレフトが指揮を執り、大将軍1と将軍3がその下に入る。

 騎士団は王族に付く近衛と、各将軍傘下の3つにそれぞれ分かれていて、日々訓練に明け暮れている。

 兵士の方は、まとめ役以外は爵位を持たない一般人で、警備や見回りを主に担当、定期的に訓練は行っているが、大して強くはないそうだ。

 戦時には、兵士の過半数が各将軍に振り分けられ、騎士を中心とした主力と、数を揃えた兵士で混成されるとのこと。




 そんな詰まらない話を、オレは聞き流した。

 練兵所に着いたのはもうすぐ昼と言った塩梅で、鎧を着た偉そうな人にネム爺が話し掛けていた。どうやら昼飯を一緒に食べようと言う流れらしい。


「そちらは一体?」

「あ、オレはミツル・コウサカ。ランクBです」

「ミツルは凄いのだぞ! ギルドに登録したばかりでランクBになって……モゴモゴ」

「そう言った余計な話は要らないだろう」


 ボロが出ないように、メアリーの口を塞いだ。


「メアリー様は、これでも王女殿下であらせられる。少し失礼が過ぎるのでは? ミツル・コウサカ」

「……正直、今までメアリーの扱いが不憫だったから、そんな風に言われるとは思ってなかった」


 偉い人の中には、メアリーを王女扱いしてくれる人も残ってるんだな。

 メアリーが取り成し、オレが軽く謝ると、その人はすぐに許してくれた。この人は、実は将軍の一人らしい。

 昼食は高級な店で取ることになった。オレは魚料理のコースを選ぶ。

 大体の話はネム爺がしてくれて、メアリーが補足、オレは食事に傾注していた。


「ベラスティア皇国か……。そんなのを相手している暇はないんだがな」

「それはまた、どうしてじゃ?」

「身内の恥になるが、軍の運営費の横領が発覚してな。しばらくまともな軍事行動を取れそうにない。予算が無いと動けないのだ。今は方々(ほうぼう)から前借りして、何とか動かしている」


 は? いや、それ怪し過ぎだろ。


「ベラスティア皇国の工作の可能性は?」

「横領が、か? 三者三様だったぞ。娼館通いの結果と、ギャンブルでの借金の補填、高価な薬を買う為に仕方なく、と」

「容疑者はどうしたのか、聞いても?」

「娼館に足繁く通っていたのは取り逃がしましたが、他は確保、斬首となってます」


 メアリーが尋ねると、将軍がちょっと丁寧な口調で返答する。

 それ以上は情報を得られず、昼食会は終わった。最後に、ジャムとミルクを混ぜたのを、温度魔法を使って即興でシャーベット状にしてデザートとして出したら好評だった。温度魔法、マジパネェ。




「黒ですね」


 早々に屋敷に戻り、戒に報告・連絡・相談をしたら、『黒』と決め付けられた。


「恐らく、逃げた容疑者が計略の実行犯か、それに一番近い対象だったのでしょう。他の二人を誘って巨額の資金を横領したのだと思われます」

「断定するのは早くない?」

「まあ、8割と言ったところですか。でも恐らく、もうしばらくして西のザルミナ王国の実効支配が進み、首都の陥落が間近になったら、不要になった戦力を東のロークト王国への攻略の援軍として送り出すことでしょう。ロークト王国が宣戦布告されるのも、そう遠くないと考えますよ」


 うーん、そうなるとベラスティア皇国が一気に二つの国を攻めて、領地を増やしちゃうんだろうなぁ。それはちょっとばかり面白くない。


「どうされますか?」

「邪魔する♪」

「御意に」


 多分、良い笑顔で笑えたと思う。邪魔する方法は、後で考えることにする。




 魔道具技師のモルティナは、現在オレと戒の専属の形になっている。

 魔力の元となる魔素を集め、一定の空間の魔素濃度を高める魔道具は、濃度10倍まで作成され納品済み。ウェントの屋敷に正副の2つ、アイテムボックス内に予備として1つが入っている。

 今製作しているのは、収納用の箱へ魔法付与して動作させる魔道具だ。

 『アイテムボックス』は便利だが、保存性に難がある。食料や水は腐るし、道具とかも入れて置いたら経年劣化するはずだ。

 欲しいのはやっぱり、冷凍庫・冷蔵庫である。氷魔法で作った氷を使用するタイプの冷蔵庫は使われているようだが、あくまで富裕層向け。その手の氷が入手可能なのは、小国だと首都くらいになる。


「氷の生成魔法を付与した魔道具を使って、魔石で氷を生み出すこともしています。地方領主の貴族なんかが使ってますね」


 となると、冷凍庫の方が希少性があるな。

 と言う訳で、冷凍庫を作ってみました。何事もチャレンジ大事。え? 言い訳がましいって?

 うん、まあ、そうなんだ。一応作れたんだよ? 100リットル程度の容量の箱に、周囲の気温のマイナス64度、すなわち-20℃~-30℃になるよう温度魔法を付与した。

 箱の中に物を入れて、魔法陣を起動。付与された温度魔法で1分間対象が凍る。効果時間が終わった後も、急に元の温度に戻る訳では無いから、断熱材などで更に箱を作って入れておけば大丈夫かなーと思ってたんだが……結構魔力を喰う訳で。迷宮の8階で取れる魔石が一度で使い捨てになるってのは、費用が高過ぎると判断した。1回凍らす毎に6,000円くらい掛かる計算になる。


「うーむ、食品の保存かぁ。既存の冷蔵庫を使い回すのが楽なのかな」

「なんじゃ、ミツル。時間魔法は使わんのか?」


 ミドリ大先生から御神託を賜りました。


「無生物相手なら、消費も大分少ないはず。他人が使えるようにするには、魔道具として作れば良い」


 ほーん。そんなこと出来るの?

 試しに遅延2,000倍で100リットルの箱に付与してみた所、11階の魔石1個使い潰しの15,000円相当で起動出来る魔道具になった。効果はと言うと、この遅延箱に物を入れると、外では1日ちょっと経っても、箱の中は1分しか経ってない状態になる。効果時間中に開けたら、魔法が切れちゃう仕組みだけどね。

 1日じゃ微妙なので、約16,000倍、11日相当のを作った。魔石は1回20,000円ちょいのが必要。

 売り込み文言は、『10日経っても出来立てほやほや。あの素晴らしい食事を持ち運び可能!』となった。

 ある程度作り置きし、モルティナを恋慕するバルナ・ロッド氏を経由して、売り出して貰う事にする。名称は遅延箱スロウボックス。大元は、ある程度丈夫で密封された、何の変哲もないただの箱なので、比較的量産が楽だった。一番苦労するのは、起動魔法陣などを作るモルティナだろうが、報酬を結構出しているので喜んで作っている。ついでだが、久しぶりに亜空間荷袋も一個放出しておいた。


 オレが個人で時間魔法を使う場合は、効果は倍、『効果時間』は16倍までのを2の乗数で(1,2,4,8,16倍)発動させるのを目安とした。

 1倍なら約22日、2倍なら1ヶ月半、4倍なら3ヶ月、8倍なら半年、16倍なら1年が大体の期限である。魔法を掛けた後、魔法発動年月日と、効果時間を正の字で区別して、入れ物の外側に記載しておくことにする。余裕があったら魔法の効果終了時間も横に書いておくと良さそうだ。

 期限を過ぎても取り出すのを忘れていたとか、笑い話が生まれそうだ。アレだ、災害時に持ち出す備蓄用非常食な感じだな。定期的にチェックしないと、賞味期限の切れた缶入り乾パン状態になる。

 とりあえず、入れ子状態で収納出来る、密封可能な箱を大量に用意して貰う事にした。入れ子って、あのマトリョーシカ人形みたいな構造と言えば、お分かりいただけるだろうか。目的に応じた大きさを選べるから、便利なんだよなぁ。

 しかし、これだけ凄い効果をお手軽に実現出来るとか、時間魔法って凄いな。科学の力じゃこの領域にはなかなか辿り着けないだろう。

 アイテムボックスと時間魔法の併用で、出来立ての料理がいつでも手軽に楽しめることが判明したのは僥倖ぎょうこうだ。

 あー、この能力、『神の迷宮』攻略時に欲しかった。スゲー欲しかった。求めていた物が後から手に入った感が凄いする。ちょっと悲しいのね。

 地味に、時間魔法の有効性を理解出来た気がする。




 この遅延箱スロウボックスは、後日高値で売れるようになった。

 初回ロット、100個が、一つ2,000万円(小金貨100枚)と言うお買い得(ボッタクリ)な値段なのにスムーズに完売。次の販売の打診が執拗過ぎて、バルナが倒れるほどだった。生贄役スケープゴート、御苦労。






高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力804 MP71,105

温度魔法1(New!)


所持現金:1億6732万円相当+1億(袋)×0.9+20億(箱)×0.9




ちょっとキツくなって来たので、以降、投稿ペースを半減します。

申し訳ありません。m(_ _)m



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