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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第ニ章:西へ
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022 自立と孤独


 オレは、この国の第三王女のメアリーに、討伐依頼を勧めて来た理由を訊ねた。


「別に……自分の国で魔物が蔓延はびこるのを憂いていただけ……」

「理由としては平凡だな。だが、メアリーが自分の身体を用いてまでやるようなことじゃない。

 そもそも、他のランクAやランクBはどうしたんだ? 何をしている?」

「……ミツルは知らないのか。この国唯一のランクA・カイゼルは、傭兵としてベラスティア皇国へ向かった」


 メアリーが溜息を吐く。


「単独なら咎める理由も無いんだが、あれで結構求心力がある男でね。

 目ぼしいランクBを誘って行ってしまったんだよ。

『勝ちいくさだ』『戦力差は歴然。あっという間に終わる』『少し参加するだけで美味しい思いが出来る』ってね」


 戦争の認識が軽いな。中世レベルなら仕方ないのか? 美味しい思いってことは、略奪とか黙認されてそうだ。


「バカバカしいな」

「同感する。その弊害で、恐らく戦争が終わるまで、この国の有力なハンターや傭兵などと言った戦力が、乏しくなってしまっている。

 バイコーンの群れを討伐するには、この国に残ったランクB二人だけでは不安が残る。しかも二人とも王都以外がホームだから、集まるにしても若干の時間が掛かって迅速な行動が出来ない。

 そんな悩みを抱えていた所に、ミツル、貴方がやって来た。最初は厄介事を抱えた流れ者かと思ってたけど、一瞬でランクBになったことから、一人だけでもある程度バイコーンの群れと戦えるのでは無いか、と考えた訳。

 少しずつ削る作戦なら、私も加われば行けるかも知れない、とね」


 まあ、バイコーンたちはオレに瞬殺されてしまったんだけどな。噛ませ犬にもならなかったよ。


「だが、国王や国軍はどうしてるんだ? メアリーが頭を悩ますより、そいつらが動くのが道理だろ」

「父上は……今、病に臥せっている。

 軍に籍を置く上の兄は、『国軍の本領は同じ人間同士。魔物の駆逐は、定期掃討で十分。あとはハンターに任せろ』と。

 政治方面で関わっている下の兄は、『被害が出ない内に討伐してしまっては脅威度が周知されない。あくまで被害が出てから』だそうだ」


 ふーむ。分からなくはないが、有力なハンターが居ない非常事態なのに動かないのは良くないな。

 被害云々は言い訳として弱いし、魔物の脅威なんて積極的に周知すれば良い。被害が出るまで動かない宣言は、怠惰にしか見えん。


「騎士団長も、上の命令が無ければ動けないから、上位者が動かそうとしない現状では、どうしようもないそうだ。

 私一人が嘆願したところで動かせるものでは無いし、動かせてしまったら謀反同然で大問題になる」

「メアリーの姉はどうなんだ?」

「二人とも既に嫁いでいる。上の姉はロークト王国の宰相の一人息子、オイント・グラックに。

 下の姉は、この国の有力な商人、カクラクト・アリュの長男ビフラークスに、どちらも降嫁こうかしている。

 アリュ商会は海運と細工物全般が得意分野で、今回のような問題には向いていないんだ」


 うーむ。頼りになる奴が居ないな。

 メアリーもメアリーで、後ろ盾が無いんだったか。


「もしかして、『自分が頑張らないと!』とか思っちゃったくちか?」

「……そう、だな。そう考えてしまったのは確かだ。

 荷運びや馬車の御者、夜の見張り程度なら幾らでもやるし、そう言った肉体労働なら苦にしないから、使って貰っても構わないと思っていた。

 けれど、ミツルのお陰でそれは浅はかだったと気付いた。私の身体を狙っている悪人も居る可能性があるのだと、な」


 若くて綺麗な女性が一人なんて、そりゃ警戒しないと。メアリーは自己評価が低過ぎるのかもな。


「他に頼れる人は居ないのか?」

「ええと、家族はそれだけで……あとは、今は騎士団を引退したネム爺くらい? あ、父上が私に付けてくれた相談役ね」

「その爺さんとは、今も会ってるのか?」

「……いえ、大分顔を見てないわ」

「忙しいんじゃ無ければ、気軽に会いに行った方が良い。メアリーに足りないのは相談する相手だ。

 例えば……アリュ商会に嫁いだメアリーの下の姉とは、仲が悪いのか?」

「え? いえ、悪いってほどでは。でも用も無いのに会いに行くほど、仲が良くも……」

「居場所は分かってるんだろ? 遠くないなら……王都内? なら尚更、定期的に会いに行け。

 情報交換目的で、茶菓子でも持って会いに行けば良い。さすがに断られないだろうよ」

「……それで、何が変わるの? 今までも生活費を稼ぐのに結構忙しかったし、これからも厳しいと思う」


 こいつは、視野が狭すぎる。多分だが、王族としての教育も満足に受けさせて貰っていないんじゃないかねぇ。


「例えばだ。今回の一件、下の姉に相談して、アリュ商会からバイコーンの討伐に報奨金上乗せして貰ってたら、また違ってたんじゃないか?

 ネム爺さんとやらにも、もし相談してれば、案が幾つか出ていたかも知れない」

「……言われてみれば、報奨金上乗せは可能かも知れない。アリュ商会も、王家への助力を微力ながら行うと明言していたし」

「メアリー、お前は『誰かに頼る』と言うことをしなさ過ぎだ。

 一人でも生きて行けるのと、一人だけで生きて行くのは全く違う。そして、人間は基本的には一人だけで生きて行くことは無い。社会生活を送る動物だ。

 『自立しながら適度に周りに頼り、関係を持ちながら過ごす』のと、『孤立し、周りから距離を取って孤独に過ごす』、とそれぞれを言い換えても良い。

 『自分の食い扶持は自分で稼げ』、だったか? あれを悪い意味で捉えてるな」

「そうなのか? ……思えば、かあさんも乳母ははも、周りの人に頼るよう言っていた気がする。

 そうか、私は考え違いをしていたのだな……」


 まあ、そう仕向けた存在が居そうだけどな。正室とか側室あたりが怪しい。


「たまたまオレに頼ったのは、運が良かったな。

 見ちゃいられないから、金銭的な支援なら少ししてやるよ。まずは当座の生活資金と、爺さんと姉に会う際の手土産として焼き菓子をやる。明日明後日にでも会いに行け。

 余裕が出て来て周りが見えるようになったら、少しは視野も違ってくるだろう。何も変わらなかったらまた相談しろ。オレじゃなくても、爺さんや姉とかにな」


 まず、ソロでやってるのが苦しい原因だと見るけどな。他人と距離を取り過ぎなんだ。戦闘力が滅茶苦茶高いのでも無ければ、パーティ組んだ方が有利なのは当たり前。

 オレ? 足手纏いが居ると、行動が制限されてしまうから必要ない。風になりきったオレに、付いて来られる奴はいるかな?


 話は大体終わったので、とりあえずとして小金貨10枚と亜空間サブスペース荷袋バッグを1つ、焼き菓子の詰め合わせ2箱をアイテムボックスから取り出す。


「え? こんな大金を? 受け取れない、さすがに受け取れない。

 この袋は一体……? ん? もしかして、物を亜空間にしまえると言う、魔道具!?

 焼き菓子は普通っぽいが、他は何なんだ!? とてもじゃないが受け取れないぞ!」

「良いから、借りておけ。かねと菓子はともかく、亜空間荷袋は貸すだけだ。

 そうだな……10年後、取り立てる。せめてランクBになって、仲間を作って、まともになって見せろ。

 オレに恩を感じるなら、それを使ってより稼げるようになれ」

「うう……」


 受け取ろうとしない。その謙虚さが良い所ではあるんだが。


「良いか。オレはお前の将来性に賭ける。これはギャンブルだ。

 もしオレの目が節穴なら、賭けた金と魔道具は帰って来ないし、お前は落ちぶれるか野垂れ死に。

 見立てた通りなら、お前は立派になって、オレは利子付きで取り立てることが出来る。

 精々、オレの為に力を付けて見せろ」


 そこまで言うと、ようやくメアリーは押し付けられた物を受け取る姿勢を見せた。


「口先だけの理屈な気がするが、少しは納得した。有り難く使わせて貰う。

 ……でも、なぜここまでしてくれる? もしかして、私のこと……あたッ」


 脳天チョップ。


「少し顔が良いからって、誰でも惚れる訳じゃない。自惚うぬぼれるな。

 キスのことは完全にお遊びだ。野良犬に噛まれたとでも思っておけ。

 あと、その金を使うのに躊躇するなよ? 有能な商人は、金の使いどころで躊躇ためらったりしない」

「むぅ。私は商人では無いんだが」

「心構えの問題だ。商機は一瞬だけなんてことは、珍しくない。

 何、例え投機に失敗しても、金を失うだけだ。気楽に行け」


 ニヤリと笑う。


「笑えない……」

「フンッ。余裕が無い時ほど、意識して笑え。笑うことで変わることもある」

「……心に留めておく」


 そう言って苦笑したメアリーの表情は、大分硬さが抜けていた。




恋話コイバナと思いきや……」

「二転三転して、意外とまじめな話に。最後はパトロン契約?」

「うぅん、メアリーの彼氏になると思ってたのに」

「今はメアリーのフォローをするのが、友達の在り方」

「そ、そうよね! 距離を縮めて、いずれはあの唇を……キャッ」


 キャリーとシャーリーは平常運転だ。今日も明日も明後日も。

 ちょっと強引なところと問題点はあるものの、その長所を生かして、今はメアリーをパーティメンバーとして誘いに行くのだった。






「と言うことが、今日はあった」


 ウェントの屋敷に戻って、戒に話をする。オレの中での情報整理と、情報共有を兼ねてだ。


「説教なんてガラじゃないが、高校の頃の担任の先生の言葉を借りて、ついやっちまった」

「良い先生だったんですねぇ」

「……まあな。先生の言葉の半分も、いまだ実感はないけど、悪くない説教だったと思ってる」

「しかし亜空間荷袋を渡すとは、随分と奮発しましたね」

「貸しただけだ。貸・し!」

「しかし、気になるのはベラスティア皇国の動きです。ファフレーン王国の傭兵が、少数精鋭とは言え参戦することになるとは」

「そうか? 強い方に付くのは当たり前だと思うけどな」


 淹れてくれた御茶で咽喉を潤す。チャイみたいな香りだ。

 自家製焼き菓子を口に入れると、卵の香りがする。良い仕事だ、ケイス料理長。


「いえ、そうではなく。西のザルミナ王国と言う限られたパイを、自分たちだけで平らげることが出来ると言うのに、わざわざ余計な傭兵を入れて、利益が減ってしまうのでは?」

「んー、確かにそうだな。だったら、危険な役割とか、微妙なところをその傭兵に割り当てて、自分たちは美味しいところを独占する、とかは?」

「多少はあるでしょうが、やり過ぎると以後傭兵が寄り付かなくなりますからね。それよりかは―――」


 稚拙な地図を広げて、指で示す。


「ベラスティアとスエズエの間のロークト王国。ここはファフレーン王国と短いながら国境を接し、友好関係を築いています」

「ああ」


 メアリーの上の姉が、有力者に嫁いでいるんだっけか。


「ロークト王国を攻めると、ファフレーン王国も出張って来る。そのファフレーンの戦力を、一部でも減らしておきたいと考えると……」

「何を言ってるんだ?」

「初めから、違和感があったんですよ。今回の戦争、ベラスティア皇国は、用意しようとすれば今の2倍以上の兵力を用意出来たはず。そうしなかったのは、最初からザルミナ・ロークトの二国を一気に攻め落とす為」

「いやいや、二正面作戦なんて、正気の沙汰じゃないだろ」

「十分な国力差があれば、可能ではあります。まずザルミナを攻めて、ファフレーンから募った傭兵を西へ動かす。ザルミナが落ち切る前に、ロークトを攻めて落とす。結果、ファフレーンの傭兵はロークトとの戦争に関与出来ない。ザルミナが先に落ちてしまっても、ロークトまで距離がありますから、ある程度余裕もある。あとはファフレーンの国軍にも策を仕掛けておいて、ロークトへ加勢し難く工作してあれば、事態は更に容易くなる」

「微妙じゃね?」

「ええ、まあ。可能性は3割も無いでしょう」

「念の為、ファフレーンの国軍に、探りを入れてみるか……?」

「ミツルも気苦労が絶えませんね」

「お前が増やしている気がするんだが?」


 肩を竦めた戒の額に、デコピンを一発入れてやった。





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[一言] メアリーの話し方に統一性がないのはわざとなのかな。 男っぽい口調だったり、気の強そうな女口調だったり。どっちかにしないと違和感すごいあるな
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