019 メイドと戦争
「017 ヤンデレと純愛は紙一重」を一部修正しました。
運動エネルギーの法則を考慮してませんでした。脚力2倍で2倍速にはならないデスヨネー
修正前:脚力を約26倍に強化して、(中略)全体を満遍なく4倍程度強化している。(中略)魔力量の残りが1割ちょっとしかないぜ。
修正後:脚力を約200倍に強化して、(中略)全体を満遍なく2倍程度強化している。(中略)魔力量の残りが1割を切ってる。
修正前:歩いている程度の負担で
修正後:ゆったり走る程度の負担で
朝―――今日は確か4月5日だったか。
起床して動きやすい服に着替え、庭で槍の素振りを少ししてから、30分ほどのランニングに出る。戒も付き添いで、一緒に走ってくる。肉屋近くのコースは、もう通っていない。解呪は出来たし。
しかし、一旦この国を出たのに、こうやって自分の屋敷で寝起きするのって、何なんだろう。言いようのないモヤモヤが、胸中を占める。
まあいいか。これからの予定はどうするかな。空間魔法の【瞬間移動】が、こうして旅先でも問題なく使えることが分かった以上、少しのんびりしてても大丈夫そうだ。
うん、そうだな。魔力の鍛錬を重点的に行おう、そうしよう。もっと強化魔法で長く走りたいし。風になりたい。
構想とランニングを終え、屋敷の前に戻って来ると―――何やら大きな鞄を持った女性が、玄関の前に居た。
こっちを見て、驚いた顔をする。
「君は……」
「嫁入りに来ました」
ギルドの喫茶コーナーで働いてた、ウェイトレスのポリナちゃんだった。
「ノーサンキュー。ゴーホーム!」
「何を言ってるのか分かりませんが、帰りませんからねっ!?」
わざと(この世界の住人に分からないはずの)英語で言ったのに、理解してるじゃねーか。
「一先ず、中へ入りませんか?」
共に走っていた戒が、ポリナちゃんを屋敷内へ案内する。
「え、ちょっと。客じゃないよ!?」
しかし、戒は浴室―――シャワーだけだが―――を目線で示すと、任せて下さいと言って彼女を応接室へ連れて行った。
ポリナちゃんのことは全面的に無視して、槍を使っての素振りと回避の練習をする。最近始めたことだが、毎日やって習慣にしたいから、妥協しない。
その後、シャワーを浴びて汗を流し、着替えて朝食を摂る。
8時頃になったので出掛ける準備をし、屋敷を出て―――
「ちょっと待って下さい! 私を放っておいてどこへ行こうとするのですか!?」
応接室に閉じ込めていたパンドラが開いた。やだ、絶望しちゃう。
「戒。対応は任されたんじゃ?」
「ダメでした」
おいィ?
溜め息を吐いて、ポリナちゃんに相対する。
「君のことは振ったつもりだ。オレもやることがある、忙しいんだ。帰ってくれ」
「か、帰れません! ……その、愛人でも妾でも、メイドでも肉奴隷でも構わないですから、御側に置いて下さいッ!!」
何を仰ってるのか、意味が分かりません。
「必要無いから」
「えっと……男の人って、おっきい胸とかが好き、なんですよね? どのようにしても構いませんので……」
そう言うと、大きな胸を強調するかのように、腕で挟み込んでアピールしてくる。
ゴクリ。思わずと言うか条件反射的に唾を飲み込んでしまう。適齢期の男なら仕方のないことだ。
ポリナちゃんのバストサイズは極めて大きい。だが……大き過ぎるのだ。オレのストライクゾーンから外れてる。ただまあ、その手の大きいのが大好きと言う男性には受けが良いだろう。俗に言う、爆乳・奇乳と言ったカテゴリーに属すると推察される。
「いや、どのようにもするつもりは無いから」
「そんな! お姉ちゃんは、この駄肉を精一杯見せつけて何でも受け入れるって言えば、男は100%落ちるって!」
半分くらいは落ちそうな気がする。普通の男性ならば、だが。
「もう良いかな? 本当に忙しいから……」
「うわーん! ミツル様が私を捨てたー!」
「こら! 人聞きの悪いこと言わないの!」
今度は泣き落としか! 悪質だな。そもそも拾ってないっつーの。
「本当にダメですか? 普段はメイドとして働かせて、ムラムラっと来たら襲うだけの関係でも良いんですよ?」
「そのシチュエーションには夢があるが、君とは関係を持ちたくない」
「そ、そんな……」
ショックのあまり、その場で四つん這いになるポリナちゃん。もう呼び捨てで良いんじゃね。
「……あの……あの、どこが悪いんですか? 直せるところがあったら直しますし、何でもしますよ? ねえ、だから見捨てないで下さい……」
絶望した表情で、問いかけて来る。
「まず、相手の話を聞かないことがあるのがダメ」
「うぐっ」
「執拗く追い駆けるような行動をするがダメ」
「ううっ……」
「最後に、オレは大き過ぎるオッパイには興味が無いんだ」
「そんな! 私のこの胸は御嫌いなんですか!? じゃあ、削ぎます―――」
「辞めなさい。血塗れで傷だらけの身体は、余計にオレの好みじゃなくなる」
オレに取り入ることが絶望的だと、ようやく理解したポリナは、しくしくと泣き始めた。
「では、私から提案があります」
戒が要らんことをして来た。こんなの拾っちゃダメです、捨てて来なさい!
「ミツルを性的に襲わないと言う条件付きで、メイドとして雇うのはどうでしょう?」
「ファッ!?」
「性的じゃなければ、襲っても?」
「基本的に、メイドが主人を襲うことは不可です」
「ゆ、誘惑を! 誘惑する許可をお願いします!」
「それくらいなら、まあ……」
「ちょっと待て! オレの許可を得ずに、何受け入れようとしてるんだ!?」
「部下として、これほどミツルを信奉してくれているなら、裏切る可能性が低くて良いじゃないですか」
「それはそうだけど、それ以外が問題でしょ!?」
「誘惑は、無制限ですか?」
「いえ、やはり1日1回制限と言ったところでしょうか」
「3回! 3回を所望します!」
「話を進めるなーーーっ!!」
その後、随分と揉めたけれど、結局ポリナをメイドとして雇う方向で話が纏まった。回数は2回になった。朝と晩にチャレンジするらしい。
オレの意見を無視して人事が決定していることに不満があるが、決まってしまったのは仕方ない。戒がキッチリと指導してくれると言っていた。不安が尽きない。
なお、ポリナはすぐに誘惑実行の権利を使い、『前屈みになって両腕で胸を寄せ、谷間を強調する』仕草を行ったが、オレは特に反応せずスルー。
屋敷に人が増えて賑やかになったものの、オレがやることは変わらない。鍛錬だ。
午前中は、実戦訓練を兼ねて『神の迷宮』の最下層付近で魔石を調達。ちなみに50階の魔物は、時々火を噴く翼の生えた赤くて大きなトカゲだ。……うん、ドラゴンだね。
苦戦するかと思ったけど、【石弾臼砲】を更に改良した【巨岩大砲】を並列発動で10発も打ち込めば倒せた。当たったところはミンチより酷い状態になったので、人の身で喰らう攻撃魔法じゃないなと改めて思う。50kgもの先の尖った岩が、音速以上で飛んで来るんだぜ。自分から離れた状態で発動させないと、余波でダメージを喰らうほどの、シャレにならない威力。
そして昼は外食し、午後は抽出魔法の練習の後、屋敷に戻って魔力量を枯渇させての魔力鍛錬&筋肉トレーニング。筋トレの方は1~2時間程度にし、空いた時間は読書などを混ぜて過ごしている。話し言葉は大分問題が無くなって来たが、読み書きにも慣れておかないと、後々苦労しそうだ。
そんな日々を月末まで繰り返した。
情報を集めていた戒が、「4月初頭に、ベラスティア皇国とその西のザルミナ王国とで、戦争が始まったそうです」と伝えて来た。
考えてみれば、<日本刀>の中級加護があった五十嵐さんに、ヴィオネッタは一年以内で功績を上げろ的なことを言っていた。ならば半年経って開戦したのは、計画的だった可能性が極めて高い。
「皇国の方が有利なんだろうが、実際どうなんだ?」
「国力自体が5倍以上違うらしいですからね。勝負にならないかと。ザルミナ王国側が約3万、皇国が7万だそうです」
「倍以上か。籠城でもしないとあっと言う間に負けるな」
「王都の城壁は対魔物向けで、人間同士の戦いにはあまり適さないとか。既に敗北を予想して、皇国の進攻予定地域の村や町の人は、王都以外へ避難しているそうです」
「こんな世界じゃ、略奪やら何やらで大変だろうな。五十嵐さんが戦果を上げられるかどうか、気になるなぁ」
「大丈夫じゃないですか? 元々剣道の腕もなかなかあったみたいですし」
「スポーツ剣道と人殺しの剣術じゃかなり違うって、漫画にあったし」
絶対に働きたくない系の剣客物語ね。
まあ、五十嵐さんは人殺しを躊躇し無さそうだから、無用の心配だろう。
「それよりか、人材を集めて育成とか、そろそろ考えなきゃ」
「その為には、ミツルにもっと強くなっていただいて、更にお金を稼いでいただきませんと」
「うわぁ。もっと金稼げとか、嫁さんが居たら言いそうな言葉だ」
これが尻に敷かれてるって状態なのかね。
翌、5月1日。いつもの迷宮探索はお休みで、代わりにファフレーン王国の王都まで足を伸ばす予定だ。
今朝のポリナの誘惑は、恥じらいながらスカートの裾を持ち上げて、こちらを睨んで来る、と言うものだった。オイ誰だ、こんな素晴らしいことを教えたのは! 戒でした。
オレが靡かないことに業を煮やしたポリナは、戒に助言を求めたとのこと。裏切りおってからに……。あ、下着はドロワーズじゃなくて、レース多めのやや透けでお願いします。色は白か黒で。
自室から、ポナの街の外れに張ったテントへと、【瞬間移動】する。
畜産の農場やってるおっちゃんに挨拶して、またワインの10リットル樽をプレゼントする。喜んでたけど、一ヶ月近く姿を見せなかったから、今日オレが現れたことに吃驚したそうな。売れ残りの鶏の卵があるから持って行けと言われたので、5個貰って籠に入れて収納しておいた。テントも回収っと。
魔力が上がり魔力量も増えたので、今度は余裕を持って強化を5時間継続出来る。
400km強の道のりだから、以前みたいな3時間じゃちょっと辛かったんだよね。いざ、王都レーンへ!
はい、到着。道中描写? 大したことなかった。野良犬だか狼だか分からんのが30匹ほど群れて襲って来たけど、槍で刺しては放り投げをやってたら、半分くらいは逃げて行った。
ファフレーン王国の王都レーンは、スエズエ共和国の首都ウェントより、もうちょっと人口が多いみたいだ。ただ、冒険者のようなタイプの人の数は、ウェントの街の方が圧倒的に多いだろうけど。
早速だけど、傭兵ギルドへと登録しに行こう。大通りを抜けて行くと、やがて傭兵ギルドの看板らしき物が見えて来る。隣に狩猟ギルドを示すのもあるから、仲良く共同っぽいな。
「頼もー」
「あら、見掛けない顔。旅人さん?」
今のオレは、皮装備にそこそこ良い槍を持っている。筋肉も付いて来ており、傭兵に見えなくもない。
「そうでーす。登録し直しって出来る?」
「ええ。でも、以前ギルドに登録したことがあるなら、今までの功績とかが引き継げるから、過去を大事にした方が良いと思うけど」
受付嬢は、30歳前後の色気のあるお姉さんだ。良いね良いね。目元のほくろがチャーミングです。
「過去に囚われないことにしたので、新規でお願いしまーす」
「はーい」
ギルドカードが出来上がるまで、待つことになった。
「お、新人? の割に若くは無いな」
「どっかから逃げて来た口か? 安心しな、詮索はしねーよ」
などと、周りのベテランっぽい方々から温かい言葉を掛けられた。
「はい、出来ました。ランクHからだから、頑張ってね」
ウィンクしてくれた。本物の新人さんだったら、今ので落ちてたかも知れない。
「どうも。あ、魔石の換金って出来ます?」
「勿論よ」
その返答に安心して、オレは荷袋から魔石の入った袋を取り出した。
「じゃ、これ。ヨロシク!」
「……」
受付のお姉さんが、中を検めて絶句してる。うん、まあ。『神の迷宮』の46階~49階の魔石を60個ほど詰めてある。50階のが含まれてないのは、集めてるからだ。500円玉貯金みたいな感覚。
10cmほどの魔石を見て固まっているが、「お願いします」と重ねて言うと、奥の部屋へと飛んで行くように走って行った。「ちょっと待ってて」と言葉を残して。
大して間を開けず、ギルドマスターらしき偉そうな人がやって来た。その禿げ頭の壮年男性が受付嬢の代わりに座って、持ち込んだ魔石を眺める。
「これを持ち込んだのは、坊主か?」
「坊主って年齢じゃないけど、オレだ」
色っぽいお姉さんじゃないから丁寧語は辞めだ。
「こいつは凄いな。どこで手に入れた? うん?」
「『神の迷宮』の46階から49階だな」
嘘を吐いても仕方ない。正直に答える。
「……もしかして、ウェントの冒険者ギルドの、あのマスターを辞任に追い込んだ、例の冒険者か?」
「さあ、例の冒険者とかは分からないけど、ウェントで魔石換金が拒否されたから、脱退して来た」
「クックック。随分と骨のある奴じゃねーか。気に入ったぜ」
バンバンと肩を叩いて来る。今は身体を強化してないから、痛ーよ。
「それで、換金は……」
「ああ、ちょっと待ってな」
そう言って、鑑定の係の者を呼び出し、質を測定して値段を決定、金額の算出とランクアップ手続きに入った。
「ほら、ランクBだ。……登録当日にランクB達成とか、記録だな」
「別に嬉しくも無いですね」
「かーっ! 可愛気が無いねぇ。普通なら、祝うくらい喜ぶもんなのに!」
知らんがな。
おっちゃんを残して、ギルドを去ろうとする。あとは郊外に場所を借りて、テントを張っておこうか。
そう考えて出入り口から出ようとしたオレを、二十歳くらいの女性が引き留めた。
「もし良ければ、魔物の退治依頼を受けていただきたい。おっと失礼した。私はメアリー、ランクCのハンターだ」
失礼は顔を隠していたことだろう、フードを外しながら自己紹介をして来た。なかなか美人だ。あと胸部装甲もグッドである。
「オレはミツル・コウサカ。よろしく、姫様」
気取ってそう言ったら、彼女はやけに動揺していた。アレ?
高坂ミツル 年齢:25
精神11 魔力782 MP67,267
魔法拡大4(1Up!)、魔法並列4(1Up!)、魔法遠隔3(1Up!)、抽出魔法3(1Up!)
所持現金:1億9454万円+2710万円=2億2164万円相当




