016 世界の記憶
駒沢さんには、とりあえず『猫の陽だまり』亭の部屋をもう一つ借りて、そこで過ごしてもらう事にした。
幾らかお金も渡し、日用品など買ったり、好きに使ってくれと伝える。
「改めて、凄い財力ですね。一体どうやって手に入れたんです?」
そうだよね、気になるよね。
「それじゃあ、オレが売られてから今までのことを、簡単に話そう。
オレを買ったのは、『暁に吹く風』のパーティのリーダー、ヤナさんだ。亜空間荷袋を入手したかったが金額的にも在庫的にも無理だったので、『アイテムボックス』を持つオレを競り落としたんだ。
オレの容量は1種1枠だったけど、パーティメンバーが魔力の鍛錬を行うことを提案して来てな。それに乗ったオレは苦痛と引き換えに、5種5枠までの拡張を成し遂げた。
荷物持ちとしてギリギリ認められたオレは、少し戦いに慣らされてから、迷宮の奥への遠征へ随行することになった。
途中までは順調だった。それまで22階がパーティの自己記録だったのを、23階まで伸ばしたし。しかし23階を探索中に、落とし穴のトラップに引っ掛かって、オレと……カイナスさんが落ちたんだ。
二人で24階を彷徨い、当然のように魔物と遭遇。一匹だけだったのは不幸中の幸いだったけど、オレが牽制している間に、カイナスさんが魔法で撃破。ただし、カイナスさんは敵の反撃を受けて瀕死の重傷に……。
その後は、25階への階段を見つけて、踊り場で休息を取ったんだが、カイナスさんが亡くなってな。
どうしようもなく落ち込んでいたところに、ミドリと遭遇した」
「ミドリ……?」
「ワシのことじゃ」
オレの腰のベルトの上から抜け出し、ニョロニョロと動いてベッドの上へとダイビングする。
「え? え? 何これ?」
「ワシは、第173XXXXXX宇宙と特91XX-26XXXXXX世界の過度な接触の原因究明の任務を与えられた、209番。ミツルはワシを、ミドリと呼ぶ」
「……へー。今後ともヨロシク」
あ。とりあえず疑問を全部スルーしたな。
「ちなみに、第173以下省略な宇宙が地球で……」
「特91XX-26XXXXXX世界はこの世界じゃ!」
オレとミドリのユニゾン風解説に、駒沢さんは目を白黒させた。
「そ、そうなんだ……。凄いね」
「で、だ。ミドリは凄く偉い存在の指示で調査に来たが、この世界の主神のアン・サンってのはおかしなことに、ミドリを騙し討ちして肉体を滅ぼしてしまった」
「滅ぼされちゃったの!? じゃあ、今の身体は?」
「仮初の依り代じゃ」
「霊体だけだったところを、迷宮からの脱出を約束してオレと契約したんだ。今のその依り代も、結局オレが作った。
ともかく、ミドリは契約したオレに力を与える為、『神の迷宮』の情報部分をハッキングした……んだよな?」
「ニュアンスとしてはそれに近い。古くは創造神の時代に作られ、この世界の情報管理などもついでに熟していた『神の迷宮』は、仮の主があのアン・サンとか言うダメダメな奴だった為、ほとんど機能が動いておらなんだ。そこをチョチョイっとな」
「そして、運良く都合の良いモノが見つかったので、オレに付与したんだ。
それが、<臨界突破>って奴だ。1000年ほど前に作られたものだそうだが、強力過ぎて封印指定。のちに妥協案として加護が作られたって話だ。しかし加護も試験運用の後は基本的にお蔵入りとなって、創造神がこの世界を去るまでほとんど使われなかったらしい」
「今の世界神代行は、どうやら人々の信仰を得る為に、加護の付与をオート作動させているようじゃった」
ここで駒沢さんが、多過ぎる情報に一時ギブアップ。彼が目を回したので、オレは酒とつまみを出して一服した。
「……<臨界突破>と言うのは、一体何なんです?」
「基本、加護とは反発する。加護を付与された対象には付与出来ないし、<臨界突破>を付与された対象は、その後も加護を付与出来ない。
また、<臨界突破>持ちは、この世界に唯一無二じゃ。
効果としては、世界記憶とリンクし、特定の技能の情報をダウンロード、一時的に使えるようになる。
制限として、使いたい技能を多少なりとも習得している必要があり、その習得度合いに応じて、ダウンロード出来る情報量も多くなる。
それと、<臨界突破>を持つ限り、本人の技能などの習熟は達人未満程度に抑制されてしまう。勿論、<臨界突破>を使えば一時的に達人以上になれるが、通常時に枷が掛かると言うことじゃ。
注意点として、世界記憶にまだ記録されていないものは使えない。高度で困難だったりで、既存の修得者が少ない技能は、<臨界突破>を使っても十全に発揮出来ないことがある。当然ながら、全くの新しい技能は、そもそも起動すら出来ん」
「ほふぅ、世界記憶かぁ。アカシックレコードのことかな……?」
「間違ってはおらん」
香草を混ぜたチーズを干し肉に挟んだ物を堪能してる間に、ミドリと駒沢さんが話を進めていた。
疎外感を感じたオレは、二人……一人と一柱に断りを入れ、オレの部屋で魔力と筋肉のトレーニングをすることにした。
「私もミドリさん、と御呼びして良いですか?」
「呼び捨てで良い。こちらもカイと呼び捨てるつもりだ」
互いにそれで了承する。
「<臨界突破>をミツルに習得させた後は、しばらく訓練させた。
ワシと会う前からそこそこの痛覚耐性を持っていたようじゃが、<臨界突破>を使いこなすには何より魔力量が必須。魔力量は魔力に大幅依存、魔力を伸ばすには痛覚耐性の習熟が急務。
生きるためとは言え、見ていて少々酷な鍛錬じゃった。気を紛らわすため、床や壁に身体を打ち付ける様は、痛々しいものじゃった。
魔力の鍛錬には、1時間ほどの痛みに耐える必要があるが、当初は1時間以上<臨界突破>を発動させる魔力量も無ければ、痛覚耐性の練度も低く、<臨界突破>でブーストしても痛みを半減するのが精々のようだった。
まあ、最初期は手持ちにあった魔石に十分な魔力量を蓄えていたのがあったから、そこから引き出して使わせていた。それが尽きて、痛覚耐性も中途半端だった時期が一番の地獄だったの。
一週間もしたら魔力も最低限の量に達して、二週間が経つ頃には痛覚耐性も最大まで育ってな。それから色々と魔法や魔法の応用技術、無詠唱などの訓練を混ぜて、結果、魔物のカエルを一撃で倒せるようになった。
三週間以上経つと、今度は食料の問題が出てきた。無理してでも迷宮を抜け出し、地上に帰らないと身体がおかしくなると判断して、地上へ帰還することにした。
こんなところじゃな。ミツルの言うところの『落とし穴に嵌って死にそうになったけど、結果的にチートじみた力を得られてオレTUEEEEが出来るようになった』状況説明は」
ミツルの置いていったワインに、戒が手を伸ばし、少し口に含む。
「ちょっと茶化してますけど、割と壮絶ですよね」
「うむ」
「それで……ミドリさん……ミドリは、私に何をして欲しいんです?」
「それはじゃな。ミツル本人にもまだ薄らとしか伝えておらなんだが―――」
この世界での計画の概要を、戒へと説明する。驚きはしたものの、今までの話の延長線上ではあった為、戒も受け入れて行った。
「つまりは、カイにミツルの参謀になって欲しいと思っておる。<錬金>の加護は捨て置くことになるが、どうじゃ?」
「……それが本当なら、私は重要な役割になるんですよね。良いんですか? 私で」
「ダメだと思ったら切り捨てる。……しかし、『勘』だが御主は遣り遂げられる。そう感じている」
もう一度ワインの瓶を煽り、一口分飲み干す。何度も嚥下しない辺り、控えめな性質が伺える。
「ミツルさんも……いや、ミツルも、私を買い被り過ぎだと思うんですけどね。ま、やりましょう。どうせ拾った命です。この身果てるまで、御伴しましょう」
静かながら、決心した者の目をしていた。
翌朝。オレが駒沢さんとミドリの居る部屋を訪ねると、彼は徹夜明けの風体だった。
「あ、おはようございます……」
「おはよう。ってか、寝てないのか? 駒沢さん」
少し目の下に隈が出来ている。
「私、決めましたよ。ミツルの参謀役になることを! だから、ミツルも私のことを戒と呼び捨てて下さい」
「え? へ? ん? 何か急に距離が縮まったなぁ」
「どうやら、昨日の話でテンションが上がってしまって、そのままのようじゃ」
「これからどうすれば効率的に世界征服出来るかを、ずっと考えていたんですよ! やはり、まずはアンモニアの合成をですね……」
「お、おう……。とりあえず、しばらくその気は無いからな?」
「でも、いずれやるんでしょ!? まずはミツルが効率的に強くなる方法を……」
ガッ! 少し痛くしたチョップを、駒沢さん……戒の脳天に叩き込んだ。
「少し落ち着け。これからまだ時間はある。一日二日で考え付いた案を、そのまま実行するのは性急過ぎる」
オレの言葉に、戒の気持ちが収まって行く。
「そう、ですね」
「まずは朝飯を食って、その後、戒は寝ておけ。……夜に良い所へ連れて行ってやる」
「……はぁ」
ミドリを掴んで腰に身に着けると、オレたちは宿の朝食の為、1階へと降りて行った。
その夜、戒は運命の出会いをしたと言っていた。どうやら、14,15歳くらいにしか見えない、実年齢22歳のエナさんにゾッコンらしい。
朝のテンションよりもウザイくらいだった。
戒のロリコン具合は、真性ではなく、仮性だったのだろう。まあ、犯罪じゃないなら良いか?
「絶対にミツルを盛り立てて、私はエナさんと結婚します! 共に頑張りましょう!」
「目標が出来たんなら良いけど」
張り切る余り、翌朝からオレのランニングに付き合うようになった。継続して走ってるオレにいきなり付いて来ることは出来なかったが、決して諦めなかった精神的タフさは認めよう。
それから一月あまりが経ち、4月3日。
『魔よ、退け。disenchant【解呪】』
手から生まれた淡い霧のようなものが白く発光し、僧帽筋の模様の部分へと集まる。絵なのか字なのか判断に迷うソレへ接触すると、模様を巻き込んで共に空気中へ溶けるように消えて行った。
無事に、オレと戒の二人分の呪詛を取り除けたのだ。
「……これで、地球の知識をこの世界の人に伝えても大丈夫に?」
「そのはずだ。オレは然程でもないが、雑学なんかが凄い戒なら、色々期待出来そうだな」
実は少し前、戒の思い人であるエナさんは、別の人と付き合うことになったそうだ。その時の落ち込みようは、隕石でも落ちて世界がもうすぐ終わると言わんばかりだった。
オレは応援してるぞ。リア充になるまでは。なった途端に手の平クルーするがな!
「今しばらくは、ミツルが強くなるのが最優先ですがね」
「そうは言っても、屋敷の確保、整備や清掃、使用人の雇用とか、助かってるよ」
オレが自身を鍛えてる間に、戒にはオレの代理人として行動して貰った。屋敷の購入には大金貨180枚掛かったけど、満足出来る良い買い物だった。人を泊めようとするならば、20人くらい大丈夫そうだ。
『猫の陽だまり』亭はしばらく前にチェックアウトして、今は屋敷に住んでいる。
そして、迷宮に潜るより鍛錬に重点を置いた結果、魔力が大分伸びて魔力量もドッサリ。魔法を沢山発動出来るから、練度もかなり上がって来た。ミドリが言うには、この世界の普通の魔法使い換算で100倍以上の魔力量だそうだ。
また、今まで馬鹿の一つ覚えみたいに多用して来た【石槍】の魔法だが、より速度と威力の高い【石弾臼砲】と言う魔法をオリジナルで作り、使用している。スピードも重量も石槍の4倍、つまり4倍の4倍で16倍だWRYYYYYY!とはしゃいでいたら、戒から「運動エネルギーは、速度の二乗ですよ。64倍です」と突っ込まれた。死にたい。
そんなこんなで、かなりオレの強さも安定して来た。【石弾臼砲】のお陰で『神の迷宮』も何とか最下層の50階まで到達済みだし、そろそろスエズエ共和国を出て他の国を見て回ろうなどと考えていた。
StoneMortar【石弾臼砲】 『硬き大地を砲弾とし、敵を穿て』
土魔法8 消費75 時速460km、12.8kgの石弾(術者から2m離れて砲弾出現)
高坂ミツル 年齢:25
精神11 魔力624 魔力量42,831
土魔法4(1Up!)、強化魔法4(1Up!)、空間魔法4(1Up!)、時間魔法3(1Up!)
浄化2(1Up!)、無詠唱4(1Up!)、回避3(1Up!)
所持現金:2億1575万円相当




