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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第一章:始まり
15/114

015 紳士


 月が明けて、3月1日。

 軍資金は大分稼いだ。と言うか一人では使い切れないほど入って来た。7つ売って聖金貨で315枚の取り分。日本円で6億以上。

 そろそろ、屋敷でも買って仲間でも増やそうかな。世界を見て回るにしても、拠点みたいなのはあると安心だし。

 あ、日本人を優先したくはある。駒沢さんとか、草薙さんとか。草薙さんは、買われた値段的にまだ無理かなぁ。聖金貨で370枚だっけ? やっぱり足りない。


「と言う訳で、屋敷を買って、駒沢さんを保護して仲間にしようとか考えてるんだけど」

「何が『と言う訳』なのかは分からんが、ミツルのやって来た地球から、同様に拉致され奴隷として売られた仲間が居るのは理解した」

「なかなか理解が早い」


 ミドリが憮然とした表情をする。最近、この蜥蜴もどきの表情を読み取れるようになってきた。凄いぜ自分。


「一つ気になるのは、うなじから背中に掛けて、呪詛が貼り付いてるじゃろ?」

「……あっ」


 ミドリの細めた目が、ジト目に見える。


「まあ、ミドリとの契約で地球に帰るのは無しだから、問題は知識の方の制限だよなぁ」

「呪詛を解呪せんのか?」

「えっ?」

「解呪」

「出来るの!?」

「ミツル自身が、解呪の為の技能を習得するんじゃよ」




 はい。解呪の為に、まずは呪いの仕方を習得しよう、となった。

 方法は、拳よりやや小さい石に、血を混ぜたインクで、恨み辛みを表現した顔を、負の感情と魔力を込めながら描く、らしい。

 この『負の感情と魔力を込める』のが一番大事らしく、他はちょっとした補助にしかならないそうだ。


「リア充死すべし。リア充爆発しろ。滅せよリア充……」


 髪を振り乱した人間が、血の涙を流している絵、それを気合いを込めて描いていく。

 2時間ほどして、5つほどが出来上がった。


「どうだ?」

「うーん、5点、10点、12点、25点、3点」

「最後下がったな」

「慣れて来てしまって、少し楽しくなってきてたじゃろ? それが如実に表れてる」

「そ、そうなんだ……。でも点数皆低いな、やり直しか」

「いや、25点のはギリギリ使えそうじゃ」

「んー、まあ結構良く出来てて怖いくらいだけど……って、今、目、動いた?」

「うむ。ギリギリ怨念が小石を自律出来るレベルに達しておるな」

「何それ怖い」

「何を言う、生みの親が」

「……そう言われると、そうなんだけど」

「生みの親としては、責任もって浄化してやらねばなるまい?」

「自分で生み出して、自分で排除するとか、何と言うマッチポンプ」

「塩の用意はあるか?」

「ん? ああ、あるある。『アイテムボックス』!」

「それを盛り塩して、四方に配置」

「へいへい」


 かめから取り出した塩を一掴み程度で山にして、25点の呪いの小石の周りに4つ作った。


「あとは、浄化の意思を以って接触するだけだな。……時に、どんな思いでソレを作ったのじゃ?」

「うーんと、恋人や配偶者と相思相愛になってる奴、憎し!」

「……お、応……。では、ミツル自身が、これから恋人を得て、相思相愛になって幸せになることを想像せよ」

「恋人? うーん、娼館のユーナちゃんかなぁ。あの子良いよなぁ。またエッチしたいゲヘヘヘ」

「こ、こら! 邪念を混ぜるな! 性交渉自体は邪念が混じり易い。想像から弾け」

「うっ……。清いお付き合いオンリーか。キスまではセーフ?」

「邪念が混ざって来ておるぞ」

「うわっ、ディープなのはアウトだったか! 取り消し、取り消しっと。うーん、デートして……結婚して……子ども作って……幸せな家庭を築いて……」

「うむ、浄化力30前後、行け! 小石に触れて、怨念を溶かすのじゃ」

「よしよし、オレから出てお前となった怨念は、オレがリア充になることで晴らすからな……」


 まるで全てを許してしまうような仏の如き心を以って触れると、フッと、呪いの小石から絵が消える。


「成功じゃ」




 浄化の取っ掛かりを習得したオレは、今までと同じく、<臨界突破>を使用して高熟練度の状態を体感してみた。


「難しいな」


 つい愚痴ってしまう。


「本来なら、その技能の習得だけで、原始的な政治形態なら祭り上げられることもあるくらいだからのぉ。で、どうだ? <臨界突破>を利用して、もう解呪は出来そうか?」

「うーん、力量としては同程度だと思うんだよね。だから、もうちょっとだけこっちの練度を上げれば、確実に解呪出来そう」

「となると、ちょっとしたさわりを払って行くのが良いか。……屠殺場かのぉ」

「屠殺場か。肉屋なんかの、家畜をバラすところだったな」

「殺人現場や墓場とは違ってリスクが低い分、長期間―――1ヶ月くらいやらないと、練度は上がらんだろうな」

「うへぇ」


 早朝のマラソンコースが、肉屋を幾つか経由するものに変わった。




 呪詛を解呪するのは一旦保留となったが、それ以外は進めても問題あるまい。

 そう考えて、奴隷商のポルトさんの本店を訪れる。


「ちわーっす」

「はいはーい。どなたですか?」


 店番に居たのは、オレたちをウェントの街まで運んで来たポルトさんでは無かった。そもそもあの人は、ベラスティア皇国などを頻繁に訪れていて、半分以上は留守にしている。


「以前、ポルトさんに売られた元奴隷だ」

「ふむふむ。いつ頃だい?」

「去年の……10月か。奴隷オークションだった」

「ほうほう。となると……ミツル、カイ、ケンタロウのいずれかだね」


 台帳を見ながら、オレのことを当てて来る。


「ミツル・高坂だ。オレは主人のお陰で解放して貰えてね。健太郎・草薙の引き受け先は有名なボルボー商会だったから分かるんだけど、戒・駒沢の引き受け先が分からなくて。挨拶と軽い近況報告だけでもしたいんだが、教えて貰うことは出来るかな?」

「うーん、難しいねぇ。一応大事な顧客の情報だし。信用出来ない相手に易々と教える訳には……」


 ギルドカードを店番に見せる。


「一応、ランクBの冒険者になったんだ」

「……へー、凄いな」


 この反応。準男爵は貴族の中でも一番下だが、それでも曲がりなりにも貴族とされる。それと同じ扱いをランクBが受けると言うのを知っているな。

 だが、口の滑りを良くするのは、もっと即物的なモノだろう。


「稼ぎも結構あってな。ほら、大銀貨くらいならこんな風に雑に扱っても、全然気にならないんだ。……当然、地面に落ちた分が消えたりしても、全く気にしない」


 そう言いつつ、大銀貨を指で弾いて地面にコイントス。すかさず店番が拾いに行くも、視線を別の所にやって見ない振りをする。


「あー、駒沢さんの引き受け先が知りたいなぁ」


 わざと大きな声で主張する。


「へっへっへ。そうですか、知りたいですか。教えることは残念ながら出来ませんが、ちょっと奥でやることがありますんで失礼をば。あ、台帳にはカイ・コマザワの引き取り先が書いてあったかも知れませんが、勝手に覗いたりしてはいけないですよ? 信用あるランクBの冒険者様なら、そんなことはされないと知ってますが」


 白々しい。だが悪くない。

 彼が店の奥に引っ込んだのを見て、台帳を覗き込む。これは同意の上だから犯罪じゃない。

 二人の引き取り先をメモって、大銀貨をもう一枚置いてから、店を出て行った。




 ニール・ストレンジア、この街の薬学の権威……と言うほどでもないか。人口30万程度じゃ、ちょっと腕の良い専門家が妥当だろう。

 薬や毒に詳しく、医者への薬の供給で安定した収入を持つ。理念を持ち、薬で過剰な利益を得ることは忌避しているとの評判。既に入り婿へ実権を渡し、現在は悠々自適の生活を送っている。幼い孫娘に激甘。

 と言うのが、ストレンジア家の近くで聞けた話だ。お喋り好きなオバちゃんズは、時間は掛かるが結構な情報通のため役に立つ。

 資産をそこそこ持っている割には、民家三軒分程度の慎ましやかな屋敷だ。

 玄関先に吊るしてある大きめな鈴を、結構力を込めて鳴らす。音が小さいと、風で鳴ったと思われて無視される可能性があるからな。

 そしてついでのように、ドアノッカーで扉を叩いた。


「はーい。どなたですか~?」


 さっきまで話してたオバさんと遜色ない年齢の、ハウスメイドのオバさんが出て来た。誰得。


「あー、すみませーん。事前に約束は取り付けてないんですが、ニール・ストレンジアさんと駒沢さんにお会いしたく。オレ……ワタシは、冒険者のミツル・高坂と言います」

「あらあら、老旦那様と……カイ君に? 珍しいわね。あと、堅苦しい言葉が苦手だったら、普通に話して大丈夫よ。旦那様方も、気になさらないから」

「駒沢(かい)さんとは、同郷でして。奴隷として暫く同じ境遇だった縁があったので、たまに話がしたいと言ったところです。ついでに、ここのニールさんにも用件があって、少し御話出来れば。あ、これ御土産です」


 そこそこ評判の焼き菓子を、『アイテムボックス』から取り出して渡す。突然現れた黒い空間に、メイドのオバさんは驚いたようだ。

 少し前に買い溜めした焼き菓子で、美味しいからオヤツに食べたりする。意外なところで役に立ったな。日本みたく、「詰まらないものですが」とか言っちゃうとオカシク思われる可能性があるから辞めておいた。あれは独自文化だ。


「これは御丁寧に~。さあさあ、入って。老旦那様にお知らせして来ますから。今頃だと、調剤を行っているはずだわ」


 家の中を案内されて、応接室へ通される。持って来た土産の菓子と、香り豊かな御茶が出された。それからようやく、老旦那ニールさんのところへオールド・メイドは向かったようだ。




 暇だったのでティーカップを対象に時間魔法の練習をしていたら、壮年を少し過ぎた辺りの渋い紳士と、やや上質な服を着た駒沢さんが、応接室に入って来た。

 一応礼儀として、席から立ち上がって一礼する。


「初めまして、ニール・ストレンジア様」

「敬称は付けずとも良い。そもそも、ランクBの冒険者殿なら、そちらの方が立場が上だ」

「……お耳が早いようで。駒沢さんも、久しぶり」

「お久しぶりです、高坂さん。お互い生きていられて喜ばしい限りです」


 身振りで着席を促されたので、座る。ニールさんも座り、駒沢さんはその斜め後ろに立っていようとするが、ニールさんに「座りなさい」と言われて着席していた。


「それで、話とは? カイとの話を優先したいなら構わんが」

「いえ、二人とも揃っていた方が都合が良いです」

「ふむ。……それにしても、奴隷から解放されただけでなく、短期間でランクBとは」


 駒沢さんが、首元の『奴隷の首輪』に触れている。

 あれ、長さを調節したりロックしたりする錠の部分以外は、革に覆われているんだよね。だから直ぐに切れそうな見た目なんだけど、それはフェイク。本体は金属製で、皮革で覆っているだけ。


「色々ありましてね。まあ、それはいずれ話す機会もあるかも知れません。本題ですが、駒沢さんをニールさんから買い取らせて貰えないでしょうか?」

「ほぅ? それは何故だ」

「一番の理由は、ある程度親しい同郷だから、ですね。駒沢さんには出来ればオレの補佐をして貰いたいんだけど、ここでの生活が気に入っているなら、無理に来いとまでは言わないです」

「ん? どう言うことだ? 買い取って連れて行かないなど……」

「オレはあくまで、奴隷と言う身分から彼を解放するのが一番の目的です。それが達成されれば、オレの補佐をしてくれるのか、ここで既に確立した生活を続けるのかは些細な問題ですので」

「…………」


 オレの心中を語ったら、ニールさんが押し黙ってしまった件について。


「私としては、高坂さんが必要としてくれるのなら、それは魅力的ではあります。しかし……」

「ハッキリ言うと、カイの<錬金>の加護は、薬剤ばかりを扱うここでは少々発揮し難い。だが、調剤のような仕事に少し経験があったようなので、邪魔にならない程度には役に立っていた」

「へえ、調剤の仕事を?」

「いえ、単に大学などでの実験とかに、近かっただけですよ」

「……異世界のことか」

「ええ、まあ」


 駒沢さんが言葉を濁すが、ニールさんは追及するつもりは無いみたいだ。奴隷を買った際、異世界の情報は話せないことを知っていたからだろうな。


「……幾らの値を付ける?」


 ニールさんが少し考え込んでから、こちらに質問をして来た。駒沢さんの引き取り値だろう。


「そうですね。……金貨10枚くらい、でしょうか」

「……そうか」

「正直、少ないと思われたかも知れませんね。ただ、これは『駒沢さんを奴隷から解放する為の値段』なだけです。オレの補佐の仕事をしてくれるなら、もっと優遇するつもりはあります」


 そう言って、アイテムボックスから『聖金貨』、つまり大金貨の入った袋を取り出し、10枚を机の上に並べる。

 196gもの純金が使われた聖金貨は、見ているだけで人を魅了する輝きがあり、稚拙と言えるデザインが気にならないほどである。

 絹の敷布しきふに乗せて、ニールさんの前に金貨10枚を移動させる。老旦那の喉がゴクリと鳴った。


「いかがでしょう?」

「……ハッ! いや、金に目が眩んだ訳ではないが、カイのことをそれだけ認めてるなら、私の所に居るよりも良いかも知れんな。どうだ、カイ?」

「ニール様。声が上擦ってます」


 気まずそうに視線を逸らす。


「そこまで買っていただけるなら、是非も無いですね。……少し心残りはありますが」

「ん? ああ、私の孫娘のことか。カイに懐いていたからな」

「ちなみに、御幾つで?」

「今年で6歳だ」


 じぃ、と駒沢さんのことを見る。視線に気付いた彼は、頬をポリポリと掻いた。


「まあ、たまに遊びに来ると良い。菓子折りの一つでも持ってくれば、邪険にはしない。……早速だが、奴隷解放をするか。交渉成立で構わぬだろう?」


 ニールさんが好々爺の顔から、真面目な表情に変わった。駒沢さんの首輪に触れて、お決まりの文言を呟く。


「我、カイ・コマザワのあるじは奴隷の権利を手放す」


 ニールさんが魔力を通すと、首輪の錠が外れる。オレは奴隷にするつもりは無いから、このままで良い。奴隷売買の場合は、この後に主人登録をして首輪の錠を掛け直すことで完了となる。


「これで、後日この首輪を奴隷商に届け、解放したことを伝えれば完了だ。来週にでも近くを通るから、責任を持って処理しておく」

「有り難うございます」


 座ったままだが御辞儀をして、謝意を示す。

 その後、ニールさんの孫娘のローニちゃんを呼んで、別れを告げることになった。


「そう言えば、あの服は結構良い物ですね」

「ああ。執事とか下男向けだが、貴族相手にも失礼が無いタイプだ」

「……脱がしてお返しした方が?」

「いや、良い。気に入ったなら、仕立て屋を紹介するぞ?」

「……そうですね。彼には中々似合ってますし。仕事着にしてしまおうかと」


 人形を抱えていたローニちゃんは、駒沢さんの腹を思いっ切り殴ると、小走りに逃げてしまった。


「どうやら、拗ねちゃったみたいです」


 苦笑しながら駒沢さんが戻って来る。


「良いのか? そのままで」

「また来た時に、仲直りしますよ。今はどうやっても泣いちゃうでしょうから」


 そんなものか。

 屋敷から出る際、ニールさんに「今まで御世話になりました。有り難うございました!」と気合の入った声で言っていた。

 帰り道に「ロリコンめ」と言ってやったら、「チ…チチッ、違うし? ロリコンなんかじゃねーし。むしろ紳士だし!」と慌てて弁明していた。ギルティ。






 『奴隷の首輪』を解除する時に、別に何かを言う必要はありません。あの文言は100%蛇足です。魔力流すだけでオッケー。


高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力400 魔力量17,600

呪詛1(New!)、浄化1(New!)


所持現金:6億685万円相当



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