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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第一章:始まり
14/114

014 魔法の袋


 技能の習熟に励んだり、魔力の鍛錬をこなしたりして、しばらくく過ごすことにした。

 噂では、冒険者ギルドのマスターが、オレの魔石換金の停止命令を出したそうだ。暴走防げなかったのか、サブマス。冒険者ギルドは、魔石の買い取りと販売で利益を得てるんだろうに。

 【瞬間移動】に憧れるオレは、空間魔法を重点的に修錬し、ついに自分を移動させることが出来るまでになった。


「空間魔法で【瞬間移動】をする際、術者は大まかに4つのタイプに別れる。

 一つ、自分のみの移動に特化したタイプ。自分以外は移動させられないのも居るが、代わりに消費が極めて軽くなると言う副次効果があったりする。

 二つ、他人のみの移動に特化したタイプ。これは自分以外の誰かを移動させるのを得意とする。これも、自分以外の誰かを移動させる場合に限って、移動距離などをかなり無視して発動出来たりする術者がいる。練度が低い癖に、成層圏外に移動させることが出来たり、な。敵対すると厄介じゃ。

 三つ、物の移動に特化したタイプ。生物に対して心理的なプロテクトが掛かっていると考えられる。このタイプは極端なメリットは無いな。ちょっと普通より軽い消費で発動出来たりするだけじゃ。

 四つ、これは普通にオールラウンダーなタイプ。前述3つはデメリットも大きいが、消費が軽かったりするメリットもあるので実は練度を上げ易い。それが無いのがデメリットとも言えるかの。器用貧乏とも言える」


 器用貧乏でした。

 まあ、<臨界突破>があるからその方が良いんですけどねー。

 最初は小石などの小物を移動させて、感覚が掴めて来たら自分を移動させる訓練を行った。


 『神の迷宮』内でも出来るか確認したところ、まず迷宮外から迷宮内への【瞬間移動】は、目視範囲内でもダメだった。

 次に迷宮内だけど、目視範囲内なら普通に大丈夫だったけど、視界外になると途端に阻害されてしまった。ムムムム!

 で、色々検証してみた結果、階段だと阻害が弱まっていることが判明。視界外でも目印となるマーカーがあれば、普段の倍程度の消費で【瞬間移動】出来ました。

 低ランクの冒険者が多数居る、1階から2階への階段の踊り場と、2階から3階の踊り場で、無理を言ってテントを張らせて貰った。差別化する為、それぞれ大分違う形のを選んである。二つの浅い層間のテント内での移動が出来たので、そこから迷宮外に行けるか試してみたけれど、これは当然ダメ。

 しかし、30階から31階への踊り場に置いて来ていたテントへは、【瞬間移動】出来ました。マジで!?

 テントの外を見てみると、自分のテント以外は無い閑散とした場所。そこへの【瞬間移動】の消費は、石槍2~3発程度だった。少し出歩き、31階の魔物、ファイア・リザードと遭遇したので倒しておいた。魔石ゲット。燃える蜥蜴とかげなので、普通の武器で攻撃すると、武器が傷み易い厄介さを持つ。

 テントの内側からも判別し易くしたいので、買ってあったインク壺と刷毛はけを取り出し、テント内面に1号店と書いておく。

 2階から3階の踊り場のテントに移動し、3号店と明記してからアイテムボックスに収納、1階から2階の踊り場へ向かって、これまた2号店と名前入れしてから回収して、徒歩で迷宮を出た。

 これで31階以外の証拠隠滅。地味に面倒だ。

 だけど、低階層にでもテントを張って【瞬間移動】すれば、今みたいに日帰りで深層を探索することも出来ると判明。ヤバイ。






「ギルドマスター! 理解しているのですか!? 彼の魔石換金を停止するのは、冒険者ギルドに取って損失ですぞ!」


 サブマスターの怒れる声も、ミストレア商会の名誉会長たるギルドマスターには、馬耳東風だ。お茶を飲んで和んでいる。

 飲み終わってティーカップを置くと、片眉を上げて反論を口にした。


「しかし、今のところ彼のギルドへの貢献率は、年間で0.1%にも満たない。停止しても問題は無かろう」

「額の問題では無いのです!」


 溜息を吐く。ギルドマスターに取って、金が全てだ。なのにこのサブマスターは頓珍漢なことを言う、と考えていた。


「それに! 彼が変貌してからはまだ二ヶ月です。一年換算ですと、0.4%を超えます!」

「……大して変わらないじゃないか」


 その無責任な発言に、サブマスターの顔は怒りで真っ赤になった。

 三万人を数えるウェントの冒険者。その全体の稼ぎの1/250にあたると言うのは、並の冒険者100人に匹敵する。

 そんな超有能な人物を冷遇するなど、有ってはならないことだった。


「彼の処遇を変えるつもりは無い、そう受け取って宜しいのですね?」

「ああ」


 サブマスターは決心した。必ず、かの邪智暴虐のギルドマスターを除かなければならぬと。否、無知蒙昧なギルドマスターを、だ。

 自身の進退を賭けて、この仕事は遣り遂げようと固く決意した。




 モルティナさんは10日間で、亜空間サブスペース荷袋バッグの付与前の代物を10個用意してくれた。初めてじっくり見たけど、発動の為に魔石を使うのが分かった。実は結構維持費掛かるのか。

 持ち帰って、付与魔法で空間魔法の亜空間を付与、翌日に7個持って行く。


「はい、これ」

「え? これって…………亜空間荷袋の完成品!? ど、どうやって?」

「内緒だ。それで、これを秘密裏に売り捌きたい。出所がオレってことも伏して、な。そんな裏の仕事を任せられる相手に、伝手つてはないか?」


 モルティナさんは少し考え込むと、「あの人なら……」と零した。


「どんな奴なんだ?」

「一応、小さい頃の知り合いなんですけど、成人するとともに疎遠となってしまって」

「じゃ、会いに行こうか」




「断る」


 こじんまりとした応接室で向かいに座って居るのは、モルティナさんの知り合い、バルナ・ロッド氏。


「どうしてです!? バルナ君にとっても、悪い話では無いはずですよ!」

「ああ、その通り。むしろ旨過ぎて涎が零れ落ちそうなくらいだ」

「なら……!」

「気に入らねぇ」


 一言。敵意を存分に籠めて、オレを睨んで来る。ヤメテ。


「何か気に障ることをしてしまったのでしたら謝罪します。ですので、ここは大人の対応をして貰えないでしょうか?」


 わざわざ丁寧な言い方で下手したてに出る。婉曲的に、ガキみたいな感情で仕事の話蹴るなよ、とたしなめているのだ。


「チッ」

「バルナ君!」

「分かってるよ。だが、お前さん……ミツル・コウサカは、冒険者ギルドから爪弾つまはじきにされている。そんなのと組むのは……」

「……バルナ君」


 声のトーンが数段下がったモルティナさんは、結構迫力があった。


「それは、総合的に判断した上で言っているのですか? この人が、何故冒険者ギルドのマスターから疎まれるようになったのか、知った上でですか?」

「噂では聞いてる。だが真偽の判断が付かねえ」

「へえ……」


 ここで、モルティナさんの雰囲気が変わった。


「少しは信用してたんですけどね、バルナ君のこと。見損ないました」

「!? ま、待ってくれ! どう言うことだ!?」

「もう弁を交わすこともないでしょう。絶交です」

「なっ……!」


 崩れ落ちて敗者のような四つん這いの格好をするバルナ氏。そしてこっちを睨んで来る。やめぃ。

 分かってる。分かってるがな。バルナ君はモルティナさんにちょっと惚れてる。で、それに纏わりつく邪魔な虫がオレ。

 そいで、モルティナさんは結構オレに好意的。バルナ氏のことは可愛い弟分の認識っぽい。

 結論、面倒臭い。


「モルティナさん、ちょっと落ち着きましょう。こちらは頼れる伝手も少ないんです」

「……分かりました」


 オレの言葉に素直に従い、着席するモルティナさん。唖然とするバルナ氏の顔は、見ていて面白い。


「それで、何を知りたい」

「……全部と言いたいところだけど、要点だけ。本当に30階層に潜って魔物を狩って、魔石を入手出来ているのか? 凄腕って話だが、どれくらいの腕なのか見たい。それと、亜空間荷袋はどうやって入手した?」

「……」


 モルティナさんがバルナ氏に鋭い視線を向けるが、オレを立ててくれているのだろう、口を挟まないで居てくれる。


「30階へは気軽に行ける。これからも魔石を取って来るだろう。あ、1個残ってるのがあったな。オレと手を組むなら、あげても良いぞ」


 『アイテムボックス』から先日の魔石を取り出し、放って渡す。


「これが30階の魔石……」

「いや、31階だったな」


 ガタッ!とバルナ氏が席を立ち上がったが、意味が無かったのか再び座る。なんやねん。


「真贋は分からないが、嘘は吐いて無さそうだな……」

「腕前については、以前冒険者ギルドの訓練場で披露したんだが……」

「ああ、眉唾モノの出鱈目な魔法の威力だったってな」

「あれは全力じゃない。当時でも、5倍は出せた」

「……は?」

「あれから成長してるしな。建物一つぶっ壊して良いなら、魔法の腕前見せてあげられるぞ」

「いやいやいや! 待て待て待て! あのトンデモな噂の訓練場での魔法でさえ、熟練の魔法使いが全魔力量を使い果たして出せるかどうか怪しい魔法だったんだろ!? それを、5倍? ハッ!? 成長してる? 冗談も休み休み……」

「……」


 モルティナさんの凍える視線! バルナ氏は肝が冷えた!


「で、最後の『魔法の袋(マジック・バッグ)』については、黙秘する。詮索御無用。オレたちの関与も、ここでの会話・取引も、全て内密に」

「何だ? その『魔法の袋(マジック・バッグ)』ってのは」

「出所不明なのだから、別の商品名で流通しても不思議では無いだろ? ちょっとしたブランド製の違いって奴だ」

「ああ、うん。そう言う趣向も珍しくは無いが……。分かったよ。で、こっちの利益は?」


 用意して来た契約書を、ようやく取り出せる。相手が1割、こっちが9割の販売額分配だ。


「話にならねえ。せめて2割は貰わないとな」

「そうか」


 机に置いてあった1個の魔法の袋を手元に引き寄せ、『アイテムボックス』を発動する。空中の黒い空間から、更に魔法の袋を1個出し、机の上へ並べる。もう1個、もう1個……。7個目を並べ切って腕を広げて見せた際には、バルナ氏の顎が外れそうなほど口が開いていた。


「交渉は、その文面で成立と見て良いかな?」


 ブンブンと勢い良く首を上下に振るバルナ氏に対し、首を痛めないか心配になった。




 果報は寝て待てと言う。だが勿体無いので、待ってる間も技能の習熟に励んだ。

 31階以降の魔物と戦うには、魔法拡大や魔法並列の熟練が必須だ。保険に、治癒魔法も出来るだけ上げておきたい。


 まず、30分限定脚力4.2倍で迷宮へ入って上層の階段へ、テント2号店を出して【瞬間移動】で下層に。

 テント1号店を出て収納、伸ばしたい技能を意識的に使いながら魔物と交戦。

 今のところ、【石槍】を並列発動させれば何とか倒せている。現時点で64個まで同時に発動出来るから、余程の格上以外は圧殺だ。

 階段を下層に更新出来たらテント設置、更新が無理なら早めに引き返して元の所からリターン。

 これが午前8時から正午までのパターンになる。

 昼食を街中で取り、午後は戦闘では上げる機会の無い治癒魔法などを1~2時間みっちり訓練。残りは魔力の鍛錬と筋肉トレーニングだ。夜はたまに遊び歩いている。




 秘密の密会から10日後、ウェントの街はある噂で持ち切りになっていた。

 曰く、謎の高額な魔道具が出回っている。どうやらそれは、既存の亜空間荷袋に極めて似ているらしい。(そのものです)

 高名な冒険者は、こぞって入手しようとし、複数持ち込まれたそれはあっという間に売り切れた。

 販売元は、決して入手経路や作成者の名前を出さない。ただ、商品の名前をこう呼ぶ。『魔法の袋(マジック・バッグ)』と―――。


 それと時を同じくして、『暁に吹く風』が泊まる「太陽と月」亭に、ある荷物が届けられた。

 ジルミアとルノーア、ボルの3人宛だ。ヤナには、豊かなバターの香りがする焼き菓子入りの箱が、ついでのオマケで送られていた。一人だけ何も無いのは寂しいもんな、との気遣いだ。

 ジルミアたち3人が箱を開けると、中に入っていたのはホワイト・ワームの胃袋を加工して作られた袋。

 以後、『暁に吹く風』は各自1つずつ亜空間荷袋を持つこととなり、探索効率が格段に上がったと言われる。






亜空間サブスペース荷袋バッグ

 ホワイト・ワームの胃袋を材料に使うことで、亜空間の魔法で繋がる空間の座標を固定している。

 他にも経年劣化をなるべく防止する高度な技術が使われており、起動時に消費する魔石を入れておく部分にも様々な工夫がされている。

 原価の9割以上が、魔法付与に必要な空間魔法師の人件費と言われ、後継者探しが血眼になって行われている。

 モズズ師曰く「後継者? 興味無いな。袋の作成は、金が足りん時に仕方なく行っていただけだ。1つ付与する度、大金貨2枚の駄賃は破格だったが、退屈【記録はここで途切れている...】


高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力400 魔力量17,600

治癒魔法3(1Up!)、付与魔法2(1Up!)

魔法拡大3(1Up!)、魔法並列3(1Up!)


所持現金:6億2,691万円相当



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