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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第一章:始まり
13/114

013 ミドリ先生の個人授業


【レッスン1】


「空間魔法の習得の初歩は、正確な空間の把握が必須である」


 ミドリ先生はヒョロヒョロで博識だけど、教えるのがやや下手だ。


「分かりませーん」

「さっき買って来た豆があるだろう。あれを出すのだ」

「ウェーイ」


 何でも良いからと、豆を一袋買って来させられたのだが、何に使うのやら。


「まず、豆を一掴み取り出す」

「ほい」

「次に、魔力を広げて、握った豆の数を把握する。一瞬でじゃぞ?」

「ギブ」

「そして答え合わせをする。それの繰り返しじゃ……って諦めるな! 早過ぎだろ!?」

「仕方ないだろ。オレには向いてない」

「瞬間移動、したくは無いのか?」

「凄く……したいです……」

「なら、やれ」

「えー? でも、何で空間の把握が必要になるのか理解出来ませーん」

「おいおい、そこからか。……例えば、ミツルが100メートル先に瞬間移動するとしよう。その場合、正確な空間の把握が出来てないと、事故の可能性が高くなる」

「事故? まあ普通に有り得るんじゃないか? それは」

「空間魔法の場合は致命的なんじゃ。移動先が3%ズレて、地下3メートルに移動したとすると、どうなる?」

「……石の中に居る」

「まあ、正解じゃ。人間では生きておられんだろ? それを限りなく無くすのが肝要なのじゃ」

「分かりましたー。でも、魔力の広げ方って?」

「そこもか! まず、ミツルは既に、魔力はある程度扱えておる。身体の中にあるそのウニョウニョを、ズズッと伸ばして、ガッと把握するんじゃ」

「なるほど!」

「……今ので理解出来るのか」


 そう言えば、友達から「お前は時々別の言語を使っているように感じる」とか言われてたな。失礼な。感覚派なんだよ! 天才なんだよ!




【レッスン2】


「手の平の空間は、順調に把握出来ているようだな。次はコップを使う。コップで豆を掬い、その数を把握し、答え合わせをするのじゃ」

「答え合わせの際、数えるのが面倒です」

「ええい、ワシが空間把握で数えてやる!」




【レッスン3】


「空間魔法の初歩は習得出来たみたいだけど、次はどうすれば?」

「そうさの……<臨界突破>、あれを空間魔法に使って見るが良い」

「ほーい。……(空間魔法の<臨界突破>!)」


 発動し、魔力量を消費する。一分後、<臨界突破>の効果が終了した。


「さて。一時的にでも練度が上がった状態を体感してる訳だ。それに擦り合わせるよう、感覚を、空間の把握を近づけられれば、上達は早くなる。まあ、<臨界突破>の副次効果じゃな。迷宮経由で閲覧した説明書に載っておった」

「え、今の効果時間中、ボーっとしてたからどんなだったか分からなかったよ?」

「なっ!? お馬鹿! もう一度使ってみろ! 今度はちゃんと、魔力を広げて空間把握の感覚を覚えておくのじゃぞ!」




【レッスン4】


「そろそろ次のステージだな。では、目隠しをして貰う」

「ほいさ」

「そのまま周りの空間を把握しながら、歩く。それだけじゃ」

「む、難しい……」

「今までのことが出来ていれば、己の身体から10cmほど離れた空間までは把握出来るはずじゃ。それを1メートルにするだけ」

「途端に難易度が高くなってる!?」

「これが出来れば、1メートル離れた女性のスリーサイズも把握出来るようになるぞ」

「絶対習得して見せます!」


 エロの心は世界すら動かす。不純な動機でも、極めて有効だった。






【レクチャーI】


「ミドリ先生ー。時間魔法の初歩はどうすれば?」


 時間停止とか憧れます。


「そうさの。本当は操作された時間の流れに触れて、体感するのが一番なんじゃが……」

「あ、あれか。時間を止める能力を持つ相手と戦って、停止した世界を体感することで自らも、って奴ですね!」

「なんじゃそれは。創作物の御話の中のことか?」

「イエス、サー!」

「まあ、間違ってはいないんじゃが、停止した世界を用意することがほぼ無理じゃからのぉ。一万分の一に減速した世界とかならまだしも」

「じゃあ、結局どうすれば……?」

「原始的だが、振り子でも用意して、それをしばらく見つめて貰う、とか」

「そんなので、本当に?」

「素質があれば目覚める、とは聞いている。あとは、自分の心臓の鼓動を聞いて、そのリズムを早めたり遅くしたり、意図的に操作しようと努力することでも発現するとか」

「何か……地味ッスね」

「派手な方が良いか? 臨死体験とか手っ取り早いぞ。高所から落下して地面にぶつかる直前とか、お手軽らしい」

「それ、死にません!?」

「大丈夫、大丈夫。痛みは1%、なんじゃろ?」

「いや、死にますって!」


 結局、時間についての話を延々とミドリ先生から6時間くらい聞かされていたら、苦痛の余り体感時間が伸びていたようで、いつの間にか時間魔法のきざはしのぼってました。

 最後の方に言われた、水を定期的に身体に垂らして体感時間を伸ばすって方法を試す必要が無くなり、心底ホッとしてる。




【レクチャーII】


「教えて! ミドリ先生~」


 久しぶりに、時間魔法について習うことにした。前回から大分経っている。


「なんじゃ?」

「時間魔法の更なる習得を!」

「……あー、時間魔法は元の才能が結構大きく影響して来るからのぉ。才能が無い、」

「うぐっ」

「ダメダメな、」

「しょぼん」

「努力もしない奴が、」

「ぐへぇ」

「順調に修得出来るほど、甘いモノでは無い!」

「……そこを、何とか」

「とりあえずは、空間魔法と同じように、<臨界突破>を使って練度が上がった状態を体験してみるが良い。その際、前後で同じ種類の魔法を使うと更に良いぞ」

「今使える時間魔法って……自己加速? 倍率低いけど」

「うむ。まずはそのまま使ってみるのじゃ」

「『急げ急げ、時間を重ねよ。accelerate【加速】』」


 この詠唱文言って、中二病っぽくて好きになれないんだよね。だから人前では無詠唱を多用するんだけど。


「……やっぱり、あんまり実感出来ません」

「仕方あるまい。今の熟練度では、60秒が1割減る程度じゃし」


 続いて、<臨界突破>を使うことにする。


(時間魔法の<臨界突破>!)


 先ほどと同じように、【加速】の魔法を使う。練度が低い時より魔法に込められる魔力量が増えたので、遠慮なく最大出力で発動した。この程度の初級魔法なら、【石槍】1本の魔法の半分程度の消費だ。

 途端に、世界がゆっくりとしたものになる。あと、少し暗くなった。


「どー…うー…じゃー……? すー…こー…しー…わー………せー…かー…いー…がー…ちー…がー………っ…てー…かー…んー…じー…らー…れー…たー…かー…のぉ?」


 最後で効果時間が切れたようだ。15秒くらいだろうか?


「その表情を見る限り、大分違いを感じられたようじゃな。4倍ほどか?」

「……うん。結構凄いね、コレ」


 世界が違うと言うのを、文字通り体験した。


「だがまあ、時間魔法は戦闘に多用したり頼りっきりにはならない方が良いぞ。強者ほど対策はしておるし、仕掛けた方の労力の万分の一程度の力で抵抗・無効化されるからの。ちからの無駄じゃ」


 うへぇ。割とシビアな世界だった。




【レクチャーIII】


「うーん、うーん」


 ミツルは困っていた。そして唸っていた。


「どうした?」

「あ、ミドリ。……いえ、ミドリ先生」


 態度をいきなり変えるミツルだが、そんな風に媚びても大して反応が変わらないのがミドリ先生だ。


「何の悩みじゃ。それとも便秘か?」

「ちげーよ! ……時間魔法なんだが、もうちょっとで何か掴めそうなんだけど、その『あと少し』が埋まらなくて」

「ふむ。ミツルよ、お主は時間について、どう考えている?」

「時間? そうだなぁ。どんなモノにも等しく流れる、抗い難いもの、かな」

「30点」

「えぇー」

「物質には『場』がある。基点を中心とした、特定の距離の範囲内じゃな。間合いとか、パーソナル・スペースを想起すれば近い。その『場』の中の時間の流れは、実はそれぞれ異なっている。とは言え、個人では大きな差異を保持するのが難しい。太陽とか惑星、このような大地は極めて大きな『場』を持つ。個人の小さな『場』は、大きな『場』に引っ張られてしまう。それらを認識し、自分や特定の空間の時間の流れを操作するのが、時間魔法の基本にして極意じゃ」

「うーん?」

「自分の『場』と、それ以外は、別の『場』と思え。ズレた世界、違う世界、隔絶した世界、皮一枚隔てて別世界だと思うんじゃ」

「ふーむー。違う世界か……。男の子には自分だけの世界があるって言うもんな。そんな感じか!」

「いや……良く分からんが……イメージ出来るなら、それで良い」


 とある三代目の大泥棒を髣髴ほうふつとさせる鼻歌を歌いながら、ミツルは勝手に納得して時間魔法の鍛錬に励んだ。






 魔道具技師、モルティナ・ペンペナルドの借金は、無事清算された。

 ミツルは気を使って、注文した製品の受け取りを1日(あと)にずらし、手土産に美味しいテイクアウトの食事を持って行き、わざわざ様子を窺おうとしていた。

 しかし、大金を用意出来ていたモルティナに、「ヤバいことしたんじゃないだろうな?」「どうやってこんな大金手に入れたんだよ!?」と借金取りが気後れし、素直に借用書を引き渡したことで何もトラブルは起きなかった。案ずるより産むがやすしである。




「はぐはぐはぐん」

「口に物を入れて喋るなよ……」


 借金の問題が終わり、モルティナさんと、その隣の部屋の女性とオレの3人で、バーガーもどきを喰らっていた。


「しかし、本当に物が多いな。これほとんど魔道具なのか?」

「ごくん。……ええ、マイナーなものばかりだけど、どれも一癖あるものよ」


 マイナーなのかよ。売れないんじゃないか?


「じゃ、あたしはこの辺で。あとはお若い二人に任せるわ。ウフフフフ」


 お隣さんは、オレが持って来たのをちゃっかり食べてから帰って行ったけど、見越して買って来てあったから不足は無い。


「魔道具ってのは、高く売れるのもあるんだろ。そう言うの作れば良いんじゃないか?」

「値段が高いの何て、大抵加護持ちが関わって作るから、私のところではとてもとても」

「ん? 何で加護持ちが関わって?」

「そりゃあ、熟練した技能を持ってるなんてほぼ加護持ちですし。値段が高いのは、熟練の技能を前提に魔法付与した道具がほとんどですからね」


 ミドリの話じゃ、加護は技能の練度を上げるのに有利ではあるが、持ってなくても達人くらいには成れるって。加護絶対視の弊害ってのは、こう言うところにもあるのか。


「ちなみに、魔法付与ってどうやるんだ?」

「見ます? 簡単なモノなら、すぐ出来ますよ。火魔法使えたりは?」

「ああ、行ける」

「じゃあ、こう言うので。薪に、こんな風に模様を書いて、こうやって起動魔法陣と、本当は終了魔法陣を書くけどこっちは省略。付与魔法を使ってと。『次に使う魔法を保持せよ。keep【保持】』 んで、私の手に手を乗せて、火魔法を使って下さい。これは付与魔法を使った本人が使っても同じことになります」

「ん? オレが使うのか。『火種よおこれ。ignite【着火】』」

「はい、お疲れ様。これで超簡単な魔道具の出来上がりです!」

「なん……だと!?」


 見るからに、ただの薪……木の棒なんだが。


「ほら、ここを触って魔法陣を起動させると……」


 ボウッと、着火の魔法が発動し、薪に火が点……かない。いや、種火は出たんだが、その程度で太めの薪一本が継続して燃え上がることにはならない。


「ありゃ、これは失敗ですね。【着火】じゃなくて、【火炎】の魔法じゃないとダメでした。魔法指定を誤りましたか、失敗失敗」


 モルティナさんの反省を他所に、オレは魔道具の簡単な作り方に呆然としていた。


「今のは魔法を直接付与しましたけど、複雑な魔法陣を描いたり彫ったりするのもあるんですよ。その場合は魔法付与をしないので、強力な魔法効果を持つ魔道具にはなりません。魔法陣は、複数の工程をこなせるのが特徴ですね」


 魔法付与するタイプと、複雑な魔法陣を使うタイプの二通りあるってことか。


「魔石を使うのが基本ですけど、今みたいに魔法陣を起動させた人の魔力量を使うことも出来ます。ただ、起動した人の魔力量が発動ギリギリだったり足りなかったりすると危険なことになりますから、販売する魔道具は基本的に魔石を使います。例外は、厳重に管理出来る軍事用でしょう」


 へー、魔石を使うのは安全装置的な意味もあったのか。


「……少し、オレに付与魔法を教えてくれないか?」

「え? 別に良いですよ」

「ついでに、亜空間サブスペース荷袋バッグの作り方を、知ってる範囲で教えてくれ」

「ふぇ!? そ、そんなの作れませんよぉ。付与する直前の荷袋を作ること自体は難しくないですし、ホワイト・ワームの胃袋みたいなちょっと入手の難しい材料が揃えられれば幾らでも出来ますけど、空間魔法の【亜空間】を付与するのが一番難しいんですから! まず、空間魔法を使える人が少ないです。更に、【亜空間】の魔法を使えるようになるまで、厳しい修行と研鑽の日々が必要だと聞きます」

「ふーん。ま、その付与する直前の状態の荷袋を、10個くらい用意しておいてよ。幾らくらい掛かる?」

「え、えっと、一つあたり小金貨3枚くらいでしょうか」

「じゃ、ほいっと」


 小金貨50枚を渡す。あ、固まった。

 その後無茶苦茶(なだ)すかして、付与魔法の初歩を教えてもらった。






高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力360 魔力量14,256

空間魔法3(2Up!)、時間魔法2(1Up!)、付与魔法1(New!)


所持現金:1,521万円相当


 異世界では数え年を採用、1月1日に年齢加算するようにしました。



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