012 魅惑の技師
変なおっさんを宿から撃退した後、迷宮は少しの間お休みし、鍛錬に時間を費やす方針とした。
さて、魔力を上げると魔力量もどんどん上がるのだが、最近になって困ったことが発生していた。今までは一晩、大体8時間~10時間の休息で魔力量が全快していたのだが、これが回復し切らないのだ。
「当然だ。自然界の魔素にも限りがある。偏在している所で瞑想でもしない限り、この世界での半日の回復量としては、現在のミツルの魔力量くらいが限界となる」
こんなに魔力量が増えないと気付かないとは。普通知らないよね? そんなこと。
「偏在してるところって?」
「俗にパワースポットとか呼ばれている辺りが多いな。龍脈とか地脈とか。風水関連も掠っとる」
「ふーん。人の多い所とは逆だよね。じゃあ回復量は増やせないか……」
「諦めるな! 魔道具で魔素を引き寄せ、寝室に魔素溜まりを人工的に作り出せば、10倍から100倍くらいまでは回復するようになるぞ」
「え、ええぇぇ……。魔道具、作るの? 作れるの?」
「諦めるなよ……」
小声になって、丸まってしまった。どうやら作ってはくれないらしい。今日含めて暫く鍛錬を控えめにして、その辺りを模索してみても良いかな。
そんな訳で、魔道具屋にやって来ました。場所? 知らないからそこら辺の店で聞いてたら、3つ目で教えて貰えた。情報料代わりに買った串焼き、筋が多いけど味は良かった。柑橘類のフレッシュジュースは即行飲み干し、起き上がり小法師に似たデブ鳥デザインの小物はアイテムボックスに仕舞った。
「すいませーん」
「……あいよー」
やや年配の女性が出て来る。程よい皺くちゃ具合です。
「何が欲しいんだい? 亜空間荷袋なら入荷未定だよ」
「いや、それは必要無いです。それに最低でも小金貨500枚でしょ? そこまで手持ちないし」
片眉を上げて、こちらを見定めようと目を細めて来る。
「変な若造だね。亜空間荷袋の相場を大体でも知ってるのに、それを欲しがらないとは。冒険者なら、誰だって喉から手が出るほど欲しがるものなのにさ」
うーん、面倒だしぶっちゃけておこうか。
「『これ』があるんで、ね」
『アイテムボックス』を披露する。
「おおおお!!? これが噂の、『アイテムボックス』!! ほぉ~……譲ってくれ!」
何か今、殺してでも奪い取る系の選択肢が、老婦人に出た気がする。
「譲れる代物ではありませんので」
「なんじゃ、やはり無理か。だが嘘と言う可能性も……」
「嘘じゃないですからねっ! 加護だって殺しても奪えないでしょ!?」
「確かにのぉ。……それで、『アイテムボックス』の天恵を持ってるような羨ま怪しからん奴が、この店に何の用じゃ?」
本当に諦めているのか怪しい所だが、用事は済ませたい。
「その、ですね。あるか分かりませんが……自然界の魔素を引き付けるような、そんな魔道具はありませんか?」
「なんじゃそりゃ。訳の分からん代物じゃの」
それでも、何かを考えるか思い出すかのように、思考する老婦人。2分ほど経って、瞠目しつつ返答して来た。
「思い出した! 以前、モルティナの嬢ちゃんが、そんな機能を持ったインテリアの魔道具を持ち込んだことがあった。ありゃぁ、全然売れなかったからねぇ。3年ほど経っても売れなかったから返品したんじゃが、当人も作ったこと忘れておったな。フェッフェッフェ」
「へぇ~。それ、今でも手に入りますか?」
「言ったじゃろ。返品済みじゃ。欲しけりゃモルティナの嬢ちゃんに相談するんじゃな」
そう言って、その魔道具技師の住んでいる場所への地図をメモってくれた。ピラピラと手元で揺らす。
「ほれほれ。これが欲しければ……なんぞ商品を買って行かんかぃ」
うーむ。情報料としては仕方ないなぁ。でも、適当に要らない魔道具なんて買っても、なあ。
少し店内をうろつくことにする。灯りの魔道具は、需要も多いのか種類も品数も格段に多い。次いで、水を生成する系。風を起こすのも、年がら年中暑い中、涼を取るのに便利だからか多かった。
「ふーん、水を出す魔道具は、値段層が二つに分かれてるのか。でも高い方がほとんどだな」
「知らんのか? 水を『恒久的に』出す魔法の場合、魔力量や魔道具の魔石の消耗が激しいのじゃ。水を『一時的に』魔法で作り出す場合、消費は少ないが、あっという間に消えてしまう。攻撃として使う場合や、手洗い程度じゃな、用途は」
へー、そんな違いがあったんだ。基本的に空気中から水分を絞り出すイメージで使ってたから、一時的に作り出す何て使い方、してなかったな。
あっ、これなんてどうだろう?
「この魔道具は一体……?」
「ああ、それは……なんじゃったかな。大きな音を出す、だったか?」
何だろ。痴漢除け、とか? うーむ、微妙。
「こっちの棒みたいのは……?」
「それは人気商品じゃぞ! 起動させると、何と! 光って音が出る!」
「ほほぅ……それで?」
「……それだけじゃ。何故か男どもが、子どもも大人も買って行きよる」
「起動させてみても?」
「うむ」
試してみると、まるでライ○セーバー! かなりライト○ーバーだよこれ!!
売れるのも納得だ。男の浪漫な心にクリティカルヒットだ。
「……これを」
「……お前さんもそれを買うのか」
「……二本で」
「……一つ小銀貨1枚じゃ」
お求め易い良心的な価格でした。ついでにメモも貰った。
「それ、本体は安めじゃが、交換用の魔石が結構喰うからの。お陰で魔石がバカ売れじゃ。気軽に魔石を買えないガキどもが、泣いて煩いくらいじゃわい」
うわー、悪徳商法っぽい。でもオレなら魔石は手軽に手に入るしね。
メモ通りの場所へと辿り着いたが、魔道具技師のモルティナさんは留守だった。
「うーん、留守かぁ。残念だなぁ」
「あら、モルティナちゃんに御用事? またお金でも取り立てに来たの?」
隣の部屋に住んでいるらしい、娼婦らしき煽情的な薄着の女性が、扉の前で佇むオレに声を掛けて来た。
「いや、魔道具屋の店主に、オレの求めている魔道具をモルティナさんが作ったことあるらしいと聞いてね。まだあるなら購入したくて。既に無くても、作ったことあるなら作成を依頼しようかなと」
「あら? あらあらあらあら? 借金取りじゃないのね? モルちゃーーーん! 御客さんよーーーッ!」
ファッ!?
トントンドンドンガンガンガツンガツンと扉を叩いて、「借金取りじゃないみたいだから出て来なさーい」と声を掛けていた。
暫くして、ゆっくりと扉が開く。
「ど、どなた様で?」
泣きボクロが魅力的な、ちょっとボインな女性が恐る恐る出て来た。
部屋の中は、様々な魔道具で一杯だった。
モルティナさんの隣に住んでいるらしい女性は、御茶の道具を取って来ると言って出て行って、すぐ戻って来た。今は台所でお湯を沸かしている。
「初めまして。冒険者のミツル・コウサカと申します」
「どうも、魔道具技師のモルティナ・ペンペナルドと言います。宜しくお願いします」
そう言って深々と御辞儀を……ってか土下座をしてきた。
「ちょ、ちょっと! なんで土下座してるの!?」
「え……あ、何か癖みたいになっちゃって。御免なさい」
何度も頭を下げて来るが、例によって例の如く薄着の女性の為、谷間が出来て……視線を逸らそうとしたものの、無理でした。ガン見ですよ、ガン見。これは不可抗力です。訴えられても満足です。
隣住まいの女性が、淹れたお茶を持って来てくれた。その際、モルティナさんのお腹が、ぐぅと音を出す。
「御免なさい。しばらくまともに食べてなくて。御免なさい」
「あ、ああ。全然構わないから。気にしないし。それより、迷宮で食べるような保存食なら少しあるけど、食べる?」
ブンブンと、音がしそうなくらい首を縦に振ってました。
「え、でも荷物は特に……」
隣の女性の疑問の声に、『アイテムボックス』を発動する。とりあえず、残ってたパンもどきと干し肉、チーズとナッツ類とドライフルーツは全部出しちゃおうか。傷んでも勿体無いだけだし。
前回迷宮を潜った際、十日分ほど余裕を見て食料を持っていた。予定通りだったので、丸々十日分ほどの保存食が出て来る。
女性二人は、アイテムボックスにも食料にも吃驚していた。
「どうぞ。余りものなので気にせずに。どうせ捨てるものなので」
オレのその言葉に、モルティナさんは早速パンを頬張り始めた。隣の女性が、パンに切り込みを入れて肉とチーズなどを挟んでから、モルティナさんに手渡ししていた。
結局、1/3ほどがモルティナさんの腹の中に収まった。どんだけ空腹だったんだ。
付き合いでオレと隣の女性も少し口にしたが、それほど美味い物でも無いしな。
「さて。用件だが……」
「ハイ! 貴方に付いて行きます!」
うん、暴走は辞めよう?
「ある魔道具が欲しいんだ。自然界の魔素を引き付ける機能を持つ奴をね。まだあるかな? 無いなら作れないかな?」
「あ……ああ、アレですね! 人工的にパワースポットを作り出そうとする機能を内蔵した人形、ばってんちゃん。目と口がバツ印になっててキュートなデザインなんですけど、不評で……確かこの辺に。あ、ありました」
50cmほどの長さの円柱に、兎のデフォルメデザインの絵を描いた代物だった。やや邪魔な大きさだな。
「動くのか……?」
「魔石を入れて起動させれば、恐らくは。ただ、何の効果も無いですよ? 魔素なんて普通に漂ってる分だけでも困らないですし」
「とにかく、動かしてみよう」
持っていた2cmほどの魔石を、円柱の下部から入れて閉じる。起動用の魔法陣に触れて、動作させてみた。
……うーん、まあ、何か濃くなった気がする。多分大丈夫だろう。
「使ってみるが、魔石の消耗はどんなもんなんだ?」
「えっと……確か、灯りの魔道具の10倍の効率で、最小の魔石1個で10時間動きます。ただ、起動してから10分ほどしないと、想定の魔素濃度には達しません」
「それは省エネだな。魔素の濃度自体は、どれくらいになるんだ?」
「えっと、2倍ですね。効果範囲は直径五メートルほどです」
「とりあえずは十分だ。だが、もっと濃い魔素濃度にする物は作れないか?」
「もっとですか? 通常の5倍程度までなら、一日あれば。それ以上は研究も必要ですから、確約は出来ませんが……一週間あれば通常の10倍までは行けるかと」
「素晴らしい。ただ、どうして借金取りに追われてるのかは気になるな」
「……ええと。それは、その。研究に没頭すると、周りが見えなくなってしまって……。つい、食費の分も魔道具作成に注ぎ込んでしまったりなんかしちゃうんです。で、仕方なくお金を借りたら、予想以上に額が大きくなってしまって。支払いの目途が立っておらず困っていました」
うーむ。法整備がしっかりしてないと、お金の貸し借りの利子上限とか決められてないだろうからな。十一で借りたりしたら、そりゃあっという間に雪だるま式に増えるだろうなぁ。
「そりゃ大変だ。で、具体的には幾ら借りて、今幾らになってるんだ?」
「……最初は、大銀貨5枚(10万円)だったんです。でも、どんどん返す額が増えて、1年近く経った今では、聖金貨1枚(200万円)に」
「……暴利だねぇ」
「返せないなら、身体で稼いで払えって。でもそんなこと言われても、連れて行かれて今まで帰って来た人なんて……」
「次に借金取りが来るのはいつ頃なんだ?」
「ええと、7日前に来たから、今度は3日後かな」
「良し。まず、この魔道具は小金貨1枚で買いたい」
「ふぇぇぇえええええ!? だ、ダメですよ。そんな高い物じゃありません! 原価何て大銀貨1枚くらいで……」
「いや、意外と原価高いだろ。じゃなくて、原価何て安くても、欲しい人が居れば、売り値なんて幾らでも高くなるものなんだよ」
研究肌っぽいから、そこら辺が分からないのかも知れない。
「次に、明後日までに、5倍に調整した魔道具を作って欲しい。特急だから、小金貨4枚な」
「ふぇぇぇえええええ! ふぇぇぇえええええええええ!?」
「それで、今後の為に、なるべく魔素濃度が高く出来る魔道具を研究・試作をして欲しい。長期間拘束することになる訳だから、準備金も併せてとりあえず小金貨10枚だな。要求通りの物が出来たら、その都度成功報酬を出そう」
「フエッ!? フエェ……」
小金貨15枚をモルティナさんに渡すと、ショックで彼女が固まっていた。魂魄が半分抜け出ていそうだ。
「ただし! きちんと借金取りと借金の清算を終えること。これが重要だ。出来るか?」
モルティナさんはフリーズしている。返事が無い。
隣の女性を見ると、「任せなさい」と言った感じの腕捲りのジェスチャーをしていた。
その晩、買い取った魔道具をベッドの傍に設置。起動して就寝したところ、枯渇させた魔力量がきちんと最大まで回復してました。やるじゃん。
『神の迷宮』
全50層。1階-10階は一辺が20km(1層で山手線の内側面積の約6倍、10層合わせて東京都の約2倍)となっており、多数の冒険者を受け入れられる広大さを持つ。
11階-20階は一辺が15km、21階-30階は10km、31階-40階は5km、41階-50階は2.5km(1層で新宿区の1/3ほど)となる。
地上からの入口は20あり(管理者の設定により変更可能)、下層への階段はそれよりも徐々に少なくなっていく。24-25階で4個。
魔力量の回復:休息時、1時間に最大値の1割前後が回復。(個人差があります) ただし都市部では、1,000~1,200/hの回復が上限。森に囲まれたような村ではこの2倍ほど。滅多に人の寄らない神域などと呼ばれる場所では、最大10倍ほどにまで回復上限が上がる。なお、通常活動時の魔力量回復は、休息時の半分(5%/h)以下となる。分布が多いのは1/5~1/10(2%~1%/h)。極度の緊張下では回復しないことも珍しくない。
高坂ミツル 年齢:25
精神11 魔力354 魔力量13,784
所持現金:2,522万円相当




