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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第一章:始まり
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011 迷宮探索と不気味なおっさん


 『猫の陽だまり』亭へ泊まった日の翌日、12月25日。昼間は服や迷宮での物資を購入し、夜は男の生理現象を解消しに行った。

 満足そうな表情で宿へ朝帰りしたミツルを、宿屋の娘リナリアは目撃した。そしてルノーアへ報告つげぐちしたことをここに記しておく。




 ミツルは、宿の自室で悩んでいた。


「軍資金が乏しくなって来た。鍛錬は中途半端だ。どうしよう? ミドリ」


 腰に付けていたベルトのような、金属で出来た閉じ切っていない輪っかみたいな銀色の物体。それを腰から外し、ベッドに乗せて、それに向かって話し掛けていた。


「まだ鍛錬は始めたばかりだしのぉ。金を稼ぐにも強い方が効率が良い。ある程度鍛錬してから、がワシのお勧めじゃ」

「ふぅん。分かった」


 ミドリと呼ばれた物体は、地球で言う東洋の龍のようなデザインをしていた。髭は無く、宝玉も持っておらず、小振りな翼がついていたが。それが、うにょんと動いて、金属にあるまじき柔らかい動きをする。


「……何度見ても不思議だ。何で鉄で出来たその依り代が、ふにょふにょ動けるんだ?」

「ワシが宿った以上、ワシの思う通りに動けないと不自由じゃろうが」

「求めていた答えと違う」


 備え付けられていた水差しから水を一杯飲み、一息吐いた。


「強くなる最適解が欲しい。土・水・火の魔法については、<臨界突破>すれば達人並みになれる。無詠唱は最大まで上げたいが、まだ時間を要する。魔法の並列・拡大・遠隔操作についても同様だ。魔力の鍛錬は出来る限り続けるとして、即戦力になる技能の熟練度を優先的に上げたい」

「まず、この近辺で手っ取り早く金を稼ぐには、『神の迷宮』が一番と言う前提は良いな? 以前のパーティは抜けたのだから、一人で戦い抜く力が必要となる」

「ああ。仲間はいずれ欲しいが、今は秘密を共有するのにもリスクが高過ぎる。もっと自分の力を高めるべきだ」


 暫し考え込むミドリ。


「魔法の種類を増やすか……? 治癒魔法、重力魔法、空間魔法、時間魔法。空間と時間は時空魔法でも扱えるが、分けた方が恐らく便利に使えるはずだ。普通は分けて習得するのは非効率だが、チートの<臨界突破>があるしのぉ」

「へえ、どれも気になるな。空間魔法は移動に使えそうだし、時間魔法は色々便利そうだ」

「時間を操るにしても、完全に止めたりするのはほぼ不可能じゃぞ」

「え、そうなの? タイムストップシリーズとか好きなのに……」

「邪念が漏れておるぞ?」

「ち、違っ! これは男の悲しいサガで……」

「まあ、時間魔法への抵抗力が無い相手には、有効であるのは確かだな。こちらだけ10倍で動けたら、それだけで楽勝だろう?」

「雑魚には無双出来そうだな。他には無いのか? 一人で戦うのに有利な技能は」

「うーむ、肉体を強化する、強化魔法とかか? 元の肉体性能を乗算でアップさせる」

「良いね、それ。候補、候補。怪我が怖いから、治癒魔法もある程度習得しておかないと」


 使い古しの羊皮紙に、棒状の木炭でメモを書き付けて行く。

 強化魔法を最優先とし、治癒魔法を補助・優先、空間魔法と時間魔法をその下に位置付ける。


「十日くらい鍛錬に当てよう。新しい魔法、実用レベルにまで習得出来れば良いんだけど」




 結果から言うと、杞憂だった。強化魔法は魔力量の消耗が大きく、本来は瞬間的な使い方がほとんどなのだが、ある程度の強化具合で1時間・2時間と持続時間を長くすると、途端に数千以上の魔力量が必要になるのだ。魔力量を確保中の現時点では、低倍率かつ短めの時間で使うしか無い。それでも、現在の総魔力量の半分を消費すれば、4時間ほど一つの部位を320%アップ、つまり4.2倍の力に強化出来る。

 治癒魔法は、痛覚耐性がある為、自分の身体を自傷して回復させると言う、眉をひそめるような行為で練度を上げることが出来た。<臨界突破>を使用すれば、骨折を少しの時間で治せるほどである。当然ながら、それほどの治癒魔法の使い手は、小さな国だと一人居るかどうか。バレたら全力で確保に動かれるだろう。

 空間魔法と時間魔法は、取っ掛かりを得たところでタイムアップになった。ミドリの「時間と空間は互いに影響し合い、片方のみを操作すると言うのは本来出来ない。しかし特定の条件下では片方の影響を限りなく小さいものとして扱うことが出来、それらを以って時間魔法と空間魔法は成立している」云々の講釈を、「分からん。日本語でOK」と聞き流したのが悪かったかも知れない。

 鍛錬の最終日は半ば予備日であり、迷宮に持ち込む食料品などを確保して、余った時間を鍛錬に当てたのだった。




 1月7日、宿をチェックアウトして迷宮へ向かおうとするミツルに、面会の客が来ていた。


「一体誰だ? こんな朝早く」

「どうもお偉いさんみたいで、無下に追い返すことも出来ないんですよ」


 宿屋の看板娘・リナリアのパパンが申し訳なさそうに伝えて来る。つまりは宿のオーナーだ。

 フロント近くに拵えられている待合などに使う場所で、その人は座って待っていた。それをパパンとミツルがこっそり覗き見る。


「お知り合いですか?」

「いや、全然。誰だアレ?」

「肩書は、ミストレア商会の名誉会長だそうですが……。あっ、確か現在の冒険者ギルドのマスターだった気がします」

「へぇ、ってやっぱ知らないや。会ったことあるのはサブマスターのはずだし」

「実務はほとんどサブマスターに投げて、大したことはしてないことで有名な人ですよ」

「碌なもんじゃないな……。既に出立していて留守ってことにして貰えるかな?」

「まあ、宿泊は本日まででしたし、部屋に鍵を置いて出て行ったことにすれば、問題はないですけど」


 くして、放置プレイ決定である。

 ミツルは裏口から人目をはばかるように出て行き、迷宮へと向かった。




「『魔力を以って肉体を強化せよ。PhysicalEnchantment【肉体強化】』」


 低階層は魔物も弱い為、駆け抜けることにした。現在の総魔力量の半分近くを消費して、両脚に強化魔法を掛ける。これで2時間、脚力4.2倍である。カモシカ!

 ミドリの便利なナビゲーターを頼りに、走る、走る。

 主観では歩いているのと大差ないのだが、仮に他の冒険者が見たら、全速力で走っているのと見た目変わらなかったろう。いや跳躍力も増している分、もっと凄い。風が通り抜けて行っただけと感じるかも知れない。

 結局、初日だけで10階を抜け、11階への階段の踊り場で休息を取るところまで進めたのだった。


 ミツルは14日掛けて1月20日に31階層まで辿り着き、そこで1日魔物を狩った後、引き返した。狩るペースが早過ぎて、留まって狩ると却って魔物を狩れる数が少なくなってしまうからである。『神の迷宮』の特性上、魔物の補充はかなり早いが、それでもゲームみたいな無限湧きは無い。

 念の為、30-31Fの階段の踊り場に、目印となるテントを設置しておいたが、恐らく無駄になると覚悟していた。

 ミドリ曰く、


「迷宮のような場所は、転移の空間魔法を弾くようにしている可能性が高い。目視で視認出来る場所ならばともかく、マーカーだけでは十中八九無理じゃろう」


 とのことだった。




 2月4日に地上へ戻って来た時には、前回の時よりも大量の魔石をゲットしていた。ワクワクしながら冒険者ギルドへ向かうが、同時に出立前のギルドマスターの件を思い出し、ゲンナリとする。

 警戒しながら隠れるようにして換金窓口へと並ぶが、並んだ時点で隠れてる意味が全く無くなっていることに、後から気付いた。


「……御用件は、魔石の換金で宜しいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 ギルドカードと袋に入った魔石を、受け皿にドンドンドンと乗せた。係員の口元が引き攣る。


「……少々、お待ちを」

「ギルドマスターに伝えるのか?」


 係員が困惑した表情をする。一瞬の間の後、ポンと得心とくしんが行った風体で手の平に握り拳を軽く乗せた。


「ご安心下さい。ギルドマスターは今日『も』不在です。伝えるのはサブマスターにですよ。厄介事にはなりません」


 その言葉を聞いて、安心する。何だかんだでサブマスターは常識的な対応をしてくれるのだ。


 暫し魔石の鑑定結果待ちとなり、併設の喫茶コーナーで馬乳酒とやらを頼む。あまりアルコール分は感じず、酸っぱい感じが美味しくなかった。




「こちらが、今回の魔石を換金した金額になります。聖金貨をお望みでしたら、お申し付け下さい」


 あー、聖金貨って、大金貨のことで、小金貨10枚分だっけか? そう思い出しながら硬貨の入った袋を受け取る。

 近くの人たちは、聖金貨と聞いてギョッとした表情をしていた。まあ、普通は200万円相当の金貨なんぞ、使わんよな。


「また、今回の取引で、ミツル様はランクBとなりました。新しいギルドカードはこちらになります。ランクBはどの国でも準男爵・騎士爵相当の扱いとなりますので、御留意下さい。注意事項などの説明を御希望でしたら、無料で手配させていただきます。お気軽にお申し付け下さい」


 周りが先ほどよりも吃驚していた。そのうちの一人が、何故か拍手を始めた。釣られて他の人も、周りの全ての人が拍手をしだした。


「おめでとう!」

「すげーな」

「こりゃ目出度い! 祝いの酒を飲もうぜ!」


 五月蠅いくらいだったが、悪い気はしなかった。ふむ、大体200人くらいか。喫茶コーナーでワイン一杯の値段を確認すると、ウェイトレスに大銀貨3枚を渡す。


「これで、この場に居る人に一杯ずつ、ワインを飲ませてやってくれ」

「マジで!?」


 割れるような歓声に、そこまでのことはしてないだろと呆れながらも、少し照れ臭く感じた。


「祝ってくれてありがとな。オレは疲れてるから宿へ行くけど、ワイン一杯分だけ楽しんでくれ」


 ミツルさんは、クールに去るぜ。

 あ、騒ぎに釣られて、外から新しく入って来た奴が「オレにも飲ませろ」とか言ってる。

 しゃーねーなー。困っているウェイトレスに小金貨1枚を追加で握らせ、「これで捌いてくれ。代金分飲ませ終わったら、遠慮なく終了宣言だ」と囁く。顔を真っ赤にしてコクコクと頷いてくれた。




 翌日。『猫の陽だまり』亭へ例のおっさんがやって来た。

 ミストレア商会の名誉会長と言う肩書の、冒険者ギルドのマスターだ。普通にギルドマスターとだけ言うと門前払いされることが多いんだろうな。それだけでもう、ダメダメ臭しかしない。


「……オレは今、非常に機嫌が悪い」

「ですから、我々冒険者ギルドと専属契約をしていただいて、魔石を安定しておろしていただきたいのです。これはそちらにとっても大変利益のある取引でして……」

「うっさい。黙れ。殺すぞ」


 睨みを利かす。おっさんは一瞬怯んだが、めげずに言葉を続けた。うぜえ。


「そちらの取り分はこれだけの割合になってまして、今この場でサインしていただければ即有効となる書類となってます。ささ、どうぞ」


 書類を無詠唱の火魔法で燃やす。

 呆然としているおっさんへ、丁寧に話し掛ける。


「一つ。オレはこの街に留まり続ける気はない。

 一つ。専属契約のような縛る気満々の契約は、お断りだ。

 一つ。魔石の換金レートが、冒険者ギルドの窓口での換金よりも微妙に低いくらいだ。数字を連ねれば気付かないとでも思ったか? 頭かち割ってブッ殺すぞ。

 一つ。しつこい奴は嫌いだ。まして良い歳したおっさんなんて、手が滑って腕の一本でも斬ってしまいそうなくらいだ。


 分かったらこの宿から出て行け。そして二度とそのツラを見せるな。

 次、オレがお前の顔を見たら、両手両足の骨を折る。警告無しにだ。10秒経ったら、この瞑った眼を開ける。1……2……3……」


 顔面を蒼白にして、慌てておっさんが立ち上がる。薄目で見てるのは内緒だ。


「4……5……6……」

「冒険者ギルドを敵に回したら、お前なんか仕事出来なくなるんだぞ! 分かってて言ってるのか!?」

「7……8……」

「くっ、覚えていろ! 絶対に追い詰めてやる!」

「9…………10」


 数え終わる直前に、宿の扉が閉まる音がした。

 背後からパチパチパチと拍手が聞こえて来る。宿のオーナーだ。


「爽快でした。しかし、宜しいのですか?」

「構わない。昨日の換金で大分資金も手に入った。もし冒険者ギルドが取引をしないなら、魔石を取り扱う商会に直接売るだけだ」

「それはそれは……空恐ろしい」


 冒険者ギルドが本来享受するマージンを、すっ飛ばすことになるからな。サブマスターの泣きそうな顔が目に浮かぶようだ。






高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力353 魔力量13,706

<臨界突破> 『アイテムボックス』

痛覚耐性5、土魔法3、水魔法3、火魔法3

強化魔法3(New!)、治癒魔法2(New!)、空間魔法1(New!)、時間魔法1(New!)

魔法拡大2、魔法並列2、魔法遠隔2

無詠唱3、詠唱短縮2など


所持現金:2,898万円相当



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