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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第七章:北の大陸
107/114

104 リヌス領I


 ウナ国王が語った内容は次の通りだ。

 このムガ国の内陸部辺境にて、内政を任せている地方の長官に不穏な動きがあり。証拠を得る為に内偵を紛れさせ探ろうとしたが、これが不発。

 れた一部の者が強制調査を敢行しようとしたところ、相手側に予想外の戦力があって頓挫とんざ

 軍隊は基本的に国が管理していて、各地域の長官が保持している戦力は警察機構程度。その為に本来は100人も兵を動かせば強引に踏み込めるはずだったが……。

 判明していた20名ほどの警備兵以外にも、50人以上の実力者が施設内に待機しており、そのまま衝突した場合の被害が大きくなり過ぎると現場の指揮官が判断。

 今は施設を包囲したまま、指示・応援を求めて来ている。


「国王様。それでは情報が偏り過ぎてます。私から補足をさせて下さい」


 傍で控えていた副官らしき人物が、口を挟んで来た。問題無さそうなので続けさせることにする。


くだんの長官は、本職は医師です。その為か、病院を建てて難病・奇病などの患者を受け入れていました。

 政務に関しては信頼出来る者に丸投げ……もとい全権委任状態のようで、領地に関する仕事は週に数時間しかいておらず、もっぱら医療に従事していた様子です。

 発覚したのは、病気で国内・国外を問わずにその病院へ入って来る患者の数と、院内の患者数が剥離していたからでした。

 少数ながら病気が治って退院する者もいたのですが、かなりの患者の受け入れ数があるのに対し、院内で過ごす者の人数が明らかに少ない。

 問い合わせると『死亡した』との返答がありましたが、幾ら難しい病気の患者だとしても明らかに死者の増える速度が速過ぎました。

 そこで内情を探る為、患者に偽装した密偵を用意したのですが……数日後、死亡通知が届きました。

 簡単に受け入れて貰える条件として、『天涯孤独で身寄りがない』と言うのがあったのでオカシイとは感じていました。まともな追加情報を得られずに最悪の結果となったことは、本当に遺憾です。

 結局、その密偵の知り合いだった監査官が、強権を振りかざして兵士を集められるだけ集め、現地へ向かったのが事の真相です。

 兵の数は100名強、相手側の戦力は70から80名らしいです」


 ふむふむ、なるほど。

 勝手に棚から出して来たジャムを、紅茶に混ぜて飲む。甘い桃ジャムの香りが心地よい。


「相手側の強さは、どれほどなんだ?」

「情報によると、有名なランクAの『ドラゴンスレイヤー』も入っているそうです」

「ドラゴンスレイヤー?」

「ええと……この大陸の内陸にある広大な荒野には、風竜エア・ドラゴンがかなりの数生息しているのは御存知かと思います」


 うん、ゴメン。知らんがな。でも空気を読んで言わない。


「その風竜エア・ドラゴンが毎年のように数体ほど、我々魔族が住む領域へと進出して来るのです。ほとんどが軍隊で対処出来ますが、たまに腕利きの傭兵が倒し、これをたたえて『ドラゴンスレイヤー』と呼称するのです。ソロでの称号獲得は極めて稀で、大抵の場合はランクAが数人徒党を組んで倒します」

「参考までに、飛竜ワイバーンと比較してどれほどの強さかは分かるか?」

「そう、ですねぇ……。飛竜よりかは少し硬くて、とても速くて、かなり強いでしょうね」

「ふむ」


 オレが知る強さのバロメーターとしては、こんなもんだ。


 飛竜:攻撃3、防御3、速度3、魔力3

 火竜:攻撃10、防御4、速度5、魔力7

 地竜:攻撃4、防御8、速度1、魔力5


 ミドリの無駄な豆知識によると、飛竜は飛翔するのに風魔法で気流を作って補助しているらしい。逆に、風魔法を使わないとまともに飛べないとか。小さい個体なら、上昇気流を掴まえれば飛べるかも知らんとか言ってた。飛竜の癖に、貧弱だ。亜竜だしな。

 火竜のような本物のドラゴンは、自らの重さを重力魔法で軽減して飛んでいるとか。年齢を重ねるほどに魔法の扱いにも慣れ、成竜ならば実際の重さの1%程度にして飛んでいるのが実態だってミドリが言ってた。


「そもそも、風竜も飛竜も空を飛んでいる為、手を出しにくいのが厄介なんですよ。

 その分、翼を火器で潰せれば脅威度は半減するので、近年の大砲や重火器の開発で大分楽になったとは聞きますね。

 しかし軍ならともかく、傭兵などでは風竜に有効な火器は持っていないのが普通でしょう。詰まる所、それら火器が無くとも、魔法で空を飛ぶドラゴンを地に堕とし、仕留めることが出来る実力を持つと言うことになります」

「ふーん」


 オレなら簡単。

 まあ、ドラゴンスレイヤーとやらの称号持ちは、達人レベルの魔法を持つ、またはそれを使える仲間がいるってことだな。少し気を付けておこう。


「それで、オレは何をすれば良いんだ?」

「……魔王様……魔王殿には、現地へ赴いて貰い、加勢して欲しい。何、傭兵の100人程度、軽く対処出来るであろう」


 ウナ国王には、オレへの話し方をもっとフランクにするよう要請した。あっちの方が年上だから、敬語で喋られると背中がムズムズするんだよね。


「え? 病院とやらごと、プチッと潰して良いのか?」

「ダメです! それはちょっと……勘弁して下さい」


 副官の人が涙目になって、オレの提案を断って来た。

 スマン、お茶目な冗談だ。冗談に聞こえなかったぽいので、以後少し自粛するわ。


「現地の責任者と合流し、事態の収束に向けて善処してくれれば十分だ。

 【瞬間移動】の魔法とやらで、瞬時に移動出来るのであろう? あまり長引かせたくない事件であるからな」


 どうも誤解があるようなので、【瞬間移動】について解説してあげた。

 行ったことがあるような場所で無いと行けないぞ、と。

 真偽を疑うような目をしてこっちを見て来ても、どうしようもない。正確には、オレの魔力でマーキングした魔石を埋め込み、座標をなんとなく特定出来ていれば出来るのだが、残念ながらその領地とやらへは行ったことが無いし、マーキングもしてない。

 マーキングって言うと、犬みたいで何か嫌だな。


「で、では! 本日中に現地へ到着する、なんてことは出来ないのか……」

「うん? それくらいなら、空を高速で飛んで行けば可能じゃないか? 何kmくらい離れてるんだ?」

「およそ1,200kmほどでしょうか。850kmまでは魔鉄道で移動可能ですが、残りは魔車などを併用するしかありません」


 国王が意気消沈するが、【飛行】と言う別の方法があることを示唆し、副官君から欲しい情報を引き出す。


「それくらいなら十分行けるな」


 オレの飛行速度は3,600km/hくらいまで出るぞぉ!

 特別急ぐのでなければ、その半分の速度で勘弁して欲しいけどね。


「な、なんと! それならば是非、解決に向けて協力して欲しい! 身分証と現地の責任者への説明文は用意した。この通り!」


 色々話している最中に何を書いてるのかと思えば、国王直筆の身分証と説明文だったのか。


「病院を経営している長官ってのが気になるし、様子を見に行ってみるよ」

「おおぉぉぉ。……お? もしかして、儂が『現地にいるはずの魔王殿に会いに行く』と言う大義名分ならば、何とかなるか?」

「なりません! 国王がワザワザ一地方へ赴くだけで、何か問題でもあるのかと勘繰かんぐられると言うのに!」

ゆえに、問題解決の為に儂が動くのではなく、依頼を受けた魔王殿に会いに行く、と言うていならば構うまい?」

「構います!」

「それに、儂が動ければ、必然的に近衛兵も数百程度付いて来ることに。積極的に動かすのはマズイ兵力だが、ついでで動いてしまう分には大丈夫……じゃな!」

「ダメです!」

「良い。儂が許可する。責任は全て儂にあると心得よ。……して、現地まで儂等はどれくらいで着くか?」

「ダメ……なのにぃ……」


 副官さんは項垂れて、絨毯にへたり込んでしまっている。

 代わりに国王の質問に答えるのは、部屋の中で壁際にて待機していた近衛兵らしき人物の一人だ。


「はっ! のリヌス領へは、魔鉄道を併用した場合、200人以下ならば3日、500人以下までならば4日となります」

「2日以下には縮まらんか?」

「はっ! 極めて難しいです。数人での行軍であっても、疲労困憊は免れませんので、非現実的です」

「そう、か。であるなら、200人で行くか。早速用意させよ」

「はっ!!」


 多分リーダー的な立場なんだろう近衛兵の一人と、ウナ国王が話をまとめる。


「と言う訳だ。3日後……明日の朝出発だろうから今からだと4日後か。それまでに問題解決せずとも、儂が近衛兵を連れて現地へ向かうから、状況が厳しい様ならば手を出さないとの判断を下してくれて構わない」

「うーん、オレをしにして外を出歩きたい風に見えるんだが」

「カカカッ! 確かに少しはその面はあるな」


 あるのかよ。


「じゃがまあ、政務ばかりでは息が詰まる。たまにはこう言った息抜きも必要じゃて」

「部下が心労で倒れない程度には加減しろよ」


 何となく憎めない笑みを浮かべる国王に、オレは肩をすくめて頬を掻いた。






 空の旅は寒い。基本的に1,000メートルから3,000メートルほどの高度を取ることが多く、気温が低いのだ。

 1,000メートルなら肌寒い程度で済むが、3,000メートルだと富士山の8合目クラス。真夏でも涼しいを通り越して寒いと感じる。

 【風防】の魔法のお陰で、風による体感温度の低下は無いのが幸いだろう。

 副官やその部下たちから、目印となる山や街・川などを出来る限り教えて貰ったお陰で、リヌス領へは大して迷わずに到着した。

 目標の街の名は、ジャホ。なんつーか、この国の名前は短いのが多いな。

 ジャホは人口20万人を超える結構大きな街で、川を中心に栄えていた。行きたいのは、領主と言うか地方の長官がいるらしいリヌス記念病院。少し山に近い所にあり、人口密集地帯からは離れているらしい。

 どこじゃー、と上空でウロウロしながら飛んでいると、数人の武装した人間が地表にいるのが見えた。


「聞いてみるか」


 スタッ。


「おわっ!?」


 兵士らしき人物の後ろに降り立つと、ビックリして飛び退いて距離を取って来た。


「だ、だ、だ、誰だ!? 何者だ!」

「こう言う者だ」


 懐から、ウナ国王から貰った身分証明書を取り出す。

 それを手繰たくるようにして奪い取り、文字を追って行く兵士たち。


「何々? この者が、二代目魔王であり、我がムガ国の賓客ひんきゃくであることを保証する。ウナ・ギクエ国王。……って、ええぇぇぇええええっ!?」

「国王様!? なんで国王様の御墨付き!?」

「魔王? この人魔王なん?」

「つーか、魔族じゃなくね? 人間ってゆーのか? 初めて見た」


 4人の兵士たちが、オレの身分に驚いてくれたようだ。


「そんな訳で、お前たちどっち側よ?」

「え? どっちって……ああ、リヌス領側か、国側か、か。勿論ムガ国側だ」

「んだんだ」

「せやな」


 どうやら、味方側に合流出来たようだ。フフン、計画通り。長官側は病院内に籠っていそうだから、必然的に外で接触出来るのは国の兵士側だと言うのは自明の理!


「それじゃあ、監査官だかのこの場の最高責任者に取り次いで貰おうか」






 案内により会えた責任者には、国王からの手紙を渡し、そのまま街へと繰り出すことにした。

 そろそろ夕飯時だし、メシだ、メシ。腹が減ってはなんとやら。現場責任者が情報を咀嚼して、作戦を考えたりするのにも時間が必要だしね。

 街の中心部まで行くのはやや遠いか。山のふもとから街に入ってすぐの所に、美味しそうな匂いの漏れている食事処があったので、入ることにした。


「邪魔するぜぃ」


 カランッと、扉に付いている鈴が音を出し、オレの来店を知らせる。途端、幾つかの視線がこちらに向いて来た。


「飯は食えるか?」

「……ああ、勿論だ」


 店長らしきオッサンが、鍋を掻き回しながら返答して来た。うん、良い匂いがするスープだ。


「適当にオススメで出してくれ」

「……見ない顔だな」

「ひょっとして、一見さんはお断りだったりするか?」

「……いや、そんなことは無い」

「そうか、そいつは良かった。見ての通り人間だから、常連以外お断りだと入れねーんだわ。折角美味しそうな匂いがしてるのに、喰えないのは心残りが過ぎる」

「……そうかい。お前さんが例の……」


 そう呟きつつ、少し不健康そうなオッサンが緑色のシチューみたいなのを出してくれる。

 見た目はちょっと宜しくないが、スプーンで掬って嗅いでみると、やや青い匂いが混じっているものの爽やかな香りがする。

 液体の中には、大きく切られた根菜や肉の塊がたくさん入っており、ボリュームがしっかりありそうだ。

 一口含んでみると、牛乳だけではない、チーズの濃厚さが広がる。二種類、いや三種類のチーズが入っていそうだ。

 野菜には火がちゃんと通っており、噛み砕くと旨味が口の中で転がる。

 肉は一度焼いて焦げ目が付いており、しっかり閉じ込められた肉汁が抜群の満足度を生み出していた。

 店主から、小振りな三種のパンが入った籠を差し出される。

 一つは濃い色をしており、千切ると香ばしい匂いが周りに広がる。添えられたチーズを載せると絶品だった。

 一つはフルーツやナッツ類がふんだんに入っていた。ナッツ類の触感と、フルーツの様々な甘さが味の変化を生み、舌を飽きさせない。

 最後の一つはフカフカで白く、それ自体では大して味が無い。だが、シチューに浸して食べることで、シチューの美味さを十全に楽しめた。否、十一全にと言うべきだった。シチューを染み込ませたそれはモチッとした触感に変わり、違う一面を見せることで更なる可能性を感じさせてくれる。


「美味い」

「そうか」

「この料理を作ったのは誰だ?」

「……私だが」

「そうか」

「ああ」

「美味い」

「そうか」

「ありがとう」

「……ああ」


 自然と、感謝の気持ちが言葉に出ていた。

 草薙さんの、洗練された現代料理をある程度再現している物も美味しい。だが、一つの料理を丁寧に極めた感じのこの料理には、別の趣がある。

 素晴らしい。ただその言葉しか出ない。


「おかわり」


 一人前では少し足りなかったので、追加を要求する。

 オッサンが頷いて、深皿にスープをよそって配膳してくれた。

 そんな時、カランと扉の鈴の音がした。


「よう、オッサン。今日も飯食いに来たぜ」


 少し生意気そうな青年が、美人と言える女性を一人侍らせ、肩を抱きながら来店したのだった。





【瞬間移動】について


空間魔法を修得出来る者自体の割合が少ない為、【瞬間移動】を使える者も少ない

(一応、ほとんど才能が無くとも、効果的な訓練と膨大な魔力量があれば、小石を移動させるくらいのことは出来るようになる)

大国ならともかく、小国だと【瞬間移動】を使える者が居ないことも珍しくない

自らの肉体を移動させられる熟練度があれば、一度の行使で64km以上の移動が普通に出来る(勿論、魔力量は相応に必要となる)

その為、近隣国への重要な親書や指令書を短時間で運ぶ仕事に従事させられることが多い

なお、同行者も移動出来る【空間接合】は、消費と効果が見合わないのでほとんど使われることがない

魔族の場合、生来の魔力量が豊富で魔法の熟練度も人間より高い傾向にあるので、(複数回の術行使で)数千kmを移動可能な者も数名存在している

それでも一国が広いので隣国への連絡に使われるのが精々である


ウナ国王が【瞬間移動】のことを良く知らなかったのは、重要な書類を運ぶのに使われているのを把握しているだけで、術者との交流も無かった為に勘違いしていた点が大きい

一国の主が、運送事情に詳しい訳では無いのだ


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