102 税金
最近、自分の時間を取られ過ぎてる気がする。正確には、造船の為の色々な下準備に手間取り、迷走してる感じだ。
別にオレしか出来ないようなことは、オレに振って貰って構わない。今やってるような、製鉄用の耐熱巨大容器の製造なんかは、並の土魔法の使い手じゃ作るのに時間が掛かり過ぎるだろうしね。
錆の粉にしか見えない地殻から抽出した赤い酸化鉄は、しばらく前からドワーフだらけの工場の倉庫にうず高く積まれているが、そのままじゃ何の役にも立たない。炭とかで還元し、高熱で溶かして再加工しないと資源の鉄として使えないのだ。普通の鉄鉱石だと不純物除去の為に石灰石が必要になるんだが、純度100%なので不要。石灰石くらい用意しようと思えば出来るんだけど、オレが用意した酸化鉄を使う限りその手順は飛ばせる。
で、製鉄の際必要になるのが、耐熱容器だ。ぶっちゃけ鉄が熔けるほどの高温に耐える素材で作らにゃならんとか、どんな難問だよ……そう考えていた時期がオレたちにもあった。
戒たちが資料を漁って導き出した答えは、『アルミナ』を材料とすることだった。いわゆる酸化アルミニウムで、2,000℃くらいに耐えるらしい。実際、地球で大規模な製鉄業が稼働しているんだから、当然その類の道具は存在する訳だ。一般人が知らないだけだな。炭化ケイ素も候補に挙がったが、現状では作るのがやや面倒と言うことで、アルミナに軍配が上がった。
アルミナは地中にかなりの割合で含まれていて、土が褐色なのもコイツが要因の一つってことだ。結晶になると、ルビーやサファイヤのような宝石にもなる。
オレはそのアルミナを土魔法の【成分抽出】で選別・取り出し、【固体操作】で細かい粒同士を繋げて成形、最後に【構造遷移】と言う土の高等魔法で分子構造を変化させ、結晶化させる。出来上がるのは、不透明な黒褐色の大きな壺だ。釣り下げたり引っ張って傾ける用に、出っ張りや穴を作っておいて欲しいとの注文があったので、幾つもそんな突起等が付いた形になっている。大きさは大人が入ると少し頭が出る程度で、これで一度に10トン以上の鉄を精製する計画。それくらいなら、人力でも何とかなるそうな。
近代・現代の大規模製鉄からすると遊びみたいな規模だろうけど、いきなり巨大な道具を作っても絶対に使えないし、今はこんなもんだろう。勿論、現代的な製鉄作業よりかは格段に効率が落ちる筈。現代の製鉄は一度稼働し始めたら何年も連続操業するらしいけど、そんな高度なことは中世レベルの技術しかないここでは出来ない、出来る訳がない。今は少しずつでも鉄を製錬し、徐々に技術を発展させて行くしかない。
そうして作った鉄を元に、新たに道具を作って、更に出来ることを増やして行く。そんな地道なことを、やるしかない段階だ。
話が逸れた。
そんな基礎的な、地球産の技術の模倣とその発展の為の作業なら、オレも骨を折るのは吝かでもない。
しかし先日の船底塗料のようなのは微妙だ。自分で言うのも自惚れだとちょっと感じるが、オレと言うチートなことが出来る人材を使ってまでやることなのか、疑問が生まれる。長距離を【瞬間移動】出来るのはオレだけではあるんだが……。
なので、少々鬱憤が溜まり奇声を上げることになった。
「うがー!」
「どうしたんですか? 悪いモノでも食べましたか?」
突然の奇行にも、戒は優しい。若干気勢を削がれながら、オレの燻る思いの丈を吐露。
もっとスカッとしてズギューンとしたい、オレをもっと気持ち良くさせろよオラァン!的なクレーマーと化したのだった。
「気持ちはお察しします。けれど、積み重ねることも大切ですから。
ミツル一人に頼りっ切りで、その助力が途切れたら途端に何も出来なくなるなんて、情けないことにはなりたくありません。
まあ、それ故に現在、ミツルへの負担が大きくなってしまっているのですが……」
言葉を切って、戒が少し考え込む。
「ここの所、急ぐほどでも無い仕事をさせてしまってますね。早く終わらせるのが良いのは確かですが、切羽詰まってる理由もないモノばかり。
少々視野が狭窄的になっていたようです。ミツルのことを無理矢理働かせ過ぎてましたか。これはイケナイ。
……そうですね、IFEからの仕事を何日かこなして貰ったら、インターバルを必ず挟む様にしましょう」
割と珍しいドヤ顔をしている戒だが、唐突な休暇OKにオレは不安になってしまう。休んで良いの?
「それで大丈夫なのか?」
「心配要りません。と言うか現状がそもそもミツルに頼り過ぎなんですよ。
もっと一般の労働力を使う為にも、ミツルを強制的に休ませた方が、多分良くなるでしょう。
いやー、こんなことに気付かなかったなんて、私たちも相当余裕が無くなってますねぇ。
『魔導エンジン』の開発に目途が付き、様々なことが出来そうだと展望が拓けて来たからこそ、焦ってしまってるんでしょうね。ハハハ……」
自嘲気味に戒が笑う。
自己分析して勝手に反省して軌道修正するとは、高度な放置プレイだ。良いけどな、楽だし。
「そう言うことなら、休息を取らせて貰おう」
船の建造の方は、外側の方は現状でも少しずつ進んでいる。ドワーフがアセチレンバーナーと保護マスクを装備して溶接工みたいな恰好をして作業しているのは、ファンタジー感が台無しだけどな! オレが用意した純鉄を使って板状にし、それを繋ぎ合わせて船体を形作っている。
この手の作業は、幾ら鍛冶が出来ても大して関係ない領域なので、だったら普通の人間にでもやらせておけと思うのだが……ドワーフと言うのは、なるべく自分が金属加工に携わりたいと言う欲でも持っているかのように、頑なに溶接の仕事すら譲らなかった。なんか人材的に適材適所じゃ無くて、勿体無い気がする。勿論そんな変人は少数派で、ほとんどはちゃんと『魔導エンジン』とかポンプとか冷房などの製作に散らばっており、地球で一般的な技術を再現しようと頑張ってくれている。
「ああ、そうだ。どうせなら明日、ウェントの冒険者ギルドへ行ってみるのはどうでしょう?
仕事と言うほどではありませんが、我々IFEが商会としてどんなことをしているのか、多少把握しておくのも大切だと思いますので。
明日は確か、月に一度の魔石清算日なんですよ」
「ん? ああ、分かった」
魔石清算日? なんじゃそりゃ。
まあいっか。行けば分かるだろ。
翌日。久しぶりにウェントの冒険者ギルドへと向かう。
IFE商会の商取引全般を統括して貰ってるバルナ・ロッドが主体で、オレが監査と言うか御目付け役? 他に補助として雇っているらしい事務員みたいな子がいる。
特筆すべきなのは、IFEに所属している形式になっている冒険者たちが、随伴していることだ。都合5パーティ、24人もの同行者がいた。
と言っても、時間を合わせて冒険者ギルドでの待ち合わせなので、実質オレと一緒に来たのはバルナ氏と事務員の子の二人。それだって、オレがアインの街からウェントの旧屋敷へ跳び、そこで合流してからギルドに来ただけだ。
「随分と大所帯になってるみたいだが、一体何をするんだ?」
冒険者の中には大剣使いのザルク・ペニョラもいて、片手を挙げてオレに挨拶をして来ていた。その傍には、懐かしい面々の姿も見えた。
『暁に吹く風』のヤナ、ジルミア、ルノーア、ボルの4人だ。一年近く御無沙汰している。それぞれ互いに軽く手を振って、挨拶代わりとした。
「こいつらはI.F.E.の商会に属している冒険者、ってのは先ほど説明した通りだ。直接IFEの傘下ではなくても恩恵を受け、商会の影響下にある者たちだと認識してくれれば間違いねぇ。
んで、冒険者は神の迷宮で魔石を取って来るのが仕事。IFE商会は魔道具の開発や使用の為に魔石を欲してる。
となれば、取って来た魔石を商会が買い取るのが流れって訳だ」
社員が迷宮で手に入れた魔石を、会社が買い取る。何も問題は無いな?
「それで?」
「一ヶ月に一度、この換金所で魔石を売って、買い戻すことになってる」
売るのは分かる。普通の冒険者なら、迷宮から戻る度に換金するだろうから、一ヶ月と言う期間には疑問が残るが。
だが、買い戻す?
意味が分からず冒険者たちを見回すと、それぞれのパーティーリーダーらしき人物がパンパンの袋を持っているのに気付く。
「一ヶ月ってのは、IFE商会が魔石を購入する日にちを大体定期にし、管理し易くする為だな。冒険者の皆には、わざわざ日にちを揃えて貰っている。
毎月、ギルドの窓口で魔石の販売を一斉にして貰って、それをIFE商会が買い戻すってことをしてる訳だ」
魔石を売ってから、それを……って二度手間じゃねーか? なんでそんなこと……。
いや、待て。確か、冒険者やハンター・傭兵などのギルド構成員が、入手した魔石を独自にギルド以外へ販売するのは、禁止されていた気がする。
自分が手に入れた魔石を、個人で魔道具などに使ったりする分には問題無いはずだが、そうでは無い場合は横流し的な捉え方をされ、罰則があったはずだ。
「それじゃ、今月分も頼むぜ」
「「ああ」」
「ハイ」
「了解です」
「なー」
5人のパーティーリーダーが、それぞれ持ち寄った魔石の入った袋を、窓口の係員へと渡す。
しばらくして金額が計算され、各々のリーダーたちが金銭を受け取った。
その金額をバルナ氏がメモし、全て加算して二倍した金額を窓口に置いた。
「いつもの通り、彼らが持って来た魔石を買い取りたい。査定が正しければ、問題無い金額のはずだ」
傍から見れば、自分たちが持ち込んだ魔石を売り払い、その二倍もの値段で買い戻すと言う意味不明な行為。
ただカウンターに置いて係員側に寄せただけで、売り値の倍を支払わないと入手出来なくなってしまった魔石。
そうして客観的に見ると、何とも理不尽なやり取りに思える。
「これでようやく、こいつらが取って来た魔石を商会で使っても問題が無いようになった。
全く、良い身分だよなぁ? 冒険者ギルドさんはよぉ。ちょっと魔石を動かしただけで、小金貨200枚以上の稼ぎになるんだから。ボロ儲けだよな。あやかりたいもんだぜ!」
換金所の係員の人は、苦虫を噛み潰したかのような表情をしていた。
バルナ氏が言っていたことは正しい。だが、それは物の一面しか見ていない。
「要は、これがこの国の税金か」
これは納税だ。このスエズエ共和国が存在して行く為の運営資金となる、税金を納める行為。
だからこそ見せ付ける。IFE商会が如何に尽力しているかを。毎月どれほどの大金を冒険者ギルドに、そして間接的に国家へと納めているのかを。
やられてる方は、居心地が悪いだろうけどな。係員がもっと教育を受けている人物なら、ギルドや国家が存続する為に必要だと割り切ってポーカーフェイスで通すだろうから、これはギルド側の落ち度っぽい。
税金を取り立てる人員が、それを納められる際に罪悪感を感じる必要など無いだろう。まあ、それが正しく運用されていないなら、大いに感じて欲しい所ではあるが。
こうして、用件が済んだIFE所属の冒険者たちはその場で解散となり、それぞれ街へと繰り出して行った。
オレはと言うと、バルナ氏と事務員の子と共に、商業ギルドへと向かうことに。
そこでは毎月の商取引の金銭の清算を行い、差額を払ったり受け取ったりすると説明された。商業ギルドに所属している商会同士だと、取引は現金必須では無く、商業ギルドが保証する金額内で仮想的にやり取り出来る。ある意味先進的な仕組みだ。こう言ったお金が絡む概念は、中世でも関係なく発達しているようだ。
「今回も、『遅延箱』の売り上げやポンプの契約販売、その他諸々の魔道具の販売など……変わらず好調ですなぁ。
小金貨にして2,500枚ほどですか。『あいえふいぃ』商会殿は景気が良さそうで、羨ましい限りです」
清算を担当してくれた人から、恨めしそうな視線を貰ってしまう。
「それも、新しいアインの街の開発の為に、どんどん消費されて行ってしまってるけどね」
悲しいことに、魔道具や地球産の技術の応用により儲けたはずの金銭は、オレたちの街の為に消えている。
それでも、日々発展しているアインの街を目にし、IFE商会が着実に力を付けているのを知ると、少しはやる気が出るってもんだ。
うん、戒が狙ってたのはこう言うことかね? オレの稼いだ金がどんどん使われて行ってることに、ちょっと傷心気味だったしな。
仕事とは言えないような、ただの付き添いはそれで終わりとなる。バルナ氏が「お疲れ」と言ってくれるが、疲れる要素は何も無かった。
視点が変わることで少し気が紛れたオレは、その後久しぶりにウェントの街で買い物をすることにする。まずは焼き菓子の買い付けだな。その後は、魚料理の美味い店にでも行くとしよう。運が良ければ、そこで彼らとも―――。
そんな淡い期待を抱きながら、久方ぶりの休みを満喫することにしたのだった。
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