100 科学と魔法のブレンド
記念すべき100話目ですが、特に何もありません
あえて言うならば、100話も読んでくれてアリガトウ!
アインの街の本館、1階の多目的ホールで幹部たちが集まり、不定期の報告会が開かれていた。
オレだけ椅子に座らされ、傍には小さな机の上に飲み物が用意されている。
「魔法を利用したエンジン、通称『魔導エンジン』について、現状判明している内容を報告します。
まず共通認識の確認から入りますが、エンジンとは動力を生み出す部品のことを指します。位置エネルギーや電気エネルギー、熱エネルギーなどを利用し、主に運動エネルギーに変換、様々なことに利用する機関です。
この世界の魔法は、発動することで高いエネルギーを生み出せますが、これをエンジンの動力に利用出来ないか、と言うのが私たちの調査目的の一つでした。
特にミツルさんが飛行の際に用いている念動魔法、これは様々な魔法にも無意識的に組み込まれていることが多い、力学的な要素の高い魔法です。単体で習得している者は希少なようですが、私たちはミツルさんの協力が気軽に得られるので研究や実験が捗っています。
当初、駆動部品を念動魔法で直接動かせれば、それだけで高効率なエンジンが出来ると考えられていました。
しかし、この試みは失敗しました。念動魔法を魔道具に組み込んだ場合、得られる出力が予想より二桁以上も低かったからです。
原因は、念動魔法の特性にありました。念動魔法は、魔法の発動者の『意志』が存在しないと、正規の出力が発揮されないのです。
小さな物を少し動かす程度ならばそれでも問題無いのですが、目的には適合しません。また、魔道具に念動魔法を組み込んだ物でも、出力が激減することを確認しています。
魔道具を発動させた者が張り付いて『意志』を伝え続けたり、魔法の発動者が維持し続ければ、問題無く高い出力を得られます。魔道具では直接魔法を発動した場合の2割から3割の出力となりますが、問題となるのはそれよりも、人間が一人以上、部品の一部として組み込まれることになる点です。これは我々IFEの理念に反すると見做され、この試案は破棄されました。
次に対象となったのは、風魔法です。
これは北の大陸、魔族たちの間でも船の動力として用いられていると聞きます。
既に前例があるように、帆で魔法の風を受け、それを推進力とすることは可能でした。しかし念動魔法に類似するかのように、発動者の『意志』が無い場合は出力の低下が見られ、エンジンとして用いるには適切ではありませんでした。
魔族たちはこの問題に対し、交代で定期的に風の魔法を発動させることで対処しているようですが、帆船と言う形態で何とか運用出来るレベルであり、また高い出力を得るのが困難でもありました。
地面との摩擦が水面より大きい陸地では汎用性が低くなり、また頑丈な帆を用いて強い風を受けても耐久度の摩滅が激しいとのことで、これも不採用としています。
その次は、雷魔法、または電気魔法を用いる方法です。
魔法で電気を生み出し、電動でコイルを動かし、動力を得ると言う理論でした。
しかし結果は、持続的に安定した電力を得ることが難しいと判明。出力を高めると持続させるのが難しく、持続を重視すると出力が低くなる傾向が見られました。
電気を攻撃として使用する場合、持続時間は重視されない項目ですからね。高出力の電撃では、受け止めて利用出来る電流に整流するのが非常に難しく、また受動部品の劣化が著しいので困難と判定、断念しています。
微弱な電気を持続的に発生させるような魔道具は作成出来ましたが、蓄電池を作れば魔石不要の道具として同様な品は出来ます。これについては、地球の技術の方が優れている可能性が高いでしょう。
そして最後に、水魔法と火魔法の魔道具を組み合わせた方法。
これは、水を大気中から抽出し、火魔法で水蒸気に変換、蒸気機関あるいは蒸気タービンを動かし、動力を得る手法です。
結論から言うと、これが最も出力が高く、効率的に運動エネルギーを発生させられます。装置がやや大きな物になりがちだと言うデメリットはありますが、技術次第である程度改善されるでしょうし、地球では使い古されている機関の為、単純な構造にして私たちの現在の技術力でも製作出来る点が大きなメリットです。
ちなみに、魔族の国で稼働している魔車や魔鉄道が、どのような仕組みで動いているのかは分かりませんが、ミツルさんの話からするとそれほどの大きさでは無い為、蒸気機関に類いする物では無いだろうと推測されます。
速度から察するに、出力はやや低いと考えられ、内燃機関か魔道具の発展形と考えられます。いずれにせよ、魔族の国を中心に今後も情報収集する必要があるでしょう。
現時点では、『魔導エンジン』は水魔法と火魔法の魔道具を組み合わせ、蒸気機関を動かす方向で製作・試験運用されています。
……以上、御清聴ありがとうございました」
パチパチパチ。
技術全般を扱ってくれている、狩野光輝君25歳の弁舌が振るわれた。
手でこまねいて呼び寄せ、口をつけていない果汁のジュースを手渡す。彼は美味そうに飲み干してくれた。
先ほどは小難しいことを言っていたけど、要は「いろいろと試した結果、魔道具として水魔法と火魔法を利用し、蒸気機関を動かすのが効率的」ってことだ。
「動力源として、もう使えるのか?」
狩野君と戒に視線を合わせ、尋ねてみる。
「一応幾つか試作はしてありますが、何分試行錯誤の段階ですから、ちょっとした部屋くらいあるんですよね。
蒸気機関車の形式ならともかく、車としては搭載出来ないサイズですねぇ」
総括として事情を把握している戒が、渋い表情をしながら現状を教えてくれる。
「となると、飛行機なんかは夢のまた夢だな」
「そうですね。やはり内燃機関を採用するか、もっと研究を進めて別の可能性を模索しないと厳しいでしょうね」
自力では魔法で飛べるんだけどな。オレ一人だけ飛べても、状況次第では無意味だったりする。
馬車とか箱のような部屋に詰めて、ある程度の人数を一緒に連れて行くことは出来るが、気を遣ってしまって非常に疲れるしな。
「そう言えば、船舶の建造はどうなってるんだ?」
中条君がややフランクに口を挟んで来た。
失礼な態度だったら注意するところだが、仲間だし問題ない範囲だ。
「船なら、部屋くらいの大きさの蒸気機関でも搭載出来るんじゃ?」
「……そうですね。外洋を航海出来る船舶に搭載する動力は、今の『魔導エンジン』を改良・発展させた物で良いでしょう。
幸い、10日ほど前にまたドワーフの方たちが100人ほど移り住んで来ましたしね。丁度良いですから、仕事を割り振りましょう」
今日は1月9日だが、先月の12月29日にドワーフの移住者第四団が到着していた。
確かドワーフの集団移住者は次で最後だった気がする。今月の終わり頃かね。
引っ越して来た連中に何もさせない理由なんて無いから、オレたちIFEの計画に関わるような仕事もさせることにする。
船を作るとなると、どこからになるんだろうか。
侃々諤々の議論が丸二日ほど行われた末、船の建造はとりあえず外側から作って行き、内部の方は別途詰めて行く方針となった。
その計画の一つとして、海辺の近くにある施設を作ることになった。
まず石の配管を海中に設置、これを陸のポンプに繋いで海水を取水する。
汲み上げた海水は、網などで固形の不純物が取り除かれ、オレが魔法で作ったプールへと一旦溜めて置かれる。見切り発車で作業してるので、ポンプを動作させる動力がまだ無く、とりあえずオレが魔法で海水を操って、汲み上げた。
初日はここまでだった。
翌日、溜め置いた海水を順次、装置のある部屋の中へと引き込む。
この小屋は、オレが【石壁】の魔法で、風雨を凌げる最低限のを作っただけだ。装置は、ドワーフたちと工業製品担当のヴァルカンら、それに地球人の手の空いてる奴等が何人も突貫仕事で作っていて、所々きちんと出来て無かったりする。不格好で継ぎ接ぎだらけ。
まあ、そこはオレの【固体操作】の魔法で誤魔化したりした。使い勝手良いんだわ、この魔法。溶接みたいな真似事が道具なしにあっさり出来るんだもん。金属製の管を、思うように曲げたりも出来る。
そして、濾過された海水は装置の中で減圧され、蒸気機関の動作で発生する熱により蒸留、水蒸気になった水が今度は冷やされて真水が抽出される仕組みだ。これは多段フラッシュ方式と呼ぶらしい。
この蒸気機関の動力の一部が、海水を汲み上げるポンプに使われるのだとか。鍛冶師や技術者たちが集まり、懸命に繋げる作業をしていた。
ちなみにこの多段フラッシュ方式は、海水から大量に飲料用水などを生み出す方式として、地球では一般的とのことだ。多量の水を必要とする地球の客船などでは、この方法で海水から真水を生み出しているとか。
外洋を航海する船舶の場合、優れたエンジンを搭載して航海日数を減らしても、短縮には自ずと限界がある。出せるスピードも限度がある以上、航海が長期間に及ぶのは必然であり、その際一番厳しいのは真水の確保となる。もし海水から真水が抽出出来るのであれば、積載量などの問題が一気に解決するのだ。
今回の施設は、その前段階のテストみたいなものってことだ。
多段フラッシュには熱が必要になるので、蒸気機関や蒸気タービンとの相性も良く、熱の再利用が出来て効率的だと言っていた。
その翌日は、水を抽出した後の濃縮された海水を再利用、天日で蒸発させて容積を減らす仕組みを作らされた。そうして出来た濃縮海水を、煮詰めて塩化マグネシウムや硫酸カルシウムなどのにがり成分を取り除けば、塩化ナトリウム、つまり塩を得ることが容易になる。
一石二鳥の良いシステムだとは思う。稼働には相応の魔石を消費するが、真水と食塩、どちらも単独で得ようとするよりも経費が節約出来るのは素晴らしい。
とまあ、一通り施設が完成した後なら良い仕事をしたと言えるが、結構グダグダだった。
船舶の建造の方はどうなっているかと言うと、先日作った造船施設の小さい方を使うことになった。
この施設には、プールの部分に雨などが入らないよう、屋根付きの豪勢な作りになっている。屋根の部分は構造を配慮しないと、石だから自重で崩れかねないのには参った。うん、何度か崩れてしまったので、地球の建築物を参考にさせて貰ったんだ。
一度に大きく作ろうとすると、自重で倒れて来て上手く行かないのには参った。最初は細い筋みたいのを伸ばして支える部分とし、無事に反対側まで繋がったらそれを足場にするよう徐々に大きな支えを作って、最後に覆いとなる屋根の部分を薄い石で形成と言う段取りが必要だったのだ。
まあ、失敗した所は誰も見て無かったはずだから、セーフ!
小さい方でも奥行き100メートルあり、300メートルある更に大きい方を見ると、大抵の奴が驚いて苦笑するか、クソでか溜め息を吐くかの二択の反応をするのが常となっていた。
「こんなの作って、よっぽど暇だったんですね」
オレの腹ぐらいしかない身長の、女性ドワーフがジト目で蔑んで来る。
ドワーフのまとめ役のグルズの姪っ子、リチェントだ。短くリチェと呼ぶことにした。
「男には、ロマンと言う追い駆けるべき夢があるのさ」
「そうですか。ところで鉄はどれくらいあります?」
スルーされた。
「えっと、これと同じのが、倉庫に2万個くらいだったかな」
『アイテムボックス』から純鉄の20kgの延べ棒を取り出し、差し出す。
やはり鍛冶バカのドワーフらしく、鉄の棒に反応して目付きが鋭く変化したが、理性で抑えているらしい。
「ふーん……全長50メートル以上、でしたっけ。となると……うーん、少し足りないかも知れないですね」
船の設計は、地球のオーソドックスな物を真似ることに決まっていた。パクリじゃない、これはリスペクトって奴だ。
レロッ
不意に、リチェが唇を舌でペロリと舐め、湿らせた。ドワーフとは言え年頃の女性、柔らかそうな部位だ。
だが、髭がある。揉み上げとアゴ髭が主に伸ばされているが、そんなんで艶めかしい仕草を取られても、なんだその、反応に困る。
髭が無ければ、ちんまいし可愛いと思うよ? だが髭付きな以上、心が受け付けない。
そんな内心の葛藤をおくびにも出さず、手に持った鉄棒を左右へと振る。
リチェの視線が、それに釘付けとなっていた。
「……欲しいのか?」
「ほ、欲しいか欲しくないかと問われれば、欲しいに決まってます!
これほどの一品、鍛冶でもなかなかお目に掛かれませんし」
ドワーフの鍛冶師は、どいつも同じような反応を返しやがるな。この、いやしんぼめ!
物欲しそうな顔をしてるのもあり、オレは彼女の口元へと鉄棒を近づけてしまった。
「あむっ」
「あっ、おい!?」
隅の方を、咥えられてしまった。シルバーの輝きの鉄の棒が、まだ20歳代の女性の唇に触れている。
歯を立てて無いし、鉄棒は20kgもあるから、オレが手を離したらそのまま支えきれずに地面に落ちるんだろうけどな。
軽く振って、唇で触っているだけのそれを振り払う。
「あんっ! ……乱暴です」
「うっわ、唾液が付いてるじゃねーか」
グルズが間に入っていたこともあり、オレとは気安い関係となっているリチェだが、珍しく少し拗ねていた。
「そんな、汚物みたいに扱われるなんて……」
「いや、唾液は細菌もたくさんいるし、どちらかと言うと汚いだろ」
好きな人のとかならば別なんだろうけどな。それでもバッチイのは変わらない。
「細菌? 小さい生き物ってことですか? そんなの、いるわけないじゃないですか。第一、目に見えませんよ、ホラ」
彼女はペッと手の平に唾を吐き出し、見せ付けるように掲げて来た。汚いから辞めなさい!
この世界では周知されてないか発見されて無いのか、細菌を意味する単語は一般に使われて無かったので、オレたち地球人の造語に近い。既存の言葉を適当に弄って、それらしく通じそうなのを模索しているから、今みたいに通じ難かったり、物によっては全く通用しなかったりする。
「いや、目に見えないほど小さなのがいるんだって」
「えぇ~? 本当ですか~? 見えないなら居ないんじゃないですかぁ?」
疑って来る。まあ、その手の知識が無いと、信じられないのは仕方ないかも知れないな。
「地球では常識になってるけど、目に見えないほど小さい生き物ってのは確かにいるんだよ。
ほら、物が腐ったりするのも、その手の小さな生き物が繁殖しているから起こることなんだぞ」
「うーん。納得は出来ませんが、地球とやらの技術がこちらの世界よりも大分進んでいるのは確かですし、保留と言うことにしておきます」
そう言って彼女は、手に載っている唾をその場に振り落とし、まだ少し濡れているその手を、オレのズボンで拭き始めた。
「って、何してる!? オイコラ!」
「良いじゃないですか、丁度拭き易い所にあるんですから」
「良くねーよ!」
ガッ!
叩き易い位置にあるリチェの脳天に、チョップを喰らわせた。
「ったー! 何するんですか! 脳ミソが鼻から出るかと思いましたよ!?」
「オレを雑巾代わりにしたお返しだ!」
正直、若干力加減を間違った気がする。でも【肉体強化】は使ってないし、大事にはなってないハズだ。瘤になってるが、許せリチェ。
その後、船舶の建造で必要な鉄の量を試算したリチェに、改めて足りないと指摘され、戒たちと相談して用意することになった。鉄で作った船が本当に浮かぶのかと言う疑問もこの世界の人々から挙がったが、実際に空洞のある鉄の箱を作り、水に浮かべて見せれば、渋々ながら納得してくれた。やってみた本人もちょっと感動した。
ちなみに、酸化鉄からわざわざ抽出した純鉄だと、用意出来る量が格段に減る為、土から抽出した赤錆の状態で提供することとなった。
鉄鉱石を用いて製錬するよりも、オレが用意する赤錆を人の手で還元して鉄を製錬した方が、大量生産に向くらしい。純度の高い鉄鉱石でも、鉄と酸素以外の成分は2割程度はあるのが普通だとか。オレが土魔法で抽出すれば、赤錆自体の純度は100%だからなぁ。魔法ってスゲェ。
鉄の生産の際、必要とされる魔力量の大部分が、酸化鉄から酸素を分離する作業に費やされる。そこを工業的にやってくれるのであれば、酸化鉄自体はこの惑星の地殻に大量に含まれていて、簡単に提供出来る。鉄の供給問題はしばらく大丈夫だろう。
なお、リチェの唾液に塗れてしまった鉄の延べ棒は、彼女に進呈することにした。気分的になんか嫌だし。
その後、同じ職場で働いているドワーフ男性が、鉄の棒を愛でるリチェの姿に興奮したとかしなかったとか。
ドワーフって、髭面と髭ナシの顔を脳内で容易くコンバート出来ると後日噂に聞いた。普通の人間だと、髭を急に剃ったり、逆に伸ばしたりしただけで印象がガラッと変わったりするが、そう言うことが無い種族ってことらしい。
うーむ、ちょっと不思議だ。
捕捉:魔族の国の魔車や魔鉄道は、動力に念動魔法を組み込んだ魔道具を使用、運転手が『意志』を伝えてます。その為に運転難易度が高く、飛行機操縦士並の専門性が必要となっています。
高坂ミツル 年齢:26
精神11 魔力1,612 (最大)魔力量285,839
(拠点での就寝時回復魔力量約252,000)




