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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第七章:北の大陸
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098 理想と現実の狭間で


 スエズエ共和国のアインの街は、人口10万に満たないイエイラの街の隣に作られた、新しい街だ。12月19日現在で、人口はまだ7,000強と言った所。

 対岸にある首都のウェントが人口30万超なのを考慮すると、比較にもならないほど小規模な集落である。

 だが、既にかなり広い土地が壁で囲われ、魔物からの安全が確保されている為、周辺地域の住民から注目されており、なにより活気があった。


 アインの街に、まともな水道はまだ無い。下水道どころか、上水道でさえだ。

 これは、当初の引っ越し予定人数が1,000人に満たず、それくらいならば何とかなるだろうとの見切り発車で行われたからである。

 勿論、少人数なら賄えるだろうと言う水源があったからではあるが。

 ではその水源はと言うと……ウェントとイエイラの街を分断するジャ川である。正確には、アインの街を囲む壁と、その外側に作られた堀。その堀を満たす水は、ジャ川から引き込まれていた。堀はそのまま海にも繋がっている為、排水の処理も堀を利用していた。さすがに使用する分の取水は上流で行っている上に、排水は洗濯などの限られた用途でしか発生しないので、問題にはなっていない。

 問題なのは、その水量が現在の利用者数に見合っていないことだ。

 要は、数百人程度が生活するなら何とかなる程度の小川に、街の開発で結構集まってしまった人々が寄ってたかって利用しているので、限界ギリギリだと言うことだ。


 そんな訳で、急いで水資源をどうにかして欲しいと、戒に頼まれてしまったのだった。




 実は、IFEアイエフイー内の地球人30人弱の飲食物くらいなら、魔道具での水生成で何とかなるらしい。

 しかしそれ以外の使用人や、街の人たちに、あまり衛生的とは言えない堀の水を使わせておくのも宜しくない。魔法で土を凹ませた所に水を流しているだけなので、清らかとは言い難い水質だからだ。

 と言う訳で、堀を経由した物じゃなく、ちゃんとした上水として水源を確保することにした。

 大河であるジャ川から水を引き込んでいる所を拡張し、堀に向かわせる分と、上水道に使う分とで分ける。上水道にする部分は、石の水路を【石壁】の魔法で作り、泥で濁ったりしないようにした。そうしてやや透明度の増した水を、魔法で同じように土を石化させて作った幾つかの溜め池へと留める。屋敷の敷地内にもその一つがあり、水汲みが便利なようにしてある。

 同様に、排水の為の石の水路を、溜め池の傍から作り配置し、海へと繋がるように作成。海へ出る前に一度プール状の場所へ溜めるようにし、少しの時間で沈殿させられる分はさせてしまう作りにしてある。後で排水処理を組み込むのも楽になるしな。

 上水の方も、本当は浄化及び塩素消毒の機能を持たせたかったが、管理がかなり大変だと言うことで見送っている。水道水をそのまま飲めるような品質に保つのは、とても労力が要ることなのだと、戒に懇切丁寧に説明されてしまった。

 例えば、1トンの水(1立方メートルだ)をペットボトル飲料で調達しようとすると10万円とか掛かるが、水道水だと100円から1,000円程度になり、農業用水だと1円から10円程度となる。何千人、何万人もの人間が生活するとなると、それ相応の水の量が必要となり、単価はとても重要な要素となるのだ。それに現代日本ほど塩素やら何やらの化学物質が安価ではない為、経費の桁も違って来る。

 せめて衛生的な観念から、生で水を飲むのは控え、一度沸騰させた物を口にするよう徹底させるのが関の山だが……そんなことはこの世界の住人は知っている。生水を飲むのは余程綺麗な湧き水限定で、人間が口にするのは一度沸かして何かで色や香りを付けた御茶の類い、と言うのが常識。アルコールを含んだ飲料なども、繁殖可能な菌は限られるので基本的に安全だ。水道からの水をそのまま飲んでも腹を壊したりしないのは、地球でも近代になってから、それも比較的先進国に限られた贅沢だとか。少し御年を召した鈴木すずき吾郎ごろうさん41歳に、窘められるように教えられてしまった。

 実際にやってみれば分かる。川の水を引き込んで、ゴミを取り除く。ここまでは良い。農業用水だってやることだ。問題は、濁りを取り除き、塩素などで消毒する段階だ。手間が掛かってしょうがない。10人、100人、1,000人分の飲料水ならまだ良い。だがそれ以上の人数の、まして洗濯や行水に使う水まで飲めるようにしていたら、勿体無くてお化けが出そうなのだ。

 と言う訳で、アインの街の上水道は沸かせば飲める程度とすることになった。

 数日掛けて石で出来た水路や溜め池を作り、ついでに屋敷の風呂施設を別館と言う形で作り上げ、今は溜め池の傍で御茶を楽しんでいた。


「お疲れ様です、ミツル」


 柑橘類の冷たいジュースを持って来てくれた戒が、ねぎらいの言葉を掛けて来る。


「ああ、存分に感謝したまえ。水の問題で頭を悩ますとは、まるで領主みたいだ」

「……一応、領主なんですけどね。ミツルは滅多にこちらに居られないので、対外的には私が表の顔になってますが」

「ふーん、そうだっけ。……あ、これ冷たっ! って、オレの温度魔法じゃないよな? どう言うことだ?」


 口に含んだジュースが冷えていたので、思わず吃驚してしまった。


「どうもこうもないですよ。加圧器や減圧器の製作が進み、簡単な冷暖房なら実現出来るまでになってます。

 それを利用して、冷蔵室を試験的に運用してますし、暑い昼間には屋敷の幾つかの部屋は冷房装置を働かせ、涼を取れるようにしてあります」


 何それ初耳! ついに、ついに科学の力で気温に打ち勝ったんだな!

 夜は20℃近くまで下がるので寝苦しいとかは無いんだけど、昼間は35℃から40℃に達することも珍しくないからな。元々この世界のこの地方に住んでる人たちは慣れてるらしく、特にツライとかキツイとか聞かないんだけど、地球出身者からすれば結構大変だ。

 まあ、日本の都市圏の異常な蒸し暑さと比べると、どっちもどっちと言えるんだが。カラッとした灼熱の暑さと、ジメッとして悶々とする酷暑、どちらも地獄じゃ。赤道直下の国の人だって、日本の夏はお断り案件に入る。

 ん? そう言えば、北の大陸へ頻繁に【瞬間移動】していた先日まで、オレは真昼間まっぴるまに就寝してたはずだが、特に暑いとは感じて無かったっけ。

 屋敷の外側からオレの寝室辺りを観察すると、壁から細い管が伸びており、庭にある室外機と思しき大きな装置へと繋がっていた。

 むむむ! オレは既に、文明の利器のお世話になっていたと言う訳か!


「凄いな戒。電気も無しに冷やせるものなんだな」

「要は圧縮機コンプレッサーを動かせれば電力は必要無いですからね。今は装置を一箇所にまとめ、魔道具を併用して大きな動力を生み出し、冷やさせてます。いずれは動力部分も小型化し、販売したり出来るようにしたいですね」


 なかなか夢のある話だ。既存の魔道具でも冷やしたり温めたりするのはあるが、結構維持費が高いし、有効範囲も一部屋が何とからしい。氷を生み出す魔道具を利用した冷蔵庫なんかは比較的貴族階級や商用に普及してるが、あれも稼働させる魔石のコストがかなり高い。

 魔道具関連はバルナ・ロッドに任せているが、これは工業的な意味合いが強いし、稼働させるのもメンテナンスにも別種の販売形態が必要になりそうだ。分割してドワーフのグルズたちや工業製品っぽいの担当のヴァルカン・アッシュたちを噛ませるのが良さそうだな。


「クックック。少しずつ技術的発展が出来ているじゃないか」


 草薙さん御手製のバニラのアイスクリームを口に運び、甘さと香りを堪能する。


べたいっ」


 暑い気候の中で食す冷菓は、格別だった。






 北の大陸にある魔族たちの国の一つ、西フラクテス国に寄った際、国王のナフスから用があるので招待したいと誘われた。

 アインの街の屋敷のトイレを水洗式に改造するのを手伝った後は、興味本位に北の大陸を色々と見て回っていただけなのでオッケーしておいた。この後やることなんて、精々が魔鉄道に試乗して雰囲気を味わう予定しか無かったので問題ない。

 応接室で待っていると、見た目が筋肉特盛で暑苦しいナフス国王が、人を伴って入って来る。そっちの方は、パッと見た目に白を基調とした服装だ。


「久しぶりである、ミツル様。ご健勝そうで何より」

「うん。そっちも相変わらずそうで」


 後から入って来た護衛は、入り口の近くで待機。白っぽい奴だけ、ソファーの傍でひざまずかされている。

 気になるので視線を向けてみると、ビクリと怯えたような反応をして来た。


「……これは何だ?」

「ハッハッハ。隠す必要もありますまい。こやつは、先のコルメニシアでの魔物の襲撃を計画した張本人、ギュラテス方面の元司令官、マテドク・ラセードである!

 本来ならばそのそっ首、ミツル様に捧げる所であるが、生きたまま苦しみを与えたい可能性を鑑み、このように確保しておいた次第なのだ」


 白い服の人物のフードを降ろさせると、そこには以前見た覚えのある顔があった。

 ギュラテスの街の傍にある駐屯地で、高い地位に居たっぽい奴だったな。確か、オレに拳銃を撃って来た覚えがある。


「この方は……?」

「マテドク、貴様に発言を許した覚えはない。口を慎め!」

「……はっ」

「まあ、冥途の土産に教えても問題あるまい。儂が正面から戦って勝つことが出来なかった御方よ!」


 聞き方によってはまるで負けてはいないようにも受け取れるな。

 顎の骨と歯を大量に砕いたアッパーカットの動きをすると、トラウマが刺激されたか、ナフス国王が顎を押さえて嫌そうな表情になった。


「名前はミツル・高坂だ。一月ひとつきほど前に一度会ってるから、これで二度目だな」

「一月……? 例の賊が侵入して来た頃合いか……」


 どうやら、マテドク君はオレの顔に見覚えが無いようだ。

 当然だろう。当時、オレは魔法で変装してたしな!


「こうすれば分かるかな? 『僅かばかりの偽りを以って、見た目をたばかろう。disguise【変装】』」


 うろ覚えだが、姿を借りていた魔族っぽい見た目の幻影を自身へと重ねる。


「お……おおっ! あ、あの時の!?」

「思い出してくれたようだな」

一時いっときでも忘れなど……! いや、そも……国王に勝った……? 賊……人間……? 何故……」


 僅かな時間、激高した表情を見せてくれたが、すぐさまそれを抑えて、代わりに考えを巡らせ表情をコロコロと変えてくれる。


「儂としては、死で償わせるつもりで死に装束の白い服装をコーディネートさせたのだが」

「まあまあ、殺すとか死なすとか、そんな勿体無いことはやめようや」


 ナフス国王の呟きに、オレは否定の意見を出す。


「私の命を奪うのでは……?」


 半ば死期を悟って諦めたような状態だったマテドク君が、疑問の声を挙げる。別にオレは、快楽殺人症では無いんだがなぁ。


「マテドク、と言ったか。オレは貴様のことを買っている」

「え?」

「本来、魔族はある程度の集団での揉め事は、大きな争いごとには発展させないような自制が効くと聞いている。理性が強く、良識に縛られるとも言い換えられる。

 けれど裏を返せば、本来国同士などで行われる生き馬の目を抜くようなやり取りが、ほとんど行われないと言うことだ。

 ……まだしばらくは問題無いだろうが、オレが他の大陸で国を取り、魔族の国と付き合うことになった場合、それでは心配だ。

 だから、貴様のような外道と見做される策を実際に運用することが出来る、人間の国と交渉しても問題無さそうな人材は、魔族では稀有だと見る」


 白い服のマテドク君は、呆けたように聞き入り、やがて理解の色が広がって行った。


「しかし、この者は魔族の国を乱した大罪人! 即刻処刑が……」

「勿体無いって言ってるだろうがッ!

 良いか? こいつの代わりになれるようなのがもし居なかったら、他の人間の国と国交を結んだ際に、魔族の国が色々と不利になりかねない。そう危惧してるんだ。

 場合によっちゃぁ、100万や200万の民の命に匹敵するような、そんな働きになる。

 それを安易に処刑など、数十万、数百万の人民の命をドブに捨てるようなもんだ!」

「は、はぁ……」


 いまいち納得しかねる感じのナフス国王。実感も無いだろうし、仕方なくはあるんだが。

 日本国での例だが、江戸時代の鎖国状態から急に外交を始めると、不平等条約なんかをホイホイ結んでしまったりする。

 全く同じと言う訳では無いが、近しい状態だと考えられる。何度も騙されれば、その内対処法を見出して行くのだろうが、最初の一歩でつまづくと痛過ぎるからな。


「ここはオレの顔を立てて、1年……いや3年を目安に、マテドクの処分を延期してくれ。

 代わりにマテドクは、人間の国と付き合うとしたらどうすべきかと言うのを考え、法や制度の整備をして欲しい。将来的にはその働きを以って、刑の軽減を要請する、つもりだ。

 それと、成果があれば後継者とかも育てる必要が出て来るぞ」

「え……あっ、はい。分かり、ました」


 半分ほど飲み込んでくれたマテドク君だが、今はそれで十分だ。

 オレの裁量で、死刑囚に執行猶予を持たせ、仕事をさせることになる。

 もしオレが国を取れずに道半ばで倒れたり、魔族の国が人間の国と国交を持たなかったりしたら、3年を目途にマテドク君の処刑は行われてしまうだろう。

 これも、未来への投資と言う奴か?

 ナフス国王には少し無理を言った形になったので、その後滅茶苦茶模擬戦することになった。お互い魔法は【肉体強化】のみを使い、接近戦でガンガン打ち合った。そこそこ良い鍛錬になったので、オレも満足だ。





高坂こうさかミツル 年齢:25

精神11 魔力1,544 (最大)魔力量262,232

(拠点での就寝時回復魔力量約252,000)

槍4(1Up!)、回避4(1Up!)


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