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嵌められて異世界  作者: 池沼鯰
第七章:北の大陸
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097 海洋性大型哺乳類


遅くなってスミマセン



 目の前の青年、服装からして士官クラスの軍人へ、改めて声を掛ける。


「どう言うことだ?」

「しらばっくれるなぁッ!! 貴様、ビクトリアス様に対して、不敬にも……だ、だっ、抱き締めっ……たそうじゃない、か!」


 ああ、そう言うことか。

 イヨッテン国の女王は整った顔をしていた。身体はかなり鍛え上げられていて、腹筋もキッチリ割れていたが、それはさておき。

 配下の部下たちが彼女に対し、好意を持ったり惚れたりしているのは不思議では無い。

 そしてオレは、女王ビクトリアスとの戦いでは、首を後ろから締め上げると言う方法で気絶させ、勝利したのだ。その戦闘の際、ある程度身体的接触があったことは否めない。それを咎めているのだろう。

 女性の象徴的な身体部分は柔らかかったのは確かだが、そんな気にすることではないと思うんだがなぁ。


「なんだ、お前。もしかしてアレの……コレか?」


 そう尋ねて、右手の小指を立てて見せる。


「は? 何だそれは。ふざけてるのか?」


 ん? ……おっと、この表現は日本限定だったか? 恋人のことを指すんだが。


「ああ、スマン。お前の恋人か?って聞きたかっただけなんだ。オレの母国での婉曲表現でな」


 確か、約束した相手と言うことで、小指を切って渡したとか猟奇的な意味だった気がするぞ。本当は怖い裏話だ。


「恋……っ!? バ、バッキャロー! そんなんじゃねーよ!

 たたた、ただ、いち兵士として、だな。国のトップにらせられる女王様に対し、あまりにも不敬な行いであると! そう諌めに来たのだッ!」


 面倒臭めんどくさっ。無視して【瞬間移動テレポ】で帰って良いか?


「不敬、ねぇ」

「そ、そうだぞ! あんな豊かで魅惑的なバストに、形が変わるほどさわれて、羨ま……けしからん!

 国の象徴でもあるアノお方の、御本尊とも言うべき聖域に、許可なくれたこと! まことに以って許し難き!」

「だがオレは、その国のトップに対して個人戦で勝ち、女王もその試合での負けを認めた。

 そうなると、お前の態度は、女王が認めた者に対するソレとして不適切と言える。

 それに、女王が正式に認めた試合にケチを付けることは、女王の決定に逆らうことにも繋がるんじゃないのか?」


 ちょっと違った視点と言うか、第三者からどう見えるのかを諭してやる。暴走して主観で動くと、そう言うのが一時的に分からなくなるよな。


「うっ!? それは……だがしかし! 私の魂が、貴様を断罪しろと叫ぶのだッ!」


 チッ、納得しないとは煩わしい奴め。

 この場でボコって、簀巻きにして港に沈めてやろうか?


「……御託は要らん。掛かって来い」


 こんなのに付き合うのも飽きて来たので、殺すつもりで<臨界突破>を行使。殺気を放って挑発してみた。

 ゴクリ、と相手が唾を飲む音がやけに大きく聞こえる。


「い、いさぎよいではないか! だが良く考えれば、国の一番の単体戦力である女王様に勝った貴様へ、愚直に戦闘を挑むのも無謀だ。

 ここは別のことで勝負し、勝敗を決めようではないか! うん、それが良い!」

「……は?」


 青年は小声で、「私はそれほど戦いが得意でも無いしな」とか呟いていた。オイオイ。

 軍人の癖に、戦って勝つ自信が無く、それでもオレを許せなくて挑もうとしてたのか。


「方法は……そうだ、この時期ならアレがあるか!」


 呆気に取られたオレを放置し、ソイツは勝手に何かを思い浮かべ、一人で納得していた。






 二時間後。オレは海の上の人となっていた。

 かなり大きな漁船に、同乗させて貰っている。


あんちゃんも大変だな。あのボンボンに付き合わされることになって」


 全長50メートル近い船の、船長をしているオッサンが話し掛けて来る。

 ボンボンってのは、例の青年軍人のことだ。ここの組合の長の、次男坊らしい。


「本当に災難だった。ただまあ、たまには船に乗ってみるのも良いと思ってな」

「ハッハッハ、そうかい。心が広いってのも、男の魅力の一つだ」


 別にあの青年軍人のことを許してやる訳じゃない。

 けれど、『海洋性大型哺乳類の捕獲』と言うイベントに誘って来たので、ノってみただけだ。


「しかし、こんな近海で海洋性哺乳類が獲れるとはな。意外だ」

「ああ。この時期、少し潮の流れが変わり易くてな。それに誘われて、ハグレが発生し易いんだ」


 ちなみに、クジラとイルカの違いってのは、慣習的に大きさで決まってるだけらしい。4メートル前後で分かれてるそうな。


「となると、小振りなのか?」

「ああ? ……まあ、そうだな。子どもや未成熟な個体がハグレ易い。とは言っても、10メートルから20メートルくらいのもある。

 勿論、もっと巨大な大人の個体も居やがるが、それは沖合まで長期間遠征して獲って来るのが普通だ」


 そんな巨体をそのまま持ち帰るなんてことは到底出来ず、その場で解体して保存用の船倉に入れるとか。

 船長が笑いながら、解体用のデカい包丁(青龍刀みたいだった)やバカでかいノコギリを見せてくれた。


「獲り過ぎて、絶滅させてしまう、なんてことは……」

「はあ? まあ、獲り易く、売れ易い魚なんかだと、獲り過ぎた時には一時的に近場から姿を消すことはあるって聞くが、それだってある程度の群れは残しておく分別はあるさ」


 そうなのか。

 そもそも、余程の阿呆じゃなければ、絶滅させるまで狩り尽くすなんてことはしないしな。

 地球の人類が幾つの種を絶滅させたのかに思いを馳せ、その愚かさに溜め息を吐く。

 うーん、哲学! こう言うの、イイよね。頭良いっぽいオーラが出てるのを、ヒシヒシと感じる。


「あっちの船は……」


 オレが乗っている方とは別の、少し先行している漁船に視線を向ける。

 例の青年軍人が乗り込んでいて、オレと『海洋性大型哺乳類の捕獲』で競っている。


「グランシー家の船だが……いつも通り、ハグレが居そうな場所をチェックするんだろう」

「何!?」


 ターゲットが居そうな所を知ってるのか!


「オッサンも分かるのか?」

「お、おう? だが遠征が本業だしな。そんなに詳しいってほどでもぇ」

「……ん? あっちのが詳しいのか?」

「うーん、まあそうとも言えるか。さっきのボンボン、名前はオース・グランシーって言うんだが、小さい頃から船に乗っていてな。何故か潮を読む力に長けてるんだ。

 その応用だとかで、ハグレが迷い込みやすい入り江や湾が判別出来るとか抜かしてたな。

 実際、あのボンボンが乗る船は、ハグレをかなりの高確率で獲って来ることで有名だったんだ。

 ……皆、アレは良い漁師になるって期待してたんだが、しばらく前に軍へ入ると言って出て行っちまってな。それきりさ。

 で、さっき久しぶりに港まで来たと思ったら、この勝負事だ。ま、トバッチリだが正直言うと少し嬉しい気持ちがあるのは確かだ。

 あっちの船の奴等は特にそうなんじゃねーか?」


 ふーん。ちょっとチートっぽい能力持ちだな。

 しかも今回の勝負にかなり有利じゃねーか。クソが!

 手加減とかしてやる必要性を一切感じない。オレの本気を見せちゃる。


「向こうがハグレってのを見つけるのに、どれくらい掛かるんだ?」

「あん? 今日中って制限なら、50%から60%ってところだろうな。普通は2,3日掛けて探すもんだしなぁ」


 そんなもんなのか。

 船の速度は時速20kmと言った所か。人が緩めの駆け足で走る程度のスピードだ。魔道具で起こした風を、帆でワザワザ受けて疾走してる。

 これだと、近海から出るのも1日掛かりだろう。


「それじゃ、ピンポイントで海洋性哺乳類の場所を知ることが出来たら、勝てそうか」

「おいおい、そんな都合良く行く訳が……」

「まあ見てなって。こう言う時こそ魔法の出番だ」


 そう言って、ポンポンと腰の輪っかを叩いてミドリを起こす。


「出番だぞ」

「……なんじゃ?」

「聞いてただろ。海洋性哺乳類がどこにいるか、探し出したいんだ。なんか良い魔法、無いか?」


 困った時のミドリ先生。

 普段オレの近くにいるのは、監視の意味合いが強いが、こうやって知恵や知識を拝借したい時には便利に使わせて貰っている。


「ふぅむ。探知の魔法、のぉ……。普通は真っ先に習得するもんじゃが」

「おい」


 そりゃ、確かに探知魔法なんてあるなら、習得優先度高めだろうなとは思う。

 でも、今までどうしても探知しなければと言う場面が、そんなに無かったのも確かだ。

 『神の迷宮』? ああ、確かにあそこは探知出来れば楽ではある。でも大分慣れている現状、そんなに緊急度が高い訳でも無くなっていた。迷宮と言う状況に適応してしまえば、どんなタイミングで敵と接触する可能性が高いのかは限られているので、そんなに苦では無かったりする。


「一つは電波を介して、その反射を測定して観測する方法じゃな」

「ふむふむ。レーダーって奴か?」

「そうじゃ。

 そして二つ目は、音波を介して、その反響音を拾う方法じゃろう」

「ほう……って、大して変わんなくね?」

「いや、結構違うんじゃがな。二つ目は地球ならソナーとして知られているはずじゃ」

「言われてみれば?」


 ちょっと分かんないけど、見栄張って理解してるていを装っておく。


「どっちも波を使う魔法じゃから、『波魔法』あるいは『波動魔法』と言うべき分類かの」

「新しい分類の魔法かよ!」


 全く新しい魔法だと、少し覚えるのが面倒なんだよな。


「……そんな希少な魔法はマイナー過ぎるからな。別の習得法がある」

「何! 教えてくれッ! 何でも……は出来ないけど、今晩ミドリの身体、磨くから!」


 潮風に当たってるし、ミドリのボディは鉄で出来てるから錆びやすいんだ。だから定期的に、磨いたり錆止めを塗り込んだりしないとイケナイ。

 別に新たな身体を作って移り変わっても良いらしいんだが、少し手入れをすれば維持出来るなら、そっちの方が良いとか言ってたな。


「出し惜しみするつもりはない。レーダーなら風魔法の応用で使え、ソナーなら水魔法の応用で使える」

「へぇ」


 意外と言うか……でも、そう言った裏技みたいなのだと……。


「確かに、風魔法として使うと、折角のレーダーも固体や液体で阻害されてしまう。

 逆に水魔法としてソナーを放つと、気体や個体の中までは見通せない」

「だろうな」


 無理して使うと、応用が利かないことが多いんだ。

 それでも、どちらも有用そうなので、ミドリに代表的な呪文を教えてもらい、使ってみることにした。


「『大気よ、小さな波を伝播させ、感知せよ。radar【反射波測定】』」


 拡大して使ってみると、範囲1km程度の大気中の異物が、手に取るように分かる。大体小鳥よりも大きなものは、感知出来るようだ。


「『水よ、小さな音を伝播させ、感知せよ。SONAR【反射音測定】』」


 今度はソナーの魔法を使ってみる。本来は水に接触して使うのだが、魔法遠隔の技能も使用して水面からある程度離れても大丈夫なように行使した。


「おおっ、見える! 見えるぞ! オレにも水の中の……何か? が!」


 何だか形容しがたい物体も結構あり、気色悪いのも多い。

 あ、コレ海藻っぽいな。こいつはヒトデか? 針っぽいのは、ウニかね。泳いでる魚の群れとかも、沢山確認。

 さっきのレーダーと同じく、半径1km程度の海水中の物体の形状を、感じ取ることが出来た。

 なんかちょっと、背中がゾワゾワするが、慣れれば大丈夫になるだろう。


「ちょっと楽しいかも知れない。海中って、結構面白いかもな」


 だが、次にやった行動は少しばかり軽薄だった。


「よーし、思いっ切り拡大して海中を探知してやる! 全開! 『SONAR【反射音測定】!!』」


 調子に乗ったオレは、現時点で最大規模の探知を……大凡おおよそ、半径1,000km強もの知覚を行ってしまったのだった。




「ぐわぁああああああ!!!?」

「ど、どうした!?」


 急に悲鳴を挙げたオレに、近くにいた船長が心配して近寄って来てくれた。


「ぐっ、ぐふっ。……もう大丈夫だ。ちょっとばかり、脳の処理限界量を超えた激痛で、死ぬかと思うような目にあっただけだ」


 やばかった。いつもの痛みを伴う鍛錬なら、痛覚耐性を<臨界突破>して覚悟してたから耐えられていたが、今は痛覚耐性は素の状態。

 予想では痛みを2割も削れない程度なのだが、そこに死ぬかと思うほどの痛みが襲って来たのだ。

 ……ミドリの視線が、ちょっとばかり冷ややかなモノに見えて来た。

 うん、非難されて然るべきだよな。何でもないことで死にそうになってるとか、格好悪い。


「そ、そうか? 顔が真っ青だぞ」

「でぇじょぶだ。死ぬような痛みには、オレは慣れてる」


 死ななかったし、もう放っておいてくれ。反省はする、けど失敗をほじくり返すようなことはしないでくれ……。


「それと、見つけたぞ。ここから北北東に12kmほどの場所、ハグレと思しき大きめの物体アリだ」

「……ちなみに、深さは?」

「……え?」


 言われた情報を引き出そうとして、頭痛に見舞われる。

 仕方ないので、新たに控えめの【反射音測定】を使って、改めて深度を割り出した。


「100メートルくらい、かな?」

「……それ、どうやって獲るんだ?」

「……え? 網とかじゃないのか?」

「バッキャロー! 網だけであんな巨体をどうにか出来るもんか! 専用の、銛を発射する大きな銃を使うんだよ!

 この船にも幾つか搭載してるだろうが! さっき見学しただろ!」

「ああ、あれ……」


 射程は確か、50メートルだったか?

 となると、100メートルの海中にはどうやっても届かないな。


「やっぱり、無理か?」

「考えれば分かるだろうがッ。深さはせめて、数メートルまでだ!」

「ううむ」


 しかし、そうなると。

 次に適した獲物は、かなり遠い。100kmくらい離れている。

 ちょっと移動に時間が掛かり過ぎるかな。


「ともかく、オレの言う所まで船を移動させてよ」

「あん? 生意気言ってんじゃねーぞ! 素人に舵取りを任せられるかってんだ!」

「良いから良いから。もし何も無くて損害が出るようなら、この魔石あげるから」


 そう言って、『アイテムボックス』から火竜の11cm近い魔石を取り出して差し出す。

 船長や周りの船員はギョッとしてそれを見るも、目は釘付けだ。


「ほぉ。こいつは結構な代物だな」

「だろ? 『神の迷宮』の最下層で取って来た、秘蔵品だ」


 まだ『アイテムボックス』内には800個以上眠ってるけどな。

 500円玉貯金の感覚で、温存してたりする。だから、手放すのも少し惜しかったり。


「けっ。だがそいつは仕舞っときな。漁で空振りは日常茶飯事。それを新参者のせいに何かしねえ」


 そう啖呵を切ると、船長は進路を北北東へと変更するよう、指示出しを行った。




 沖合に向かったオレたちと違い、青年軍人―――オース・グランシーの乗っている漁船は、湾岸を調べる方針の様子だった。

 しばらくして、お互いの船影が確認し辛くなった頃、オレたちは目的の場所へと辿り着いた。


「どれどれ……おっ、いるな」

「本当か?」

「ああ。水深80メートルくらいの所に、全長30メートルくらいのがな」

「30メートル……! 大きいな」

「そうか? ……ハグレとしては、そうなのかもな」


 後で知ったが、ハグレじゃなくて成体としても大きい方だと聞いた。


「で。どうするんだ?」

「それはだな……こうするんだ! 『水の流れよ、我が意に従え。WaterStreamControl【水流操作】』」


 以前、大海蛇に対して行ったように、周りの海水を魔法で操って、行動の自由を奪うと言う方法を取る。

 いや、取ろうとした、と言うべきだろう。

 信じられないことに、オレが魔法でコントロールした海水の流れに、抗うように暴れて抜け出してしまった!


「嘘だろ……?」


 オレの呟きに、船長が反応する。


「その様子だと、失敗したようだな。まあ気にするな、元々……」

「いや、まだだ!」


 オノレェ、たかが海の王者風情が、オレに逆らうとは。良い度胸じゃないか!

 大魔王と呼ばれるオレの怖さ、存分に味合わせてやるッ!

 再び詠唱するのは同じ【水流操作】。だが、さっきと違い、同じ魔法を100ほど並列して発動させた。

 現時点で一つの【水流操作】で操作出来る水量は13万トン。それを100束ねて綿密に操作、奴を追い立てるようにすれば―――


「……来るッ!!」

「何? ……なんじゃと!?」


 ドッパァァアアアアン!!!

 100メートルほど離れた海面から、操作された海水流に翻弄され、飛び出してくるように顔を出してくる巨大な海洋性哺乳類。

 威厳があり、圧倒される大きさがあるソレは、尻尾の先が辛うじて海水から出ない程度に打ち上げられ……当然その後は、海面へと叩き付けられた。

 バッシャァァアアアアアアン!!

 大量の海水と共に、大音量で衝撃波を発生させる巨体。

 海水同士が衝突し、辺り一面は霧が発生したかのような靄に覆われた。

 微かに混じる、血の匂い。

 そりゃそうだ。あれだけの大きな体が、高々と空中に打ち上げられ、海面とぶつかった。負傷していない訳が無い。


「オイ! どうすんだコリャァ! やって良いのか!? やっちまって良いのか!?」


 船長が、船を巨体に近づかせる指示を出してから、銛を発射する大きな銃に取り付き、目を輝かせてこっちを見ていた。


「……いや、オレがやろう。せめて、苦痛の少ない安らかな眠りを提供しよう」


 宣言し、半分ほど近づいた所で、無詠唱で【感電】の魔法を最大威力かつ並列発動する。

 狙いはつぶらな瞳のある辺り。脳ミソも大体近い所にあるだろうとの予測だ。

 1,000発もの高電圧な【感電】を、集中的に叩き込む。

 ドッパン!

 鈍い音と共に、目とその周りが広範囲で黒く焼け爛れ、肉や皮膚の焦げた臭いが周りに広がって行った。


「やったのか!?」


 おい、馬鹿ヤメロォ! そのフラグは危険過ぎる!

 結局、数分待つが、その海洋性哺乳類が再び動き出すことは無かった。

 一息吐いて、警戒態勢を解く。

 さっきの「やったのか!?」発言のすぐ後で、オレ以外の船員たちは皆歓声を上げていたので、ちょっと乗り遅れた感じだ。


「お疲れさん」

「おう」


 遺体回収用の銛を撃ち込み、早速解体を始める船員たち。

 その最初の指示を出して手持無沙汰になった船長が、オレに声を掛けて来た。


「スゲェな、お前さん」

「まぁな」

「正直、見縊みくびっていた」

「くはははっ」


 軽く笑う。だが仕方ないだろう。

 突然部外者が仕事場に乱入して来たら、誰だって鬱陶しく感じる。


「これで、アイツには勝てるだろうな?」

「問題ない。この時期のハグレなんて、精々が10メートル程度の大きさだ」


 10メートル。十分大きい。

 だが、30メートル近いこれと比べれば、体積としては1/27程度の小物と成り下がる。


「しかし……大仕事だな」

「仕方ねえ。これだけの獲物だ、残すのも勿体無いだろう。なぁに、勝負には勝つんだ、気にするこたぁねえ!」


 いや、しかし。内容的に勝負に勝ってても、獲物を比べっこする日暮れまでの時間に遅れて、試合に負けると言うのは、業腹だ。


「少し、手伝おう。『我が意のままに動け。psychokinesis【念動力】』」


 甲板から身を乗り出して、海上に漂う遺体から切り出された身を、【念動力】の魔法で引き寄せた。


「……あれだけのことをやって、魔力量は大丈夫なのか?」

「問題ない」


 船長が心配してくれるが、この身に宿した魔力量は半端無いんだ。

 とは言え、二割近く使ってしまったけどな。さすが海の王者、てこずらせてくれる。

 その後、遺体の上に乗って解体作業をしている船員に切り方を指示し、効率的に分けて貰ってオレの魔法で移動させ、解体作業の時間を大幅に短縮した。




 オレが解体作業も手伝ったお陰で、日没のだいぶ前に港へ帰ってくることが出来た。

 結果、青年軍人のオース・グランシーとの勝負にも、当然だが勝てた。


「こんな……こんな大物を獲って来ただとォ!? 信じられんッ!!」


 相手の獲って来た獲物は、体長8メートルの成体だった。ブツ切りの肉塊になってはいたが、それくらいだったと証言されていた。

 オレが倒したのとは別の種類であり、かなり小柄だ。それでも結構な収穫に、その船員たちは喜んでいた様子だった。


「私が……私が……漁で負けただと……? 認められんッ!」

「いや、そこは認めろよ」


 寝言をほざく輩に、指で顔を掴んでアイアンクローを決め、【肉体強化】を発動。


「いだっ!? いだだだだだ!! 分かった! 負け! 私の負けだ!」

「んん~? 良く聞こえんなぁ」

「負けました! 私が悪かったです! 勝負を挑んでスミマセンでしたぁ! だから、この指……はず……」


 抵抗が無くなったので、アイアンクローを辞めてやると、オース・グランシーは泡を吹いて失神していた。


「ちょっとやり過ぎたか?」


 後遺症が残ったりすると後味が悪いので、【治癒】の魔法をおざなりに掛け、そこから退散する。

 彼と同じ船に乗っていた船員たちが、心配して様子を見に来ていたので大丈夫だろう。

 日が暮れ始め、赤い太陽が港を照らす。

 今日の漁で獲れた獲物を、オバさんたちが調理しているので、即席の宴会場へと向かう。

 自分で獲った獲物を味わうのも、また楽しみの一つだ。

 帰りに肉塊や骨やヒゲを、幾らか分けて貰うとしよう。戒たちの驚く姿が、目に浮かぶようだ。


 なお、肉の味はそれなりだった。

 あの巨体だしな、普通に食べられるだけマシと言う物だ。






radar【反射波測定】 『大気よ、小さな波を伝播させ、感知せよ』

風魔法3 消費6~ 大気中に小さな波を起こし、その反射を測定することで周囲の様子を探ることが出来る。基本消費で1m、1km先までなら消費72


SONAR【反射音測定】 『水よ、小さな音を伝播させ、感知せよ』

水魔法2 消費3~ 液体に小さな音を発生させ、その反射を測定することで周囲の様子を探ることが出来る。基本消費で10m、1km先までなら消費39


sense【感知】 『触れずに知るは彼方』

空間魔法4 消費10~ 詳細に知りたい場合と、大雑把に知りたい場合とで有効範囲が異なる。基本消費で前者なら1m、距離だけを知りたいなら1km


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