第六話・霹靂の杖、大いに唸り死霊を成仏さしせしむ
【第六話・霹靂の杖、大いに唸り死霊を成仏さしせしむ】
大トロルを破ったメロス一行。
たどり着いた集落で、思いがけず歓待を受けます。
また、入手した杖の正体は、世界に一つしかない宝「霹靂の杖」だということが分かりました。
しかし、その霹靂の杖は牧人が使用できない杖…。
そこで、僧侶のサロメに持たせ、メロスはサロメのお下がりの杖を武器として使用することに致しました。
さて、出立。村の出口にはたくさんの村人たちが。
「ここで、我々、勇者様にお願いがございます。」
「なんであろう。」
メロスはできるだけ、勇者っぽく聞いたものです。
「実は、ここから先に「魔王軍のB砦」がございます。」
「ドキィッ!!!!」
「口で言っちゃった!驚きの表現、口で言っちゃったよ!」
「我々は、先を急ぐ身なれば…その儀、受けられ…。」
「お任せください!ね!勇者様!」
「おお!ドンとこいだ!任せておきたまえ。名もなき民草どもめ!!」
サロメによる、テンション高めの村人の懇願受諾に、男らしく自分も引き受けましたが、この怒りをどこにぶつけていいかわからないメロス。言葉の語尾が多少暴力的に変動しても致しかたないところ。
名もなき民草ども、これはよかったと喜んだものです。
「その、ボスはアンデット王のヴァンパイアでございます。」
ここで説明せねばならないでしょう。
懸命な読者諸君であれば、ウィキやペディアやグーグルですでに周知とは思いますが、「ヴァンパイア」とは、吸血鬼のことです。処女の生き血を好み、その命は不老不死。コウモリやヤモリなどに化けることもできます。黒い燕尾服に身を包み、我々の生活に忍び寄るのです!恐るべし!ヴァンパイア!
弱点は、十字架、聖水をあびる、ニンニクの匂い、太陽、寝てる間に心臓に杭を打ち込まれるなどなど。
けっこう、弱点があるね。
「じゃ、ニンニクでも買っていくか。」
「ところがどっこい、今年のニンニクは稀にみる不作でございまして、ただの一粒もございません。」
「なんですと!!…では、十字架とか聖水は…?」
「残念、こちらの地方は99%が仏教徒でございまして…。」
「バカかね!君たちゃあ!」
「…しかし、改宗はできません…。そこんところは分かってやってください…。」
メロスは激怒しました。
いやいや、どっかで手に入れるとかできるだろ。
なんで、身に迫る危機について、なんの対策もしておらんのだ!
それで、人に頼むなんておかしい…おかしいだろ…。
サロメを見て見ると、人一倍使命感に燃えている姿…。
いかん…こいつ…熱血だ!!
空に太陽と月があるように、人間に男女あり。
陰陽は、何にでも存在します。
いわば、ギャグと熱血は陰日向。
ぶつかり合うと「0」になってしまうものです!
明らかにミスキャストでありましたが、すでに走り出してしまった車は止められない!
なので、オチに向かって全力で走れ、メロスよ!
(そーゆー話でしたっけ?)
とりあえず、魔王軍の砦は地元に戻る道筋にあるようでした。
メロスとサロメは先を急いだものです。
「武器が売ってなくて残念でしたね。」
「まー、砦に挟まれて、流通できない集落だったろうしね。仕方ない。でも、オレもサロメのお下がりの杖があるし。」
「はい!私も、この霹靂の杖の威力を試してみたいです。」
といって、サロメはニコリと笑う。
神に仕えているわりには、物騒なことを平気で言う女だと、メロスは若干引きました。
メロスには時間が切られていることを読者諸君は覚えておりますでしょうか?
メロスは、10日の間に城に戻らないと、親友のドラムス「セリヌンティウス」が身代わりとなって磔刑を受けるのです。
今まではサロメとの旅が楽しいという気持ちが上回って、それを記憶の片隅に追いやっていたものでしたが、サロメのまっすぐな熱血ぶりに、それをぶり返して思い出したのです。
すでに、二日目。
メロスは、頭を抱えて「オーマイガ!」と思いました。「ホーリーシット!」とも思ったものです。
しかし、無情なるかな時の流れ。
そして、流されるままに勇者に担ぎ上げられ…今、城に戻る前に死ぬやもしれぬ恐怖…。
これをピンチと言わずして何を言いましょう??
そんな中、サロメは目をキラッキラさせながら、霹靂の杖を振りまくり、ザコ敵を抹殺するのでありました。
「鎖断ち切り駆け出した獅子…。それが私だ…。」
などと、中二病の香り漂うセリフをつぶやきながら…。
それを見て、メロスは苦笑するしかないのでありました。
一昼夜歩いたでありましょうか?うっそうとした森の中に、その存在感をアピールしながら魔王軍の砦が見えてまいりました。
「アンデット王というくらいでしょうから、ゾンビとかいるでしょうから…。勇者様、杖での援護お願いします。」
「お、おう…。」
もはや、霹靂の杖だよりのこのパーティ。まぁ、サロメから攻撃してほしいなどの無言のプレッシャーがないだけマシになったものですが…。
暗闇の中、ゾンビの「あーあー」いう声が聞こえますが、それに反応して、すぐさま霹靂の杖の餌食となっていきました。まさに「死霊が餌食」といったところです。
砦の最上階。ボスの間。そこに、棺桶がポツンと置いてありました。