第三話・走者荒野に向かい踏破せんと尼僧を道連れとす
【第三話・走者荒野に向かい踏破せんと尼僧を道連れとす】
さて、ディオニス王に死を賜れたメロス。友人セリヌンティウスを人質とし、自分は故郷に帰り妹の結婚式を挙げてから、必ず戻ると約束致しました。
しかし、道のり遠く仲間がいないと旅は苦難を極めます。
そこで、仲間を集めることと致しました。
すると、ふと、奇妙な老紳士にあいました。
「おや?お仲間をお探しですか?私もこれから行くところなんですよ。よかったらご一緒しましょうか?」
メロスはうなずくと、その老紳士について歩き出しました。
「この石垣の階段を上って、くたびれた蔦をくぐった……ほら、あそこ。あそこがお目当ての酒場…。なんとも目だたない入り口ですが、土曜日のこの時間ともなると常連客で賑やかになるんです…。では、私が扉をお開けしましょう。」
そこには「冒険者の酒場」と書いた看板がありました。
謎の老紳士は、カウンターに座り、なにやら飲み始めたが冒険と関係ないのでシカトすることにします。
店主の女性は歳の頃は四十後半。しかし、色気のある立ち居振る舞い。
そんな女性が店主のこの酒場は、血気盛んな冒険者であふれかえっておりました。
メロスは女店主に話しかけます。
「仲間を捜しておりまして…。」
「あら、仲介料は一人100ゴールドよ?」
「え?」
メロスは、サイフを見ました。
妹の結婚式の衣装を買ったので、一人分が精一杯でした。
「では、一人…。」
「はーい!お一人さ~ま!」
「お一人さま入りまーす!」
店員の賑やかな声がなりひびきます。
そのうちにやってきたのは、うら若き僧侶。
「私は、僧侶のサロメです。よろしくお願いします。勇者さま!」
といって、ニコリと笑いました。メロスは二つ返事でした。
セオリーであれば、自分のサポートとなる職業を選ぶはずです。
この場合、非力なメロスには、攻撃力の強い戦士か、攻撃魔法を使う魔法使いが妥当でしょう。
しかし、この神職に仕える女性サロメは…とても好色が増したと言うか…
ま、はっきり言ってしまえばグラマラスな美女だったのでした。
しかも、彼女サロメの方も勘違いしていました。
メロスを勇者だと思ってしまったのです。魔王を粉砕する、あこがれの人だと!
おっと。ここで説明せねばなりませんでしょう!
賢明なる読者諸君には既知かもしれませんが、この世界では、魔物があふれ…。いつこの城に魔王軍が押し寄せてくるかも分からない、そういう情勢。
メロスはこの町には鉄のかたまり、車でやってきたのですが、生身で外に出るなど、自殺行為。
帰るまでが遠足…。まさにその言葉が適当な世界だったのです。
外にでて、二人は自己紹介しあいました。
「ところで、勇者さまは、どんなご職業??」
「あー…。ひつじかい。」
「え?ひつじかい??」
サロメは目をまん丸くしました。
「いや、違うんだよ。」
メロスは、羊飼いのことでなく、羊について語りました。羊飼いだとイメージが悪いからです!
羊とは元来、捨てる場所なし!
羊毛については言うべきにあらず、肉の中では最上位の位置付けで、漢字の中で「羊」のついた字はとかく高潔なものである。「美」であり「義」を見れば明らかでしょう。また、骨や血は薬としても使えるのです。
その羊を扱う仕事をしている自分は、とても誇りに思うと…。
サロメは幼少より神職です。世間のことはよくわかりません。
メロスの言うこと、なるほどもっともだ!とそれを信じました。
サロメは籠絡されたのです。
今度はメロスが聞きました。
「ところで、サロメは、呪文とかは使えるのかな?」
「あ、その辺は大丈夫です。回復呪文も真空呪文もそれなりに使えます。」
※註釈:真空呪文とは聖なる力で真空状態を作り出し、それによるかまいたちで攻撃する呪文のこと。
「あ、じゃぁ、安心だね。」
二人の旅は始まりました。メロスは物見遊山気分。
こんな美人と一緒に冒険かぁ~。楽しいなぁ~。
「爛爛楽楽楽爛楽楽楽♪」
「楽しそうですね、勇者さま。」
「そら、そうさ。」
「ところで、どの辺の魔王軍を粉砕に行くんです?」
「あ、そっか。まず、地元に戻ろうと思って。」
「はぁ…。とおっしゃいますと?」
「実は、妹の結婚式なんだ。」
「え!それはおめでたい!」
メロスは勇者とよばれ気分をよくし、本来の目的を話すのを忘れていました。
正直をモットーとする男も、美人の気を惹くために自分をついつい大きく見せてしまうことは人生でままあることなのです。
そんなことを話しながら、出てくるモンスターを退治する二人。
しかし、二人と言っても、ほぼサロメの真空呪文で倒すだけです。
「あの…ハァハァ…勇者様。」
「なんだべ?」
「なんで、あたしだけしか戦闘してないんでしょう?」
「それは、すばやさの差だね。サロメのがすばやさが早いんでしょ?で真空呪文で抹殺。これだね。」
「ハァハァ…なるほど…。勇者様…ところで武器は?」
「え?持ってないよ?」
「持ってない??」
「だって、お金ないもん。」
「でも…今までの戦闘で結構貯まりましたよね?」
「うん。じゃぁ、次の町で買おうか。」
「ハイ…。」
少し、サロメは疑いだしました。
この人…勇者ではないのでは…。
そんな、サロメの疑心とはうらはらに、メロスは放牧の歌を口ずさむのでした。
メロスとサロメが向かった先には…魔王軍の砦がありました…。